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160話 遭遇

 足早に森の中を進むアルの横に並び、同じ速度で歩き、念の為に、気配察知を試みながら進む。


 それにしてもこいつ、なんか急いでるな。

 ついていけないほどではないが、結構疲れる。



「なぁ、少しだけ歩く速度落としてくれないか」


「すまんが、それは無理な相談だ」



 どこか切迫したような表情で答えるアル。


 提案してみたが、やはり受け入れられなかったか。

 そりゃ、さっきのが斥候だったんなら報告する相手……不審者達には仲間がいるはずだ。

 俺達の存在が知られれば、逃げるか襲いかかってくるだろう。

 逃げられれば追うのが面倒臭そうだし、包囲してかかってこられても厄介だ。

 アルとしてはそうなる前に対策をしたいの――――



「……さっさと帰らないと丸焼きにされるんだよ」


「はい?」



 ――――だろうと思っていたら、アルの口から予想外の言葉が聞こえて、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


 丸焼き? 一体何を言っているんだこいつは。



「晩飯までに帰らないと、晩飯に出す鳥の丸焼きの隣に、俺の丸焼きを置くって言われてんだよぉおぉおお!」 



 アルの悲痛な叫びが木霊する。


 おい、さっき俺が叫んだ時は冷めた態度をとってくれやがった癖に、自分も叫んでるじゃねぇか! ふざけんな!


 ってか丸焼きにするって、いくらなんでも物騒過ぎるだろ。それに、さすがにそんな事されないし、出来な……いや、丸焼きにするって言ったのがシャティナさんなら十分可能か。あの人業火の魔女とか言われてるみたいだし。 

 でも何で夕飯遅れたくらいで丸焼きにするなんて話が出てくるのかさっぱりだ。



「何で夕飯に間に合わなかっただけでそんな話になるんだ? お前、また何か、シャティナさんの逆鱗に触れるような事したのか?」


「実はな……」


「あ、何か話が長くなりそうだからいいです」


「聞けよ!」



 アルが話したそうにしてるけど、放って置こう。どうせ禄でもない事情だろうからな。





「やっと、気配察知に引っかかったか」


「お?」



 しばらく歩いていたらアルが気配を察知したらしい。おそらくは不審者達のものだろう。


 やっぱり俺の気配察知よりも精度が良いな。

 とりあえず、奴等がどう出てくるかはわからないが、不意打ちをくらわない様に警戒だけはしておこう。

 アルの方も気配察知に引っかかるまでは、話を聞いてもらえない事に子供みたいに不貞腐れていたが、さすがは腐っても兵士、気持ちの切り替えが早い。


 さて、相手はどう出るか。


 そう思っていたところに、俺の気配察知にも引っかかる。

 同時に複数人の足音が聞こえてきた。

 まだ少し距離があるが、一旦アルに警戒を任せ、気配察知に集中する。

 アルなら不意打ちにも対処出来るだろう。


 意識を集中して気配察知をするとどんどん引っかかってくる。

 一人、二人、三人、四人……ってちょっと待て! なんか三十人以上気配察知に引っかかってるんだが!?

  

 

「おいアル……この人数ちょっとやばくないか?」


「あぁ、まさかこんなに人数がいるとは思わなかった」



 てっきり多くても二十人くらいなものだと思ってちょっと舐めてた……もしこいつらが盗賊だとして、盗賊ってこんなに多いの!?

 いやいや、さすがにこの人数は多すぎだろう!


 

「もしこいつらが盗賊だとして、盗賊ってこんなに多いものなのか?」


「確かにこの規模の盗賊団も存在するが……さすがにこんな何もないところに存在するはずがない。はずなんだがなぁ……」


「じゃあこいつらなんなんだよ!?」


「知るか! 俺に言ってもしょうがねぇだろ!」



 だったら誰に言えと!? ここには俺とアルしかいないんだから、必然的に俺の文句を受け止めるのはアルしかいないだろ!


 などと、俺とアルが醜い争いをしている間にも、気配と同時に複数人の、規則正しい足音が聞こえてくる。


 規則正しい足音?

 不審者や盗賊がそんな音を?


 一瞬、その事が頭に引っかかったが、どうにも考える余裕はなさそうだ。


 すぐさま言い争いを止め、アルと俺は臨戦態勢を入った瞬間、ヒュンッ! と俺とアルの足元に一本ずつ、弓矢が地面に突き刺さる。



「今のは警告だ! 我々としては、お前達に危害を加える事は本意ではないが、それ以上進むというのであれば容赦しない。命が惜しくば、大人しくこの山を去れ!」


 

 視界にようやくとらえられるような位置に数十人の人間が見える。

 獣人族との国境付近という事もあり、不審者の正体が獣人族という可能性もあったが、どうやら人族のようだ。

 その中の一人、おそらくこの集団のリーダーだろう男が、山中に響き渡るような大声でこちらへと警告してくる。


 おいおい、そんな大声出して、魔物が寄ってきたらどうするんだ。


 本当に、こいつらは何者なのだろうか?

 少なくとも盗賊の類でないのは確実だ。

 普通盗賊がわざわざ警告なんてしないからな。


 じゃあ何者なんだってなると、こいつらの正体の検討がつかない。


 聞いたら素直に答えてくれるだろうか?

 ……いや、いつでもこちらに攻撃を仕掛けられるようにしている辺り、大人しく帰らなければ本当に襲ってきそうだ。


 こうなりゃ、捕縛してから聞いてみるのが一番か。


 気配察知から察するに、前方に敵は集中している感じだ。

 人数は……正確な数は数えていないけど、五十人弱といった所。

 前方に人数が集中しているのは変わらないが、少しずつ左右に人数を分かれさせ、こちらを包囲しようとしているのが気配察知で伝わってくる。

 素直に従わなかった場合に、実力行使に出ようって魂胆だな。


 普通に考えれば、あまりに絶望的な人数差。

 一般人であれば、弓が地面に突きたった瞬間、悲鳴をあげて逃げ出すか、命乞いをしている状況だな。


 ――――俺達が一般人ならの話だが。


 こんなにも人数差があるのに、あのゴキブリ野郎と出会った時のような脅威を感じない。

 これなら全員殺さずに、捕縛に留められそうだ。

 が、これは俺の勘でしかないので、一応アルにも聞いてみるか。


 

「あいつらがどういった人間かわからない以上、殺さずに捕まえたいと思ってるんだが。いけるか?」


「まぁ……いけるかいけないかっていったら、いけるな。殺すよりも時間はかかるが……俺、晩飯に間に合うかねぇ……」



 小声で質問すると、アルが憂鬱そうにしながらも、予想していた答えが返ってきた。


 おいおい……若干泣きが入ってんぞ。


 ただアルがそう言ってくれて確信した。

 こいつがこういうのなら間違いないだろう。


 やはり、脅威にならないと感じた俺の勘は正しいようだ。

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