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114話 牢屋からの巣立ち

 告白されたその日の夜、俺はベッドへと倒れ伏す。


 今日は本当に疲れた……。

 精神的にとにかく疲れた……。


 疲れからのまどろみに身を任せつつ、俺はさっきまでの事を思い出す。





 レーシャからの告白を受け入れた後、本当に俺なんかで良いのかと思い、周りにいた面々に視線をむけてみると王妃様とルース王子は満面の笑みを。

 ジェルドとメルドさんも好意的に受け止めてくれた。

 ただ一人、王様だけがなぜか俺を哀れんだような目で見てきた。

 一体どうしたのかと聞いてみれば……。



「いや、なんというか若い頃メルダに婚約を迫られた事を思い出してな……確かあの時もメルダに涙ながらに迫られ、了承した覚えがある」



 と、王様が若干遠い目をしながら昔の事を思い出していた。



「あら? お嫌だったのですか?」


「い、いや! そんなことはない! わしは今幸せじゃ!」



 微笑みながら王様に尋ねる王妃様。

 口角は上がっているが、目は笑っていない。

 そんな王妃様の質問に慌てたように王様が否定する。


 なるほど。王様はレーシャの告白の流れが同じだと言っている。

 ということはたぶんこの告白には王妃様が一枚噛んでいるのだろう。


 まぁ今更わかったところで告白の返事を取り消すつもりはないが。


 それに告白の前に王妃様からアドバイスをもらっていたとはいえ、手を震わせていた姿を思い出すと、全部が全部アドバイス通りに動けた訳ではないのだろう。


 まだ俺の胸にしがみついているレーシャを一目見て、改めて王様達に目をやる。


 王様が王妃様に見つめられて縮こまっているよ。

 尻にしかれてるなぁ。


 ……まさか俺も将来ああはならないよな?

 王様の姿を見て俺の未来に若干だが、一抹の不安を覚えた。


 


 その後は王様達に本来の目的である明日の出発の挨拶をして、俺は玉座の間を退室した。

 精神的に疲れたのと、この後アル達にさっきあった出来事の説明をすると思うと余計に疲れが増した。

 自然と足も重くなる。


 正直凄く面倒なので、このまま町にでも繰り出したいくらいだ。


 だがそんな事をして、報告が遅くなった場合にどんなお怒りが待っているかわからないので、重い足を引きずりながらも俺は牢屋へと戻ってきた。


 丁度戻ってくるとみんな揃っていた。

 どうやら昼食の準備をしているようだ。


 王様に呼ばれたのが朝食を摂り終わって少ししてからだったのだが、かなり長く話していたのか。

 そりゃああんな玉座の間という堅苦しい場所で、慣れてきたとはいえ、王族全員と長時間話していれば疲れもするか。

 明日出発するから機会はないと思うが、次に呼ばれるならもっとゆったりできるところにお呼ばれしたいものだ。

 お菓子やお茶付きならいう事はない。


 そんな事を考えつつ、幼いメイド達と一緒に俺も昼食の準備を手伝う。

 最初はディアッタに止められたが、俺がなだめながらも手を止めなかったので渋々黙認してくれた。


 昼食の準備も整いみんなで食事。


 みんなが楽しそうに食事をする風景はやはり良いね。


 それから和気藹々とした昼食も終え、のんびりと過ごした。

 昼食が終わったメイド達は掃除、洗濯の仕事に戻る。

 俺もみんなの仕事を見学しようと思い、この階を順繰りに回ってみた。


 みんな誠心誠意仕事に集中している。

 中でも目をひいたのは、幼いメイド達が小さい体ながらも一生懸命仕事をして、早めに終わった子は次に終わってない子の手伝いをする姿だ。


 その光景を見て心が温かくなり、俺もみんなに混じって終わってない子の掃除くらいは手伝おうとしたのだが、そこでまたディアッタに止められた。


 さっきみたいになあなあで手伝えるかと思ったのだが、今回は無理だった。。 


 だってディアッタの苦笑は主と認め、凄く丁寧な口調だったのだが、目が『いくら主人でも私達の仕事を奪ったらどうなるかわかってるでしょうね』と語っていたのだ。


 メイドの仕事に誇りを持っているのは良いんですけど、怖いですよディアッタさん……。


 牢屋に戻って、仕事を終えたみんなを待つ間、のんびりと読書をして待つ。


 だが、みんなの仕事はそこまで時間はかからなかった。

 ディアッタも仕事内容をチェックしているのでぬかりはないだろう。


 まぁうちの子達の場合、一人が仕事を終えると、終わってない子の手伝いをし、二人が仕事を終えると次の子の手伝いをするという形でどんどん増えていくのであっという間に終わるようだ。

 

 こういう助け合いの精神って大事だよね。

 その点ではうちのメイド達は俺の誇りです。


 こうしてみんなで夕食の準備時間になるまで、遊んだ。


 なんだかんだと色々あったが、この日はこうしてのんびりと過ごす事が出来てよかったよ。





 領地への出発の日、早い時間に起きてマジックバッグの中に入れた荷物の最終確認をする。

 寝る前にも荷物の確認はしたのだが念の為だ。

 マジックバッグは王妃様を治した次の日くらいに王様からもらった。

 王様は他にも俺に国宝級の品を渡そうとしていたのだが、家臣の人達に止められていた。

 俺も魔剣や聖剣とかこのファンタジー的な品物なら欲しかったけど、ただの……と言っては失礼だけど、宝飾品を渡されても困るので家臣の人達と一緒に王様を止めた。


 普段から指輪とかネックレスとかつけないので、つけると違和感感じるんだよね。


 身に着けないのに持ってても意味ないし、この世界に質屋があるかはわからないが国宝級なので換金するわけにもいかない。


 たぶん質屋で換金なんてしようものならすぐにハバレるだろうし、バレたら一気に信用失うだろうしな。

 それにマジックバッグだけでも十分だ。

 このマジックバッグなのだが、本当に凄い。

 さすがに家とかは無理なんだそうだが、家具くらいはすんなり入る。


 入れ方は二通りで、小物程度ならそのままマジックバッグの口を開いてそのまま中に入れるだけ。

 大きい物は収納したいと思った物に触れ、しまいたいと念じるだけで光に包まれマジックバックに入ってくれる。


 おかげで今や天井近い高さになった本棚も楽々持っていく事が出来るので本当に助かっている。


 荷物の確認を終え、レイラの牢屋へと目を移すと彼女も荷物の整理を終えたようだ。

 といっても彼女はそんなに荷物は多くないのでそれほど手間ではないだろう。


 なんせ俺が城下町に出た時に頼まれていた小物以外の荷物がないからな。

 それを俺と同じように王様からもらったマジックバッグに入れるだけなので、俺より時間はかからなかった。


 荷物の整理を終え、アルを除いたみんなでちょっとだけ早い朝食を食べる。


 今この場にアルがいないのは俺達と一緒に領地へ行く為に自宅で荷物の整理をする為だ。


 みんなには早めに王都を出る事は前もって伝えていたので、それに対応してくれた。


 朝食を終え、みんなに忘れ物がないか確認してから牢屋を出る。


 ――――の前に牢屋を出る直前、俺は足を止めて牢屋を振り返る。



「今までお世話になりました」



 俺は牢屋に向かってお辞儀する。


 この世界に来てずっとお世話になっていた場所だ。

 初めはこんなところと思っていたが、なんだかんだで俺は気に入っていた。

 アルやレイラ、リアネと出会えた場所である。

 そう考えると感慨深い。

 その場所を離れる事に少しの名残惜しさを感じたが、心の中でも別れの言葉を告げ、俺は今度こそ牢屋を後にした。

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