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115話 領地への旅立ち

 王城の入り口にみんなと一緒にやってくると、一人の兵士が待機しており厩舎まで案内される。

 厩舎に到着すると、そこには王家の家紋がついた馬車と少し大きめの馬車が2台準備されていた。

 そして王家の家紋がついた馬車の前にレーシャとアル、シャティナさんが既に待っていた。



「ありがとうございました。それとみなさん、おはようございます。お待ちしておりました」



 レーシャに労いの言葉をかけられた兵士が一瞬感激の表情を浮かべたがすぐに表情を戻すと立ち上がり、レーシャに敬礼してからこの場を後にした。



「おはよう。レーシャ達の方も準備は良いのか?」


「昨日のうちに準備をしてもらいましたので大丈夫ですよ」


「俺達の方も大丈夫だ。マジックバッグがあったからそんなに手間もなかったしな。やっぱり買っといてよかったわ」


「うふふ。道中での食事も準備してきたので、安心してくださいね」



 どうやらみんな準備は大丈夫みたいだ。

 そういえば前の時はベルカ君に乗っていったし、どのくらいかかるかわからないので昼食を準備してくれたのは助かる。


 昼食の件はまったく考えてなかったな。

 シャティナさん、GJです。



「ご主人様。一応私達も昼食の準備をしてまいりました。」



 ディアッタが控えめにそう言って、布にまかれたモノを取り出す。

 たぶんお重か何かだろう。

 そこそこ高さがあり、結構な量が予想できる。


 おぉ! ディアッタも用意してくれてたのか。

 

 シャティナさんとエディが用意してくれた分を合わせると結構な量があると思うが、人数もいるし、たぶんなくなるだろう。



「さて、弁当も用意してくれたし、忘れ物のないみたいだから出発するか」


「「「はい」」」



 俺がそう声をかけるとリアネやメイド達が返事をし、レーシャ達も頷いた。


 領地へ向かう為に俺は王様が用意してくれた少し小さめの馬車に乗り込もうとする。



「あ、イチヤさんとリアネさんはこちらに」



 小さめの馬車に俺が乗り込もうとするとレーシャに呼び止められ、王家の家紋のついた馬車へと誘導される。


 え? 俺こっち?



「いや……俺、そんな仰々しい馬車じゃなくて良いんだが……」


「こちらへ」


「いや――――」


「こちらへ」



 にこにこしているレーシャだが、有無を言わせないくらいの気迫がこもっている。


 いや、この馬車豪華すぎるだろう。

 元の世界でいうならリムジンに乗れと言われているようなものだと思う。



「イチヤさんは私と一緒の馬車はお嫌ですか?」



 俺が躊躇していると、途端に悲しそうにし、目に涙を溜めた表情でレーシャが聞いてくる。


 おい……その表情は反則だろう。


 さすがに成り行きとはいえ、昨日恋人になった女の子に悲しそうな顔をさせるのは気が引ける。



「はぁ……わかったよ」


「ありがとうございます!」



 悲しげな顔が一変し満面の笑顔でお礼を言ってくるレーシャ。


 おい! さっきの表情は演技かよっ!


 女の涙は武器だというけど、まさかこの歳でその事が身に染みるとは思わなかった……。


 こうして俺は王家の馬車へと乗り込む羽目になるのだった。


 はぁ……。




 馬車に乗り込んだ俺達は、与えられた領地へと向かう。


 まぁ与えられたのは良いが、領地のどこに俺の住む場所があるのかきちんと把握しているわけじゃない。

 領地の大きさから何から全く把握していないのだ。


 獣神決闘に出る為に一回行っただけだしな。



「レーシャ。俺達が向かってる領地ってどんなところなんだ?」


「そういえば領地の説明をまだしていませんでしたね。イチヤさんにお渡しした元侯爵の領地ですが、前に陛下がお話した通り、獣人連合との国境に面した領地です。侯爵が住んでいた町が一つに村が五つ。主に農作物が盛んに栽培されています」


「てっきり軍備にだけ力を入れてるんだと思ってたんだが。そうか、農作物が盛んなのか」


「ええ、特に穀物が盛んに栽培されていますよ」


「そうなのか。でも獣人連合との国境に面している領地なんだろ? 獣人連合の襲撃の時とか大丈夫だったのか?」

  

「はい。あの時はまだ帝国との同盟が破棄される前でしたし、国軍に侯爵の兵、帝国から派遣されていた兵の方達が村々を巡回してくれていました。野生動物や魔物がたまに姿を現したとの報告もありましたが、すぐに対処してくれていたそうです」


「なるほどね、だけど今はその侯爵の兵士も帝国の兵士もいない。確か国軍もあまり動かせないんだよな? たぶん獣人族の襲撃はないと思うけど、野生動物や魔物については大丈夫じゃないんじゃないか?」


「それは……新しく就任した代官の方に聞いてみないとなんとも言えませんね。すみません」


「いや、悪い! これから自分の住む場所がどんなところなのか気になっただけで、別に責めるつもりで言った訳じゃないんだ。そりゃあレーシャにだって知らない事の一つや二つあるよな。こっちこそごめん」



 申し訳なさそうにレーシャがこちらに頭を下げてきたので、慌ててしまう。


 こちらとしては世間話程度に自分が住むという領地の事を知れればそれで良かったんだが、レーシャからの話を聞いていくうちにどんどんと不安材料になりそうな事が頭を過ぎったので、つい聞きすぎてしまった。


 しかも自分では何気ない言い方だったんだけど、どうも責めるような聞き方になってしまったらしい。

 自分を好いてくれる子にこんな顔をさせてしまうなんてな……反省だ。



「イチヤ様、お茶を入れましたので、よろしければお飲みください」



 少し気まずい空気が流れる中、一昨日リアネにプレゼントしたマジックバッグの中から木で出来た水筒のような物とカップを取り出し、紅茶を淹れてくれた。

 王家の馬車だからなのか、あまり揺れを感じないが、それでも少しは揺れるというのにリアネが器用にカップに紅茶を注ぎ、俺に手渡してくれる。

 俺はそれを受け取り口に含む。



「相変わらず上手い」


「ふふ。ありがとうございます。あの、レイシア様もよろしければ」


「ありがとうございます。いただきます」



 レーシャがそう言うとリアネがまたマジックバッグからカップを取り出し再び紅茶を注ぐ。

 そして俺と同じように一口飲むと、ほぅっと息を吐き笑顔が戻る。



「美味しいです……侍女の中にもおいしい紅茶を淹れられる方はいましたが、これほど美味しい紅茶を淹れられる方はいませんでした」


「レイシア様のお口に合って良かったです」



マジックバッグに水筒をしまい、笑顔を浮かべるリアネに気まずかった空気が霧散する。


 リアネがいてくれて良かった。

 もしいなかったらもうしばらく暗い雰囲気のままレーシャと二人っきりだったからな。


 普通だったら王家の家紋の入った馬車にレーシャ専属の侍女でもない、ましてや獣人族であるただのメイドのリアネが乗る事は出来ないのだが、リアネを乗せる際に周囲に俺達以外の人間だけにしてくれた。


 領地までの護衛も今は色々と慌しいので、騎士の人達の同行を丁重に断ったそうなので、咎める人間は誰もいない。


 王女の護衛に誰一人つけないのは問題なのではないかという意見も出たそうなのだが――――。


『イチヤさんやアルドルさんに匹敵する実力のある方でしたらぜひとも護衛してもらいたいです』と言ったところみんな黙ったらしい。


 さすがに獣神決闘に参加し、勝利した人間を引き合いに出すのはどうかと思ったんだが、それでみんなが納得していたみたいだとレーシャが語っていたのでおそらく反感は買っていないと思う。というかそう思いたい。


 変な逆恨みとかは勘弁して欲しいからな……。


 王家の馬車には俺、リアネ、レーシャ。

 大きめの馬車2台にはディアッタやエディ、クルエといった執事やメイドが半々になって乗っている。


 御者についてもアルやシャティナさんが旅をしている時に何度かした事があるらしいので頼んだ。

 後の1台もレイラも御者の練習をした事があるそうで、簡単な操作ならできるらしくこちらにも同じくお願いした。


 戦闘面に関しても何かあれば御者の三人が対応出来るというバランスの取れたものだ。


 これならば盗賊が出ようが魔物が出ようがよっぽどの事がなければ問題ない。


 むしろこういう旅をするというイベントなのだから盗賊くらい出てくるのがテンプレだろう。

 面倒くさいと思うのだが、そういうお約束というのも嫌いではない。


 さぁ、来るなら来やがれ! 返り討ちにしてやるぜ!


 心の中でお約束を期待しながら俺は魔物か盗賊が来るのを待っていた。


 ――――もちろんそんなものは何処にも現れませんでした。


 どうも旅をするって感じで妙なテンションになってしまったようだ。

 前も一度獣神決闘の為のレベル上げに王都を離れたが、あの時はそんな余裕はなかった。

 でも今回は何も障害がないのんびりとしたものだ。


 多少テンションが上がっちゃっても仕方ないよね?



「イチヤ様?」


「イチヤさん?」



 まるで見透かされたように声をかけられて妙に気恥ずかしくなった俺の顔が赤くなる。


 そんな俺の様子を見て首を傾げる二人だった。

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