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12話 魔女

すいません。日曜中に投稿する予定でしたが遅れてしまいました。

「貴様は何を言っている?ただの兵士の妻がそんなことできるわけなかろう!」


 最初に口を開いたのは獣人族指揮官のドルガだ。その意見は尤もで俺もそう思う。だが次にアルが呟いた一言で俺以外の全員が驚きの表情を浮かべた。


「俺のかみさんなんだがな……業火の魔女インフェルノ・ウィッチっていやわかるか……?」


 どうやら俺以外は全員が知っているようで、その名前を聞き驚きの後放心する者、体をぶるぶる震わせる者、様々な反応をさせている。


 どうしてみんなそんな怯えたような感じになってるんだ?

 アルの奥さんって一体何者なんだよ?


「業火の魔女……敵対した者、気に入らなかった者は種族など関係なく赤ん坊だろうが老人だろうが、それこそ魔獣だろうが笑いながら全てを灰燼にする。今まで彼女によって焼かれた場所は草木の一本も生えないという……あの魔女がなんでこのような弱小国にいる!いるとしても強者を集めている帝国の方だろう!」


 一人の獣人が顔を青ざめさせながらも説明口調で憤っている。


 ご説明ありがとうございます


 実物を見ていないので話を聞いても今いち怖さが実感できない。


 こういうのってかなり誇張されて伝わっているからなぁ

 それにアルの奥さんだぞ?

 そんなに怖い訳ないだろう


 この時の俺はそう思っていた。後に彼女に会った時に俺が恐怖に震え上がる事になるのだが、今の俺には知る由もなかった。




 城下町に盛大な音と共に爆発が起こる少し前。町は獣人によって制圧目前まで追い込まれていた。騎士達は方々に逃げ出す者、最後まで戦い散っていく者。民衆に至っては泣き叫ぶ者、命乞いをし奴隷に成り下がる者、その姿は様々であったが、民衆は皆一様に絶望の色を浮かべていた。

 

 後詰の師団も先に入っていた獣人と共に隠れている人族がいないか、しらみつぶしに探求し無抵抗な者は奴隷とする為連れて行き、逆らうものは次々と殺していく。


 獣人にとっては今まで煮え湯を飲まされていた人族がここまで脆弱だった事に拍子抜けしつつも与えられた任務を忠実にこなしていった。


 だが何事にも例外というものは存在する。確かに彼等が相手をしていたこの国の騎士や魔道士は魔法が効かないのもあり容易く片付ける事が出来ただろう。

 獣人は他種族に比べ魔法の適正が低い、皆無といっても良いくらいだ。その代わり身体能力は他の種族を圧倒している。今回の戦いでは魔法を打ち消す装備を付けた事でその弱点を補った。お互いに魔法を使えなければ獣人が人族に負ける事はないと断言出来る。


 だが先程も言ったように例外は存在するのだ。その事をこれから獣人族は恐怖とともに身を持って知ることになるだろう。


 多数の人族を町の外まで連れて行き、城下町で獣人達が探索していない区画は中央区から少し離れたこの居住区だけとなった。多数の獣人がまだ残っている人族を捕らえていく。逃げ惑う者、隠れている者、この場所にも人族の叫びが木霊する。


 そんな時、とある一軒家のドアが開く。一人の獣人が仲間が出てきたものだと思ったが、予想に反して出て来たのは、落ち着いた雰囲気の女性だった。

 透き通るような真っ赤な髪に目元と口元は微笑んでおり人族ならば誰もが目を引く美女。

 

 女性はのんびりとした様子で家から出てくる。状況をわかってないのか辺りをきょろきょろしている。


「貴様もさっさと来い!」


「あらあら、まぁまぁ」


 獣人はそんな女性の腕を乱暴に掴むと他の人族と同じように連れて行こうとする。一方の女性はというと緊張感がないまま獣人のなすがままになっている。

 男は他の人族と違い、獣人を怖がっていないこの女性に不信感を覚えるが、素直について来ているので気にしない事にした。町の広場まで歩いてきた時、女性の方から質問される。


「すみません。何処に連れて行かれるのでしょう?」


「まずは町の外で待機している仲間の下まで連れて行く。それから我が国に移送される。ヌシはこれから先我が国で奴隷として一生を捧げるのだ」


「あらあら、それは困りますねぇ。申し訳ないのですが私は主人のいる身ですので他の方にお仕えする事は出来ません」


 そう言って眉を八の字にしてなすがままになっていた女性が足を止めた。止めたと言っても相手は人族の女性だ。そう考え男は強引に連れて行こうとするがビクともしない。

 おかしいと思い振り返っても女性が大して力を入れている様子もないのだ。その事がかえって不気味に感じた男は女性の腕を離し武器を手にして若干距離を取る。


「抵抗する者は殺せと命じられている。抵抗せずに付いてくるのであれば奴隷として役立ててやろう」


「あらあら、大変申し訳ないのですが私は主人を家で待っていないといけませんので、その申し出にはお答えすることが出来ません。家を”守る”のが妻としての勤めですので」


 そう言って女性の手に炎の玉が一つ浮かぶと獣人の男性へと向かって飛んでいく。だがその火球は男に当たる寸前に掻き消える。騎士団の魔法部隊の時と同じだった。違うところと言えば彼女が少しも焦っていないところだ。


「あらあら、まぁまぁ」


「まさか魔道士だったとはな。だが魔法は効かん」


「困りましたねぇ。まさか魔消石をお持ちだったとは」


「なっ?!」


 女性は眉を八の字にして右手を頬に添え困っているという様子だが、人から見たらそこまで困ってるように見えないんじゃないかと思う。


 だが男にとっては彼女の困った様子などどうでもいい。問題なのは自分達の魔法効果を打ち消している種を知られていることだ。

 男は自分達を見て恐れを抱かない様子。それに魔消石の事についても知っている事から只者ではないと察して仲間を呼んだ。


「どうした?」

「なんだよ、女一人か。逃げた騎士でも見つけたのかと思ったぞ」

「何かおかしな事でもあったか?」


 口々にそんな事を呟きながらぞろぞろと獣人族達が広場へと集まってくる。男が油断する事なく女性を睨み武器を構えている。その姿を見て、集まってきた獣人達は何が起こっているのかわかっていない。


「この女、魔消石の事を知っていた。石の事を知っているので魔法が効かない事に動じていないのはわかるがそれでも落ち着きすぎている。何か不気味だ」


 その言葉を聞いた他の獣人達は一瞬驚いたが、それでも女一人でこの人数をどうにか出来るわけがないと高を括っているが一応男の言葉に従い全員が武器を構える。


「あらあら、まぁまぁ」


 周りを囲まれ退路を絶たれ武器を突きつけられている女性だったが、間延びした様子で緊張感を感じない。普通、こんな状況であれば顔を蒼白に怯えるか泣き叫ぶかするであろう。ようやく他の獣人達も彼女の異常性に気付く。何が起こっても大丈夫なように気を引き締める。


 その時、急に彼女の体が中空へと浮かび上がる。


「なに!?」

「無詠唱で飛行魔法だと!」


 獣人達は目を見開く。飛行魔法はかなり高度な魔法で長い詠唱の末ようやく使う事のできるものなのだが彼女は何の詠唱もなく行った。魔法に疎い獣人族でもそれがいかに異常な事かわかる。


「貴様!一体何者だ!!」


 最初に女性を連れて行こうとした男が叫ぶ。その事にはっとなった女性は申し訳なさそうに頭を下げた。この場にそぐわない彼女の態度に他の獣人達も困惑する。


「すみません。初対面の方に名を名乗らず、私の名前はシャティナ・フォスタンスと申します。以後お見知りおきを」


 彼女が名を名乗ると、いつの間に現れたのかシャティナの周りには炎をまとった小鳥達が出現していた。小鳥達はシャティナの周りをまるで戯れるかのように飛び交っている。シャティナは優雅にその光景を見ていたが徐に自分の胸の辺りまで右手を持ち上げ、人差し指を差し出すと一匹の小鳥が止まり木のようにシャティナの指へと止まる。

 

 シャティナはにこりと微笑むと再び獣人達へと視線を向けた。


「あらあら、ふふふ。どうやらこの子達も挨拶をしたいみたいですのでご紹介させていただきますね。この子達は私が創った精霊達です。少しやんちゃなところもあるのですが、良い子達ですので仲良くしてあげてくださいね」


「精霊を……創った……だと」


 獣人達は唖然としている。確かにこの世界には精霊というものが存在し、精霊と契約する事によって精霊魔法を使う事は出来る。だが精霊を創るなんて芸当は聞いた事がない。

 もちろん彼等の知識とて絶対ではないが、 この異様な状況下の中、知らない知識を持ちさも当たり前のようにしている彼女は彼等にとっては恐怖の対象でしかない。


「弓だ!弓を放て!」


 獣人の一人が恐怖を押し殺して叫ぶ。ほとんどの者は斧や剣しか持っていなかったのだが弓を持つ者が数人、弓を構えシャティナに向かって矢を放つ。

 矢は放物線を描きながら彼女に向かって一直線に飛んでいく。

 だが彼女に当たる1メートルくらいの辺りでいきなり矢が燃え出し消し炭となって彼女へと当たる事はなかった。


「まぁまぁ……」


「貴様、何をした!」


 何かをしたのは獣人達の方なのだが、彼女は微笑んだままだ。弓を持つものが第二射を放とうと再び構える。

 その時、突如流星雨の如く炎の塊が飛んでくる。炎の塊は弓を持った者へと向かって行き次々と爆発を起こし獣人達が爆風で吹き飛ぶ。

 爆風で吹き飛んだ彼等は一体何が起こったのかわかっていない様子で倒れたままシャティナの方を見上げると驚愕に目を見開く。先程の炎の塊が彼女の周囲に戻ると小鳥の姿へと変わる。

 

 そう。彼等を吹き飛ばした炎の塊の正体は先程彼女の周りを飛んでいた小鳥達であった。小鳥達は自分の生みの親。小鳥達からすれば母親たる彼女を傷つけようとした事で怒り彼等を攻撃したのだ。

 

 その彼女はというと困ったような顔をして小鳥達をあやしている。まるで赤ん坊にするような仕草で。

 そして獣人達にすまなそうに告げる。


「申し訳ないのですが、この子達があなた方に怒ってしまったようですので、今日のところは帰っていただけないでしょうか?」


「ふ、ふざけるな!ワシ等は誇り高き獣人族だ。たかだか女一人と小鳥を相手におめおめ帰ったなど知れたら良い笑い者だ!」


 他の者達も同意する。彼等はこの異様な状況に冷静さを完全に失っていた。今の発言が自分達の命運を決める発言とも知らず即答する。


「あらあら、仕方ありませんねぇ……ではすみませんが強制的におかえりいただく事にしますね」


 その言葉に獣人達が立ち上がりまた炎の塊が飛来してくるのを警戒し身構えるが小鳥達は先程のようにシャティナの周りを飛んでいるだけで一向に獣人に向かっていく素振りを見せない。彼女も少し困った微笑みを浮かべているだけだ。


 さっきの言葉ははったりか?


 そう思った獣人達だったが彼女の手には一番最初に出会った獣人の男に放った炎の玉が発生していた。先程の精霊の攻撃と違い今度は魔法である事がわかると獣人達は安堵した。

 魔消石を身に着けている限り自分達が魔法で傷を負う事はない。彼等はそう確信しているからだ。


 その予想も次の瞬間には打ち砕かれる事になるのだが……


 先程のように一人の獣人に火の玉がもの凄い速度で飛んで行く。魔消石の力で当たる寸前で掻き消えると誰もが思っていたのだが、その火球は消失せずそのまま男に当たると激しい勢いで焼き焦がす。

 男は悲鳴を上げ火を消そうともがき続けるが、その炎は男の全てを燃やし尽くさんばかりに燃え上がる。 徐々に火の勢いは衰え、ようやくおさまった頃には彼の原型はどこにもなく黒い炭の塊がぱらぱらと音を立てながら崩れ、風に流され消えていった。


「何が起こった……本当に現実なのか……?魔消石は全ての魔法を無効化させるのではなかったのか……!」


男が焼かれて消え去る一部始終を見ていた別の獣人の一人が嘆くように呟く。他の者達も魔消石に絶対の自信を持っていた為に、その期待が裏切られた絶望感で茫然自失している。


「あらあら」


 獣人達はその声にひきつけられるようにシャティナを見上げると彼女は空中に浮かんだまま指を二本立て口を開く。


「先程あなたがおっしゃった疑問にお答えします。まず一つ目のはこれは現実です。私の魔法があなた方のお友達に当たりお亡くなりになりました。二つ目の疑問なのですが、魔消石なのですが、魔法が無効化されると事はされるのですが、万能ではありません」


「なん……だと……!」


 その言葉に獣人達は驚嘆する。シャティナは微笑み浮かべながらにわかりやすく説明する。


「魔消石の性質はこの世界に存在する魔法の要素たるマナを一定量消失させるというモノです。マナをどの程度消失させるかなどはその石の純度によって様々です。見たところあなた方の持っている魔消石はそこまで純度が高くなかったので、容易に通す事ができました。これが純魔消石でしたら少し本気をださなければいけませんでしたよ。ふふふ」


 近所の奥様方と世間話でもするように何でもない事のように語っているが、彼等の魔消石を量を超える威力で魔法を放つというのは相当な事だ。現に騎士団はそれが出来ずに瓦解した。獣人達は彼女の微笑みすら恐怖に感じている。


「あとは……そうですね。魔消石は熱に弱いというのはご存知でしょうか?」


「熱に……」


 もう彼等にシャティナの言葉を聞かないという選択肢はなかった。出来なかったのだ。まるで足を縫い付けられたように動かない。今動いたら仲間のように彼女に焼かれてしまうんじゃないかという強迫観念に捕らわれていたというのも動けない要因の一つだ。


「えぇ、魔消石があまり知られていない理由はそれが原因の一つだと思いますよ。マナを消失させる際に熱を発し、一定の熱量を持つと溶けて効力を失い土にかえってしまう為希少な石となっています。ではなぜ今も希少ではありますが残っているのかというと鉱山の中や洞窟などは比較的温度やマナの流れる量が低いところがあるからですね。あとは採掘した石を魔法で冷却効果の加工を施せば魔法消失付加のかかった物ができるでしょう。今あなた方が持っている物ですが魔法を扱う物からすれば大変厄介な代物ですね。ですが……」


 そう言うと彼女の手に赤い光が灯る。すると色々な場所の地面が盛り上がり膨れ上がったかと思うと火柱が勢いよく噴出す。


「こういった広範囲に熱を持つ魔法などを使われてしまうと魔消石は溶けて意味をなさなくなってしまいますので気をつけてくださいね」


 彼女は忠告のつもりで言ったのだが、その話を彼等は聞く余裕がなかった。

 獣人達は我をとり戻したかのように動く足を懸命に動かし、獣人の矜持など無視して脱皮の如く逃げ出す。

 だが、多くの者達は火柱によって退路を絶たれ、運良く逃げ出せた者も仲間と合流した先で追いかけて来た小鳥達によって殲滅される。


 その被害は千人近くに及ぶだろう。だがその原因を語れる者は一人もいなかった。


 彼女と戦っていた彼らの予想を悉く裏切り死の瞬間彼等が思った事は……「こんなはずではなかった」だった。


 シャティナ以外この場に誰もいなくなってしまうと彼女は飛行の魔法を解き頬に手を当てる。


「あらあら、まぁまぁ」


 彼女はそう呟くと家路の方に足を向け、何事もなかったように自分の家へと帰っていったのだった。


最近風邪が流行っていますね。と言っている私も風邪を引きました。みなさんは風邪には注意してください。

読んでくださる方、ブックマークして頂いた方いつも感謝しています。出来る限り読んでもらえるようなものを書いていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。

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