137話 魔物が出る村5
ちょっとした質問をしただけなのに、土下座する村長。
目を丸くする俺。
何この構図?
いきなりの出来事に理解が追いつかないまま、村長が言葉を続ける。
「この村では、あまり獣人族に対して偏見は持ってねぇだ。ごく稀にこの付近で怪我した獣人族なんかも怪我を治療してやったりもした事もあんべ。元領主様の兵から匿ったりもした事あるだ。全てはわしが決定した事だ。わしはどんな罰でも受けるだ。だから……だから村のもんには手をださねぇでくんろ!」
「「「村長」」」
どうやらこの村の人間は獣人族に悪感情をもっていないようで、それどころか友好的に接していたようだ。
いらん情報まで口にする村長。
そんな村長の言葉を皆が涙を流しながら村長を見つめている。
はぁ……なんなんだ。この面倒臭い状況。
というか前々から思ってたんだが、どうしてこの世界の……少なくともラズブリッダの人間ってこうも人を誤解して突っ走るのやら。
なんか最初から上手く接する事が出来た試しがないぞ。
領地に着いた時しかり、この村でしかり。
俺か? 俺がこいつらを誤解させているのか?
そんなつもり更々ないんだけどなぁ……はぁ……。
とりあえず、泣きながら村長に身を寄せている村人達に誤解を解くところから始めるか。
「あのさ――――」
「村長は悪くねえだ。たかだか耳と尻尾が違うってだけで差別する方がどうかしてるだ!」
「おい――――」
「んだんだ。村長は何一つ間違った事してねえだ!」
「人の話を――――」
「村長、村長だけが罰せられることなんてねえ! もしそんな事になったら村の者全員悔やんでもくやみきれねえ……」
「おめえら……」
「「「村長!」」」
ガシッと抱き合う村長と村人達。
たぶんこいつらにとっては美談に移っているのだが、こっちとしてはイラッとする光景以外のなにものでもない。
人を悪者にしたあげく完全無視とかそろそろぷっつんきそうである。というかぷっつんしました。
「てめえら人の話聞けやあああああああああああああああああ!」
俺は感情に任せて、怒声を上げる。
辺り一帯に響き渡る怒声で、ようやく村人の意識が俺に集中する。
こいつらの相手は精神的に疲れる……なんで俺がこんな疲れなくちゃならないんだ。
「先に言っておく。別に獣人族を治療したり、匿おうとした件については、別に罰するつもりはない」
「だ……だども。前の領主様だったら――――」
「前は前だ。俺を会った事もない前のクソ領主と一緒にすんな。不愉快だ」
「申し訳ねぇ……」
「あと、リアネ」
「はい!」
俺の呼びかけに素直に応じ、馬車から俺の下にやって来るリアネ。
そんな彼女の肩に手をおき、引き寄せる。
「この子は奴隷ではなく、俺の大事なメイドだ。確かに彼女は最初、奴隷という身分だったが、今は奴隷紋も消して、一生懸命尽くしてくれている。他にも俺の屋敷にはたくさんの獣人族のメイドがいる。俺にとってかけがえのない存在だ。だから俺の奴隷なんていう勘違いで絶対に見るな」
「えへへ~、イチヤ様ぁ」
更に力を込め肩を抱く。
リアネに視線を送るとなんとも幸せそうな表情をしている。
少しばかりキャラが崩壊しているようにも思えるが、気のせいだろう。
リアネを見て村人達が目を丸くする。
つい最近まで、この国にいる獣人族は奴隷だという認識が広まっていたのだ。
そんな国の一領主が、こうやって獣人族の少女と仲良くしているのを見せられかなり驚いた事だろう。
それにしてもそこまで辺境という訳でもないのに、獣人族の奴隷廃止の話がまだ伝わっていないのか。
獣人族の奴隷は全て解放したって話は聞いているから、奴隷がいた街や村には伝わっているはずだけど、この村には奴隷がいなかったので後回しにでもしたのか?
理由はわからないが、一応後で王様に、なるべく早く国中に広まるように伝えるとしよう。
さすがに俺がたくさんの獣人族の奴隷を所持してるなんて誤解は今後一切ないようにしてもらいたい……。
俺だけなら良いが、他の子達が可哀想だからな。
「とりあえずいつ来るかはわからないので俺の口から説明すると、この国では獣人族への差別や奴隷にするという行為が一切禁止になった」
「「「え?」」」
村長含め村人達が未だ抱き合いながら呆然とした表情をしている中、俺はリアネを抱きしめたまま説明を始める。
強制的にとはいえ、せめて自分が住む事になる領地でくらいは獣人族に対してこの国の政策くらいはきちんと把握していてもらいたい。
特にこの領地は獣人連合と国境を隣接している為、変な誤解があるのは非常に困る。
まぁこの村に関してだけ言えば、獣人族に偏見をもっていないような感じなので、早々変な事は起こらないだろうが念の為だ。
「ないとは思うが、もし何の理由もなしに獣人族だからという理由で暴力を振るったりすれば、下手したら重罪や死罪になる可能性もあるという事を覚えていてくれ」
まだそこまで法の整備は出来ていないが、万が一の事も考えてそういう風に脅しておくのも必要と思い口にする。
もし後でここに来た人間が話した内容と違ったとしても、領主権限とでも言えばどうとでもなる……たぶん。
他の領地がどうなるかはわからないが、少なくとも俺の領地となったこの地域では、他種族への差別は絶対に許さない。
もちろん他種族が問題を起こした場合も同じだ。
どんな種族だろうと同じように対応する。これは絶対だ。
とりあえずの簡単な説明をし終えると、俺の説明を聞き終えた村人の一人がおずおずといった感じで、手を上げる。
俺を責めていた男――――そういえば名前を聞いてなかったな。
ぶっちゃけどうでも良いか。今聞くのも変だし、村人Aとしておこう。
「なんだ? 村人A」
「村人A!?」
「名前知らんし、知らなくても困らないし、どうでも良いし。それで、なんだ?」
俺の言葉に凹んだ様子の村人A。
誤解とはいえ、俺に対しての認識がひどかったんだ。少しくらいいじっても罰は当たらないだろ。
予想外にダメージがでかかったのか、少しの間顔をうつむかせる村人Aだが、一、二分で顔を上げ、俺と視線を合わせる。
その表情は真剣そのものだ。
「……あのさ、領主様。今後もし獣人族が怪我なんかしてたら助けて良いだべか?」
「良いに決まってるだろ。そんなの当たり前だ」
「……村で保護してるのわかっても、治りきってない獣人族を、無理矢理つれてったりはしねぇべか?」
「するわけないだろ。治った後は国に帰るなり村に留まるなり好きにさせたら良い」
「……治療して傷が治る間、村で保護しても誰も殺されたりしねぇべか?」
「しないに決まってるだろ。何で良い事してる人間を殺さなくちゃいけない。頭おかしいだろ」
「……そうか。それ聞いて安心しただ」
言葉どおり安堵の表情を浮かべる村人A。
おそらく今確認した事は前の領主が行ったことなのだろう。
まともな貴族(ユリ含む)と会った事はないが、こんな貴族ばかりなら会いたくはないな。
「あの、イチヤ様」
「ん?」
貴族に関しての話を聞いて嫌な気持ちになっていると、リアネが話しかけてくる。
「私といつまでもこのままでも良いのですが……むしろいたいのですが。レイラさんが呆れのこもった眼差しを向けていますので、そろそろ当初の目的を行った方が良いかと思いまして」
「当初の目的?」
何かあったっけか?
「さすがにいたむものもありますので、食料を運んでもらいませんと。あと炊き出しをするのでは?」
俺が不思議そうにしていると、リアネが教えてくれる。
炊き出し……すっかり忘れてたわ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一応報告ですが、来月引越しの予定があり、更新が不定期になるかもしれません。
楽しんでいただいている方には申し訳ありませんが、何卒ご了承のほどよろしくお願いします。
引越しが済み、ネットが開通して落ち着いたら更新頻度上げられる予定です。それまでお待ちいただければ幸いです。
12月13日 誤字報告があり、修正しました。報告ありがとうございました!




