141話 魔物が出る村9
魔物に襲われた為に、村人達は殺気立っていて、ゴブリン族が魔物を嗾けているという誤解もあったが、その誤解もようやく解けた。
だが、根本的な解決はこの近くに住みついた魔物の討伐。先程魔物が襲撃してきて殲滅したが、村人の話ではいろいろな種族の魔物がいたという事だから、この問題はまだ解決したとは言えない。
「さてと、じゃあゴブリン族の誤解も解けたという事で、今後の事について話し合おうか」
今後の事について話しあう為、俺は村人とゴブリンの顔を見ながら口を開く。ゴブリン達も村人の全力での謝罪を受け、まだ若干腰が引けている状態ながらも、逃げずにこの場に残っている。言葉は通じないが、この問題にはゴブリンもいてもらった方が良いと思いゴブリン達に俺が頼んで残ってもらっている。
そんな俺の提案に村人達、ゴブリン達がお互いにきょろきょろと顔を見合わせ困惑した表情を浮けべている。
相手を見て、村人同士、ゴブリン同士で小声で何かを話し合っている。しかしこの問題をどう解決して良いのか上手い解決策が思い浮かばないようだ。
しばしの話し合い、何とか案を出そうとするが、それでも思い浮かばず、なかなか案が出ない事に焦れたのか、一人の村人が俺を見た。
「今後の事って言われてもよお……オラ達に戦う力はねえのにどうすりゃあいいべ? 思いつく事っつったらよ、このゴブリン達に、村を魔物が襲撃してくる時にでもオラ達に知らせてその都度、領主様に倒してもらうくらいしか思いつかねえだが……」
まぁ戦えない村人の意見としてはそれが普通だろう。
でもそれじゃあ魔物の討伐がいつになるかわからないし、村人、ゴブリン共に相当の肉体的、精神的負担が大きいだろう。それならばやる事は一つしかないだろう。
「こっちから討伐に向かうのが一番、だよな」
誰に向かって言った言葉でもない言葉。そんな俺の言葉に村人、ゴブリン双方が目を見開く。
「グギャギャッ!?」
「さすがにそれは危険じゃねえべか!?」
ゴブリンと村人が同時に声を発する。ゴブリンの言葉はわからないが、おそらく村人と同じような事を言っているのだろう。身振り手振りを加えて、危険だと言っているように感じる。
「そんなに危険なのか?」
村人やゴブリン達の様子とは違い、俺は気軽に村人やゴブリンに聞いてみる。
正直な話、さっきのグレイウルフ程度の魔物だったら瞬殺できる自信があるし、レベル上げした場所と違いこの辺りの魔物がそんなに強くないのは聞いている。だったらこちらから出向いて討伐した方が良いだろう。
「まぁさっきの領主様の実力だったら大丈夫なのかもしれねえが……」
「だどもなぁ……ホントに大丈夫だか?」
「大丈夫って何が?」
心配そうに俺をみながらそう呟く村人達。だが俺は何をそんなに心配しているのかわからない。俺の身を案じてくれているのはその声色で伝わって来るんだが。
「いや、魔物の数がわかってねえのに、一人で行くなんていくら何でも無謀じゃねえかと思ってなぁ……」
「んだよ。領主様には村の者を治してもらったっちゅう恩もある。そんな恩人さ、魔物がたくさんいるような村に一人でいかせるっちゅうのはさすがに……」
なるほど、さっきの俺の実力で魔物を討伐する事自体は出来ると思ってはいるようだ。
しかし、倒せるといっても数で押し切られたらどうにもならないと思っている訳か。その可能性もあるよなぁ……さすがに千を超える魔物が相手だったら俺でもきつい。さすがに森の規模とか考えるとその数はありえないと思うが。
「まぁなんとかなるんじゃないか」
村人達が、俺の心配をしてくれるのは十分に伝わり、その気持ちが嬉しくはあったが、その気持ちも踏まえて、村人に心配かけまいと気軽に答える。結局、何か良い方法が思いつかない今、行くしかないのだ。だったらなるべく心配かけずに事を終わらせたい。
「いやいやいや! 領主様の力は凄かったけどよ! 魔物相手に絶対はねえだよ?」
「何かあったらどうすんだべ!?」
「その時はその時じゃないか? それが俺の実力ってだけだ。あと、もし万が一俺が戻ってこなかったら、領主代理のとこまで行って、王都にでも使いを送ってくれ。きっとあの王様なら騎士でもよこしてくれるだろうから」
「そんな……」
明るく、少し茶化すような言い方で村人に語りかけたんだが、俺の言葉にこの場にいる村人、ゴブリンが悲壮な感じで顔を俯かせる。雰囲気はお通夜状態だ。
あれ? なんでみんなそんな顔してるんだ? まるで、俺が魔物に殺されるみたいな感じじゃないか。俺、殺されるつもりないぞ?!
「言っとくが、殺される気はないからな!」
とりあえず、それだけは言っておかねばと発言したが、村人達とゴブリン達の表情が変わる事はなかった。
「なかなか戻ってこないと思ったら、まさかそんな事になっていたとはね」
村人を数人残し、他の村人とゴブリン達を伴って、一度村長宅へと帰還する。村にゴブリン族を入れた事により、村の者が悲鳴を上げたり逃げ出したりしたが、一緒にいた村人が事情を説明してくれて、ゴブリンに怪訝な目や若干の怯えの目を向けてきたがそれ以上の騒ぎにはならなかった。ゴブリン達もそんな村人達の目に怯えの態度を示し、何故か三人とも俺にひっついてきたが、そこは好きにさせた。この後協力してもらう予定なのだから事情を知らない村人が彼等に危害を加えないように注意だけはしておいた。
村長宅についても村長が驚きの声をあげたのは他の村人と変わらない。他の村人と同じようにゴブリン族について村長へと説明。ついでにリアネやレイラに先程の出来事やゴブリンを連れてきた経緯などを話す。全てを話し終え、今後の事についての話をすると、眩暈を起こしたように疲れた顔で村長はふらっと椅子に腰を下ろす。
それとは別にリアネやレイラはゴブリン族について知っていたからか、ゴブリンについてはまるで動揺していない。動揺した様子は微塵も感じられないが、何故かレイラに呆れのこもった目を向けられ、ため息をつかれる。
「何か問題があったか?」
「いや、討伐に行く事自体は問題ないよ、ただよくもまぁ魔物を討伐しにいってそこまで話が進んだと思っただけだ。しかもゴブリン族まで連れてきて、おまけに懐かれてるとは」
「これって懐かれてるのか? 不安だからひっつかれてるようにしか見えないが。なぁ?」
俺はゴブリンに目を向け軽い調子で聞いて見る。聞かれたゴブリンは周囲からの視線もあってか、更に俺の服を掴む力を強める。
なんか人見知りの子供が母親から離れないような光景に見える。
そんな事を思いながらも怯え緊張しているゴブリン達を撫でる。ゴブリン種と比べ、可愛らしくデフォルメされているようなその姿はとても可愛い。
「それで領主殿、いつ魔物さ退治に行かれるだ?」
「ん? 今からいくよ。面倒な事はさっさと解決するに限る。村長達だってそう思うだろ?」
「確かに解決してくれるんだってんなら早い事に越した事ねえがよ、何の準備もせずに行くのはいくらなんでも無謀じゃねえべか?」
「準備に関してなら心配しなくてももう準備してあるから大丈夫だ」
実際のところ俺の能力を使えば準備に関しては問題ない。創生魔法で武器や食べ物を出す事も出来るし、飲み物に関しては創生魔法で創った容器に水魔法で水を出せば良い。
もしも討伐に時間食って野宿になっても安全に野宿出来るようにする予定だ。女神に関しては少々思うところもあるが、この能力を与えてくれた事には感謝している。あくまで能力面に関してだけだが。
「とりあえず行こうか」
「レイラも来るのか?」
席を立ち、俺に視線を向けるレイラ。一人で行くつもりだった俺は、レイラにそう問いかけると、また呆れられる。
「私も行くに決まっているだろう。でなければ何の為に付いて来たのかわからないじゃないか。それに夜までに終わらせるんだろう? だったら討伐する為の人数は多い方が良いと思うが?」
「ごもっとも」
レイラの実力は知っている。彼女がいれば、確かに討伐速度は速くなる。彼女の実力は知っているから安心も出来るし、何匹の魔物が出るかはわからないが、彼女となら早く終わるだろう。
「あ、あの……イチヤ様、私もご一緒してもよろしいですか……?」
おずおずと、リアネも付いて来たいと訴えてくる。不安そうな表情ながらもその目には確かに意思があった。
さて、どうしたものか……。俺とレイラの二人なら、討伐速度が上がるが、戦えないリアネを連れてとなると彼女を守りながらになるので、おそらく移動速度、討伐共に遅くなるのは目に見えている。村まで一緒に来るくらいなら問題はないが、森の中という、いつ不意打ちをくらう状況下で連れて行くと言うのは……。
「どうして一緒に付いて来たいんだ?」
さすがに頭ごなしで否定するのもどうだろうと思い、とりあえず理由を聞いてみる事にする。ただ一緒に来たいだけじゃ承諾できないからな。
「……私は、イチヤ様の専属メイドです。それなのに無理を言って付いて来たにも関わらず、今まであまりお役に立てていません」
「そんな事はないだろう。村人の治療の手伝いに、炊き出しの手伝い。リアネは俺やレイラに出来ない事で頑張ってくれてると思うよ」
「いえ、無理を言って付いて来たからには、もっとイチヤ様にお役に立てる所をみせないと。戦いには役に立てない……むしろお邪魔になるかもしれませんが、私は獣人族です。森の事に関しては何かしらのお役に立てるかと思います!」
胸に手を当て、まっすぐに俺の目を見つめるリアネ。彼女の意気込んだ様子に無茶はしないか少し心配になるが。
「レイラ」
「うん。問題はないんじゃないかな」
レイラに問いかけると、すぐに答えが返ってくる。ここでリアネを置いて言って、万が一にも後を追ってきたりした場合そちらの方が心配だ。リアネなら言い付ければ、残ってくれるとは思うが、今のリアネを見ていると確実とは言えない。だったら一緒に来てもらって無茶をしないか見ている方が良いだろう。
リアネは滅多にわがままを言わない。異世界の、それも獣人族にいうのもおかしいのかもしれないが、大和撫子ような主人を立てるようなタイプだ。その彼女がここまで意気込み、自分の意見を主張しているのだから、たまには好きにさせてあげるのもいいだろう。
幸いこの周辺の魔物はそこまで強くない。レベル上げを行ったようなダンジョンに連れて行くというのなら断固として反対したのだが、この辺なら問題ない。
「じゃあリアネも連れて行くと言う事で良いのかな? 話がまとまったのであれば、すぐに向かおう」
「だな。出来れば夜を向かえる前に終わらせたい。リアネも準備は良いか?」
「はい。無理を言って申し訳ありません」
「良いって、ただし絶対に俺やレイラから離れないように。それだけは絶対に守ってくれ」
「わかりました!」
「さっきの話のとおり、あんたらには案内を頼みたいが、大丈夫か?」
「「「グギャギャッ」」」
レイラの言葉に、俺とリアネが立ち上がる。リアネが無茶しないように軽く注意を促して、俺達は心配そうな村人達に見送られながらゴブリン達に連れられ、森へと向かった。
もっと書く速度を上げたいのですが、小説を書くって難しい。小説になってるかはわかりませんが……。自分なりに頑張りますので、楽しんでいただけたら幸いです。