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133話 魔物が出る村1

 レーシャやディアッタ、エヴィにクルエ、シャティナさんや年長の獣人メイドの子達に見送られ、俺達は屋敷を後にした。

 その足で向かったのはユリの住んでいる代官邸。

 今日の用事を済ませるためだ。


 ユリの住んでいる屋敷の門の前には屋敷を守るように門番が一人立っている。



「おはようございます。ユリに用事があってきました」


「これはこれは領主様。おはようございます。今フェリス様をお呼びいたしますので、申し訳ありませんがしばしお待ちください」



 丁寧に俺に頭を下げると門番の人がこの場を去っていく。


 忙しいようだったら用件だけ伝えてくれれば良かったんだが、どうやら呼んできてくれるようだ。


 少しの間、門の前で待っていると、先程の門番と一緒にユリが姿を現す。



「おはよう。待てせてすまんな。昨日渋っていたから、てっきり昼前くらいに向かうのかと思っていた」


「面倒事はさっさと片付ける主義なんだ。本当は行きたくないんだけどな……」


「すまんな。助かる」



 ユリが頭を下げると、後ろに控えていた門番も一緒に頭を下げた。

 本当ならこうして頭を下げる必要はない。

 頭を下げるべきは領民放置して逃げ出した元侯爵なのだから。


 それに仮にも領主になった手前、面倒だけど、やらなければいけないだろう。

 正直書類整理をするよりはまだマシだ。



「とりあえずさっさと片付けるわ。でもホントに近くの不審者からじゃなく魔物退治からでいいのか?」


「ああ、問題ない。それで頼む」



 昨日ユリに言われたのは不審者よりも魔物の方を迅速に片付けて欲しいと言う事だ。


 なぜその順番なのかと問うと、なんでも不審者に関しては今のところ動きがないという事と。この街が守りに適している為、早々破られはしないらしい。

 それに比べ魔物が出る村というのは気持ち程度の柵があるだけらしく、守りに関しては杜撰もいいところなのだそうだ。

 元侯爵が治めていた頃は兵が見回りしていたからそれでも良かったのだそうだが、今は違う。

 見回りをするべき兵がいない。

 だから魔物討伐を優先させて欲しいと昨日ユリに言われた。

 個人的には不審者をさっさと片付けて魔物退治に出向いた方が効率的だと思うけど、ユリにも考えがあるのだろう。

 ここは素直に従っておくか。



「じゃあ行って来る」


「うむ。よろしく頼むぞ」



 とりあえずユリにも行く事を伝え、彼女に見送られる形で、俺達は馬車がおいてある厩舎へと向かった。





「さて、じゃあ魔物が出るっていう村に行くわけだが……リアネはどこまでついてくるつもりなんだ?」



 屋敷を出た時からずっと疑問に思っていた事を口にする。

 リアネとも屋敷で別れると思っていたんだが、こうしてずっとついてきているのだ。

 ここで聞いておかないと村までついてきそうなので聞いてみたのだが。

 


「あの……私も一緒に連れてってはもらえないでしょうか?」



 リアネの口からついて出てきた言葉は予想外のモノ。

 いや、ここまでついてきた事を考えると、別に予想外というほどのものではないのか?



「悪いけどリアネを連れては行けないよ。魔物退治が危険なのはわかっているだろ?」


「お願いします! ご迷惑はかけませんから!」



 諭すように言ったのだが、リアネの瞳に諦めの色はない。

 リアネがこんなに聞き分けがなかったのは初めてだ。



「……理由を聞いても良いか?」


「すいません。単に私の我侭です……」


「俺は理由を聞いてるんだけどな……我侭でも何でも良いからリアネの気持ちを聞かせてくれるか?」



 少し厳し目の口調で問う。

 リアネに対してこの態度は心苦しいが、これから向かう先には危険がまったくないとは言い切れない。

 ここできちんとリアネの気持ちを聞いて、連れて行く理由に値しなければ例えリアネの願いでもきっぱり断る必要がある。

 彼女は俺のメイドであり、掛け替えのない存在だ。

 危険な真似をさせるつもりはない。


 本来なら問答無用で屋敷に返すところだが、相手はリアネだ。

 きっと何か思うところがあるのだろう。



「私はイチヤ様の専属メイドです」


「うん?」



 確かにそうだが、何故今更そんな当たり前の事を?


 疑問に思い首をかしげると、リアネが続きを話しだした。



「なのに……私はいつも肝心なところでイチヤ様の傍にいません。王城の襲撃の時、イチヤ様がダンジョンに訓練に向かう時、獣神決闘が行われた時、イチヤ様が大変な時はいつも……」


「それは――――」


「わかっています。私に戦う力がない事も、イチヤ様が私を危険な目に合わせないように配慮してくれたことも。それでも……何も出来ない私ですが、イチヤ様の為に何かしたいと思うのです。イチヤ様と共に歩んでいきたいのです。絶対にご迷惑はおかけしません。イチヤ様の指示には従います。ですからどうか連れていってはもらえないでしょうか……?」



 リアネが決意した目を俺に向ける。

 これはたぶん何を言ったところで無駄だろう。

 強制的に連れていかないという選択肢もあるが、それでは彼女は納得しない。


 俺としてはリアネには安全な場所で俺の帰りを待っていて欲しいのだが……。

 どうしたものか……。



「私は連れていってあげても良いと思うがね」



 思案に耽っているとそんな声が聞こえてくる。


 レイラだ。

 彼女の方に目を向けると、微笑を浮かべている。



「確かにリアネの決意は立派なものだけど、レイラもわかってるとおり、リアネは戦えない。危険じゃないか」


「イチヤ、前々から思ってたんだが、君はリアネ……いや、メイド達に対して少し過保護すぎじゃないか?」


「いや、そんなことは……」


「あるだろう。確かに魔物が出るみたいだし危険ではあるが、この世界……いや、どんな所にいようとも死ぬ可能性は0じゃない。不幸な出来事というのはどこにでも存在する。この世界が魔物が出る事でちょっとばかりその可能性は高いがね」



 レイラの言うとおりだ。

 この世界は魔物という脅威に危険に晒されている。

 だけど死というものはどんな場所、どんな時でも起こりえる。

 元の世界だって交通事故で何の前触れもなく死ぬ事だってあるのだ。

 いつ死んでもおかしくないというのはどこの世界でも変わらないだろう。



「それでもここに残っているのが安全な事には変わりないだろ」


「はぁ~……」



 俺の言葉にレイラが盛大にため息を吐く。


 なんで!?



「イチヤ。女の子が決意しているのに、それを汲んであげられないのはどうかと思うよ。彼女の決意に水を差すものじゃない」


「いや、命がかかってるんだぞ? もし連れていってリアネに何かあったら絶対に後悔する」


「これで過保護だと自覚してないとは……だったら万が一なんてないようにイチヤが守ってやればいいじゃないか」



 なんとも気軽に言ってくれる。

 レベル上げでも基本敵を屠るしかしてなかったから守りながら戦うなんてした事ないぞ。

 あの時は基本後衛であるシャティナさんを守ってたのはアルだったし。(シャティナさんが強すぎてあまり意味はなかったが)



「さっきから話を聞いてたんだが、たぶんイチヤがここまで心配しているのってダンジョン以外の魔物がどんなものか知らないからじゃないか?」


「あ、ああ」



 唐突に割り込んできたアルに返事をする。


 アルの言う通り俺が懸念しているのはどんな魔物かわからない事だ。

 もしも不意をつかれてリアネに襲い掛かられたらと思うと連れていくのが心配になるのも仕方ないだろう。


 そんな俺にまるで思考を読んだようにアルは事も無げに言う。



「安心しろ。お前は自分の実力を正確に把握してないみたいだから言うけど、このあたりにいる魔物はぶっちゃけ大した事ないぞ。少なくともあのダンジョンの中層に出てくる魔物よりも遥かに弱い」


「そうなのか? というか何でそんなことわかるんだよ」



 疑問に思い尋ねてみると、さっきのレイラと同じように呆れた眼差しを向けられる。


 レイラと違い若干イラッとくる表情でだ。



「いや、お前……ちょっと考えればわかるだろ。お前の行く村って俺達が王都から来た途中にあるんだぞ。来る途中で戦った魔物達を思い出してみろ。強かったか?」


「……弱かったな」



 来る途中で何回か魔物に遭遇したが、レベル上げの時に戦った魔物と比べると全然弱かった。

 戦闘力で言えばダンジョンの魔物が像ならこの辺の魔物は蟻なみだ。

 何の苦労もせずに倒す事が可能だった。


 言われるまで気付かないとは、俺って馬鹿だな。


 若干自己嫌悪になりつつも気持ちを切り替える。


 そろそろ出発しないと帰りが夜になりそうだからな。

 反省はその後だ。



「リアネ。ちょっと過保護過ぎたようだ。ごめん。それじゃあ一緒に行こうか」


「はい、ありがとうございます!」



 俺の言葉に元気良く返事をして一礼する。

 その表情はこの上なく嬉しそうだ。



「レイラさん、アルさんも、ありがとうございます!」


「どういたしまして」


「気にすんな。イチヤがリアネ達に過保護なのは今に始まった事じゃねぇけど、今回はちょっと度が過ぎてんなぁって思ったから言っただけだ」



 確かに今回ので自分でも過保護すぎるかなって思ったんだが……今までそんなに過保護過ぎだっただろうか?

 周りからみてそうなんだったらそうなのだろうが……。

 少しは反省した方が良いな。マジで。



「じゃあ帰ってくるのが遅くなるし、そろそろ行くか」


「はい!」


「わかった」



 俺の言葉に返事をしたレイラは御者台に。

 リアネも馬車の中に乗り込んだ。

 そして俺も入ろうとしたところで、アルが行動を起こしてない事に気付く。


 一体どうしたのだろうか?


 不思議に思いアルに声をかけようと思ったが、その前にアルが口を開いた。



「あ~……悪いんだが、今回は三人で行ってくれ」


「え、どうしたんだよ?」


「いやぁ~ちょっと野暮用があってな。今回は同行出来ないんだ。まぁイチヤとレイラがいるんだし問題ないと思うぞ」



 確かにさっきの話を聞いた限りでは俺とレイラがいれば問題ない。

 だけど急だな。昨日はそんな事言ってなかったのに野暮用って一体なんだ?



「野暮用ってなんだよ?」


「まぁちょっとした話し合いだ」



 話し合い? ユリとだろうか。



「……まさか話し合いという名の酒盛りじゃないよな?」


「んな訳ねぇだろ! ちゃんと話し合うわ! まったく……俺を何だと思ってるんだ」


「酒好きのサボり魔」


「くそっ……! 言い返す言葉が思いつかねぇ!」



 いや、そこは言い返せよ。

 それよりも話し合いか。

 ユリとの話し合いって事はこの領土に関しての事か?

 ……ダメだ。考えてもさっぱりわからん。

 まぁ難しい話だったら聞きたくないし、大事な話なら秘密の内容もあるだろう。

 ここは聞かないのが無難かな。



「わかった。とりあえずアルは居残りと。じゃあ俺がいない間、レーシャとメイド達の事頼んだ」


「任せとけ。シャティナもいるし大丈夫だ」



 もしも不審者が攻めてきても二人がいるならこの町は大丈夫だろう。

 もし戦う事になった場合シャティナさんが町を崩壊させる事だけが心配だ。


 それもアルがいればフォローしてくれるだろうしな。



「じゃあ行って来る」


「おう。気をつけてな」



 アルがいない事に少しだけ不安を覚えるが、なんとかなるだろう。

 さっさと片付けてゆっくりしたいぜ。  

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