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159話 不審者

 ユリの協力を得られた事で、ゴブリン族はこの街で暮らせるようになった――――が、さすがにすぐに街に溶け込めるはずもない。

 考えればわかると思うが、いきなり街に、二、三十人の、見た目は可愛いが、ゴブリン種に間違われる彼等が闊歩したら大混乱を招く。下手をしたら間違って殺されかねない。

 さすがに人族とゴブリン族の間に軋轢を生むような事は出来ない。


 という訳で、準備期間が必要だ。


 まずは、ゴブリン族には俺の屋敷に住んでもらって、長老や獣人娘でゴブリンの言葉を理解している子にリブを含めたゴブリン族達に人語を覚えてもらう。

 その後は街の人間にゴブリン族の事を周知させ、トマ達と一緒に、少数で街に出てもらうという事で話がまとめられた。


 時間がかかりそうだけど、彼等が安全に暮らせるようにする為には仕方がない。最初は窮屈かもしれないけど我慢してもらおう。




 さて、ゴブリン族の今後の方針が決まったところで、もう一つの問題。

 山に出るという不審者の確認と、危険であれば排除するというもの。


 改めて思うが、非常に面倒臭い。何が面倒臭いかって、また山に登らなければいけないのだ。

 ぶっちゃけ、また山かよっ! って思っている。山登りって結構疲れるんですよ……。


 ただ、ここで色々言った所で、俺の山登りが消える訳ではない。

 こうなったらちゃちゃっと片付けて、惰眠の限りを貪ろう! これが終わればしばらくは働かなくても良いのだ!



「と、いう訳でやってきましたよ。件の山!」


「誰に言ってるんだ?」



 街から一時間とちょっと歩いて到着した山で、無駄テンションを発揮する俺に対し、アルの突っ込みが入る。

 いやさ、だって仕方ないじゃん。帰ってきて早々、次の問題を片付ける為にここまで来たんだから、妙なテンションにもなろうってものだ。

 

 ユリには「帰ってきたばかりなのだから、一日くらい休んでからでも構いませんよ」と言われたが、ユリと長老達の顔合わせを追えたのが昼前で、問題になってる山への道程が一、二時間。

 これなら今日中に片付くのでは? と思ってやってきたのだが……正直、明日にまわせば良かったと軽く後悔している。

 この世界に来て、身体能力が向上しているが、疲れるものは疲れる。


 しかも今回はアルと二人だけの男旅。癒しが全くないが、気心しれてる相手だから気が楽だ。


 最初はリアネやレイラもついて来ようとしたのだが、今回は魔物ではなく不審者。魔獣を倒すよりは楽な仕事だろうと、二人には休んでもらう事にした。

 

 アルだけは頑なに同行する意思を示したので着いてきてもらう事に。


 アル曰く「魔物退治で魔獣引き当てる奴が、次に何を引き当てるのか、心配でしょうがねぇ」との事。


 こっちだって、別に好きで魔獣を引き当てた訳じゃねぇんだからな!



「イチヤが妙なテンションなのは、いつもの事だから仕方ないとしても……こっからは気を引き締めていくぞ」



 おい、いつもの事ってどういう事だコラッ! それじゃあまるで、いつもの俺が変人みたいじゃないか!


 思いっきり突っ込みたい! 突っ込みたいけど――――どうやら突っ込む時間はない(・・)みたいだ。



「数は四……いや、五人か」


「だな。攻撃する意思は感じられないが、こっちを窺ってる」



 森に入った途端に、突き刺さる視線。

 まさかこんなに早くに見つかるとは思わなかった。



「まったく、イチヤのせいで捕捉されちまったじゃねぇか」



 やれやれと言いたげにため息を吐くアル。


 凄くむかつく動作に言い返したい……むしろ殴りたい気持ちになるが、今回は俺に非があるので何も言い返せない。

 ……アルが後で何か失態を犯したら、その時に上乗せして殴ってやろう。


 とりあえず、今は目の前の事態に対処する方が先決だ。


 身を潜め、こちらを窺う五人の視線。


 今のところ、殺気は感じられないし、仕掛けてくる様子もない。

 警戒するように、こちらを窺っているだけだ。


 ユリからは不審者としか聞いていない。

 てっきり盗賊とか山賊と解釈していたけど違うんだろうか?

 気配で大体の位置は把握してるんだが、まるで訓練されたかのように均等にばらけている。


 ラノベでよく出てくる盗賊のイメージだと、人数が勝ってれば馬鹿みたいに襲いかかってくるイメージなんだけど、こちらを窺ってる連中は警戒しているだけだ。

 まぁここは剣も魔法も存在するファンタジー世界ではあるが、現実だ。連中だって人間なんだから、ラノベと同じような盗賊と判断するのは痛い目に合うかもしれない。



「どうする?」


「相手の位置は把握してるだろ? 短剣を五本ほど、奴等が隠れている木に放ってくれ」


「了解」



 勝手に判断するのはまずいだろうと思い、アルに指示を仰ぐとそう返ってきた。


 指示に従い、創生魔法で短剣を一本ずつ創り出す。



「まずは一本目」


「!?」



 ヒュンッという音と共に、隠れている奴の木の中心に、見事一本目が命中。

 短剣が突き刺さった場所から驚くような気配を感じる。


 よし、成功!


 続けて二本三本と木の中心に命中していき――――最後の一本が、隠れている奴の木を盛大に外れ、勢いよく飛んでいく。


 とりあえず四本は当てたので、これで良いだろう。



「こんなもんで良いか?」


「最後の一本がどっか飛んでったが、あいつらにも、こちらに場所がわれてんはわかっただろ。それにしても盛大にはずしたなぁ」



 うっさいわ! こちとら平和な日本で育った学生だぞ。投げナイフの技術なんてあるか!



「お~い! お前等の居場所はわかってる。大人しく出てこい!」



 状況が状況だから仕方ないが、俺の非難の視線を無視してアルが不審者に声をかける。


 奴等も場所が把握されてるのは理解してるはずなので、ここは大人しく出てくるしかないだろう。

 後は、襲いかかってくるような不審者なら捕縛、無抵抗ならなぜこんな所にいるのか、事情を聞いておしまい。これでこの依頼が終わればのんびり出来る!


 そう思っていたのだが、相手は俺の予想に反し、脱皮の如く逃げ出し、気配がどんどん遠ざかっていく。


 えぇ……せっかく終わると思ったのに、ここで逃げるのかよ。ここは襲いかかってくるなり、観念して投降する場面だろ……せっかく終わると思ったのに、まだ続くのか


 不審者の行動に、終わりかけた依頼が続くと思った俺は落胆する。



「そりゃ素直にこちらの言う事聞くわきゃねぇよな。予想通りってとこか」



 横を向くと、俺とは対照的にアルは平然としていた。どうやらアルにとって、不審者の行動は想定内だったらしい。



「俺の予想としては投降するか、反抗すると思ってたんだが、アルは何であいつらが逃げるって予想してたんだ? あと、次にあいつらがどう動くと予想してる?」


「逃げると思ってたのは、あいつらの気配の消し方の練度だ。俺達には見破られたが、どうみても一般人や、盗賊が行なえるような気配の消し方じゃねぇ。たぶんだが、兵士の経験がある連中だろう」



 気配察知は獣人決闘を出る際の訓練で、強制的に見につけたような力だから、気配の消し方の練度と言われてもピンとこないな。

 と、いうか気配の消し方に練度とかあったのか。



「で、あいつらの動きから斥候じゃないかと予想して、次はどう行動するかを予測したんだ」


「その行動が逃走だったと」


「ああ。四人が足止めして、一人だけ報告にいかせるパターンも考えてたんだが、実力差がありすぎて、時間稼ぎにならないって悟ったのか、全員で逃げる選択をしたみたいだけどな」


「全員別方向に逃げちゃったけど大丈夫なのか?」


「問題ない。奴等がやってきた方角は気配察知で把握してるからな。そっちの方向に歩いていけば、おそらく奴等の拠点があるはずだ」



 アルは自信満々にそう述べ、不審者の一人が逃げた方へ、早足に進む。おそらく不審者がやってきた方向へ向かっているのだろう。

 俺の気配察知よりも、アルの気配察知は遠くを察知出来る。

 どのくらいの距離を察知出来るのかは聞いていないが、もしかしたらあいつらの拠点の位置も、大体は把握してるのかもしれない。


 アルなら出来ても不思議じゃないんだよな。

 酒好きって事以外、こいつの弱点らしい弱点は見当たらない。

 こんな時に考えるのもあれだが、こいつに弱点ってあるんだろうか?



「お~い。さっさと来ないと、置いていくぞ」



 余計な事を考えていたら、結構距離が離れてしまっていた。ってかあいつ歩くの早くねっ!?

 

 振り返っていたアルが再び背中を向けて歩きだす。

 山道であるにも関わらず、全く速度が衰えないアルの背中を、慌てて俺は追いかけた。

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