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120話 元侯爵領の事情2

「ようやく一人出てきやがったか……おい! まだ中にいるんだろ。さっさと出てきやが――――」


「うるせぇな……ウィンド」


「ぐあっ!」



 いちいち何かある度に大声を出すのはやめろってんだ。


 あまりに耳障りだったので、初級魔法のウィンドを使い掌を相手につき出し、突風を発生させて相手を吹き飛ばす。

 まさか馬車から降りて早々に魔法を放つとは思わなかったようで、男が面白いように吹き飛んで壁へと激突した。


 うん。ちょっと溜飲が下がった。

 女の子をさんざん怖い目にあわせたんだからこれくらいの罰は与えても良いだろう。

 もちろんこんなもので済ますつもりはないけどな。



「アル、みんなを頼めるか?」


「別に良いけどよ。一人で大丈夫か?」


「平気だ。獣神決闘で戦った奴らより全然弱いだろ」


「まぁな。でも油断はするなよ」


「わかってるって」



 お互いに気楽な感じで言葉を交わす。


 幸いここは城門の通り口で上下左右からの奇襲を仕掛けられる事はないだろう。

 アルに頼んでおけば前方はこれで大丈夫だ。

 こいつなら多少敵の人数が多くても一人で相手に出来る。



「レイラ、シャティナさん! もしかしたら後ろから攻めてくるかもしれないから警戒をお願い!」


「任された」


「うふふ。みんなはちゃんと守るから安心してちょうだい」



 これで後方から挟みうちにされようとも平気だろう。

 若干後方が過剰戦力過ぎると思うが気にしない。

 たぶんシャティナさんの魔法なら一個師団を潰せるかもしれないが気にしない。



「……これで思う存分戦えそうだな。ウィンド」



 自分でも獰猛な笑みを浮かべているのがわかるくらい口角がつり上がっている。


 前方にある鉄格子のところまで俺は向かい片腕を鉄格子、もう片腕を俺の魔法で吹き飛ばされ、壁に激突したのにあまりダメージがなかったのか、今にも立ち上がろうとしている男に向かい、もう一度ウィンドを放つ。

 魔法を放った事で立ち上がろうとしていた男は壁に頭からぶつける。

 頭を抑え悶絶している男。

 実に痛そうである。


 その隙に俺は物質変換で鉄格子をゴムに変え、城門を抜け、元の鉄格子へと戻す。


 さすがに馬車が通れるくらいまで鉄格子に物質変換をかけると時間がかかりすぎるが、人一人通るくらいなら一瞬で変化させられる。



「なっ!?」



 俺が簡単に鉄格子を抜け出た事に頭部を押さえながら涙のにじんだ目を更に大きく見開かせた。


 初めてこんなの見れば驚くだろうな。

 でもまぁこいつが驚こうが俺には関係ないが。



「まず最初に……あんまでかい声で喚き散らしてんじゃねぇよ。こっちには女子供だっているんだ。怯えるだろうが。話すにしてももう少し声を抑えろ。いちいち威嚇するように大声ださなきゃ話せないのかよ」


「うるせぇ! どうしゃべろうが俺の勝手だろうが! それよりなんなんだおめぇはよ!? あ、あんな鉄格子をいとも簡単に曲げるとか普通じゃねぇ!」


「それをお前に説明する必要があるのか?」


「魔法しか能がねぇ魔導師が粋がってんじゃねぇぞ!」



 敵が親切に説明してくれるわけないだろうに。

 それに俺は魔導師じゃないんだがな。


 吐き捨てるようにそう呟くと、男が怒りの形相でようやく立ち上がり、背中に抱えた剣を構える。


 明らかに年下に舐められた態度をとられれば怒るのは当然なのだが、こっちだって怒っているのだ。

 盗賊なら殺しても良いんだが、その前にみんなを怖がらせた代償を払わせてやらなきゃ気が済まない。

 まずは実力差というものをわからせて、この世には逆らっちゃいけない人間がいるという事をその身に叩き込んでやる。


 俺も創生魔法でショートソードを創り出す。

 本気を出すつもりはないので今回は片手剣一本だ。


 レベル上げの時からずっと二刀流で戦ってきたのでそっちの方が慣れているのだが、こいつくらいならこれで十分だろう。


 男が大剣を正眼に構え俺を睨みつけるように見ているのに対し、俺は片手でショートソードを構え、肩の力を抜き自然体で男と向き合う。

 一見すると舐めているようにしか見えない姿勢だ。

 ついでにあくびを一つして相手を煽ってやる。



「何処までも舐めやがって! ぶっ殺してやる!」


「良いからさっさとこいよ」



 当然なんだが、相当怒っているな……顔が真っ赤だ。

 しかし良いのかね? こういう戦いって冷静さをかいてちゃいけないだろうに。


 そんな事を考えていたら男が踏み出し一気に俺へと迫ってくる。


 だが遅すぎる。あの時の獣人族の女の方が数十倍早い。


 十分対処できる速度だと判断した俺は上段から振り下ろされる大剣を片手で受け止める。



「なっ、俺の大剣を片手で受け止めるだとっ!?」



 アルの殺気を平然と受け止め切れない時点で分析を使うまでもないとは思ったが、やはり大した事はないようだな。



「前に戦った相手の方がお前よりも数十倍強かったぞ……っと!」



 さすがに戦いにはそこそこ慣れているようで、一瞬驚いただけですぐに持ち直し一歩引いてから二撃目を放ってきたのでそれをバックステップで回避。



「くそっ! 姐さんと良いてめぇといい何で俺はこうも化物とやりあわなくちゃなんねぇんだ!」


「盗賊風情に化物呼ばわりされたくないんだがな」


「俺は盗賊じゃねぇ! 元だ元! てめぇの方こそ賊じゃねぇか!」



 元でも盗賊は盗賊じゃねぇか。

 それに何が元だよ……現に今もこうして俺に襲いかかってきているじゃないか。

 盗賊以外の何者でもないと思うのは俺だけじゃないだろう。



「まぁお前が何者であろうが俺には関係ないんだけどな……それより来ないのかよ?」


「くっ……」



 軽く挑発気味に言ったのだが、男は剣をこちらに構えているだけで一向に攻める素振りを見せない。

 さすがにさっきの攻防で少しは実力差を把握したようだ。



「来ないならこっちから行くが?」


「……」



 どうやら悪態をつく余裕もないようだ。


 男の額から汗が一筋滴り落ち、体も強張っているのが見ただけでわかる。


 まぁ簡単に終わらせてやるつもりはないけどな。


 俺はゆったりとした動作でひざを曲げると、足に力を溜め一気に男へと肉薄した。



「!」



 一瞬で男に近づくと、男がこれ以上ないほど目を見開き驚きを露にする。

 男は驚きの表情を浮かべるだけで身構える素振りを一切見せない。


 別に大した事をしてるわけじゃないのにこんな事で動きを止めるようじゃ戦いには勝てないだろうに。


 目の前の男に呆れながらも俺は下から剣を振り上げ、男の持っていた大剣を切り払う。

 咄嗟に大剣を握る腕に力を込めたのだろう。剣がぶつかる瞬間若干の重みを感じた。


 しかしそれだけだ。


 俺は関係ないとばかりに更に腕と足に力を込め、大剣を吹っ飛ばした。

 空中でくるくると円を描くように吹き飛ぶ大剣。

 大剣は勢いよく民家の壁にぶつかり勢いをなくして地面に落ちる。


 まさか自分よりもかなり華奢な体躯の俺に大剣を吹き飛ばされるとは思ってなかったのだろう。俺を見る目に若干の畏怖を感じる。



「うらっ!」


「がっ!」



 男の腰辺りに胴回し回転蹴りを叩き込む。

 すると男の腰辺りからバキバキっとい音と共に骨を砕くような感触が足に伝わる。

 たぶん肋骨が何本か逝った事だろう。


 なんか剣で肉を断つよりも嫌な感触だな……。


 まぁ胴回し回転蹴りといってもモドキである。

 引きこもっていた時にたまたまネットで練習法などが書いてあって見よう身真似で練習していたのだが、まさかこんなところでお披露目する事になろうとは世の中わからないものだね。


 で、回転蹴りをくらった男はといえば俺のステータスが高いせいか盛大に吹き飛び、さっきのウィンドで吹き飛ばされた時のように再び壁へと激突していた。


 口から血を吐き、片腕は変な方向に折れ曲がっている男。

 あの様子ではもうまともに俺の相手を務める事は出来ないだろう。


 男の様子を見て、俺の怒りも完全に治まる。


 まったく、恫喝まがいの大声を出してリアネ達を怯えさせるからそんな目に合わされるんだ。

 正直見る人が見ればそこまでするかと言われるかもしれないが、相手は盗賊なのだから当然の処遇だろう。


 だがしかし、この男、どうしてくれようか?


 恐怖心を植えつける為に死なない程度に手加減はした。

 たぶん俺に対して恐怖以外の感情はないだろう。


 そう思っていたら男と目が合い俺は驚く事になる。


 かふっという空気の抜けるような吐息を吐き出し、同時に口から何度も血を吐いている男だったが、その目は死んでいない。


 俺の読みどおり、体は動かないのだろう。


 それでも身じろぎするかのようにしてどうにか体を動かそうとしているのが伝わってくる。


 何が男にそこまでさせるのだろう?

 だが、相手が何を考えているのかなんて俺にはわからない。


 一つ言える事は今ここでこの男を殺さなければいつか俺か、俺の周りが不幸になる。


 人を殺すという事には慣れないし慣れたくない。

 しかし前のメイドの時のような悲劇はごめんだ。


 俺は殺す決意を固め、剣を握り締め男を殺す為に歩みを進める。


 そして男の首に剣を当て、殺そうとしたまさにその時、いくつもの足音と共に複数の気配がこちらへと近づいてくる。



「トマさん大丈夫!?」


「トマっさん無事かっ!?」


「おっ……さん……?」



 おそらくこの男の仲間だろう。

 10人くらいの人間がやってきて、俺を見た後に無残な姿の男を見て言葉を失う。


 ある者は驚愕し、ある者は悲痛な表情を浮かべている。


 だが次の瞬間には全員が俺に対して怒りと憎しみの表情で睨みつけてきた。



「てめぇ……」


「よくもトマっさんを!」


「覚悟は出来てんだろうな!」


「ぶっ殺してやる!」



 仲間がやられたんだ。そりゃあぶちギレるだろうな。

 だからといってやられてやる義理はない。


 見た限り強そうな奴は一人もいない。

 もしかしたらまだここにはいない仲間の中に手練れはいるのかもしれないが、ここにいる奴らだけなら俺でもどうにかなるだろう。

 盗賊なんかにそれほどの人間がいるとも思えないが。


 でもさすがにこの人数を剣一本で相手取るのはきついな。


 創生魔法でもう一本剣を創り身構える。


 俺が身構えると盗賊達もすぐに戦闘態勢に入り俺を囲むように移動して徐々に間合いを詰め、いつ切りかかってきてもおかしくない。


 そんな時だった――――。



「お待ちなさい」



 一触即発。今まさに殺し合いが始まろうとした時、この場に凛と澄み渡るような声が響く。


 その声の主を探し視線を彷徨わせると俺を囲んでいる男の後方から、さっき男と一緒にいた赤髪の女と共に身なりの良い貴族然とした女がこちらへと歩み寄ってきた。


 ――――巨大なモーニングスターを伴って……。

7月6日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

7月10日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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