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150話 魔物が出る村18

 この森の脅威も去ったので、ゴブリン族が避難していた洞窟に戻ると、そこにはゴブリン族以外にもリアネとレイラの姿があった。


 たぶん集落の消火活動が終わったから、居残ったゴブリンと一緒にここまで来たのだろう。


 そんな二人はやってきた俺の事を非難するような目で見てくる。


 一体どうしたと言うのだろうか?



「「イチヤ(様)」」


「はい?」



 二人で声をそろえて俺の名前を呼ぶ?

 声には若干の怒気をはらんでいるようだ。


 マジで訳がわからん。

 特に何かした覚えはないんだが……。



「はぁ……その顔は何で私達が怒っているのかわかっていなさそうですね」


「みたいだね」


「えっと……俺、何かした……?」


「何かしたじゃありません!」



 いつもは温厚で、俺をたててくれるリアネが珍しく声を荒げて怒っている。

 普段無口なレイラもリアネと同様だ。


 こんな事は初めてじゃないだろうか?

 さっきゴブリン族の集落で別れた時は普通だったし、全くもって身に覚えがない。


 困惑したようにこちらの様子を窺うゴブリン族のみんな。

 俺も二人の様子に困惑しているよ。


 何故怒っているのかわからず二人を交互に見つめる。

 するとレイラがため息一つ吐き、口を開いた。



「ゴブリン族の長老に聞いたよ。どうして何の相談もなく、一人で魔物の主の下に向かったんだい? 私達が来るまで待てない事情でもあったのかい?」


「あ……ごめん……そこまでの理由はない……先走った……」


 

 レイラの言葉にどうして二人がこんなにも怒っているのか理解した。


 理由を言ってしまえば、ここに着いた時に魔物が大量に洞窟を囲っていて倒し、また襲われるかもしれないので先手を打ったと言えば良いのだが、先走った事にはかわりない。

 魔物の主のところでの出来事を考えても、もう少し良い方法があったかもしれない。


 しっかりとした対応が出来なかったのは俺の自己責任だ。

 それに言い訳がましくあれこれ言うのはみっともないしな……。 



「うん。反省してくれたなら良いよ。魔物討伐は何が起こるかわからない。一人じゃ対処出来ない場合だってあるんだ。それだけは心に留めておいてくれ」


「わかった」



 真剣な表情でのレイラの言葉に俺もしっかりと頷く。

 今回の件は反省する点が多い。

 次に何かあった時には、少しでも今回の事を教訓にしないといけないな。



「それじゃあイチヤも無事だったんだし、この件はこれくらいにしておこう。リアネも良いね?」


「はい……。イチヤ様、あまり無茶はしないで下さい。お願いします」


「ああ……リアネもホントごめん」



 二人に謝ると、ようやく表情を崩して笑みを浮かべてくれた。

 心の中でもう一度二人に謝罪し、心配してくれた事へ感謝した。



「それで、イチヤが戻ってきたって事は、魔物の主とやらは倒したんだろう?」


「もちろん。ちょっとまずいかも、とか思ったけど、どうにか倒してきたよ」



 魔物の主の方にはそこまで苦戦していない。

 まずいと思ったのはあのゴキブリ野郎の方だ。



「ふむ。この辺に生息している魔物でイチヤにそこまで言わせるとは……。もしかして突然変異した魔物だろうか? 魔物を統率する魔物というのは結構いるが、どんな魔物だったんだい?」


「熊の魔物……正確には熊の魔獣だったか」


「「!?」」


 

 軽い調子で言った俺の言葉に、二人が驚きの顔を浮かべる。

 そして少しすると、レイラは再び真剣な表情を浮かべ、リアネは目に涙を溜めている。


 え? 一体どうしたんだ?



「正座」


「はい?」


「正座」



 急遽上がった地の底から響くようなレイラの言葉に変な声で返事をしてしまう。


 いや、なんで急に正座!?

 全く意味がわかりません!


 そんな俺の心情など、もちろん理解されるはずもなく、レイラは同じ言葉(正座)を繰り返す。


 言い返そうにも、有無を言わさぬといった感じのレイラの眼力がやばい。


 ”今逆らったらまずい”そう思わせるくらいに俺の体が震えた。


 俺はレイラに言われた通り正座する。


 逆らったところで何一つ良い事はないだろう。


 べ……別に恐かったとかそういう理由じゃない! 大人しく言う事を聞いた方が話が進むと思っただけだ……。



「イチヤ……魔獣と言ったね?」


「ん? 言ったけど。魔物の主は魔獣だった」


「相手が魔獣であるという事はいつ気付いたんだい?」


「気配察知した時。一際大きな気配を感じて向かって見つけた時に。もちろん最初は相手に気付かれないようにしてから分析したぞ」


「じゃあ戦闘前に相手が魔獣だという事はわかっていたんだね?」


「まぁ……そうなる――――」


「どうして逃げなかったんだ!!」



 俺の言葉を遮り、レイラは先程とは比べものにならないくらいの怒声を発する。


 レイラが声を張り上げて怒るのを初めて見た。

 リアネの方にも視線を送ると、彼女もぽろぽろと涙を零している。

 


「魔獣の危険性についてはアルも言っていただろう。確かにイチヤのステータスや能力は召喚された中で一番強かった。私が勇者召喚された時のメンバーの中でも上位に入る実力があるのは認める。それでも魔獣というのは危険なんだ。あいつらはステータスには表示されない能力を持っている場合だってある。今回は運よく倒すことが出来たのかもしれない。だけど次も同じようにいくとは限らない。頼むから一人で危険に飛び込むような真似はしないでくれ。自分の力を……過信しないでくれ……」


「……ごめん」



 眉間に皺を寄せ、苦渋に満ちた表情で口を開くレイラにその一言を言うだけで精一杯だった。


 彼女の言っている事はよくわかる。

 これが魔物の主である熊の魔獣にしか出会わなかったら、大袈裟過ぎだろうとか、心配しすぎだと言っていただろう。


 でも俺はゴキブリ男に遭遇した。

 遭遇してしまったのだ。


 二人にはゴキブリ男については言っていないが、あいつと出会ってわかった。

 今の俺の実力では上級魔獣とかいう存在の相手は荷が重過ぎる。

 多分相討ち覚悟で挑んでも勝てそうにない。


 ここは平和な日本じゃない。

 魔物や魔獣が存在している世界で、いつ何処で危険に晒されるかわからない。

 ステータスに慢心しているつもりはないけど、レイラにも言われた通り、次に単独行動する時は無茶な真似はしない。


 悲しんでくれる人がいるんだ。その人達にまた同じような思いをさせるのはさすがにやってはいけない。


 そう心に誓って、俺は泣いているリアネを宥める為に立ち上が――――。



「何を勝手に立ち上がろうとしてるんだい? まだ話は終わってないよ!」



 ろうとして、未だに怒りが治まらないレイラによって再び正座させられた。

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