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107話 王様の頼み事4

「それではイチヤ殿に領地を任せ、レイラ殿とアルドル殿には補佐をしてもらう。転移陣の設置も了承してもらえたところで話を進めようか」



 うなだれたままのアルを放置する形で王様が話を進めようとする。


 アルの扱いがややぞんざいに思えるが、いつもの事だろう。

 まさか王様にまでアルがこんな扱いを受けるとは思わなかったが……。


 一応アルもこの国を救った人間の一人なのだが、色々とやらかしている点を考慮すると仕方がないように思える。

 アルの奥さんであるシャティナさんには王様も敬意を示していたのでおそらくこういう扱いを受けるのはアルだけなのだろう。



「では今度こそあと二つの頼みというのをお聞かせ願えますか」



 アルの扱いについては俺も似たようなものなので異論はない。

 それにやっぱりアルについて来てもらえるのは俺も心強いからな。



「うむ……では二つ目の用件なのだが、イチヤ殿の奴隷である獣人族達を解放してあげて欲しいのだ」


「奴隷の解放……ですか」


「あぁ……褒章として獣人族の少女達をイチヤ殿の奴隷になってもらったのだが……すまぬ。獣人連合と同盟を結ぶ事になった今、さすがに獣人族を奴隷にしているのは体裁が悪くてな……今、ラズブリッタに住んでいる獣人族の解放を行っておるのだ」



 確かに獣人連合と同盟を組むというのに、その種族を奴隷にしているというのは罰が悪いだろうな。

 元々彼女達には俺のメイドとして働いてもらっていたわけだが、俺としては彼女達を奴隷として扱った事は今まで一度もない。


 なので奴隷から解放してあげる事に反論はない。

 反論はないのだが……。


 今まで一緒に過ごしてきた事を思うと少し寂しくはあるな……。


 だが、奴隷から解放する事で彼女達の未来が広がるというのなら受け入れるべきだろう。

 それが一時的にでも彼女達の”ご主人様”だった俺の最後の務めだ。



「わかりました。俺は彼女達の奴隷解放を受け入れます……ただし彼女達が俺の下から離れても不幸な事にならないよう助けられる部分は助けてあげてください。それが俺が奴隷を解放する条件です。どうかよろしくお願いします」



 俺は王様に深く頭を下げる。


 今まで炊事、洗濯、掃除と世話になった彼女達にしてあげられる事がこれくらいしかないというのは申し訳ないが、俺が彼女達にしてあげられるのはこれくらいだ。


 そうしてしばらく頭を下げた俺は頭を上げる。

 再び王様と目が合い次の言葉を待つ。


 すると王様が、わずかに口角を上げた。

 なんとなくその笑みがどこかいやらしい笑みに思えた。


 なんでそんな笑みを向けられるのか不思議に思っていると、ようやく王様が話しだす。



「イチヤ殿は本当に彼女達の事を大切に思っておるのだな」


「それは当然ですよ、一緒に生活していましたし、なにより今の俺にとって彼女達は家族同然に大切な存在だと思っています」



 王様へとはっきりそう告げる。


 これが俺の嘘偽りない思いだ。



「ははは! イチヤ殿の気持ちは十分伝わった! では引き続き彼女達にはイチヤ殿のお世話をお願いしよう。君達もそれで良いな?」


「「「はい!」」」



 いきなり王様が破顔して笑い出したかと思うと、リアネ達に目を向け彼女に質問する。

 その王様の質問に彼女達は元気に返事をした。


 え? 引き続き俺の世話をするって一体どういう事だ?


 リアネ達は奴隷から解放されたんだからこれからは自由に……彼女達獣人族の国家である獣人連合で暮らしていくんじゃないのだろうか?



「あの……これは一体どういう事でしょうか?」


「うむ……実はイチヤ殿達が来る前に彼女達には奴隷という身分を解放する事は話しておって、今後の身の振り方をどうしたいかは聞いておる。なるべく彼女達の希望に沿うようにしたいと思って聞いてみると皆口を揃えてこう言ったのだ。「これからもイチヤ殿のお世話をさせて欲しいです」とな」



 その言葉を聞いて驚いた。

 それと同時にそう思ってもらえてた事が嬉しく思い目頭が熱くなる。


 大切に思っていたのは俺だけじゃなかった。

 彼女達にも同じように想われていた事が本当に嬉しいと思う。

 これからも彼女達を大切にして、共に歩んでいきたい。

 

 みんな本当にありがとう……。



「さて、二つ目の件もまとまったな。イチヤ殿には彼女達を褒章として仕えてもらっていたわけだが、奴隷から解放する事でその褒章がなくなったわけだ。なので今後何か欲しい物があれば言って欲しい。なるべくイチヤ殿の希望に沿うように努めよう」


「……良いんですか?」



 俺としてはこれからもリアネ達と過ごせるだけでも十分だったので思わず聞いてしまう。



「弱小国家とはいえ国家は国家だ。そのトップである王族が褒賞を取り上げた上に代わりのモノを用意しないなどとは外聞が悪すぎる。ワシの為にもそうしてくれると助かる」


「わかりました。謹んでお受けいたします」



 さすがにそう言われてしまっては断るわけにはいかないだろう。


 リアネ達の件で十分だと思ったが、後で何かあった際に王様への貸しは大きいかもしれない。

 何か困った事が起きたときには使わせてもらおう。



 とりあえず二つ目の件であるリアネ達の奴隷として解放する件はこれで終わりのようだ。

 てっきり今すぐこの場で奴隷として解放するのかと思ったらそうではないらしい。

 獣人連合との同盟締結が一ヵ月後なのでそれと同時に行うそうだ。



「さて……ではこの件については納得してもらったという事で最後の頼みだな……」


「はい」



 王様が先程よりも重苦しい感じで口を開く。

 心なしか表情まで硬く見える。

 レーシャの方を見ると、王様と似たような感じの顔をしている。


 そんなに大変な内容なのか?

 俺にだって出来ない事はあるので、出来る範囲の願いである事を祈る。


 頼み事の内容がどんなものかわからないので顔には出さないが心の中で若干の不安を抱えていると、急に王様が玉座から立ち上がり俺の方までやってくる。


 一体なんだろうか?



「……最後の件については王としてではなく、一人の個人としての頼み事だ。もしも無理でも仕方がないと思っておるが、出来るようであれば叶えて欲しいのだ。頼む……」


「え? え?」



 いきなり具体的な内容も知らされず頭を下げられた俺は困惑する。


 王様がいきなり頭を下げてくるってどんな展開だよ!

 これどうしたら良いわけ? 誰か教えて!



「陛下。それではイチヤさんも困ってしまいます。まずは頭を上げて内容を伝えてください」


「お? おぉっ!? そうじゃった……すまぬイチヤ殿。レーシャからきいてもしかしたらイチヤ殿ならと思い気が急いてしまった……すまぬ」


「いえいえ」



 レーシャにやんわりと窘められた王様がガバッと顔を上げると、少し照れたように謝罪の言葉を口にする。


 その様子に内心ではおっさんの照れ顔なんて見たくないと思いながらも、にこやかに気にしてないアピールをした。


 俺の様子を見て気を取り直した王様が一つ咳払いをする。



「それでは改めてイチヤ殿に頼みたいのだが……出来れば場所を変えさせてもらっても良いだろうか?」


「え? あ、はい」



 よくわからなかったが返事をする。

 玉座の間では聞けない内容なのだろうか?


 でもここって普通に謁見などで使う場所だし、ここで出来ない話ってなんだ? それとも頼み事の内容がここでは聞けないものなのだろうか?



「では、着いてきてくれ。他の者については解散してもらっても構わない。皆の者、ご苦労であった」



 王様がアル達に向け労いの言葉をかけ出口へと向かう。

 その後を俺やレーシャ、ジェルドにメルドが後を追う。

 玉座の間を出て王様がスタスタと歩いていく。


 一体どこに向かっているのだろうか?

5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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