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154話 領地への帰還

 ユリの依頼の一つである魔物討伐を無事終わらせ、ようやく元侯爵領――――今は勝手に押し付けられたとはいえ、俺の領地であるリゼットへと帰っている途中である。(ゴキブリ男に関しては今回の討伐対象ではないので省く)


 今回は行きよりも人数が増えているので帰りの時間が延びているが、ようやく街の外壁が見えてきた。



「ようやく帰ってきたぁ~」



 外壁が見えてきた事で、ようやく帰還を実感してか、どうにも疲れが湧いてくる。


 魔物討伐の山登りに、馬車での長距離移動って、かなり疲れるんだよな……元ニートの俺には辛い。いや、この場合ニートは関係なく、現代日本に住んでいた人間だったら誰でも辛いと思うよ、マジで!


 ただ周りを見回してもみんな疲れた様子は俺ほどにはない。



「大丈夫ですか、イチヤ様?」


「……ギャ?」


「まぁ、なんとかな。そこまで馬車に慣れてないからしゃーない。具合が悪くなったりしないだけ全然良いさ」



 疲れてはいるが、馬車に酔ったりとかはない。ただ単に疲れてるだけなので、そこの所はアピールしておく。

 そんな俺の様子を見て、心配そうにこちらへと顔を寄せるリアネ。

 なぜか俺の膝に頭を乗せてくつろいでるリブも、心配そうにしているので、大丈夫だと頭を撫でる。

 気持ち良さそうに目を細めるリブにちょっと癒された。ゴブリンなのになんとも愛くるしい。

 うちの獣人幼女に匹敵するくらいの愛らしさだ。


 でも、リブも馬車には慣れてない……それどころか乗ったことすらないだろうに、全然疲れた感じがないんだよな。俺が貧弱なのだろうか?



「馬車に関しては、元の世界で乗る機会なんて全然ないだろうから仕方ないね。移動は全部徒歩か馬車になるだろうし、イチヤは慣れておいた方が良いよ」



 自分自身について、少し落ち込みかけたところで、そんな声が聞こえる。声の方に視線を向けるまでもなくレイラだ。


 この馬車には俺以外にリアネ、リブが乗っていて、レイラには御者をやってもらっている。


 馬車は二台あり、後方を走っているもう一台に、ゴブリン達が乗っている。


 もう一台の馬車は俺達が乗ってきた馬車を見て創生魔法で作成。本当にこの創生魔法は便利である。


 馬についても、村人達に売ってもらった。最初は魔物討伐してくれたから、ただで良いと言われたが、多少なりとも被害を受けた村だ。少しでも村の復興支援にと思い出す事にした。

 ただ今は手持ちがないので、後でリゼットから使者を送って払うと伝えた。ちなみに払うのはユリであり、俺ではないので、懐は痛まない。なかなかに外道だが、領地の復興の為だと泣きを見てもらおう。

 一応……公爵なのだからきっと! 金は持っているだろう。(願望)


 後は村の防備と言う事で、武器や防具も創生魔法で創って置いてきた。使い慣れてないとは思うが、ないよりはマシだろう。


 さて、馬車についてだが、なぜ向こうとこちらの乗る人数に偏りがあるのか、答えは単純に俺がきつかったからだ。ただでさえ馬車に乗りなれてないのに、すし詰め状態とか……ほんと勘弁して下さい。

 幸いにもゴブリン達は不満そうな様子は一切なく、乗り込んでくれたので良かったが、ちょっと罪悪感は抱いた。


 御者はなぜか御者経験があるというゴブリンの長老がこなしている。あの長老、ゴブリンをまとめたり、馬を操ったりと、なかなか有能そうである。

 もしかしたら他にも隠された技能があるかもしれない。今後に期待だな。


 街門前には、門番が二人ほど立っているのが遠めに見える。


 とりあえず門番にこちらが見えないギリギリの位置で馬車を止める。


 俺の方の馬車は問題なく通れそうだが、さすがにゴブリンが御者をしている馬車をすんなり通してくれるとは思えない。

 説明したら通してくれるだろうが、正直今は疲れているので、説明するのが正直面倒。

 領主権限でゴリ押し出来なくもないと思うけど、そういう権限をポンポン使うと碌な事にならないだろうし、無用な軋轢を生む可能性もある。


 ここは無難にやり過ごして、後でユリに説明してもらった方が良いだろう。その方が問題なく関係者全員に話がいくだろう。

 これは決して丸投げではない。適材適所というやつだ。



「と、いうわけで、リアネ頼む」


「? 何がと、いう訳なのかはわかりませんが、御者を代われば良いのですね」



 首を傾げて尋ねるリアネが可愛い。しかも俺の言いたい事がわかっている。

 まぁ御者をやる話は通していたので、以心伝心という訳ではないが、こうして察してくれるのは嬉しいものだ。


 リアネがこちらの馬車を降り、長老と御者を交代する。

 長老には他のゴブリンと同じように馬車の中へと入ってもらい。到着するまでゆっくりしてもらうつもりだ。

 ぎゅうぎゅう詰めだからゆっくりできるとは思えないけど、あと少しだし勘弁してもらおう。


 本当は、あまり老人に無茶はさせたくないので、こっちの馬車にのせてやりたいが、門を潜る際に俺が顔を出す必要がありそうなので、長老を見られる可能性があるからだ。

 だったらリブも向こうの馬車じゃないとおかしいって? はっはっは、リブに関してはぬいぐるみという事でゴリ押すさ。大体、一般人ならこんなに可愛いゴブリンの存在を信じようはずがない。



「そこの馬車、止まりなさい。って見覚えがあると思えば領主様の馬車でしたか」


「おう、お勤めご苦労さん」



 案の定馬車が止められたが、すぐに俺の馬車だと気付いたらしい。


 帆で覆っていた場所から顔を出し対応する。一応顔を見せておいた方が安心するだろという配慮だ。まぁ必要ないかもしれないが。



「ご無事で何よりでした。村の方はどうでしたか?」


「多少梃子摺ったけど、ちゃんと解決した。詳しい事はユリーシャ公爵令嬢に報告するよ」


「そうですか。お疲れ様です」



 赤毛の女門番からの質問に答えると、俺の返答に笑顔で労いの言葉をかけてくれる。


 顔は決して美人とは言えないが、笑うと愛嬌がある。


 それにしても、この女の人、どこかで見たような……あ、そうだ! リゼットで俺と戦ったおっさんが伝令に出した女の人だ。



「確かメリー……だったかな」


「ええ……そうですが、私名乗りましたっけ?」



 どうやら考えてた事が口から出てしまっていたようだ。


 メリーが不思議そうに首を傾げる。


 そりゃいきなり名乗ってもいないのに、面識のない人間から名前を呼ばれたら、誰だって不思議に思うだろう。嫌悪とかそういった感情が見られないだけ良かった。

 


「いや、何処かで見たような気がしたな、と思って。思いだしてみると、俺と戦ってたおっさんが確かそう呼んでたなってな。いきなり名前呼ばれて気に障ったならすまん」


「いえいえ! 別に気にしてませんので! それにしてもあの時は緊迫していたのに、よく覚えてましたね」


「まぁね」



 確かに緊迫した雰囲気だったが、脅威ではなかったから周りを見る余裕は十分にあったよ?

 むろん口には出さないけど。



「っとそろそろ行っても大丈夫か?」


「ええ、大丈夫ですよ。こちらこそお引止めして申し訳ない」


「俺の方も話しこんじゃったしお互い様という事で。それと後ろの馬車も一緒に通してもらって良いか? 村で手にいれたものが積んであるんだ」


「領主様が運んできたものでしたら問題ないでしょう。一緒に進んでもらって構いません」


「ありがとう」



少し話しこんでしまったが、問題ないようなので、そのまま進む。後ろの馬車についても、荷物確認などが行なわれなくて良かった。

 名目上とはいえ、こういう時、領主という立場は役にたつな。


 まぁ領主にならなければ、ユリから依頼が来る事もなかったし、ゴブリン達と出会う事もなかった訳だが、良い出会いだったので良しとしよう。


 ゆっくりとしたペースで馬車が進み、目的の場所、というか自宅へと到着する。


 まだ住んで間もないので、自宅という感じはないが、それでもようやくゆっくりと休む事が出来る。


 たった二日ではあるが、帰ってきたぞ! マイハウス!


 ……やっと休めると妙なテンションになってしまったが、口に出していないので大丈夫だろう。



「おかえりなさいませ。ご主人様」


「「「おかえりなさいませ!!」」」



 馬車が止まったので降りると、ディアッタを筆頭に、エヴィやクルエ、獣人娘達が軽く頭を下げ、元気に挨拶をしてくる。



「お……おぅ……!? ただいま」



 その光景に圧倒される俺。思わず声がどもってしまった。


 元の世界にいた頃はニートだったので、ただいまという機会はほぼなかった。というか冷めた目をむけられてたので、挨拶自体がなかった……。


 王宮暮らしの時も、そこまで頻繁に外出しなかったし、帰った時も軽い挨拶があった程度だったので、こんなに仰々しく出迎えられるなんて思わなかった。。


 それでも仲良くなった人間にこうやって挨拶をしてもらえるのは素直に嬉しいと思う。驚いたけど、これはこれで良いものだ。


 出迎えてくれたみんなに視線を向け、改めて挨拶を返し、他の獣人娘と一緒に並んで笑顔を浮かべていたピアとフィニの頭を撫でる。


 二人とも目を細めて嬉しそうだし、二人の撫で心地が良くて俺も幸せだ。


 ピアとフィニの頭を撫でていると、ディアッタとエヴィが扉を開けてくれたので屋敷の中に入る。


 挨拶をしてくれた人たちを伴い屋敷に入ると、すぐにレーシャの姿が飛び込んできた。姿勢良く佇んでる様子からして、どうやら俺達を待っていてくれたらしい。


 にこやかに微笑み一言。



「おかえりなさい、イチヤさん! みなさん、帰りが遅いので心配しましたよ」


「ごめんな。少しばかり予想外な出来事があって帰りが遅れたんだ」



 まさか魔物退治に出向いて、魔獣やゴキブリ男なんてものに出会うとは思わなかった。

 魔獣はそこまで脅威ではなかったけど、あのゴキブリ男はマジでやばい。


 なるべく心配かけまいと、苦笑いしながらレーシャに告げる。


 すると。



「どこか怪我は! 痛いところはありませんか!?」


「別にそういうトラブルじゃないから! だから俺の服を脱がそうとするな!!」 


 どうやら言葉を濁した事でレーシャを動揺させてしまったようだ。


 俺の言葉で何を察したのかはたまた勘違いしたのか、焦ったような、心配するような視線で俺の上の服をありえない速度で脱がし、体をまさぐるレーシャ。


 ちょっ!? あんた姫様だろう! 清楚キャラだと思ってたのにそのキャラどこいった?! つかなんつー早業だよ!


 このままではひん剥かれて全身くまなく観察されそうなので、ズボンに手をかけた彼女の手を掴み、強引に止める。



「とりあえず落ち着け」


「あ……」



 レーシャの目を見てはっきりと告げる。すると我に返ったのか、彼女の顔が真っ赤に染まり剥かれた衣服がぽとりと落ちる。


 上半身は剥かれたが、さすがに屋敷の入り口で下半身を晒す趣味はない。


 彼女の様子を見て、もう大丈夫だろうと思い、手を放す。


 ギリギリどうにかなったので本当に良かった。



「というか、お前等も止めてくれよ」


「申し訳ありません。あまりに急な事態でしたので、対応が遅れてしまいました」


「まさかレーシャ様がこんな行動を起こすとは思わず……」



 おい、そう言ってる割にはしっかりとピアとフィニの目を手で覆っているじゃないか。

 明らかに反応出来てませんかね?



「イチヤ様の裸体……イチヤ様の……」



 リアネさん……クルエさん……顔を手で覆いながらもその隙間から覗いてるのバレバレだから。



「あの……すいません」


「故意でやった訳じゃないし、気にしてないよ。心配してくれてありがとな」



 真っ赤な顔のままで、レーシャが心底申し訳なさそうに謝ってくる。


 俺としては特に実害が出たというほどでもないので怒りの感情は浮かんで来ない。

 若干肌寒いのと少し恥ずかしい程度だ。


 レーシャから視線を外し、彼女が落とした服を着なおそうと、落ちた服のあった場所に目を向ける。


 しかし落ちた服が見当たらない。

 


「イチヤ様、とりあえずこれを」



 落ちた服の行方を探そうとすると、突然横に並んだエヴィがさっきまで俺が着ていた服を差し出す。どうやら俺が驚いている間に服を回収したようだが、こいつ……いつの間に横に並んだんだ!?


 前に比べるとかなり執事っぽくなってるんだが! 教育係りはディアッタのはずだが、一体どういう教育を施したんだ? まるで別人じゃないか!


 優秀になってる事に何の問題もない。ないのだが、どうにもこの変わり様に違和感を禁じ得ない。


 一先ず優秀になったエヴィに関しては置いておこう。今考えても仕方ないだろう。



「ふぅ……とりあえず、何があったのかは全員集まった後で説明するよ。ディアッタ、ユリやアル、シャティナさんを呼んできてもらえるか?」


「畏まりました。ユリ様でしたら執務室でお仕事をなさっていらっしゃると思いますので、アルドルさんとシャティナさんを執務室にお呼びすればよろしいですか?」


「それで頼む。あ~……あとはディーネにも報告しとくか。でもあいつヴァンパイアだからこの時間寝てるのか? もし起きてたらディーネも呼んでくれ」



 そう告げると、ディアッタが一つお辞儀をしてから行動に移す。去り際に他のメイド達に仕事を指示を出していく辺りさすがだ。


 社会人の経験なんて当然ないんだが、彼女だったらどこの会社でも引く手数多だろう。秘書とか似合いそうだ。



「さて、それじゃあ執務室に行きますか」



 言葉に従い、残ったみんなが俺の後ろをついてくる。


 村での報告を手早く済ませて今日休んだら次の面倒事が待っている……正直だるい事この上ないが、これが終われば自堕落な生活が待っている!

 それだけを希望に、俺は足早にユリのいる執務室へと向かったのだった。

 

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