138話 魔物が出る村6
リアネに言われ、慌てて村の男達に食料を運ぶよう指示を出す。
ここに来た目的は、食糧援助と魔物討伐の二つ。
その目的の一つを完璧に忘れていた。
これも突っかかってきた村人Aのせいである。責任転嫁ということなかれ……どうみても奴が悪い!
男達を急かし、村の食糧庫になっている場所に向かう。
全ての食材を入れ終える日持ちするものしないものに分けてもらい、日持ちしそうな物はそのまま中で保管。痛みやすい食材は炊き出しに使うことにした。
痛みやすい食材を持ち、村長宅へ。
村長宅だけあってこの村で一番大きく、宴会など開く際の事も考え調理場もそこそこ広く造られているとの事だ。
男達は食材を置くと、そのまま村長宅を出て行った。
また危険な魔物が出てくるかもしれないので、一応警戒するそうだ。
警戒といっても村の外に出るわけでなく、村に設置してある見張り台で時間を決めて周辺を見るだけなので、そこまで危なくはない。
とりあえず男達の事は置いておいて、今度は女性達に活躍してもらう。
炊き出しについてはこの村に来る前に、リアネも何か手伝いたいという話は聞いていた為、こうして炊き出しに参加してもらっている。
リアネの料理は絶品だからな!
女性たちにもリアネにも手伝わせて欲しいという旨は伝えてある。
一応獣人族にあまり偏見はないといっても、いきなり知らない人間と一緒に調理するのはやりにくいんじゃないか? とも思ったのでそれについても聞いてみたら――――。
「知らない子一人いたくらいでミスるほど、アタシ達の腕は低くないさ」
「んだんだ」
「何年料理作ってると思ってるんだい」
と返ってきた。
さすがは歴戦のおば――――お姉さん方、気の良さそうな人達である。
それにしても、どうしてとある単語を思っただけで、背筋が凍るほどの殺気を放てるんだろうか?
正直さっきのガタイの良い男衆よりも全然怖いぞ、このお……姉さん方。
何年料理作ってるという言葉に、年齢を示唆させる言葉を使ってるくせに、殺気を飛ばすなんて理不尽過ぎるだろという言葉を飲み込んだのは内緒だ。
「それで、この村に出るっていう魔物はどんな感じの奴なんだ?」
リアネとお姉さん方の料理を食べ終え、俺達や村人全員が一息ついた頃、この村に来た本題に入る。
今村長宅にいるのは俺達の他には村長や、魔物と遭遇して無事だった者達だ。さすがに怪我が完治した村人に関してはゆっくり休んでもらう事にした。いくらヒール丸薬で完治させたといっても十分休息は必要だろう。
なのでとりあえず遭遇して無事だった者の中から数名、魔物について報告を受けている村長だけに残ってもらい(村長宅なので村長に残ってもらうという表現はおかしいかもしれないが)魔物についての話を聞くことにしたのだ。
他に無事だった者は警備の方に回っているらしい。確かにいつ襲撃があるかわからない現状、全員がこの場にいては大変な事になるからな。
俺の質問に対し、しばし考えるような素振りをする村長と村人。特におかしな質問をしたつもりはないのだが、何を考えているのだろうか?
「何か答えられない事でもあるのか?」
「いや、そういう訳じゃねぇんだけども……」
何を考えているのか疑問に思いそう問いかけると、困ったような表情をする村人達。一体なんなんだ?
「答えにくいなら無理にとは……と言いたいところだが、それだとこっちもどう対処していいのかわからないだが……」
「答えにくいってかどう答えていいのかわかんねぇだよ」
「? どういう事だ?」
村人の答えに俺やリアネ、レイラが首を傾げる。そんな俺達を見て、村人達も困惑した表情を浮かべているが、一人の村人が口を開く。
「どんな魔物かって聞かれても正直困るだよ……襲ってくる魔物ってのがよ、毎回違う魔物だでな」
「違う魔物?」
「んだ。六回くらい襲ってこられただが、一回として同じ魔物がいねぇだ」
困った表情で言う村人。確かに毎回違った魔物が襲ってくるので、どう答えていいのかわからないだろう。
正直俺もそんな事になってるとは思わなかったので、これについてはどうしていいやら困ってしまうぞ。
「毎回違うという事は襲ってくる数はどうなんだい?」
俺と村人が沈黙したのを見て、口を開くレイラ。彼女の方に視線が集中し、俺もレイラに視線を移すと何かを悟ったような表情をしている。
「数は毎回違ってるだ。少ない時で一匹。一番多い時で狼の魔物が五、六匹ぐらいだったか?」
「んだんだ」
「大体それくらいだっただ」
一人の村人の言葉に村長含め他の村人も首を縦に振りながら同意する。
五、六匹の狼の魔物の集団に襲われる。自分のこのバグったようなステータスでなかったら恐ろしいな……よく遭遇して無事な者や重傷者とはいえ生存者がいたものだ。
「あんたらよくそんな回数、種類が違うとはいえ、複数の魔物に襲われて無事だったな……」
「無事だったのは、大怪我した連中が逃がしてくれたおかげだ。恐怖に体が竦んで動けなくなった情けねえ俺達をな……あいつらには感謝してもしきれねえし、それと同じく自分が情けなくてしょうがねえだよ……気にすんなっつわれたけどよ……そういう訳にもいかねえべ」
「……んだな」
「もし俺等がしっかりしてたら少しは大怪我した人間が減ってたかもしれねえだ……」
その時の事を思い出したのだろう。そう言いながら苦渋の表情を浮かべる村人。他の村人達も村長以外同じ表情をしている。
魔物と遭遇し、体が竦んでしまう。今まで普通に暮らしていた人間なら仕方ないことだろう。誰だって死ぬのは怖いし、死の恐怖が間近に迫ればそうなってしまっても仕方ない。
この事についてこの村人達を責めるのは可哀想だと思う。たぶん大怪我した人間もそう思ってるはずだ。
これについて責められるべきは、この国を捨て、私兵を伴って帝国に逃げた元領主であろう。会った事はないが、本当に最後まで禄でもない領主だったとしか表現のしようがない。
「魔物については多種多様、数もバラバラだったのはわかった。それじゃあどんな感じの魔物だったかについて答えづらかったのも頷ける。他に何か変わったような事はなかったか?」
さすがにこれ以上、この話で雰囲気が暗くなるのは避けたい。そう思い本題に戻す事に。
「他に変わった事……」
「あ! 一つあるべ」
「もしかしてあれだべか?」
何かに思い至った村人達がお互いに顔を見合わせる。一体何に思い至ったのだろうか?
「何かあるのか?」
「これまでの襲撃なんだけども、毎回襲撃される前に必ず一匹か二匹ほど、同じ種類の魔物が村の近くまでくるだよ」
「毎回? 同じ魔物が?」
「んだんだ」
「そいつらに関しちゃ石でも投げて威嚇すりゃあすぐに立ち去るんで、特に脅威にはなってねえし、気にしてなかっただが、変わった事っちゃ変わった事だべさ」
そう言ってうんうん頷く村人達。毎回違う魔物が襲ってくるのに、最初に現れる魔物がいつも同じというのは確かに変わった事だ。この魔物の襲撃には何か目的とか意図でもあるのだろうか?
「もしかしたらあいつらが魔物を呼び寄せてるんじゃねえかって話も出てるし、今度は絶対に逃がさねえだよ」
「絶対にとっ捕まえてやんべな」
魔物について色々と俺が思案していると、村人達からそんな声が挙がる。
「ちなみにその毎回同じ魔物っていうのはどんな奴なんだ?」
意気込んでいる村人達に割ってはいる。襲撃してくる魔物と違い毎回同じ魔物がいるのであれば、もしかしたら魔物の種族がわかるかもしれない。そう思い質問すると、俺達にとっては意外な答えが返ってきた。
「ゴブリンだ」
「んだ。ただ普通のゴブリンと違ってあんま強そうには見えなかったべな」
「確かに。あれならオラ一人だけでも一匹、二匹くらいわけねえだよ。武器も何ももってなかったしな」
「普通なら武装くらいしてるはずなんだけんど、それもおかしな話だべな」
口々にそういう村人達に、俺やリアネ、レイラが完全に固まる。
まだ確証があるわけでもないが、おそらく俺の予想ははずれてないと思う。リアネとレイラに視線を送ると彼女達も俺と同じ結論に至ったのか、リアネは心配そうな表情を。レイラはなんともいえない微妙な表情をしていた。
さすがにこの予想が当たってた場合、絶対にゴブリン達に危害を加えさせてはいけない。そう思った俺は次の襲撃が来る前に、前もって村人達にゴブリンについて危害を加えないように注意しようと声を発する。
だが、俺の声は残念な事にいきなり入ってきた村人によってかき消された。
「魔物が現れただ!!」
まだ年若い青年が声を荒げながら血相を変えて中に入ってくると、今まで話していた村長以外の村人達が立ち上がる。
「すぐに向かうだ! オラ達の予想が当たってたらまた魔物を呼び寄せられるだ」
「そうなる前にとっ捕まえるか退治した方がいいべ!」
「行くべさ!」
「おい、話を……」
俺の制止もむなしく、青年と村人達が村長宅を飛び出していく。
くそっ! なんてタイミングで現れるんだよ。
内心悪態を吐きつつも、このまま何もしない訳にはいかない。俺もすぐに席を立ち走り去っていった村人達を追っていった。
すいません。思った以上に引越し作業に手間取ってしまいました。あとしばらく忙しいのが続きますが、年末年始辺りは少しだけ落ち着くので、そこらへんで更新頻度や改稿作業、新作投稿などしていこうと思っています。感想返しももう少しだけお待ちください……