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113話 返事、そして……

 ぐだぐだと色々言ってみたが、俺の気持ちはどうなんだろう?


 俺はレーシャに対する自分の気持ちを考えてみる。


 確かにレーシャの事は嫌いじゃない。

 むしろ好きか嫌いかで言ったら好きと答えるだろう。

 そこに普通という選択肢を加えたとしても答えは同じだ。


 この世界に召喚された当初は色々と言ってしまったが、今は良い友人関係を築けている。

 それが恋人へと変わると考えるとどうだ?


 確かに美人で話しやすいし、リアネ達に偏見も持っていない。

 むしろ他種族に対しても友好的な関係を築いていきたいと宣言しているくらいだ。

 そう考えると性格だって悪くない。

 多少強引な部分も垣間見えるが許容できる範囲だ。


 問題があるとすれば、王族であるレイシアと付き合った場合、国の厄介事を断るのが難しくなる。

 今だったらどうしてもやりたくなければ断る事も出来るだろうが、婚約でもしようものなら断りきれる自信はない。


 それともう一つ――――リアネの事。


 レイシアとのお付き合いの話が出た時、自分の気持ちを考えた上で、真っ先に浮かんだ人物が彼女だ。

 別にレイシアがリアネを害そうとなんて考えてない。


 ただ、自分の気持ちを考えて見た時ににリアネの事が頭に浮かんで、気付いてしまった。


 ――――ああ……やっぱり俺はリアネの事が好きなのだと。

 

 その事に気付けたから断る口実を考えていたのだが、どうにも見当たらない……。


 見た目は王族だからなのか、凄く美人だ。

 何度でも言うが、凄く美人だ。

 性格だって悪くない。

 頭だって、獣神決闘の時に王の代わりを務めるくらいには良い筈だ。


 まさに才色兼備を地で行くような人物に、どういう理由で断れば良いのだろうか?

 国の厄介事にしたって『もしも嫌なら関与しなくて良い』と言われればそれまで。


 もちろんきっぱり断るのが一番だとはわかっている。


 だけど、それこそが難しい。


 俺の頭を覗けるような人間がいれば、他に好きな人がいるなら断れば良い言われるだろう。

 しかしそれが出来れば苦労はしない。


 なぜなら俺は恋愛というものを全くした事がない。

 告白をした事もなければ、された事もないのだ。

 そんな人間に一国の姫からの告白など荷が重いにもほどがある!


 ヘタレとか情けないと言われるかもしれないが、こればっかりはどうしようもない。


 しかし、いつまでもこうしてる訳にもいかないんだよなぁ……。

 もし断って泣かれでもしたら嫌だし、今までの友人的な関係が崩れるのも俺としては嫌、なんだよなぁ……。

 さて……どうしたものか。



「イチヤさん」


「ん?」



 そんなヘタレた思考に陥っていた俺にレーシャからの声がかかる。



「今、イチヤさんが何を考えているのか当ててみましょうか?」


「え?」



 一瞬何を言われたのかわからなかった。


 俺の考えている事を当てる?


 いくらなんでもそんな事は――――。



「リアネさん」


「!?」


「リアネさんの事が好きだから、どう断ろうか。そう考えているのではないでしょうか?」



 レーシャのその発言に俺は目を見開く。

 正直かなり驚いている。


 まさか俺の思考が読めるんじゃないだろうな?

 もしかしてレーシャはエスパーなのかっ!?


 そんな俺の表情を見て、確信したように一つ息を吐く。



「どうしてわかったんだ?」


「……イチヤさんは顔に出易いですからね。それと好きになった人の事は理解しようと努めるものでしょう?」



 俺の発言で俺の気持ちを確信したのだろう。

 どこか誇らしげに、そしてどこか哀しげにレーシャがそう呟く。

 悲しげな表情と共に……。



「悪い……レーシャの事は嫌いじゃないんだ。むしろ好きか嫌いかで言えば好きだと言える。ただ、それ以上に俺はリアネの事を好きなんだ。だからごめん……」


「好きならいいじゃありませんか。……どうしても私とお付き合いは出来ませんか?」


「本当にごめん」


「ふぇ……うぅ……ひっぐっ」



 はっきりと俺が断りの返事を告げると、レーシャが嗚咽を漏らし、泣き出してしまった。


 なるべくレーシャを傷つけないように断ろうと思っていたのに結局こうなってしまったな……。


 レーシャの泣き顔をみているとこっちまで辛くなる。



「……ごめん」



 こういう時どうしたら良いんだろうか?

 俺には謝る事しか思いつかない。



「ひっく! イチヤさんの気持ちはわかりました……。イチヤさんが”一番”好きなのはリアネさんなのですね」


「あぁ」


「ひぐっ……では私は何番目なのでしょうか?」



 一番好きな相手の事を聞かれ、きっぱりと返事をする俺。

 するとレーシャは意味不明な質問をしてきた。

 告白を断ったレーシャからの質問なので、罪滅ぼしにはならないだろうが、少し考えてみる。


 一番好きな相手はリアネだ。

 可愛いし、料理は上手い。性格だって守って上げたいと思える。


 じゃあ二番目は? と聞かれると……。



「女友達として考えるならレイラが二番、レーシャは三番目だ」


「そうですか……ぐすっ! では友達としてではなく女の子としてなら私は何番ですか?」



 レーシャの言葉にまた少し考える。


 意味のわからない質問だが、目元を拭っているレーシャを見ると答えずにはいられない。



「女の子として考えるならレーシャは二番目だ。それは間違いない」


「二番目……そうですか……二番目なのですね」


「うん。レーシャは美人だし、接してみてわかったけど、俺はレーシャの性格とかも好きだよ。もしもリアネに出会ってなかったらレーシャの告白を受けてたと思う」


「そう言ってもらえるといくらか救われますね」



 泣きながらも俺の発言に苦笑するレーシャ。


 リアネを好きだと言った手前、レーシャの性格を好きだと褒めた事に不誠実だとは思ったのだが、これくらいは許して欲しい。



「ぐすっ。あの……!」


「うん?」


「イチヤさんは私を異性としてなら二番目だとおっしゃいましたよね?」


「うん」


「ひぐっ、でしたら、私がイチヤさんの事を想う事を許していただけませんか? 二番目でも良いので私の気持ちを受け入れて頂けませんか?」



 レーシャがまだ泣き顔のまま、どこか懇願するような瞳を向けてくる。

 涙は止まらない……。


 そんなレーシャの発言に少しだけ思案する。


 これはあれだよな……断られた女の子が、次に好きな人が出来るまでで良いので好きでいて良いですかというやつだよな。


 そこまで想っていてもらえた事に嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 だから、少しの罪悪感を持ちながらもそのくらいならと思い、俺はその言葉に答える。



「レーシャがそれで良いっていうなら俺は構わない。むしろレーシャにそんなに想ってもらえてた事を誇らしく想うよ。ありがとうレ――――」



 俺の言葉が終わらない内にレーシャが走ってきて俺の胸に飛び込みしがみつく。


 えっ!? なにこの状況?

 なんで断った相手が俺の胸に飛び込んでくるの?


 訳がわからずレーシャを見る。

 すると彼女は俺の胸に顔を埋めたまま一言。



「……言質はとりました」



 ボソッと呟かれた一言なのだが、なぜか威圧感を感じる。

 レーシャの呟きに嫌な汗が吹き出た。


 ちょっと待ってくれ! 言質って何っ!?



「あの……レーシャさん。状況がまったく飲み込めないんですが……」



 困惑した俺が問いかけるとしばらくすーはーすーはーという音が聞こえた後、満面の笑みを俺に見せる。



「これでイチヤさんと私の婚約が成立しました。陛下やみなさんが証人です」



 は?


 いやいや! ちょっと待て! どうしてそうなるっ!?



「俺、レーシャの告白を断ったよな」


「え? 私、”まだ”イチヤさんに断られてませんよ?」



 は?


 意味がわからない。



「俺ちゃんとごめんって言ったよな?」


「えぇ。謝罪の言葉を口にして頂きましたね。ですが”付き合えない”、”出来ない”という言葉をイチヤさんは一言も言ってませんよ」



 レーシャの言葉に俺は自分の発言を回想する。


 ……確かに言ってない。

 ……言ってないけども。



「普通ごめんて言えばわかるだろ?」


「では、私は普通ではないのでしょうね」



 そう言って、ペロッと舌を出すレーシャ。


 絶対わかってるだろう!



「まぁ私は普通ではないと言う事で、わかりませんでした。その上で『二番目でも良いので私の気持ちを受け入れて頂けませんか?』と聞いたところ、イチヤさんは了承してくれました」



 了承した! 確かに了承したけども!



「あれって次の人が見つかるまで、俺の事を好きでいても良いかって質問じゃなかったのか?」


「違いますよ。私をイチヤさんの二番目の恋人にしてくださいって事です。まぁまだリアネさんとは付き合ってないはずですし、実質一番ですが。それと気持ちでも一番を目指すのでよろしくお願いしますね」



 俺は思わず絶句する。


 え? 二番目の恋人って何?


 必死で今の現状とレーシャの言動を考えるが頭が思考するのを拒むように回らない。

 だが、ここで口を開かなければまずいと本能が警鐘を鳴らしている。



「俺はリアネが一番好きなんだ。二番目とは言ったけど……二番目だからこそ、付き合う事はできない?」


「どうしてですか?」


「普通、一番好きな人同士で付き合うもんだろ。二番目に好きだからって付き合う事は出来ないだろ?」


「なぜですか?」


「いや、なぜって……常識――――」



 そこまで言ったところで俺は言葉を切る。


 待てよ……普通、付き合う相手は一人だ。

 それが常識だ。


 でも、その常識は元の世界にいた時の常識。

 この世界の恋愛感というものを聞いた事がない。

 ずっと牢屋にいたからな。


 まさかとは思うが……。


 俺は自分の思い至った結論を口にしてみる事にした。



「レーシャ。一つ聞きたいんだけど良いか?」


「何でしょうか」


「この世界の恋愛とか結婚とかってどういう風になっている?」



 俺の質問を聞いたレーシャがまるでその質問が来るのがわかっていたように笑みを浮かべ、口を開く。



「恋愛に関しては甲斐性さえあれば、一人の男性が複数の女性と付き合うケースはよくありますし、結婚に関しても同様です。イチヤさんの世界で言うところの一夫多妻制というものです。イチヤさんの世界と違い、一夫一妻制ではありません。この世界には魔物という脅威、魔獣という災害があり、いつ死んでもおかしくないので、次の世代に希望をつなぐ事を推奨しています。なので実力のある人間には多数の女性と婚姻を結ぶ事を良しとしているのですよ」



 恋愛感と結婚感について語るレーシャの言葉を聞き、俺は肩を落とす。


 色々とラノベなんかを見てきたのに失念していた。

 いや、本当にラノベみたいな一夫多妻制……ハーレムがあるなんて思わないだろう。

 俺からしたらハーレムなんていうのは物語の世界の話だ。


 あ、ここ異世界だから物語の世界と言われれるばそういう世界だったな……はぁ……。



「納得していただけましたか?」


「うん。この世界についてまた一つ理解したよ」



 天井を見上げながら盛大にため息を吐く。


 どうして明日の挨拶をしに来ただけだったのにこんなに俺は疲れてるんだろうな。



「あの……イチヤさん、私と付き合うのはそんなにお嫌ですか?」


「はぁ……」



その言葉に俺は天井からレーシャへと視線を戻す。

 レーシャが笑顔で俺を見ていたまた一つため息が出た。


 確かにレーシャは笑顔を俺に向けているがその笑顔はぎこちない。

 しかも俺のしがみついている手は小刻みに震えているのだ。


 自分が大切だと思える人間にこんな態度を取らせたくない。


 これは……覚悟を決めるしかないか。



「嫌な訳ないじゃないか」


「それじゃあ!」


「レーシャの告白を受けるよ。これからよろしく」


「はい……! はい! こちらこそよろしくお願いします!」



 俺の返事に満面の笑みを浮かべうれし涙を流しながら、さっきよりも強く抱きついてくるレーシャに思わず苦笑がもれる。


 少し早まった結論を出してしまったかもと思いながらも、まぁなんとかなるか。と楽観的に考える。


 こうして俺は王女であるレーシャと付き合う事になった。

今日の10時に投稿できないので、今投稿させていただきます。

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