15話 褒賞2
今回の話を書くのに必要だったので、前の話に宰相を追加しました。あと褒賞の漢字も一応訂正させていただきました。
「陛下、失礼ながら進言させていただきます。なぜこのような無茶な要求が通るのでしょうか?私の事は仕方ありません、勇者様が私よりそこの奴隷を選ぶと言うのなら不愉快ですが、納得もいたしましょう。ですが十二名もいきなり奴隷メイドがいなくなってしまっては業務に差し支えます」
口を出してきたのは半分存在を忘れていた。さっき俺のメイドに立候補してきたメイドだ。確か名前はさっきの迫害していたメイドが前に言っていたと思うがどうでも良かったので覚えていない。
「ふむ、確かにそなたの言い分も一理あるな。どうだろうイチヤ殿、わしが責任を持って迫害させないと誓おう。代わりにせめてその半分の人数で手を打ってくれんか?」
王様はそう言っているがこいつらの性根の悪さからしてばれないようにまた迫害されるだろう。めんどくさいので脅して終わらせようと思えば終わらせられるんだが、そんな事をすれば事態は最悪な方向に流れる。
こういう時にアルがいないのは痛いな
というかこういう時にいないとかホントに役にたたねぇな
俺はこの場にいないアルに悪態を吐く。
アルが聞いたら理不尽極まりないと思うだろう……と、そんな無駄な事に時間を割いてる暇はない
考えろ。リアネの為だ。これ以上無駄な事でリアネを悲しませたくない
考えろ。何かないか?この提案を跳ね除ける為のなにかを
考えろ。今までの会話で何かヒントはなかったか?
考えろ。考えるんだ、カブラギ・イチヤ
その時、さっきの騎士の発言がふいに思い出される。正直これで解決できるかなんてのはわからない。俺はそこまで話術が得意と言うわけじゃない。ほぼ考えなしに話しているからな。自慢できることじゃないが……
「王様。本当にそんなにメイドの数って必要ですか?」
「何……」
「正直メイドの仕事は良くわかんないんですけどね。それでも俺が思うにメイドの業務に”監視”なんて仕事は必要ないんじゃないですか?そんな無駄な作業に割く人員がいるのに業務に差し支えるとか……笑わせてくれる」
俺は先程発言したメイドに侮蔑の視線をくれてやると、奥歯をかみ締めて俺を睨みつけてくる。それに対してやるのか?という意味を込めた目線を送るとうつむいてしまった。
アルがこの場にいたら確実に額を手で多いため息吐いている事だろう。
「それは奴隷メイドがさぼらないか。手を抜かないか見ている必要があります。それに監視しているように見えたかもしれませんがこちらもきちんと仕事をしています」
「なるほどね。さぼらないか、手を抜かないか監視をしていたわけですか。それでそこのメイドは手を抜いていた獣人のメイドを何度も蹴ったり。遅いといって頬を張ったりね。前者はまぁ俺からしたら胸糞悪い事に変わりはないが、後者にいたっては一緒に働いていれば頬を張る必要もなかったと感じたんだがな」
「それは自分の担当がおわ――――」
「自分の担当が終わったからなんて言い訳だったら手伝ってあげていればもっと他の事に割く時間も取れるだろう?監視して頬を張る必要ってどこにあるのか俺にはわからないですねぇ」
俺が挑発するような発言をするとメイドは顔を真っ赤にしているが、言い返す事ができないようだ。自分でいうのもなんだが結構穴があると思うんだが、気付かないのか諦めたのか
「双方、もうよい。発言を控えよ」
王様の言葉と共に俺達二人のやりとりは中断した。
どうやら端から見たら見苦しい言い争いだったのだろう。
王様が中断させてくれなかったら際限なく続いていた。
王様がいる場で何やってるんだと思われるだろうが、どうもメイド達に対しては抑えがきかなくなるな。やっていた事がやっていた事なので抑える気もなかったが、場所くらいは考えた方がよさそうだ。
「わしにはメイドの仕事についてはよくわからん。メイド長、実際どうなのだ?」
俺達二人に話を聞くよりも王はメイド長に聞く方が良いと考え彼女に問いかける。いつの間にか元の位置に戻っていたメイド長一礼した後に発言する。
「はい。彼女達奴隷メイドがいなくなるのは痛手ですが、きちんと仕事をしていた者であれば業務に差し支えるという事はないでしょう。元々三年前に奴隷メイドをここまで多く雇用するまでは二十名弱でこなせていましたので今が少しばかり多いと感じております」
「うむ。だが痛手というのはどういう事だ?」
「私が見ていた限りで彼女達、特に年長者の二人は優秀です。料理や掃除にしても他の者よりも優れていると判断しております。料理に関して言えばイチヤ様であればご存知かと」
そう言って俺の方をみるメイド長と呼ばれる人物。
確かにリアネの料理は美味かったが、他のメイドよりも優秀だったのか……というかこのメイド長、人族なのに他のメイドと違い獣人に偏見がないようだ。きちんと構成に判断していた様子が窺える。
「では、問題ないというよいな」
「はい。それに先程の寛大な措置には見合わないでしょうが、私が責任を持って業務管理を行います。それに人数が少なくなった今、もう一度彼女達を教育し直すよい機会でしょう」
メイド長のその一言に他のメイド達は何も言えなくなる。さっきまで俺に吼えていたメイドもメイド長がそう言うと諦めたように黙った。
「ではこの件に関しては奴隷メイドは以降イチヤ殿の専属とする。誰か例の物を持ってまいれ」
王様がそう言うと先程メイドを連れてきた騎士が再度部屋を出て行く。騎士なのに体のいいぱしりにみえてしまうのは気のせいだろうか。
再び騎士が戻ってくると何かの紙と道具のような物を持ってきた。一体何の道具だろう?
「ではイチヤ殿こちらへ」
俺は言われるままに王様のところまで向かう。王様は何かの紙を見ながら白紙の紙に書き込んでいる。
「少し痛むかもしれんが我慢するんじゃ」
何かを書き終えた王様にそう言われると持つところに装飾のついた菓子楊枝のような針で人差し指を刺されちくっとした痛みとともに血がにじんでくる。その指を掴まれ王様が何かを記した紙にその指を押し当てられる。どうやら血判が必要な何かをさせられたようだ。
俺が王様に何をしたのか聞こうとすると、血判を押した指が丸い光を帯び始める。その光が徐々に強くなり分散して自分の背後へと飛んでいく、何が起こったのか振り返ると獣人メイド達に飛んでいき彼女達の首元でまるで首輪のような円の形になるとその輪の大きさが少しずつ狭まっていき彼女達の首元に触れると淡い光を放ち霧散して消えていく。
「一体何が起こったんだ……?」
「今ので奴隷メイド全員の主がわしからイチヤ殿に委譲されたんじゃよ」
王様が俺の独り言に答えてくれた。どうやら王様が獣人メイド達の名前を見ながら魔法紙という物に書き写し俺の血判で委譲契約を完了させたらしい。今の光は奴隷契約の儀式を行われた際の魔法の光なのだと説明された。
「いやいやいや!確かに俺は獣人メイド達を専属に欲しいと褒賞の対象にはしましたが、奴隷にするとは一言も言ってませんよ!?」
てっきりそのままリアネ達を預けてくれるだけかと思っていたんだが、王様としては俺に奴隷メイドそのものの主にすると解釈していたようだ。王様も困った顔になっている。
「しかしじゃな。その方がイチヤ殿にとっても何かと都合が良いと思うのだがの」
「というと?」
「彼女達を守りやすくなる。言い方は悪いが、イチヤ殿が奴隷の主になったという事は彼女達の所有者はイチヤ殿じゃ、その所有者であるイチヤ殿の”所有物”を傷つけた際イチヤ殿は傷つけた者をどんな事情があろうとも罰する事ができる。それは法で決められている事であり、どのような立場の者であれ、これを破る事はこの国では出来ん」
その説明を聞いて、メリットはあるがデメリットが思いつかない。特に法廷などではなく個人で罰せるという辺りが気に入った。さっきの俺の発言を汲んでこういった対処にしてくれたんだろう。俺はそう解釈した。
「わかりました。ご配慮ありがとうございます」
「納得してもらえたようで何よりじゃ、して二つ目はなんじゃ」
俺が納得したのを確認して次の褒賞の話に移る事になった。
「二つ目の褒賞の話になる前に一つ質問よろしいですか?」
「構わん。聞こうではないか」
「俺の牢屋がある階って全部で何部屋ありますか?」
「それにどういった意図があるのかは知らんが……確か牢屋と倉庫を含めると全部で八つほどか、牢屋と倉庫、他は客室になっておる」
八つか、それだけあれば十分だ。でも客室のすぐ側に牢屋があるとか大丈夫なのか?主に危機管理とか。
「客室の近くに牢屋があるなんて良いんですか?来客の人とか危機管理とか」
なんとなく気になったので聞いてみた。
「来客に関してなら問題ない。四階にも客室はいくつか用意されておるし、五階の客室は二十年前の魔獣以来来客数が減ってしまってほとんど使われておわらん。それにあの牢屋に入る者は特別なのでな……問題なかろう」
「特別とは?」
「イチヤ殿のような特別な存在と後は……すまんがこれ以上はイチヤ殿でもわしの口から言うわけにはいかん。すまんの」
王様の特別と言った時の表情が気になり聞いてみたのだが、どうやら話したくないようなのでそれ以上追及するような事はしなかった。話が脱線しかけていたので話を戻すことにする。
「では二つ目の褒賞なんですが、五階にある部屋をいくつか貸して頂きたい」
「ふざけるな!ただでさえ陛下に無礼な態度を取っておきながら更に王城を私物化だと?貴様、ずうずうしいにもほどがあるぞ!」
今度は剣を抜きかけんばかりの勢いでせまろうとしている。無駄に熱い奴だなこのおっさん。
他の騎士達も渋い顔をしている者もいるし、自分でもなるべく敬語で話すように努めてはいるが王様にとる態度じゃないのはわかってるし無茶な要求って事もわかってるからおっさんが俺に切りかかってさえ来なければ何もするつもりはない。
切りかかってくれば正当防衛という事で対処させてもらうがな
「ジェルド、良いから下がっておれ。話が進まんからお前は黙っていろ」
王様にそう言われ、柄に置いていた手を離し、元の位置に戻ったが忌々しそうに俺の事を睨みつけてくる。王様が仲裁に入ってくれなかったら死んでいたな……相手が。
「騎士団長が失礼した。それで理由を聞かせてもらってもよいかな?」
「はい。俺のメイドになったという事で彼女達には今住んでいるところから俺のすぐ近くに移り住んでもらいたいのでその為の部屋を用意したいと思いまして」
「獣人に部屋を客室を使わせるなど――――」
「わしは”黙っていろ”と言った筈だが……まさか耳が遠くなってしまったのかの。だったら早々に新しい騎士団長を選抜せねばならなくなるぞ」
「申し訳ございません……」
このおっさん、ホント懲りないなぁ。というか若干王様がキレかけているが大丈夫か?
「だが、騎士宿舎と同じようにメイドの宿舎もこの王城内に用意されておる。何も移り住む必要などないと思うが」
「獣人と戦になってなければそうでしょうね。尤も戦になってなければ俺のメイドにもなってなかった訳ですが……俺の考えを言ってもよろしいですか?」
「うむ。そなたの意見を聞いた上で判断しようではないか」
「今の人族と獣人族の関係は俺がここに召喚されてきた当初よりも圧倒的に悪い。正直王城内でも彼女達に対して良い感情を持っていない者が大半です。そんな状況で宿舎から俺の牢屋まで来る際に不快な思いをするかもしれない。だったらなるべく人族と関わらないように守れるように彼女達には出来るだけ同じ空間にいて欲しいと考えました」
俺のながったらしい説明を聞いて王様は少し考えている。やはり客室などの部屋を貸し与えるのには抵抗があるのかと思っていたのだが、しばし考えた後、ずっと黙っている身なりの良い爺さんに声をかけた。
「わしはまったく使ってない部屋なので特に貸し与えても問題ないと思うが、ジルムド、宰相であるお前の意見が聞きたい」
「では僭越ながら申し上げますと、五階の客室は魔獣災害以前、まだ様々な国があった際に各国からの使者の方を泊める際に使用しておりましたが、魔獣災害以降、国の数も減りこの国と帝国を残すのみとなり使者の方が泊まる頻度も激減してしまいました。この二十年使用された事はほとんどございません。使っていなかったので牢屋や倉庫として改装したくらいですので、今イチヤ殿が提案された使用方法でも何も問題ないかと思われます」
「ふむ。では褒賞として貸し与えてもよいという事だな?」
「はい。ですが、貸し与えるという事ですのできちんと管理してもらうという事になりますが」
「よいか?」
「はい。元々承諾を得た場合は彼女達に掃除などはお願いしようとは思っていたので問題ありません」
「では五階全部屋を貸し与える。きちんと管理してくれ」
「全部屋なんて良いんですか?」
「どうせ使用していない部屋ばかりだ。構わんよ」
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
俺の言葉で王様や宰相も納得してくれたようだ。この件に関してはそこまで揉めなかったので助かった。正直こちらとしては王様や騎士達と揉めたいわけじゃない。トラブルを招きたい訳じゃないからな。
「次で三つ目か。三つ目の願いはなんじゃ?」
「三つ目は、先程宰相のジルムドさんの言葉に少し出てきたんですが、五階の部屋を改装する許可を頂きたい」
「どのように改装したいのじゃ?」
「生活に必要な施設などですね。具体的な例を挙げると調理場などでしょうか」
「調理場ならあるが?」
「それも彼女達には使いづらいでしょう。先程も申し上げましたように出来るだけ彼女達には不快な思いをさせたくないのです。この褒賞が許可して頂けるのであれば定期的にある程度の食材を届けて欲しいというのが四つ目の願いとなります」
俺は三つ目の褒賞と一緒に四つ目の褒賞も一緒に伝える。これが無理であれば四つ目の褒賞も無理だろう。あとはこの場では言っていないが作りたい施設もあるので出来れば許可してもらえるとありがたい。
「その二つであれば特に問題なかろう。先程述べてもらった理由を考えれば確かに今は他の人族とはなるべく接触させたくない。そういう措置であるのならばないも問題はあるまい?」
「そうですね。よほど無理な改装でもない限りは私としても有効活用していただけるようなので問題はないかと思います」
「そうですか!ありがとうございます!」
王様と宰相の許可が出る。この件に関してはおっさん、もとい騎士団長も特に反対する理由はなかったようだ。ただし未だに俺をにらみつけるのはやめてもらいたいが……
「ではこのラズブリッダ王国国王ゼーブル6世の名において今あげられた四つ願いをイチヤ・カブラギへの褒賞とする!!」
王様の宣言に皆が拍手を返す。騎士団長や反抗的な一部のメイド達も渋々ながらも拍手していた。
こうして俺の四つの願いは褒賞として叶えられる事になったのだった。
読んでくださる方、ブックマークつけてくれた方、評価をつけてくれた方、いつもありがとうございます。
なぜか褒賞の話が脱線脱線の繰り返しで全然前に進まなかったので、メイドや騎士団長自重しろよとは思いましたが、なんとかイチヤに褒賞を与える事ができました。
楽しんでいただければ幸いです。仕事の方が今日から四日ほど忙しくなるので更新遅れるか出来ない日が出てくると思いますがなるべく急いで更新したいと思いますので待っていてくれると嬉しいです。確実に更新できるとお約束できるのは次の月曜となっております。