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119話 元侯爵領の事情1

 街が不穏な様子を見せていた為、引き返そうとした矢先に二人の人物に見つかる。


 一人は大剣を背中に担ぎ、無精髭を生やした30代くらいの屈強そうな男。

 もう一人は長身の鋭い目をした赤髪の女だ。女の身長よりも長い2メートルくらいの槍を持っている。


 二人とも皮鎧といった軽装でこう言っちゃなんだけど、そこまで強そうな装備をしていない。

 どう見ても騎士とか兵士といった職業ではない事は明らかだった。


 これはアルが言ったように盗賊の可能性が高いだろう。



「おい、何者だと聞いている! 答えろ!」



 御者にいるアルが無言だった為、鉄格子の向こう側にいる男が痺れを切らしたように怒鳴る。



「何者って言われてもな……この国に使えるただの一兵士だが? ちょっと用事があってこの街にやってきた」


「用事ってのはなんだ!」


「――――それをお前等に教える必要があるのか?」



 アルが急激に殺気を膨らませた事によりこちらにまで全身がひりつくような感覚を味わう。

 俺ですらこんな感覚を味わうんだ。直にアルの殺気を向けられた二人はひとたまりもないだろう。


 現に二人の顔を覗き見ると女の方は青褪めている。

 だが、男の方は予想に反して大剣に手をかけアルを睨みつけていた。



「メリー……こいつら只者じゃねぇ。仲間と姐さんに伝えろ。あとこういう場合の対処も大丈夫だな?」


「いや……トマさん、この人達もしかして――――」


「早くしろ! いくら俺でもそう長くはもたねぇぞ!」


「わ……わかったよ! 行ってくりゃあいいんだろ!」



 何かを言いかけた女だったが、男の気迫に押されてそのまま駆け出す。


 なんか仲間を呼びにいったような感じだな。

 相手は一人だし、今のうちに逃げた方が良くないか?


 そう思った瞬間、後方の第一城門の方からがががががっどすん!っという音が響いた。



「第一城門の方も閉じさせてもらった。これでお前等は袋のねずみだ! 後は仲間達がきたらお前等を叩かせてもらうぞ」



 馬車の中から男をみるとどこか勝ち誇ったように意地の悪い笑みを浮かべている。 


 どうやらさっきの女が仲間を呼びにいったついでに第一城門を閉じたようだ。


 くそっ! これじゃあ逃げられない。


 こっちの事情を考慮してくれるはずもなく、リアネ達を守りながら戦う事は決定したようだ。



「おいっ! 投降するなら今のうちだ。中に誰かいる奴らも全員出て来い!」



 おそらく今のうちにこっちの戦力を把握して起きたいのだろう。

 男が怒声を張り上げ威嚇するような声を馬車へと向ける。



「あんまり大声を出すんじゃねぇよ。中には女子供だっているんだからよ」


「うるせぇ! 女子供だろうが魔法を使える奴や武術に長けた奴はいるんだ。油断なんか出来るかよ! ついこの間、それでやられたんだ。同じ轍は踏まねぇ」



 最後の方は意味がわからなかったが、言葉から推測するにたぶん油断して女子供に痛い目にあわされたんだろう。


 男の怒声は響き渡っていたが、特に俺は怖いとは感じなかった。

 獣神決闘で戦った獣人族の方が余程怖いと感じたくらいだ。


 だが俺がそう思っているだけで、リアネとレーシャは違ったようだ。


 二人はあまり争い事に慣れていない。


 リアネはいつの間にか俺の服の裾をつかみその手が小刻みに震えているのがわかった。

 レーシャは気丈に振舞っているが、男が声を荒げる度にびくっびくっと肩を震わせる。


 そんな二人の様子を見て、外にいる男に対して怒りを覚える。


 俺達はただ元侯爵領に言われたから来ただけなのにどうしてこんな目にあわなけりゃいけないんだ。


 別に俺ならこんな怒りが沸いてくる事はなかった。

 でも向こうは知らないとはいえこうして俺の大切な人を怖がらせている事実は変わらない。

 それにたぶん他の馬車でもメイド達も怯えている事だろう。

 そう考えるとどんどん怒りが沸いてくる。


 退路は塞がれてしまった。

 どうせこのまま待っていても状況は悪い方向に転がるだけだ。

 だったらこちらから打って出た方が良いよな。



「イチヤ様?」


「イチヤさん?」


「さすがにあの怒声は耳障りなんで少し黙らせてくるよ。安心して、二人には指一本触れさせないから」



 心配そうに見つめる二人にそれだけを告げて俺は馬車から降りる。


 さてと、それじゃあ盗賊退治を始めますか。

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