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134話 魔物が出る村2

「お、見えてきた」



 馬車に揺られて数時間。

 昼前にようやく村が見えてきた。


 ここまで来るのに道に迷ったりはなかった。

 街道から見える距離にある村だし、王都から来る途中立ち寄らなかっただけで、一応村の事は把握してるから当たり前なんだが。


 レイラの体調を考慮し、何度か休憩してようやくだ。

 馬車に揺られているだけの俺だったが、結構疲れた。


 乗り物酔いとかは昔からないので平気だったが、ただ景色を見ているだけってのも結構暇なんだよね。

 暇つぶしをしようにもリアネやレイラと話すくらいだし、話題なんてそんなにあるもんじゃない。

 一時間もすれば話す話題も尽きてしまった。


 本を持ってきても良かったんだが、持っている本は全部読んでしまった。

 今度また新しい本を買わなければ。

 ただ、本は王都で購入していたものばかりであの町に本屋があるかわからない。

 散策する前に面倒事を押し付けられちゃったしな。

 今度本屋を探してみるか。

 なければ王都に行けば良い。

 確か俺達が来る前に転送魔法陣を設置したってユリが言っていたからな。


 そんな事を考えていると村の前に到着した。


 村は木の柵で覆わているが、あまり頑丈そうには見えない。

 こんなんで侵入者や魔物には効果があるのだろうか?


 柵の前には二人の強面でがたいの良さそうな男が二人立っていた。

 二人とも三十代中盤と言った感じだ。

 おそらくいなくなった騎士の穴埋めで、村人がこうして見張りをしているのだろう。

 手には農具を構えていてこちらを睨み付けるように鋭い目つきを向けてくる。

 なんとなく関わると面倒くさそうだったのでレイラに言って馬車で素通りしてもらう事に。



「止まるだ!」



 ダメでした。


 やはりというか案の定、俺達が村の中に入ろうとすると村人の一人が道を遮る。

 仕方ないのでリアネを残し馬車から降りる。



「何モンだぁ!」



 威嚇するように村人が農具を俺に突きつける。


 どうでも良いが、どうしてこの世界の住人って見知らぬ人間を見ると喧嘩っ早くなるんだ?

 なんか俺、初対面の人間に対して良い印象をもたれたことないぞ。


 今回に至っては自業自得の面もあるが。



「あ~、俺達は別に村人に危害をくわえるつもりはない。出来れば武器を下ろしてくれると助かるんだけど」


「そりゃあおめぇの態度次第だぁ! 俺っちの質問に答えろぉ!」



 軽く手をあげてこちらは無防備だと示すがまったく意味をなさなかった。


 さすがに異世界でこの意味が通じる訳ないか。



「俺はイチヤ・カブラギ。一応、新しくこの領地を治める事になった領主だ」


 こういう頭に血が上ってそうな人間には逆らうよりも素直に応じた方が良い。


 自己紹介しながら昨日の話し合いの後にユリからもらった貴族証を取り出す。

 貴族ではないのだが、これを出したら大丈夫だとかなんとか言われ渡された。



 そう思って自己紹介し貴族証を出したのだが……。



「新しい領主だどぉ……ふざげんなぁぁああ!」



 えぇぇ……言われた通り自己紹介したのに更にキレだしたよ。どうなってんの!?



「あんだらのせいでうちらの生活は滅茶苦茶だ! どうしてくれるだ?!」


「いや、どうしてくれるもなにも何の事だかまったくわからないんだが」


「言ってる意味がわからないだどぉ! お前さん、本気で言っでんのがぁ?」



 あ、やばい……なんかもう一人の村人も青筋浮かべてやがる。

 一体全体何にそこまでキレてんだよ。



「すまない。私達はここに来たばかりであなた方のおかれている状況等まったく理解してない。だからあなた達が何にそこまで腹を立てているのか私達にはわからないんだ。ここに来たのも私達より前に来ていた代官にここに魔物が出るので退治して欲しいと依頼を受けたからだ。申し訳ないんだが、説明をしていただけないだろうか」



 そう言って頭を下げるレイラ。

 どうやら俺と村人たちのやりとりを見かねて割ってはいってきてくれたようだ。

 本当に助かる。


 丁寧に頭を下げるレイラに憎憎しい表情を隠そうともしない村人達。


 なんかこいつらの為に働くのが馬鹿らしくなる。

 もう帰って良いだろうか?


 そんな事を考えている俺をよそにしばらくの間頭を下げているレイラに根負けしたのか、村人達がぽつぽつと話しだす。



「あんだらがこの辺りを見回りしなくなったせいで魔物がしょっちゅう来るようになって田畑が荒らされ放題だ……」


「うんだ。俺等に魔物を倒す力はねぇ……見回ってた兵士がいたから俺等は安心して作物を育てる事が出来てただ」


「それなのに急に兵士が来なくなって、その代わりに魔物が現れるようになってよ。どうしていいのかわかんねぇべ……全部……全部あんだらが悪いだ」



 ……うん。話を聞く限り、これ間違いなく俺達まったく悪くないよな。

 責任があるとしたらここを管理していた元侯爵だ。

 そいつが亡命さえしてなければこんな事にはならなかった。

 どんな奴かは知らんが、本当に碌な事をしない奴だな。

 もし顔を拝む機会があれば地獄を見せよう、そうしよう、今決めた。


 ただ、今、俺は悪くないと言った所で意味はない。

 今、俺は就任したばかりだの、元侯爵の責任だの言った所で村人は納得しないからだ。

 村人からしたら上の人間のせいで苦しんでいる。

 俺だろうが元侯爵だろうが関係なく、上の人間の責任だと捕らえてるだろうからな。


 さて、どうしたものか?

 これじゃあ魔物退治してはい終了~とはいかないだろうな。

 本当に面倒臭い事この上ない……。



「一度は若い衆が魔物を追い払おうと頑張ったけんど、重症を負ったり、死んだ奴らも出ただ。薬を買おうにも田畑が荒らされて収穫できねぇから薬を買ってやる金もねぇ。このままじゃ俺っち達死んじまうだぁあああ!」



 うわっ! ちょっと考えに耽っている間に今度は泣き出したぞ!?

 自分達の生死がかかってるから気持ちはわからんでもないが……マジめんどくせぇ……。

 俺には物事がスムーズに進んでいくという事がないのだろうか。

 どんなスキルよりもそんな能力が欲しかったよ。

 はぁ……。


 顔をくしゃくしゃにして泣く男をもう一人の村人が宥める。

 その様子を見つつ俺はある事を思いつく。

 

 さっきは考えに耽って若干話を聞き逃したが、泣いている村人が気になる事を言った。

 若い衆が死んだり重症を負った。

 つまりこの村には重傷者が何人かいる。

 そいつらを治してやればこの態度も少しは緩和されるのではないか?


 人の命がかかってるのにと思われるかも知れないが、そんなの関係ない。

 俺にとっては身近な人間さえ無事ならそれで良い。

 聖人君子じゃあるまいし、全ての人間を救うなんて思っている訳じゃない。

 自分の手の届く範囲。自分の大切な人間を助けられればそれで良い。

 大体救うとか考えてる事事態、傲慢だと思うけどね。

 手助けは出来るが誰かを救えるなんて思っちゃいけない。

 もし何かを救えるとしたらそれは自分自身だけだ。


 まぁこの話は置いておくとして、今はこの村にいる重傷者の事だ。



「なぁ、その重傷者って何人くらいだ?」


「ぐずっ! ぞれをぎいてどうずるだ」



 鼻水を垂らしながら睨み付けんな。

 大の大人が汚な過ぎるだろ。

 とりあえずこのおっさんは無視だ。

 まだ宥めている方が、話が通じそうだな。


 俺は泣いてるおっさんを無視してもう一人の村人に話しかける。



「で、重傷者って何人ぐらいだ?」


「……八人だ」


「ざんにんがじんだ。うぢひどりはおどどいにな!」



 いや、事情を聞きにくいから泣きながら話すくらいならしゃしゃりでてくるなよ……。



「重傷者の八人って今どこにいるんだ?」


「……そんな事を聞いてどうするだ?」



 少し警戒色が強くなったが、ここで怯んでいては何も進まない。

 泣いてる村人? もう完全無視で良いでしょ。



「どうするも何もその重傷者全員治すに決まってるだろ」


「「!」」



 事も無げに言う俺を見て、村人二人が驚きの表情を浮かべる。



「ほ……ほんとだかっ!?」


「本当だ。こんな事で嘘ついてもしょうがないだろう?」



 おずおずと聞いて来たので自信を持って答える。

 ここで自信なさげに下手に出てはいけない。

 もしそんな態度を取ってしまったら、たぶん信用してもらえないだろうからな。



「そんな訳でその重傷者の所に案内してもらえるか?」


「だ……だども、本当にそんな事できるだか? それに俺等の一存では……」



 やばい。言い淀んでる村人に段々腹が立ってきた。



「ふ~ん……重傷者ってのはそんな悠長に構えてられるほど、軽い怪我なのか。重傷者なのに」


「んな訳ねぇべ! 今も痛みで苦しんでるだよ!」


「じゃあさっさと案内しろ! あんたらに決定権がないんだったら一人残して村長なりなんなりに聞いてくれば良いだろうが! わかったらさっさと行け!」


「はぃいいい!」



 威圧を含んだ俺の怒声にまともな方の村人が走っていく。

 泣いていた村人も威圧と怒声によって泣き止み、仕事に忠実なのか、恐る恐るであるが俺が不振な行動を取らないように監視している。


 10代のガキに30代のおっさんが良いように使われるのは不本意だろうが、こっちとしては早く解決したい。

 なので、使えるものは何でも使う。

 威圧の能力良い仕事するね。


 村人の一人に警戒されつつ少し待っていると、さっきの村人と一緒に髭を鎖骨の辺りまでのばした白髪の爺さん、その背後に四十台くらいの頑強そうなおっさんが付き従ってやってくる。



「待たせてしまっで申し訳ねぇ。村長のバドックじゃ。後ろにいるのはキコリをしているイドロじゃ。して……領主様というのは――――」


「俺だ」



 村長が俺とレイラを交互に見ていたので名乗り出る。



「そうですか……あなた様が、ずいぶん若いように見えますが……」


「実際まだ10代だからな」


「ほぉ……そうでしたか。新しい領主様はずいぶんとお若い。とても優秀なのですな」


「お世辞とかはいいから。それよりも重傷者のところに案内してくれるのか?」


「もちろんですとも。それと村の者が失礼いたしました……ですから何卒、何卒不敬罪だけはご勘弁を……彼等も村の為にしたことでして――――」


「いや、そういう事するつもりはないからさっさと案内してくれ」



 長くなりそうだったので村長の言葉を遮る。


 不敬罪――――貴族が平民が粗相をした場合に罰する法律か何かだったか?

 俺は別に何か言われたくらいで罰したりしない。

 自分や仲間に危害をくわえられたら別だがな。

 それに貴族になったつもりもないのでそんな事出来るはずもない。

 もちろんこの場で俺は領主であるが、貴族ではないなんて言ったらまたややこしい事になりそうなので言うつもりもない。

 説明するのも面倒だし。



「申し訳ありませんでした。では重傷者はこっちにいんで、着いて来て下さいますか」


「わかった」



 とりあえず、魔物退治は後にして、俺達は重傷者がいるという場所へと向かった。

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