148話 魔物が出る村16
「カンタンニシネルトオモウナダト? クハハ……タダノニンゲンフゼイガナニオ――――フギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「言葉を話す癖に、言葉の意味は理解してないようだな。俺は黙れと言ったはずだぞ」
魔獣の攻撃を受け止めていたのとは反対の剣で、奴の右腕を切り飛ばす。
また紫色の血が俺の体を染めるが、そんな事知るか。
とにかくこいつには今までやってきた事に対する報いと、生きている事を後悔させなければ気がすまない。
「キサマァアア! コンナコトヲシテタダデスムト――――アガァアアアアアア!」
本当に学習しない奴だな。
こちらに血涙を流しながらもまた言葉を発する魔獣。
そんな魔獣に対して、言葉を発した瞬間に一瞬で背後に回り、今度は両足を切断する。
ズドンッという音と共に、魔獣がそのでかい体躯を無造作に地面へと投げ出した。
魔獣の血がどくどくと流れ地面を汚す。
俺の目からは魔獣と同じで、血までとても薄汚く写る。
さっさと処分してやりたいが、村人やゴブリン族に対してした事を思えば、これじゃあ全然足りないな。
再び正面に回ると、魔獣が俺を睨み付けるように視線を向けてくる。
「ユルサン……ユルサンゾ、ニンゲン!」
「お前に許しを請う必要ないだろ。それと、もう一度言うが……黙れよ」
「アギィィイアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
片目に剣を突き立ててぐりぐりとねじり込むと、再び叫び声をあげる。
口を開く度に痛い思いをしているのに、どうしてわからないかね?
犬や猫だって、怒られたらきちんと反省出来るのに、人の言葉を介す癖に、ホント頭が足りてないな。
片目にねじり込んだ剣から手を放し、再び創生魔法で剣を創り出す。
手放した剣はそのままにし、今度は今創り上げた剣でもう片方の目に突きいれる。
「アアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! ドウシテダ!? ドウシテナニモハナシテナイノニィィイイイイ!」
理不尽だとでも言いたげに魔獣が苦悶の声を上げる。
別に口を閉じようが、開こうが結果は変わらない。
俺はこいつに今までやった事が、いかに理不尽で、他者を不幸にしてきたかを教え込んだ後、後悔させたいだけだから。
「さて、今までたくさんの命を奪ってきたんだろ? だったら今度は自分が命を奪われても文句はないよな?」
その言葉にビクッと震わせる魔獣。
さすがにここまでされたら恐怖を覚えるか。
両目を潰されているので、もう魔獣が俺を睨み付ける事は出来ない。
というか見た感じ、もう反抗の意思はなさそうだ。
「さてそれじゃあ、今までお前が無慈悲に殺してきた人達の苦しみを、十分に味わってもらおうか」
本当なら、さっさと魔獣を退治して帰ろうと思っていたんけど、思いの外時間を食っていた。
というのも。
「ウ……ウゥゥ……」
口から紫色の血と涎を垂らしながらうめき声を上げる魔獣。
体にはすでに三十本以上の剣を突き立てているにも関わらず、瀕死とはいえ未だに生きている。
俺としては正直ここまでするつもりもなかった。
傷ついていた村人達や、死んでいたゴブリン族の面々の事を思ったら、頭に血が上ったので、苦しみながら殺してやろうと思っていた。
だがそれも10分、20分もすれば徐々に怒りも治まってきた。
30分くらいしてそろそろ止めをと思って、創生魔法で創った剣で心臓の位置に剣を突きたてたのだが魔獣は声を上げるばかりで、一向に死ぬ気配がない。
次に頭にも突きたてたけど、これでも奴は死ななかった。
一体どうなっているのか?
この魔獣、アルが言っていたような強さはない。
おそらく魔獣とひとくくりにしているが、魔獣にも色々種類がいるのだろう。
その事は十分理解しているのだけど、何故こいつはここまでしているのに死なないんだ?
虫の息なのはわかるが殺せない理由がわからない。
分析を使ってみてもさっきからずっとこんな感じなのだ。
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グドゥー 魔獣
Lv42
HP:1
MP:5197
攻撃力:3400
防御力:4010
STR: 5899
VIT: 7016
DEX: 8023
AGI: 1025
INT: 3111
能力:狂獣化、毒爪、豪腕、魔法効果上昇
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HPが1だけ残っている。
普通なら後一発でも衝撃を与えれば死ぬはずなのに、さっきから何度突き指しても一向に死ぬ気配がない。
戦いの点においてはそこまで強いとは感じなかった。
前にアルが話していた魔獣の恐ろしさってのはこの不死性なのか?
他の魔獣がこいつより強くて不死身だったら確かに脅威だ。
話に聞いただけだからどの程度の強さを誇っていたのかわからないが、きっと相当強かったんだろう。
っと、少し脱線しちゃったな。
過去の魔獣よりも今の魔獣だ。
ホント、どうしたもんか。
「正直少し疲れてきたから終わりにしたいんだが……さすがに放置して帰るわけにもいかないよな……」
分析した結果、再生能力がないのは判明したんだけど、魔法効果上昇が気になる。
魔法効果上昇があるって事はたぶん魔法が使えるって事だろう。
下手したら回復魔法とか使える可能性は零ではない。
放置したまま帰って、復活した魔獣がまた村人達を襲い出したら面倒だ。
これは倒すという選択肢しかとれないな。
「でもどう倒したものか……」
問題はこいつの処分方法なんだよなぁ……。
今にも死にそうなのに死なない。
実に面倒くさい魔獣だ。さっさと死ねば良いのに。
とりあえずもう10回くらい剣をぶっ刺して、それでもどうしようもなかったら焼却処分してみようか。
消し炭にでもすれば、さすがに復活は……ないと思いたい。
と、いう訳でさっそく10本ほど剣を創り出し、魔獣に刺していく。
1本、2本、3本と何の変哲もない剣が吸い込まれるようにして魔獣の体に刺さる。
刺す度に一瞬体をビクっと揺らすが、先程まで刺したのと大差なく、HPは1のままだった。
これは焼却処分を試すしかないかな。
そう思いかけ、8本目を魔獣の左わき腹辺りに突き刺した時だった。
何か硬いものに突きたったような感触。
骨にでも当たったのかと思い、そのまま力任せに剣を差し込む。
すると、ピキッという乾いた音と、魔獣の体に変化が現れた。
「うぉ!?」
驚きの声と同時に、俺は刺していた剣をそのまま手放し、魔獣の体から勢いよく飛び退る。
いきなり起こった魔獣の変化。
それは――――。
「体が……溶けてってる?」
他に言い方が見つからず、半ば呆然とした呟き。
突如、魔獣の体がどろっと溶けだし、ゆっくりと地面に流れていく。
一体何がどうなったのか?
それがわからないまま、俺はその光景を見続ける事しか出来なかった。
徐々に溶け出していく魔獣の体。
最後には地面にスライムのように粘ついた水溜りと、俺が創生して魔獣に突き刺した剣だけが残った。
いや、他にもう一つ、気になるものが水溜りに残ってるな。
「なんだあれ?」
たくさんの剣と水溜り、その中心に、赤黒く光を放つ、剣が突き刺さった丸い玉が地面に落ちていた。
その玉がなんなのか気になり、水溜りの中心に一歩近付く。
「私とした事が……来るのが少し遅れてしまったようですね」
「誰だっ!?」
そんな声が聞こえた瞬間、ゾワリとした間隔が背筋を伝い思わす声を荒げて叫ぶ。
なんだこの悪寒?
今まで感じたこともないような威圧感。
その原因を探るべく、俺は首を巡らし周囲を探る。
辺りに魔物の気配は一切なく、木々は風で揺らめくだけ。
全身からの威圧感で、体が強張る。
背筋と頬に冷や汗が伝い、その間隔が治まる気配が一切ない。
警戒しながら振り返るもそこに誰かがいるという事はなかった。
一体どこに……?
「おやおや、これは姿も見せずに失礼しました」
ずいぶんと落ち着いた声に発した者の場所が定まり、勢いよく振り返る。
するとさっきまで影も形もなかった存在が魔獣の血で出来た血黙りの中心に立っていた。
手に持っているのは、先程倒して出てきた魔獣の玉が突き刺さった俺の剣。
そしてそれを持つ人物に思わず驚愕の表情を受けべる。
格好はどこかの屋敷に使えるような執事服。
手には白手袋をはめている。
場所を考えなければ普通の格好と言えるだろう。
だが問題なのはその容姿……こちらを静かに見つめるその顔は、誰もが嫌って止まないゴキブリそのものだった。




