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162話 不審者達の正体

こちらの対処が終わったので、アルの下へと向かったのだが――――



「……う……うぅ……」


「うぁぁ……」


「ぐ……ぁぁ」



 到着してみるとそこには地獄絵図が広がっていた。


 ある者は四肢があらぬ方向に曲がっており、ある者は四肢のどこかを欠損している。

 どこからどうみても重傷者だらけです。

 見た限り、少数ではあるが軽傷者もいる。

 いるのだが……蹲ってぶるぶると震え謝罪の言葉を何度も呟いている。

 目も虚ろな感じで、今日の事は確実に今後トラウマとして心に残っていきそうだ。


 一言でいうと、これはひどい。


 誰も彼もが戦意を喪失していて、平然と立っているの俺の友人であるアルのみ。


 俺も似たような事をしたので人の事は言えないけど、俺の約十倍の数の人間を俺と同じ時間でここまでボロボロに出来るアルは、俺以上の化け物ではないかと思う。


 何でこんな強い奴がいるのに、異世界から俺達を召喚しなきゃいけないくらいラズブリッダ王国は最弱国だったのかが謎である。



「ようやく終わったか……遅いぞ、イチヤ」



 俺の姿を確認したアルがため息を吐きながら非難の声をあげる。



「そんなにかけたつもりはないんだけどな。というより、ここは普通、無事だった事を喜んでくれるところだろ」


「なんだよ、心配してほしかったのか?」


「……いや、アルに凄く心配されるところ想像してみたけど、気持ち悪い以外の感情が浮かんでこないな」


「いくらなんでもそれひどくね!?」


「ひどくないだろ。お前に『もう……あんまり遅いから心配したんだからね!』とか言われたら……うぅ……鳥肌立ってきた」


「絶対そんな事言わねぇよ! お前の中で俺は一体どんな人物として写ってんだよ!」



 軽い冗談です。



「それよりも、剣を突きつけたまま(・・・・・・・・・)話す事でもないだろ。ふざけてるのか?」


「ふざけてたのは主にイチヤなんだがな……」



 疲れたような表情をしながらも、アルの手に握られた剣先は男――――右肘から先が無くなった、リーダーと思しき奴の首筋に突き立てられている。

 アルが少しでも力加減を間違えれば、そのまま首と胴体が分かれてしまう事だろう。

  

 でもまぁ、いくら警告をしてきたとはいえ、こっちの命を狙ってきた連中だからな。

 最悪こいつらを殺した所で、盗賊という事で片付ける事も出来るだろう。


 ほとんどの連中はもう戦意喪失しているので、処分に関してはいつでも出来る。

 だからまずしなくちゃいけないのは、こいつらが一体何者なのかという事を確認することだ。



「アル、悪いけどもう少しそのままでいてくれ」


「わかった」



 アルの返事を聞き、創生魔法でヒール丸薬と縄を創生すると、剣を突きたてられている男の前にかがんで、ヒール丸薬を男の眼前まで持っていく。



「飲め」


「……」



 俺の指示に睨み付けるばかりで、一向に口を開こうとしない男。


 いきなり知らない男に変な者を飲まされそうになればそういう反応にもなるか。


 それにしてもすげー胆力だなこいつ。

 首元に剣を突きたてられてるにも関わらず、こんなにも反抗的な態度を取れるんだから。


 でも感心してばかりもいられないんだよな……さっさとこれ飲んでくれないと話を始められない。


 別にこっちとしては治してやる筋合いはない。

 事情を聞くだけなら、一人か二人くらい残して、あとは殺しても良いんだが……たぶんそれをやれば、仲間意識の高そうなこいつらが素直に話をするとも思えない。

 だったら治した上で、仲間を人質にして、脅迫した方が素直に話をしてくれるだろう(外道)


 ……というプランを考えていたんだがなぁ。


 リーダーらしき男は口をへの字に曲げて、意地でも飲んでやるもんかと態度で示している。

 その間にもアルによって切断された部分からぽたぽたと血が滴り落ちている。


 顔色も青から白へと変わり始めているし、このままじゃ失血死しかねない。



「もう面倒臭いし、仕方ないか……アル、そいつが素直に言う事を聞くようになるまで、そいつの仲間を一人ずつ殺すから、そのままでいてくれ」



 殺気を漲らせ、周りを見回すと、不審者達が青褪めて、怯えたり、這いずりながら、こちらから距離を取ろうとする。

 


「なっ!? 待て! ――――っむぐ!?」



 リーダーらしき男に背を向け、歩き出すと、背中から慌てた声で制止の言葉が投げかけられたので、俺は勢いよく振り向いた。

 ヒール丸薬を指で弾き、男の口目掛けて投げ込むと、口内に吸い込まれるように入っていく。


 騙し討ちみたいな感じになってしまったけど、これでこの男が失血死する事はなくなった。

 他の連中も控えているんだ、こいつにばかり時間を裂いてはいられないので、嘘をついて飲ませるくらいは良いだろう。

 素直にヒール丸薬の効果を言った所で、嘘だとか言って飲みそうもないし、どうせ嘘をつく人間と思われてるんだったら、自分やみんなが得する嘘を吐く。



「……げほっ、げほっ! くそっ、一体何を飲ませた!?」


「別に変なものは飲ませていないから安心しろ、ただの薬だ。と、言っても、俺の言葉なんか信用しないだろ」



 この世界にない薬なので(といっても俺の世界にもないのだが)説明しても信じないだろう。

 それに彼に懇切丁寧に説明してやる義理もない。

 ぶっちゃけ毎度毎度ヒール丸薬の説明するのは、凄く面倒臭いってのが大半の理由だが。

 説明しなくてもすぐに効果を発揮してくれるしな。



「な、なんだ? 痛みが消えて――――っ!?」



 ほら、もう効果が出始めてる。


 飲んで数分もしないうちに、男がアルにつけられたであろう傷口から、淡い緑色の光が明滅するように発光している。

 その光が強く、明滅する間隔が少しずつ短くなると、切り傷は塞がり欠損していた右肘の部分から肉が少しずつ緑色の光と共に、肉が盛り上がってくるのがわかる。


 なるほど、前に切断された部分同士をくっつけて治した事があったけど、別にくっつけなくても生えてくるのか。

 ってか腕が生えてくるって……気持ち悪ぃ!

 肉がぶにゅぶにゅと動いている様は、見ていてこっちのSAN値がゴリゴリと削られていくようだ。

 モザイクが必要な案件なのに緑の光が仕事してくれない!


 なるべく死人を出したくはなかったので、この作業をあと何十人かに施さなければならないのだが……正直気が滅入りそうだ。

 

 げんなりしつつ、男の腕が治ったのを確認した俺は、創生魔法で創ったロープで、男を厳重に縛りあげる。

 もう縛りあげたし、とりあえずこいつはここに転がしておけば良いだろう。


 自分達がやった事とはいえ、今にも死にそうな人間はたくさんいる。

 時間も惜しいしこの男にばかりかまけてもいられない。

 他の連中もさくさく治して縛りあげてしまうか。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 不審者たちを一通り治して、ふんじばったところで、再びこの不審者達のリーダーのところに戻ってくる。

 相も変わらず、敵意ばりばりで俺とアルを睨んでくる男。


 まぁ睨んできたところで、もうこの男にこちらに危害をくわえる事は出来ない。

 俺は男の態度を無視して質問する事にした。

 


「五体満足で生き残りたかったら、大人しく俺の質問に答えろ」



 その一言に不審者達は青褪めた表情をしており、不審者達のリーダーも身を固くする。


 うん、間違いなく悪役の台詞ですね。


 話をスムーズに進むように、軽く脅しておこうと思っただけなのだが……咄嗟に出てきたのがこの台詞である。

 内心やっちまった……と思わなくもないが、一度発した言葉は元には戻らない。

 仕方ない、このまま話を続けよう。



「まず初めに、お前達は何者だ?」



 一番重要なのはこいつらが何者なのかという事だ。


 戦ってみた感じ、盗賊じゃない事は断言出来る。

 連携の取り方とか動きが、前に王都の訓練場で見た騎士の動きに近かったんだよな。


 ただ仮にこいつらがどこかの騎士だとしても、何故こんなところにいるのか目的がわからない。


 なのでこの不審者達の正体を問いただした訳なのだが……



「……」


 しばらく待っても口を真一文字に結び、話し出す気配が一向に見られない。


 黙秘ですか、そうですか。



「はぁ……話したくないなら仕方ないな。尋問とか得意じゃないし、このままじゃ付き合ってたら夜になる。こいつら連れて一度戻るか。ユリなら俺達なんかより上手くやるだろう」


「だな! それが良い! さっさと戻るぞ、イチヤ!」


「アル……」



 ため息と共に出た俺の言葉に、全力で賛同するアル。


 シャティナさんのおしおきが怖いからって必死過ぎだろ……アルとシャティナさんのやり取りを近くで見た身としてはわからなくもないけど。



「待て……俺達はどこに連れて行かれる?」



 呆れ交じりにアルと話していると、さっきまで一切口を開かなかったリーダーの男が質問してくる。


 なんなんこいつ? こっちの質問には答えなかったくせに、こっちには質問してくるのか。

 ……まぁ別に問われて困る質問じゃないから良いんだけどさ。



「近くの街だ。名前はえっと……」



 そういやあの街ってなんて名前だったっけ?

 治めろとは言われたけど、街の名前を聞いた記憶がない。

 普通は調べたり聞いたりするもんだけど、面倒臭いのでほったらかしにしていた。



「城砦都市ウェルスだ。街の名前くらい覚えとけよ」


「覚えとけってか、聞いた記憶がない! 面倒臭くて聞いても調べてもいない!」


「堂々と言うな!」



 怒られた。

 知らないものは知らないのだから仕方ないだろう……。



「ウェルスだと!? 待て! あの街だけはだめだ!」



 そんな風にアルとくだらないやりとりをしていたところ、リーダーの男が突如大声を上げる。


 ダメとか言われてもなぁ……俺達はあの街に住んでいる訳だし、そもそもこの男の言う事を聞いてやる筋合いもない。



「あの街に何かあるのか?」


「……」



 そう質問してみるも、またリーダーは無言だ。

 だけど、さっきみたいに反抗的な感じではなく、どこか気まずそうに口を噤んでいる感じだ。


 ふむ、これは使えるか?



「別にだんまりを決め込むならそれでもいいぞ。このままウェルスに連れて行くだけだからな。でもお前達が何者で、どんな事情があってこんな場所にいるのか素直に話すなら――――」


「……話すなら?」


「あの街に連れて行くのを考えてやっても良い」



 リーダーの男の目を見てそう告げると、男は顔を俯ける。

 きっとどうするのかを考えているのだろう。


 さて俺達の気分次第でいつ命を奪われるのかわからないこの極限の状況で、果たしてこのリーダーはどのような結論を出すのか?

 

 

「……俺達は……この領を治めていたディリップ侯爵様に仕えていた騎士だ」  

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