表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/196

111話 領地へ出発する前の出来事

 新しく創り出したヒール丸薬で王妃様を治した後、すぐにメルドさんが医者と治癒士を引き連れて戻ってきた。

 そんなメルドさん達だったが、王妃様に目を向けると驚いた表情を浮かべる。


 今朝まで黒塊病という不治の病にかかって苦しんでいた人が、今は顔色も良くなり、黒塊病が綺麗さっぱり治っているのだから驚くのも無理はないだろう。


 すぐに王妃様の状態を確かめ、念の為にと治癒士の方も王妃様に回復魔法を施していた。


 一応ヒール丸薬には体力回復の効果も付与したのであまり意味はないと思うが、念には念を入れるのは良い事だろう。


 お医者さんや治癒士さんがなにやら慌しく動き回る中、後は任せても大丈夫だろうと判断し、俺は王様の自室を後にした。




 二日後、再び俺は王様の自室に呼ばれた。

 なぜ呼ばれたかといえば、王妃様が直接お礼を言いたかったそうだ。



「イチヤさん、あの時は治して頂いたにも関わらずお礼の一言も言えず申し訳ありませんでした。改めて、先日は私の病気を治して頂きありがとうございました」 


「いえ、お気になさらないで下さい。それよりもお体の方は大丈夫ですか?」



 王妃様が感謝の言葉を口にして頭を下げてくる。

 そんな王妃様に体調について尋ねると彼女はこの前あった時とは比べ物にならないほど、元気な笑顔を見せてくれた。


 こんな笑顔が見られるなら治せて良かったと心から思えるな。



「はい。おかげさまで、自分の力だけで歩いたり食事を摂る事も出来るくらいには回復しました。これも全てイチヤさんのおかげです」



 どうやら本当に元気になったようだ。

 あのヒール丸薬は初めて創ったものだから何か副作用が生じていないかと少し心配だったのだが、杞憂だったみたいで良かった。

 でもまさかここまで感謝されるとは。

 確かに治る見込みが皆無だった病気を治したんだから当然なのかもしれない。

 だけど今まであまり感謝された事がないので、こういう裏表のない感謝というのはなんだかこそばゆい。


 この世界に来るまでは疎まれるか害されるかしかなかったからなぁ。

 そう考えると、やっぱり俺にとってこの世界に来れた事は良い事だと思える。


 ……これが拉致ではなく、ちゃんと説明した上での召喚であったならね。

 召喚する事が決定事項ならせめて説明してから連れて行けとあの女神に言ってやりたい。


 もし女神に会う機会があるのなら訳もわからず連れてきた事への落とし前はつけさせる。

 まぁ連れてきた世界がそれほど悪くなかった事と、バグ並のステータスとチート能力のおかげでこの世界で生き抜く力を与えてくれた事を考慮して、一発で済ましてやろう。

 だが必ず一発は殴る。絶対にだ。


 俺は女神に対して黒い感情を抱きながら新たな決意する。


 王妃様とお茶をしながら他愛のない話をし、しばらくすると公務が終わったレーシャとルース王子がやってきた。

 今度は四人でお茶を楽しむ。

 ルース王子から俺がここに召喚されてから今までについて話して欲しいと強請ってきたので、ある程度ぼかして聞かせて上げる事にした。(さすがにレーシャと揉めた件は伏せておいた)

 俺の話にレーシャの恥ずかしい話も含まれていたのか顔を真っ赤にする一幕もあったが終始なごやかな雰囲気でお茶会は幕を閉じる。

 最後に王妃様から改めて感謝の言葉を頂き、王妃様達と別れた。

 

 

 それからも何故か頻繁に王族の人達と接する機会が設けられた。

 王妃様とのお茶会はもちろん、公務があるはずのレーシャも頻繁に牢屋を訪れたり、何故か謁見の間に呼ばれ、王様に近況報告をしたり等。


 頼み事を聞いたからなのか、王妃様の病気を治した事が原因なのかはわからない。


 普通こんなに頻繁に王族に会う機会ってあるのか?


 そう思い牢屋にやってきた委員長にも確認してみたが、レーシャとは話すが、王様にはそんなに頻繁に会ったりしないし、王妃様には一度も面会したことないそうだ。

 

 一体どうしてこんな事になっているんだろうか?



 そして、俺が(強制的に与えられた)領地に向かう前日、またしても玉座の間へと呼ばれた。

 たぶん明日この王都を旅立つので挨拶の場を設けたのだろう。

 だが、今日呼び出された理由は俺が思っていた以上に厄介なものだった。


 まさか王様達がそんな事を考えていたとは……予想もしていなかった。



「イチヤ殿、元気そうでなによりだ」


「はい。王様も、おかわりないようでなによりです。ってこのやりとり二日前にもしましたよね。そんな短い間にそうそう変わりませんよ」


「アハハ、そう言うな。これも様式美だ」



 王様のいつもの挨拶に苦笑交じりに返す。

 何度もここに呼ばれ、王様と話をした結果、気さくに話す間柄にまでなったのだ。

 異世界召喚された直後には考えられないくらいの進歩だな。


 二日前にもここへと呼ばれ、他愛のない話をした。

 あの時はなんで忙しい筈の王様が、わざわざ俺なんかを呼んだのかわからなかった。


 そして今日、二日前の違う点が一点、この前はレーシャとメルドさん、ジェルド達少数の騎士しかいなかった玉座の間に今日は王妃様とルース王子、王族の全員が揃っていた。



「それで、イチヤ殿を今日呼んだ理由なのだが」


「明日、俺が領地に向かうので、その挨拶ですよね?」



 たぶん公務が忙しい王様達が明日見送りに来れないので、今日別れの挨拶をしておこうとかそんな感じなのだろう。

 俺としてもやっぱりここを発つ前にお世話になったお礼は言っておきたかった。



「うむ。それもあるのだが、実は他にも言っておく事がある」



 なんだろう……凄く嫌な予感がする。

 王様がこう言う時って大抵俺に面倒事が降りかかるんだよな。



「実はな――――」


「いえ、お気持ちは嬉しいんですけど、俺には無理ですごめんなさい」


「まだ何も言っておらんではないかっ!?」



 王様の言葉を遮り断りの言葉を入れてみた。

 まさか王様も俺がこんな行動に出るとは思ってなかったようで、思いっきり目を丸くしている。


 だって聞いちゃったら引き受ける流れになるかもしれないじゃん。

 それだったら聞く前に答えた方が良いと思うんだよね。

 ……無駄な抵抗なのはわかっていますが。



「とりあえず聞いてから判断してくれ。本当に無理なようなら断ってくれて構わんから。な?」


「はい……」



 結局はこうやって聞く羽目になるんだから現実は無常だ。

 はぁ……。



「ゴホンッ。実はな、イチヤ殿に与えた領地に、ここにいるレイシアも一緒に連れていってはくれぬか?」


「はい?」



 突然レーシャの同行を請われ、思わず素っ頓狂な返答をしてしまう。


 なぜ一国の姫であるレーシャを獣人族との国境付近にある領地に同行させるような真似を?

 確かに獣神決闘での功績で同盟を結ぶ予定であるからあまり危険視していないが、それでも姫を行かせるのは少々危ないんじゃないか?



「いくら同盟を結ぶからといっても、さすがに一国の姫であるレーシャを同行させるのは危ないんじゃないですかね? それに確か一ヶ月前は俺が住む場所に転移石を設置する事で話がついたんじゃ?」


「うむ。確かにイチヤ殿の言う通り、あの時はそれで話がついたのだが……少々事情が変わってしまってな」



 なんとも言いにくそうにしている王様。


 事情が変わったって一体何があったというのだろうか?

 レーシャを連れて行かなくちゃいけないほどの国の事情など想像も出来ない。



「その事情とは?」


「私が陛下に願い出たのです」


「レーシャ?」



 王様が話すよりも先にレーシャが前に進み出る。



「陛下、失礼だとは思いますが、これは私の問題ですので、私からイチヤさんに事情を説明してもよろしいでしょうか?」


「……それが良いな。むしろその方が助かる」



 レーシャの言葉に王様がそう返す。


 最後の方はぼそっと言ったつもりみたいだがしっかりと聞こえましたよ、王様。



「それで、その事情とは?」


「ええ、ですがその前にイチヤさんには伝えておきたい事があります」



 気のせいか、やや体がこわばっている様子でレーシャが俺をまっすぐに見つめる。


 一体何を言われるのだろうか?


 いきなりレーシャが同行しなければいけない程の事情。

 その前に伝えておかなければいけないほどの案件など想像もつかない。


 何か不測の事態でも起きたのだろうか?

 だからレーシャが俺が向かう領地に同行するのか?

 もしそうなら王族であるレーシャが同行するのも頷ける。

 後で皆にも伝えておかなければいけないな。

 アルにはレーシャの護衛を頼んだ方が良いだろう。

 俺ももちろん協力するが、不慣れな俺よりアルの方が良いだろう。


 その他にも魔物の事だったり、流行り病だったり、飢饉のような嫌な予想が頭を巡る。

 とりあえず色々な予想をしてみたが、最終的には聞いてみない事にはわからないか。


 俺もレーシャと同じような感じに姿勢を正して聞く姿勢をとる。


 レーシャとは違い緊張はしていないが。


 さぁ、どんな内容でも受け入れてやろうじゃないか。

 たぶん獣人族との決闘ほど難しい事ではないだろう。


 しかしレーシャから飛び出た言葉は俺の予想を遥かに超えたものだった。

 深く息を吸い込んだ彼女が一息にその言葉を告げる。



「イチヤさん、私はあなたを一人の男性として愛しています」



 ……は?



 俺の思考が完全に停止する。


 まさか本当に、言葉が爆弾のように威力を持つということを、この時俺は初めて知った。

5月20日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございました。

5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ