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147話 魔物が出る村15

 足音をたてないように慎重に進み、魔獣グドゥーに一番近い場所へと到着する。


 出来れば背後に回りこみたかったが、最も遠かったのが奴の背後だったので、断念した。

 今いる場所は魔獣が横を向いている木の影、奴から20メートルくらい離れた位置だ。

 この距離からなら俺のステータス能力的に、一気に迫ることが出来る。

 さっきまでいた場所だと、一気に駆け出しても気付かれて、不意打ちなんて不可能だったが、ここなら可能だ。

 魔獣はこちらに気付いた様子は一切ない。


 近づいた事で、魔獣の様子をさっきよりも良く窺う事が出来る。

 見ると、魔獣の右肩には何かが刺さっている。



『グヌヌ、ヌケン……ヌケンゾオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』



 片言だが、人語を介する魔獣に軽く驚く。

 今まで戦った事がある魔物が人語を話した事はない。

 口から発する言葉は鳴き声ばかりだった。


 魔獣が知能を持っているってのは聞いていたけど、人の言葉を話すくらいには、知能があるって言うことか。


 何かを抜こうと必死の形相の魔獣。

 結構大きな物が突き刺さってるように見えるが痛くないのだろうか?



『グヌオオオオオ!! クソッ! イタイイタイイタイ! ナゼコンナモノガソラカラアアアアア!』



 こっちには気付いていないのに、まるで俺の心を読んだかのような言葉。


 まぁ、結構深々と刺さっているようだし、痛いのは当たり前か。

 それにしても、ステータス的にも侮ってはいけない敵なのだが、何かを抜き取ろうとしている姿が……言ってはなんだが……マヌケだ。

 

 一体何が魔獣に刺さっているのか?

 目を凝らしてよく見てみる。



「!?」



 驚きのあまり声を上げそうになって、慌てて手で口を塞ぐ。


 別に魔獣と目が合ったとか、気付かれそうになったから驚いたとかではない。

 魔獣に刺さっていた物に驚いたのだ。


 魔獣に刺さっている物。


 ――――あれって、ブレイドマンティスの腕……だよな?


 右肩に刺さっていたのは、どう見てもブレイドマンティスの腕。

 さっき戦った魔物の部位なのだから、見間違えようはずもない。

 そう……見間違えようはずもないのだ。


 でも、何故あんな物が魔獣の右肩に刺さってんだ?

 しかもあんな深々と。


 疑問に思いながらも考えてみると、一つ思い出した事があり、額から冷や汗が頬を伝う。


 もしかして、さっき俺が切り飛ばした腕、なのか?


 先程レイラの動きを模倣して行なった俺の下手な剣技。

 たぶんあれで、盛大に空へと吹っ飛ばしたブレイドマンティスの腕が、魔獣の肩に刺さったのだろう。

 それ以外に説明がつかない。

 魔獣も『ナゼコンナモノガソラカラアアアアア!』とか言ってたし……。


 結構盛大に飛んでいったし、森の中だから、ブレイドマンティスの腕がぶっ飛んだところで特に気にしていなかったよ。

 ゴブリンの集落でも誰かに突き刺さって、死んだような痕跡もなかったし、すっかり忘れていたよ。


 ……まさか魔獣に刺さっていたとはな。


 未だに右肩に刺さったブレイドマンティスの腕を抜こうとして必死こいている魔獣。


 どうにも力が抜ける。

 アル達の話では、魔獣ってもっと凶悪で恐ろしい生物だったはずなんだが……。


 もうこれ、さっさと始末してしまった方が良いだろうか。

 敵とはいえ、なんだか可哀想だ。


 あの状況が自分のせいだという事を棚に上げ、戦闘準備に入る。

 分析の能力を使ったとはいえ、魔獣との実践は初めてだ。

 ここは安全に対処した方が良いだろう。


 魔獣は未だにブレイドマンティスの腕に集中していて全く気付く様子がない。

 そんな魔獣に対し、奇襲の為の魔法を放つ。



焔蛇(フレア・スネイク)



 焔陀――――中級の火属性魔法で、対象に指定した相手に、蛇のような動きの炎が迫るところから名付けられた魔法。


 魔力感知が得意な者か、足元に意識が向いていなければ察知される事のない。

 敵に触れるまでは火属性魔法として発現することがないそうで、地面が焦げるがない為、気付きにくい。

 火属性魔法に長けたシャティナさんに教えてもらった、俺の数少ない奇襲に向いている使い勝手の良い魔法だ。


 焔陀の魔法が魔獣へと向かっていく。

 蛇が獲物に気付かれないようにゆっくりとした速度で若干じれったいが、全く音を発しない。


 速度は出ていないが、徐々に魔獣へと迫る焔蛇。

 その顎門ついに魔獣へと牙を向けた。



『ヌオッ!?』



 魔獣は左足、牙を突きたてられ、ようやく焔蛇の存在にようやく気付く。

 だが、気付いたときには遅かった。


 ブレイドマンティスの腕に意識を完全に向けていた魔獣に牙が突き立つ。

 牙が魔獣の体内へと深く入り込んだ。


 これが毒蛇だったのなら神経毒等が体を蝕んで言った事だろう。

 けれど、これは魔法で出来た炎の蛇。

 毒の類は一切もちあわせていない。


 だからといってこの蛇が厄介でない理由にはならない。

 毒があるなしに関わらず、蛇なんてものは凶悪だ。

 効果を見てもらえばわかるが、この焔蛇だってその事実は変わらない。

 むしろ魔法で出来ている分、こちらの方が厄介かもしれない。 


 焔蛇の効果はすぐにあらわれる。

 牙を突き立てると同時、焔蛇の体が赤く発光し、徐々に明滅し出す。


 光が強く、赤い光の明滅の間隔が短くなり最後には蛇は光で満たされる。

 

 そして次の瞬間――――。



『ウガァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』



 蛇が消失すると、ドゴォオオオンッ!! っという激しい爆発音。

 6メートルの巨体を誇る魔獣が、無防備に宙へと投げ出される。


 よし! これは殺っただろう!


 魔獣を見て、思わず小さくガッツポーズを取る俺。


 今まで戦闘において、無傷で、しかもここまで上手く事が運んだ事があっただろうか?

 いや、ない!


 今までの戦闘の事を思い出しても加減を間違えたり、相手の強さが半端中なくて苦戦したりと結構色々大変だった記憶が蘇る。


 戦闘――――命の奪い合いのようなものなのだから、仕方ないのも理解しているが……出来れば傷を負わずに、楽に終わらせたい。

 痛いのとか本当に勘弁して欲しいのだ。


 なので、今回の完勝については本当に気分が良い。

 ――――いや、気分が良かったと言っておこう……。



 ブオンッ!


「うおッ!?」



 殺気を感じ、魔獣がぶっ飛んでった方角から、凄まじい勢いで風の刃が飛んでくる。

 すぐさま飛び退くと同時、俺がいた場所の地面が、切り裂かれたかのように抉られていた。


 あぶねぇ……一瞬でも遅れていたら怪我するところだった。

 地面の抉れ具合を見るからに、一般人ならミンチになってるところだ。


 そんな風に俺が考察していると、一つの気配が俺へと近付いて来る。

 それがなんなのかは言わずもがな。 

 


「キィィィイイイサァァァアアアアアアマァァアアアアアアアアアアア!!」



 地の底から響くような叫び声をあげながらやってくる魔獣。


 殺気と威圧感が半端ない。


 俺のステータスからいって、結構な威力であったであろう焔蛇の魔法を受けても、死んでいなかったようだ。


 前にダンジョンでそこそこ強い魔物に使った時は一撃で沈められたんだがなぁ。


 魔物であったなら、さっきの焔蛇の魔法を受けたら四肢が吹き飛び、そのまま絶命しているのだが、さすがは魔獣といったところか、かなり頑丈なようだ。


 とは言っても、無傷という訳ではないみたいだ。


 こちらにやってくる魔獣の体からはプスプスと煙が発していて、体毛もところどころ禿げていたりちぢれていたりする。

 肩に刺さっていたブレイドマンティスの腕は……若干溶けたようになっているがまだ刺さっている。


 見た感じ、結構ダメージが通っているように見えるけど、実際はどうなんだろう?


 どれ、どのくらいダメージが通ったのか確認してみるか。


 魔獣がいつ攻撃してきても良いように警戒しつつ、意識を集中して再び分析を使う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

グドゥー 魔獣

Lv42

HP:4091

MP:5197

攻撃力:3400

防御力:4010

STR: 5899

VIT: 7016

DEX: 8023

AGI: 1025

INT: 3111

能力:狂獣化、毒爪、豪腕、魔法効果上昇

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 おぉう……6,7割は削ったか? 焔蛇先生強すぎだろ。

 今まで一発で仕留めていたからどのくらいHPを削っていたからわからなかった。

 これならあと一発ぶち込めば倒せるんだが……さすがに二度もくらってはくれないよな。


 焔蛇は隠密性に優れているので、不意打ちとしてなら有効なのだが、俺の位置はもうバレているので使えない。


 ここは正攻法で倒しきるのが一番だろう。


 俺は創生魔法で両手に剣を持つ。


 早く片付けて、みんなのところに戻らないとな。



「フザケタマネヲシオッテ!! カクゴ――――」


「悪いが、さっさと終わらせてもらう!」



 ズシャッ!



「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!」



 魔獣の口上を遮り、左腕を切り飛ばす。

 切り飛ばされた箇所から、紫色をした血が盛大に吹き荒れる。


 ブシャブシャと吹き出る魔獣の血が少しだけ体にかかってしまった。


 なんか血の色がキショい。あと色的になんか毒とかありそうだな。

 かかっただけだし、俺には状態異常無効の能力があるから大丈夫だと思うけど少し不安になる。


 ……大丈夫だよな? この魔獣、変な病気とか持ってないよな?


 少し不安になりながらも、次の攻撃に移る為に足に力を込める。



「ナメルナニンゲンッ!」



 ブオンッという風を切る音と同時に、残された右腕で大振りの一撃を放つ魔獣。

 だが当然、そんな大振りの攻撃など当たるはずもなく、バックステップで距離を取る。


 空振った魔獣の腕が地面を抉り砂埃をさらう。

 単調で大振りな一撃。

 だが、その威力は凄まじかった。


 その一撃が地面へと当たった瞬間、ドズンッ! と鈍い音をたてて、地震でも起きたかのように足場を揺らす。


 さすがにあんな大振りで隙がある攻撃に当たるつもりはないけど、もし当たったら挽肉の出来上がりだ。



「ヨケルナニンゲン!!」


「無茶言うな!」



 唾を飛ばしながら魔獣がそんな事をのたまう。


 避けなきゃ死ぬような一撃なら避けて当然なのにこいつは何を言っているんだ。

 思わず素で返してしまったじゃないか。



「ヒキョウニモ、コソコソトマホウヲハナッタダケデハアキタラズ、ワレノコウゲキヲヨケルトハドシガタイ!」


「勝負ならともかく、戦いなんだから卑怯もくそもないだろ。大体お前みたいな害獣に何言われたって別にこっちはどうでも良いんだよ」


「ワレヲガイジュウダト!?」


「どう見ても害獣だろうに。近くの村を襲ったり、ゴブリン族の集落を襲撃したり、害獣以外のなんだっていうんだ」


「ソレノナニガワルイッ? ニンゲンナンゾ、ドウセホットケバフエル! ダッタラタイクツシノギニアヤツッタマモノデコロソウガ、ベツニイイデハナイカ! ゴブリンゾクにカンシテハ、ワレノタイクツシノギのジャマをシタノダ! シンデトウゼンダ!」


「……もう良い。黙れよ」



 持っている剣を物質変化で、太く大きな剣へと作りかえる。

 その剣でもって、魔獣の攻撃をうけとめてやった。


 魔獣の自分勝手な言い分に、怒りが湧いてくる。


 人間はほっとけば増えるだと? だから退屈凌ぎに殺した?

 それで、どれだけの人間が苦しんだり悲しんだりしたと思ってんだ。


 一生懸命に治療に当たっていた人や、意識を手放さないように泣きながら何度も病人に声をかける人達。

 誰もが大切な人を失わないように必死だった。


 退屈凌ぎの邪魔をしたから集落を襲ったってのか?


 ゴブリン族は魔物に襲われていた村人を助けただけだ。

 それも自分達にはまったく関係のない赤の他人を必死こいて。

 人同士の助け合いは当たり前だと、嘘偽りなく言えるような純粋な奴等を自分の退屈凌ぎを邪魔された。

 ただそれだけの理由で、あんなにも無残に殺したってのかこいつは。


 ――――許せない。


 ――――こいつは絶対に許しちゃいけない。



「……おい魔獣。簡単に死ねると思うなよ」

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