10話 交渉1
少し長くなりそうだったのでこの話は二つにわけて投稿します。
玉座の間はしばらくすると落ち着きを取り戻す。
怪我をしている者や気絶している者は治癒できる者に治療をされている。
王族や騎士達も少しだけだが表情を崩す。
一応この場所だけは安全を確保しただけで戦争が終わったという訳じゃないが一時的にでも休めるというのは心に余裕が出来るものだ。
ただクラスメイト達には悲壮感が漂う。
クラスメイトの一人が亡くなったからだ。
だが俺は亡くなったと知っても何の感慨も起きない
それは俺をいじめてたグループの男だったからか、それともクラスメイト全員に当てはまるのかはアルやレイラ、リアネと接した事で自分でもわからなくなっていた。
ここにいた牛人族達は俺とアルが出くわした獣人族と同じように縛り上げて今は大人しく床に座っている。
「さて」
俺は縛り上げて一箇所にまとめた牛人族達に向き直ると話を始める。
「ワシ達は負けた。さっさと殺せば良かろう」
ゴルドが代表して言葉を発する。自分達が負けた事を理解し、殺される事を覚悟している。他の牛人族も同じようだ。命乞いをしないあたり本当に誇り高い種族なのだろう。
「あぁ!今すぐ殺してやるよ!お前等は葉山の仇だからな!」
そう言って激昂し槍を取り出しているのは葉山の友達だった谷口が槍を構え、牛人族達に突きつける。俺は谷口と獣人の間に割って入り谷口を睨みつける。
「どけ!」
「俺さっき言ったはずだよな。俺の邪魔するなら次は殺すぞって」
「だからどうした!元の世界で俺達にびびって学校に来なくなった奴がでかい態度とってんじゃねぇよ!」
谷口はこの場を誰が治めたのか頭に血がのぼっていてわからないようだ。
「仕方ない。こうゆう輩は後々めんどくさい事になりそうだし……殺すか」
まるで虫でも殺すかのように気軽に言っている俺を見て他の連中が顔を青ざめさせる。
先程の戦いを見てしまった後では冗談に聞こえないだろう。
一触即発の空気に皆が固唾を呑んで見守る中アルが割って入る。
「あ~はいはい。とりあえずお前等落ち着け、このままじゃ話が進まねぇじゃねぇか。イチヤ、何度も注意させんな。お前は過激な振る舞いを少しは控えろ。怯えられんのがお前の本意なのか?」
「……気をつける」
どうやら俺の方も元の世界の経験から谷口に対して刺々しくなっていたようだ。さっきアルと約束した大切な人間を作るってのはまだよくわからないが、最初から怯えられたんじゃ何も進展しない。
もちろん悪意ある奴には容赦しないが、ここには俺に悪意を持っている奴だけじゃないのだ。
そんな連中を怯えさせても何も得るものは何もないだろう。
俺が素直に引き下がると今度は谷口に向きなおる。
「お前さんも少しは落ち着いた方が良いぞ。今は戦時中だ。仲間が死んで殺した相手は生きてる。憎む気持ちはわかるが少しは冷静になれよ」
アルがそう言うと谷口はブルブル震えだす。そして怒りの形相で槍の穂先をアルに向ける。
「わかる……だと。おっさんが知った風な口きいてんじゃねぇよ!!目の前で仲間が殺されてもいねぇのに気持ちがわかるとか口走ってんじゃねぇ!邪魔するならてめぇら二人から始末してやるよ!」
「はぁ……これだから話の通じねぇガキってのは嫌いなんだ……」
小声でそう呟くアル。槍の穂先を向けられていてもアルは冷静さを失っていない。むしろ冷たい目をして谷口を見たかと思ったら普通の人間であれば視認することすら不可能な速度で動いた。
もう槍の穂先はアルを捉えていない。その代わりアルの剣先が谷口の喉元に触れている状態だ。喉元から少し血が滴り襟元の辺りに血が付着して少しずつしみが広がっていく。
「誰が。誰を始末するって……?」
感情のこもらない声でアルは訪ねるが、谷口は何も答えられない。さっきまでの威勢はどこに言ったのか戦意を消失している。
「粋がるのは勝手だがな。少しは自分の実力を把握して喧嘩する奴は選んだ方が良いぞ?じゃないと今度死ぬのはお前さんだ」
アルは剣をしまうと谷口が槍を手放し膝からがくっと倒れこむ。
それを見てさっきまでの明るい表情に戻ると何事もなかったように振舞おうとする。
「おい」
俺はこいつにいってやらなくちゃいけない
そう。俺には言う資格があるだろう
「ん?なんだ?」
「さっき俺には”過激な振る舞いは少し控えろ”っていったよな?」
「あぁ、言ったな」
「じゃあ今のアルの振る舞いはなんだ?」
「なんだと言われてもな……調子にのった若い奴の鼻っ柱をへし折ってやるのは大人の務めだろ?」
アルが悪びれもせずにそんな事を言う。
「大人の務めなのはわかったが、剣先を喉元に突きつけて今にも殺しそうな雰囲気だったのは?」
「怒る時に笑ってたら締まらないだろ。それに加減くらいわかってるって」
「血が出てたんだが?」
「文字通り血の気の多い若者の血を抜いてやったんだよ」
自信満々にそう言われてしまうと俺からはもう何も言えなくなる。周りの皆も怖がるのが正しいのか呆れるのが正しいのかよくわからない表情をしていた。
「さて」
俺は仕切りなおしといわんばかりに先程の台詞をもう一度口にする。だが場の雰囲気がこれ以上ないほど微妙な感じになっている為どうにもしまらない。
もうシリアスな話し合いもクソもないだろう。
牛人族達もなんとも言えない微妙な表情をしている。
この際場の雰囲気などは無視する
とにかく話を進めたいのだ
「最初に言っておくが、俺はお前達を殺したりはしない」
「じゃあ捕虜にでもしようというのか?捕虜に成り下がるくらいならワシ等はここで自決の道を選ぶ」
勝手に結論付けて舌を噛んで死のうとしている連中を俺は止める。
「捕虜にする気もないから安心しろ。とりあえずこれを飲め」
そういって取り出したのはヒール丸薬。先程のメイドに渡したのとは別に自分用に持っていた物を取り出した。だが牛人族達はその薬を見ると憤慨した様子で俺を睨む。特にキツイ眼差しを向けてくるのはゴルドだ。
「見下げ果てたぞイチヤ・カブラギ!ヌシの手にかかって死ぬのなら本望だと思っていたが、戦いの中で殺すのではなく、毒殺という卑劣な手段でワシ等を殺そうとするなどとは!!」
どうやらさっきの戦いで痺れ薬を使ったせいで誤解を与えたようだ。
「違うっつの。これはヒール丸薬って言って傷を治す薬だ。わざわざ毒薬なんて使うか。そんな真似するくらいならさっきの戦いで全員ぶっ殺してる。こんな苦労してまでお前等を生かしてる意味なんてねぇよ」
「だが……そんな薬、聞いた事がない……やはり」
一応俺の言った事が間違っていないという気持ちはあるようだが、それでも不安は拭えないらしい。だがそれは当たり前だ。長年争ってきた人族が自分達に薬を飲ませるなどおかしいと思うだろう。
だが今は時間が惜しい。
俺はそう考えゴルドの前に立つと勢い良く腹を蹴り上げる。
「ごはっ!」
「貴様ぁぁああ!」
ゴルドの部下である牛人族達が縛られながらもこちらを目で殺さんばかりに睨みつけてくるが、それら一切を無視して蹴った事で開いたゴルドの口の中へヒール丸薬を放る。飲み込んだ事を確認するとしばらく牛人族達の罵詈雑言を聞きながら待つ事にする。
「そろそろか」
俺が独り言のように呟くき、少しするとゴルドの体に異変が起きる。さっき俺が付けた傷がみるみる塞がっていく。それを見たゴルドや他の牛人族達が目を見開いた。
「な……なんだ…………この薬は!?」
「傷が塞がっていく……」
これを見て驚いたのは何も牛人族達だけではなかった。アル以外の他の人間も驚いている。
まぁ元の世界やこの世界にはない。俺のゲーム知識で作ったものだから驚くのも無理ないか
「とりあえず効果がわかってもらえたようだから他の牛人族にも飲んでもらう」
「ちょっと待って欲しい」
そう言って止めたのは一人の騎士だった。
「時間がないんだ。手短にしてくれ」
「すまない。だがどうして獣人にはその薬を使って私達にはその薬を渡してくれないんだ?私達の方が獣人よりもひどい怪我を負った者も多い」
「勇者の中には回復魔法使える奴がいるだろ。それにこいつらは縛られて自分達で治療する事もできない。なんなら俺の治療薬をやる代わりにこいつらに治癒魔法かけてやってくれるか?」
そう言って騎士たちに回復魔法をかけている勇者達を見ると、あからさまな感じで目を逸らす。やはりさっきまでの戦いの中で恐怖や憎悪を植えつけられたのだろう。誰もやりたがらなかった。
顔は納得していないような感じだったが、騎士は俺の言葉と周りの反応を見て大人しく引き下がった。
怪我をしていた牛人族達にあらかた薬を飲ませ終えると、ちょうど扉の方から兵士が二人ほど入って来た。入って来た兵士は王様の側に寄ると他の者に聞こえないように何かを話している。王様はその話に一つ頷くと俺に声をかける。
「イチヤ殿」
転移初日は呼び捨てだったのだが、今は敬称をつけて呼ばれている。先程の戦いを見て俺への評価が上がったんだなと内心どうでも良い事を考える。
「なんでしょうか?」
「先程言われたとおりイチヤ殿がここに来るまでに縛り上げた獣人達を一箇所に集め終わったと報告が入った」
「どうもありがとうございます。助かりました」
俺はいつもの話し方とは違い、なるべく不敬にならないように言葉に気をつけながら応じた。
しかしそれを聞いていた王様が苦笑する。
「よいよい、正式な場でない限りはいつも通りの話し方をしてくれて構わんよ、話づらかろう?」
「ではお言葉に甘えて……俺とアルの二人で一箇所に集めるのは骨が折れただろうから助かった。感謝する。」
「うむ。してこの後どうするんじゃ?」
「こいつら連れて、向こうの総指揮官様に交渉しに行って来る」
俺がそう言うと、王様が驚き、ゴルドが声を上げた。
「卑怯な……ワシ等は仲間を売る気はない!そんな事をするくらいなら名誉ある死を選ぶ!」
舌を噛んで死のうとする牛人族達だが俺がそれに待ったをかける。
「お前等それで死ねると思うのか?」
「何だと……?」
「こちらには回復魔法を使える人間がいる。そいつらに無理やりにでもかけさせる。例え舌を噛み切ろうともお前等が死ぬ事は出来ないだろうよ」
「くっ……」
「それに……俺がお前等に名誉ある死なんて与えると思うか?」
ゴルド以外の牛人族達の顔色が一瞬で蒼白になり力なくうなだれている。
さっきから話が中断されてちょっとイラッと来てるから少しくらい脅しても構わないだろ
アルが非難がましい目を向けているが、あと少しばかり脅しとくか
その方がいう事も聞くだろう
決して面白いからって理由じゃありませんヨ?
「わかった。そこまで死を望んでいるなら俺が叶えてやるよ」
「……本当か?」
「あぁ、俺が直々に殺してやるよ」
俺の気が急に変わったことを疑わしく思っているようだが、外にいるであろう仲間に迷惑が掛からない事に若干安堵の色が窺える。
「だが、さっきも言ったように名誉ある死なんてものは期待するなよ」
ゴルドが、安堵の顔から一転して顔を強張らせる。それを見て一人の獣人の背中を蹴ると四つん這いにさせる。
「……何をする気だ?」
「殺すんだよ、ただしお前等の言う名誉ある死ではなく”不”名誉な殺し方をしてやる」
俺は創生魔法で槍を精製しそれを四つん這いにした男の”ケツの穴”へと照準を定める。男は抵抗しようともがいているが、俺が精製した縄で幾重にも縛られている為もがく以上の事が出来ない。
「お……おい。動くな。狙いが逸れるだろ!」
「やめろっ!やめてくれ!頼む!」
男が懇願するように頼んでいるが俺はそれに対して背中を思いっきり踏んで動けなくする事で答えとした。この状況、たぶん第三者から見たら完全に悪役は俺だろう。現に王族やクラスメイト、騎士たちまでもが、先程まで殺しあっていた牛人族達に哀れみの目を向けている。
「お前等が望んだんだろ。安心しろ。死体は”そのまま”お前等の仲間に引き渡しておいてやる。」
そう言って持っている槍を振り上げる。
「待て!」
ゴルドが青ざめた顔で俺を止める。俺は槍を持ち上げたままの状態で冷めた目をゴルドに向け、次の言葉を促す。
「頼む……待ってくれ」
「時間がないんだが、少しだけ待ってやる。ただしお前等の人数分俺が槍を精製するまでだ」
そう言うと俺は槍を精製し始める。一つ約三秒くらいで精製でき、もう一本精製しているので猶予は一分二十七秒といったところか。
「ひと~つ、ふた~つ」
焦らせるように数を数えて精製していく。案の定ゴルドの表情が目に見えて焦っているのがわかるが俺はそのまま精製し続けていく。
「み~っつ」
一つ作っては床に落として槍が音をたてる。その音がまるで彼等には死の宣告のように聞こえているだろう。
次第に槍が積み重なっていく。
そして二十を超えた辺りでゴルドがようやく声を発した
「……わかった。ヌシに従う」
「ゴルド隊長!」
「隊長として、仲間として、おヌシ達にこんな死に方はさせられない」
憔悴しきった様子で告げるゴルドに牛人族達は涙を流しながら隊長であるゴルドを見ている。自業自得とはいえ多少なりとも罪悪感が芽生えた。
「殺す気なんて無かったくせに変に調子に乗るからこうなる」
いつの間にか近くまで来ていたアルが俺だけにしか聞こえない声で話しかけてきた。
アルの言うとおり俺に殺す気なんて無かった。というかケツに槍をさしたくらいじゃ運が悪く出血多量にでもならない限り死なないだろう。死ぬまでに時間がかかるのでその前に槍を抜いて薬を飲ませる予定だった。
この手段は相手が冷静だった場合見抜かれただろう。突飛な殺し方で相手を動揺させ時間制限を設ける事でたまたま成功したから良かったようなものの失敗してたらめんどうな事になってた。
成功して良かったぁ……
俺は心の底からそう思った。
次の話は明日中に完成させて投稿しますのでよろしくお願いします。
いつも読んでくださる方ブックマークしていただいている方いつもありがとうございます。なるべく毎日話を投稿できるように頑張りますのでみていただけるとありがたいです。