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144話 魔物が出る村12

 全力で走る事十分。村から5キロほどに少し開けた丘があり、その先が崖となっている場所まで辿り着く。近くの茂みに隠れ様子を窺ってみると、今まで見当たらなかった魔物がひしめき合っていた。


 グレイウルフにブラッドフォックス、キラーベアにブラストラビット、その他にも多種多様の魔物の姿が窺える。その他にも空にはジーンエプトという鷲のような魔物まで飛び交っている。


 数は50から100くらいか……予想以上の数だな。注意しながら走り続け、魔物の声が聞こえてきてから気配を殺し、そろそろと近づいて見た光景に軽く驚く。上手く気配を殺せてるのかはわからないが、こちらを気にする素振りを一切見せない。というよりも、何かに引き寄せられるかのように、全部の魔物の意識が一点に集中しているように見える。


 ここでグレイウルフ以外の今上げた魔物を説明すると――――。

 ブラッドフォックスは体長二メートルクラスの漆黒の毛皮を持つ魔物で、眼に細い赤い線が引かれ、牙はサーベルタイガーのように長く鋭い。特に状態異常などの攻撃はしてこないが、その分鋭い爪が岩をも砕くとされているらしい。

 キラーベアは見た目は日本にいるような熊とそう変わらない。が、体長五メートルを優に超え、元の世界の熊の約二倍の大きさを誇る。その咆哮は相手を恐慌状態に陥れる状態異常攻撃を持っており、一度定めた獲物は相手が死ぬまで追いかける性質を持っている。

 ブラストラビットについては紫色をした巨大兎、正直紫ってどうなんだとは思うがこいつが一番厄介だと思う。一メートルの体長にもかかわらず、かなりの俊足を誇る鍛え抜かれた後ろ足での蹴りは大木をなぎ倒すと言われている。前足の爪には相手をしびれさせる毒が仕込まれている。

 しかも空には全長一メートルほどの鷲、ジーンエプトが警戒している。この魔物の特徴としてはここにいる魔物の中で唯一魔法が使えるという事か。風魔法でソニックブームを出したり、風を利用して滑空し、獲物を一瞬で仕留めるらしい。


どれも図鑑で見た知識で、実際に対面した訳ではない。ダンジョンにもこの種類のモンスターがいなかったのでこの種の魔物と戦闘するのは初めてだ。だが図鑑で見たモンスターとまったく同じ特徴だったので、突然変異でもない限りは大丈夫だろう。


 問題になるとすれば、図鑑で見てないモンスターが混じっている事と魔物の数くらいか。


 まだ図鑑を全て網羅した訳じゃないので、ここにいる全ての魔物を知っている訳じゃない。他の書物も読んでいた為、図鑑を読むのを中断してたのが仇になった。魔物の討伐が決まった辺りで、もう少ししっかり読み込んでおけば良かった。


 数にしても複数の種類がいるのが不安要素だ。多種多様な種が入り混じっていて、普通ならこれだけの種がいれば、他の魔物を駆逐するはずなのだが、その様子が見受けられない。唯一の救いがあるとするなら、ダンジョンにいる魔物のように、常に発している威圧感というか、圧迫感がないというところだろうか。正直まったく脅威だと感じないところか。 


 魔物達が意識を向けているのは壁をそのまま切り取ったかのような絶壁の方向。その一点を魔物達が取り囲むようにして威嚇の声を上げている。



「今からあいつらを片づけるから、絶対に俺から離れないように。しっかり掴まっててくれ。……あと絶対に首を絞めるなよ。絶対だからな」


「ギィ」



 たぶんあそこにゴブリン達がいるのだろう。そう当たりを付け、一気に片をつける為、小声でゴブリンに一つ前置きをする。軽く頷き、先程よりもしっかりと俺に掴まるゴブリン。それを確認した俺は行動を起こす。



剣の鳴動(ソード・クエイク)!!」


「「「グォオンッ!?」」」「「「キャインッ!?」」」



 魔物を蹂躙する鐘の音が地中より鳴り響く。素材は違うが、幾重もの剣が地面を軽く揺らしながら飛び出て、魔物を次々と刺し殺す。


 いきなりの出来事に反応する事なく、次々に屠られていく魔物達。手前にいた魔物は一瞬にして死体へと変わっていった。


 結構倒せたとは思うんだが、魔物の数から見て、これを多いと見るべきか少ないと見るべきか悩みどころだな。


 20~30匹が一瞬にしてやられた事で、動揺の色を見せる魔物達。だがすぐに態勢を立て直し、これを誰がやったのか理解し、奥でゴブリン達を包囲しているであろう魔物以外が、こちらへと威嚇の声を上げながら牙を向く。


 とりあえず、奥にいるではずのゴブリン達から結構な数の注意をひけた。ちょっと数が多い気もするが……。



「これくらい……なら!」



 地表に出来た剣の鳴動ソード・クエイクの剣を避け、連携を組み、こちらへと三方向から向かってくる三匹のグレイウルフ。一番最初に近づいて来た右側のグレイウルフのを、すでに右手に創っておいた大剣で横なぎに一閃する。鳴き声を上げる事なく、苦もなく二枚に下ろされグレイウルフの一匹が絶命する。次に左からやってきたグレイウルフを、左手に作っておいたショートソードを二匹目のグレイウルフの頭部に叩きこむ。一瞬にして左右のグレイウルフを葬り、正面から向かってきたグレイウルフに回し蹴りを叩きこむ。最後のグレイウルフがグキッという鈍い音と共に、派手にバウンドしながら木に激突して絶命する。


 休む間も無く、剣の鳴動から脱した生き残りがこちらへと向かってくる。だが、それよりも速く上空からの攻撃が俺を襲う。ジーンエプトが上空からこちらへ向かって魔法を放つ。


 風魔法――――ウィンドスラッシュ。扇状の形をした鋭い刃のような風を放つ魔法で、魔法抵抗力のない人間だったら簡単に腕や足等を切り落とせる威力のものだ。


 ウィンドスラッシュが俺達に迫る。雨あられとまではいかないが、結構な数の魔法が放たれている。

 背中のゴブリンに被害を出さないよう、魔力を宿した大剣とショートソードで切り払い、払いきれなかったのも大きく飛び退き回避する。ジーンエプトの数もそこそこいる為、断続的にやってくる風の魔法がかなり鬱陶しい。



「|調子に乗るな! 剣の嘆き《ソード・スフィア》!!」



 嘲笑うかのように鳴き続けるジーンエプト。魔物が調子に乗るかはわからないが、こちらを見ながら囀るジーンエプトの姿に若干イラッときた。


 発動した剣の嘆きが一斉にジーンエプトに牙を剥き、数多の剣が彼等へと襲いかかる。



「クキャァアアア!?」



 安全圏で悠々と魔法を使っていたジーンエプトが、魔法を打つことを止め回避行動を取る。だがその行動も一歩遅く。剣の嘆きにより次々と奴等の翼や胴、頭等を弾き飛ばし、空を舞っていたジーンエプト達が地へと落ちていく。


 運良く生き残ったジーンエプトの数が一割弱まで減ったところで、ジーンエプト達がウィンドスラッシュを止め、こちらへと突っ込んでくる。風の魔法で加速したその速度は、音速を超える。普通ならば目視できない速度で飛んでくるジーンエプトだが……。



「はっ!」



 ザシュ! ザシュ! ザシュッ!


 飛んできたジーンエプトを気合の声と共に真っ二つに切り裂く。正直これくらいだったらブレイドマンティスの時のように、変な色気を出して技巧を磨こうとしなければ簡単に切り裂ける。むしろ敵が向こうからやってくるから容易い。


 ジーンエプトを全て始末し終えたところで、多種多様の魔物達がようやくといった感じでこちらへと接近してきたところで、風を魔法を付与した大剣とショートソードで叩ききる。


 次第に切れ味が悪くなる大剣とショートソード。それをそれぞれ迫ってきた魔物の顔面へと投擲し、こちらに近づく前に絶命させる。丸腰になった状態で再び創生して大剣とショートソードを創生して、再び魔物へと振るう。襲いかかってきた魔物達が全て片付くまで、ひたすら俺は殺し続ける。


 これだけの多種多様の魔物を相手にするのだから結構苦戦するものと思っていたのだが、蓋を開けてみればそこまで大した事はない。ダンジョンの中層にいた魔物がかなりやっかいなものばかりだった為に、今いる魔物達に全くといっていいほど脅威を感じない。作業になっている。


 こちらに向かってきた最後の一匹を倒し終え、軽く息を吐き出し崖の方へと視線を向ける。


 目視での確認だが、残りの魔物は十体程度。戦闘に集中してたので、何体倒したのか数えていなかったが、どうやら結構な数を倒していたようだ。


 かなりの数を減らしたので、今まで見えていなかった奥の方まで良く見える。


 モンスターが囲んでいる崖には洞穴があり、座敷牢でみるような鉄の柵が備え付けてあった。その場所を二、三体の魔物が壊そうとしている。見たところゴブリン族の姿は見当たらない。



「あそこにお前さんの仲間がいるのか?」


「グギャッグギャグギャ!」



 俺が確認するように問いかけると、激しく何度も首肯するゴブリン。どうやら予想していた通りのようだ。

 

 結構な距離がある為はっきりとはわからないが、見た感じ柵はまだもちそうだ。それでも絶対とは言えない。ゴブリン族達の為にもさっさと倒した方が良いだろう。


 そんな事を思っていると、黒い狼のような魔物から赤い魔力が噴き上がる。


 あれは……ベオルガかっ!?


 ベオルガ――――魔力を火属性に変換してファイアブレスを放ったり、炎を付与した爪は金属鎧を溶かすほどに凶悪だ。


 ダンジョン上層に現れたベオルガがまさかこんなところにいるとは思わなかった……。


 魔物討伐で、唯一戦った事のある魔物。知識じゃなく経験で知っているが、あいつは結構ヤバイ。何がヤバイかというと、あいつは火属性魔法を使う度に段々と体内温度を上げていき、体毛が黒色から赤色へと変化する。赤色へと体毛が変化した状態だと、ベオルガの体内温度はマグマほどの温度になる。そうなってしまっては普通の武器では太刀打ちできないのだ。



「一気に片付ける。少し荒っぽい動きをするかもだから、振りほどかれんなよ」


「ギャッ!」



俺の言葉に元気良く頷き、掴む腕に力がこもったのがわかる。わかるが……。



「悪いけど、少し……ほんの少しだけ緩めてくれ。首が絞まってる」


「グギャ……」



 少しだけ落ち込んだようだが、下手に首が絞まっていると戦いに集中出来ない。可哀想だがこればかりはどうしようもないんだ。うん。


 多少動いても振りほどかれない程度の力加減で俺にしがみつくゴブリン。それがわかったところで俺は一気に脚へと力をこめる。


 バァン!


 まるで地面が爆発したかのような音をたて、天高く跳躍する。体をひねり、残った魔物の頭が正面にくる

よう態勢を変える。


 よし、この位置なら問題ないだろう。

 


「剣の嘆き!」



 俺の言葉と同時に再びいくつもの剣が顕現する。未だ洞窟に殺気をぶつけている魔物達は、こちらには一切意識を向けていない。かなりの数の魔物が殺されたのに、こちらに頓着した様子がまったくないのは異常である。何かに操られてるんじゃないだろうか?


 頭の片隅にそんな疑問が過ぎったが、今やるべき事はこいつらの討伐だ。違和感については後でゆっくり考えれば良い。


 意識を切り替え、剣の嘆きで創られたいくつもの剣に指向性を持たせ一気に解き放つ。



「ギャンッ!?」



頭上から雨のように降ってくる剣に対し、避ける間も無く蹂躙されていく残った魔物達。ベオルガは今にも炎を吐き出そうとしたところに剣が顔面に突き刺さり、体内で練っていたであろう炎で自身を焼いていた。


 ベオルガを貫いた事に安心し、一息吐く。もしも攻撃が通らないくらい体内温度が上がっていたら、剣の嘆きでは歯が立たなくなっていたのだ。そうなっていたら確実にこの周辺への被害は免れない。下手したらゴブリン族がいるであろう洞窟にまで被害が及ぶだろう。本当にそうならなくて良かった。


 とりあえず、洞窟を襲っていた魔物達は全て殲滅した。


 一応、意識を集中してこの近辺に生き物がいるかも探っておく。リアネほどではないにしても、チェックしておくことに越した事はない。



「近くに大きな気配は……ないか。虫とか小動物あたりはいそうな気はするが、そのくらいなら大丈夫だろ」


「グギャッ!!」


「あ! おい!?」



 気配察知を終え、安全を確認し安堵した途端ゴブリンが俺の背からピョンッと飛び降り駆け出す。安全確保はしてあるけど、いきなり飛び出すとは思わず、慌てて追いかける。


 仲間を心配するのはしょうがないけど、出来れば俺の傍を離れないで欲しい……って言っても仕方ないんだろうな。


 集落があんな状態になって結構な仲間が死んでいたんだ……逸る気持ちを押さえろってのは無理ってものか。


 俺が出来る事と言えば、こいつを安全に仲間のところまで行かせてやることだろう。とは言ってもすぐそこだ。万が一、何かが急に出てきたとしても対応出来る位置で見守ろう。



「ギィ! ギギィ! グギャギャギャ!」



 柵をすがりつくかのように掴み、激しく鳴き出すゴブリン。洞窟は結構深くまで続いているのか、奥の方までは見えない。気配を探ってみたが、複数の気配があるのを察知出来ただけで、それ以上の事はわからない。おそらくゴブリンも見えている訳ではないのだろう。それでも鳴き続ける。



「ギィギィギィ!」


「…………ギィ?」



 ゴブリンが、焦燥とどこか懇願するかのような悲痛な声を上げ続けていると、ゆっくりといった足音が聞こえ、おそるおそるといった感じで声が返ってくる。やってきたのはキリッとした目元のゴブリン族だった。



「ギギィィイイイ!」


「ギィィ! ギィ!」



 鳴き声を発しながら、互いに会えた喜びに分かち合う二人。言葉はわからないが、再会を喜びあっている事だけはわかる。デフォルメされたゴブリン達が柵の間をぬって手を取りあい、喜んでる姿はどこか心をほっこりさせた。


 そんな風に俺がほっこりした気持ちになっていると柵の向こうから更に複数の足音が聞こえてくる。



「リンデン、魔物の声が止んだからといってむやみに出てはならんぞ」



 現れたのは、人語を話すゴブリンと、ゴブリン族の集団だった。

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