143話 魔物が出る村11
ブレイドマンティスを仕留め、使えそうな素材を集めた俺達は、またゴブリンの案内に従い森の中を進んでいく。森に入った当初はかなり歩きにくい場所だったのだが、次第に森の歩みにも少しずつ慣れていった。
「なぁ、後どのくらいで村を襲う魔物達が出る辺りにつくんだ?」
「ギ?」
「ギギィ」
このまま無言で歩くのもどうかと思い、村を襲撃してくる魔物の情報を得るためゴブリン達に聞いてみる。いくら歩くのに慣れてきたといっても意外に深い森の中、いつまでも歩き続けるのは少しずつだが体力的にもそうだがそれ以上に精神的にくるのだ。せめて目的の場所さえわかればその辺は軽減出来るし、話す事で少しは気を紛らわすことが出来る。
とはいっても相手はゴブリン族。指を指して方向を教えてくれてるのはわかるんだが、何を言っているのかまではわからない。この時ばかりはアニメやゲームであるような言語認識の能力が欲しい。
……強制的に異世界に連れてきたんだから、そのくらいの能力を与えてくれても良いだろうに。まったく……そこらへんの細かい配慮がなってないんじゃなかろうか。
女神からしたら一番高い能力を与えてもらっといて何いってんだこのボケがぁ! 等と言われそうではあるが知ったこっちゃない。俺は女神とクラスメイト達(委員長除く)に対しての態度を改める気はない!
話がそれてしまったが、結局のところゴブリンが何を言っているのかわからない現状何もわからないのは変わらない。
どうしたものかと頭を悩ませる。すると俺の耳に何かを壊れる音が聞こえてくる。
「ん? 今のは……」
「イチヤ様っ!」
「ギギィッ!」
激しい音が聞こえた方向に視線を向ける。視線を向けた先からは煙があがり、何かあったという事を物語っている。同時にリアネが、先程ブレイドマンティスと遭遇した時とは比べものにならない様子で俺の名を呼ぶ。それに続いてゴブリン族達も騒ぎ出す。
「今の音は一体!? リアネ、何かわかるか?」
「私が聞こえたのは、ゴブリンの悲鳴。後は何かを壊す音と、複数の魔物の咆哮です!」
「それって!?」
「はい。おそらくゴブリン族の集落じゃないかと! イチヤ様!」
「わかってる! っておい!? お前等!! ああもう!」
リアネの耳で確認出来た事を聞き急いで向かおうとしたところ、俺達よりも早くゴブリン達が煙が上がっている方向に向かって走り出す。その姿を見て慌てた俺も彼等を追って走り出した。
自分達の村が魔物の襲撃にあっているかもしれない焦りで走り出すのは仕方ないか。けど、村で戦えない事を示していた彼等が真っ先に走り出すのはよくない。状況がわからない現状で、非戦闘員である彼等に何かあっては寝覚めが悪くなる。俺が先に行くのが懸命だな。
そう思った俺は彼等を追い抜き、ゴブリンが住むという村へと向かった。
煙が目印となり目標の場所はわかっていたので、ゴブリン達を追い抜き、いち早くゴブリン族の村へと到着する。
そこで見たものはゴブリン族が住んでいたであろう木や藁で出来た家が燃えている姿だった。あちこちで武器を持って戦ったであろうゴブリンの死体が転がっている。戦った者達の中には魔物に食いちぎられたのか、腕や足がない者も複数いる。とても見るに耐えない光景に何故か自分の中で怒りが湧き起こる。
「イチヤ様!」
「イチヤ!」
後ろからリアネとレイラの声が聞こえ、無意識のうちに強く拳を握り締めていたことに気付き、その手を解いて振り返る。リアネとレイラの後ろには呼吸の荒いゴブリン達もしっかりと付いてきていた。
そういえば追い抜いて村にやってきた辺りで忘れていた……。一緒にやってきた事から、おそらく俺が独走した事に気付いたレイラが守っていてくれたのだろう。こういう細かい配慮をしてくれるレイラには本当に感謝だ。
「生存者は?」
「いや、まだ確認してない。あまりにこの村の惨状がひどくて……な」
「ギィ……」
「グギギ……」
「グギャ……」
苦い顔をしながらの俺の台詞に、ゴブリン達は瞳に涙を滲ませながらとても悲しそうな顔で鳴く。自分達の村が燃え、友人知人が殺されたのだ。本来なら取り乱して泣き叫ぶ状況にも拘わらず涙をこらえている姿は立派だ。本当は泣かせてやりたいところだが、まだやるべき事が残っている。心苦しいが、彼等がいなければどうしようもない事もあるのだ。
「レイラはここで消火活動を頼む」
「わかった」
「リアネ、ゴブリンの鳴き声、もしくは魔物の気配なんかは感じるか?」
「ちょっと待って下さい……はい、ちょっと遠いですがあちらで何か騒ぐ音が聞こえます」
「ありがとう。俺はそっちに向かってみる。リアネはレイラと一緒に消化活動を」
「わかりました。イチヤ様、どうかお気をつけて」
「ああ。わかってる。それとあんたら一人、俺と一緒に付いてきてくれるか。残りの二人はリアネとレイラ……この二人と一緒に火を消しながら生存者を捜してくれ」
俺は次々にやるべき事を指示していく。ゴブリン達も頷いてくれたので指示に従ってくれるようだ。今は迅速に行動しなければいけないので、素直に聞いてくれるのはありがたい。
一応魔法が使えるかわからないゴブリンやリアネの為に、創生魔法で木で出来たバケツを人数分用意する。後はレイラが水魔法でどうにかしてくれるだろう。
とりあえずの準備を終え、付いてきてくれるというゴブリン族の一人を連れ走り出す。今度は置いていかないように注意して、リアネのいった方向へと二人で走り出した。
ゴブリンの集落を抜け、二人で森をひた走る。
リアネが言ったまだ魔物が騒いでいるという事、村に全く魔物の気配がないという事、見ただけだが、死んでいたのが武器を持ったゴブリンだけという事を踏まえると生き残りがいる可能性は高いと思う。ゴブリン族がどこまで知恵があるのかはわからないが、緊急事態に備えて隠れる場所を用意するくらいの知恵があるかもしれない。
多分に俺の希望が入っているが、このゴブリンの為にもそれが現実であって欲しい。
そしてその希望的推測は、どうやら当たりのようだ。リアネに示された方に迷いなく進むゴブリンは、行く先に何があるのかわかっているようだった。
生存者がいるかもしれない――――ゴブリンと共に森を駆け抜ける。
だが、ゴブリンの走る速度は俺からすればかなり遅く感じる。一生懸命走ってはいるが、やはり俺のステータスと体格の差からどうしてもそう感じてしまう。一分一秒を争う状況で、この遅さは致命的だ。今この時にももしかしたら一人、また一人と殺されているかもしれない。内心の焦りと一緒に一筋の汗が俺の頬を伝う。
「乗れ!」
「ギギィッ!」
このままでは手遅れになる。そう感じた俺は、ゴブリンとの並走を止め、彼の前に躍り出て若干速度を落とし叫ぶ。
叫ぶと同時、すぐに俺の背中に衝撃がやってくる。どうやら俺の意図を汲み取ってくれたようで、鳴き声を上げると同時、俺の背に飛び乗るゴブリン。ゴブリンが乗った事を背で感じた俺は振り落とさないようしっかりと支え、全力で走り出す。
「こっちで間違いないか!?」
「グギャ!」
先程とは比べものにならない速度で走りながら、ゴブリンに確認を取る。俺の言葉にゴブリンが肩に置いた手に力を込め肯定するように一つ鳴く。リアネに示された通りに進んで間違いなさそうだ。
2018年1月19日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございました。