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104話 王様の頼み事1

すいません。かなり遅れました。

あれから玉座の間を後にした俺とレイラはそのまま牢屋へと戻った。


 俺は好きであの場所を寝床にしているから良いんだが、今のレイラだったら部屋くらい用意してくれるんじゃないのか?


 そう思い尋ねて見たところ「私もあの場所は悪くないと思っている」と言っていた。

 俺が言うのもなんだけど、レイラも変わっていると思う。


 牢屋へと戻るとリアネ達が待っていた。


 リアネなんて俺の姿を確認すると同時に俺に駆け寄り抱きついて涙まで流して喜んでくれた。


 俺の胸にぐりぐりと顔を押し付け抱きつく姿は可愛かったのだが、なんとも気恥ずかしかった。


 これは帰ってきた時みんなから声援を送られた時よりも恥ずかしかった……

 しかもみんな微笑ましい表情で俺達を見ていたから余計にな……


 そんな再会の一幕があったが、それからは何事もなく一週間が過ぎた。

 この一週間は何事もなく平穏無事に過ごせた。


 リアネが食事を作り、他のメイドやエヴィ達が掃除や洗濯をしてくれるので、俺はのんびりと読書を楽しんでいた。


 レベル上げをしていた時は常に命の危機に晒されるわ、食事も持ってきた物が尽きたら現地調達だった事を考えると今の生活とは天と地ほどの差がある。


 獣人族との諍いも終わった事だし、しばらくはのんびり出来るだろう。

俺は忙しくしているよりもこういう生活の方が性に合っている。


 やっぱり平和が一番だよなぁ。


 初めてここに連れてこられた時はどうなる事かと思ったけど、この生活には満足している。

 むしろこの生活がずっと続けば良いとすら思っている。



「ただ一つ気がかりな事があるんだよなぁ……」



 本をパタリと閉じ俺は誰にも聞こえないくらいの声で一人そう呟く。


 気がかりな事――――それは獣神決闘が終わってラズブリッタに帰還し、玉座の間を出る際に王様の一言。



「後日頼みたい事があるので、悪いがもう一度ここへ呼ぶ事になるだろう」



 獣神決闘を終えて獣人連合との同盟の話がほぼ確定した今、俺に何をさせたいのだろうか?

 面倒臭そうな予感がするんだよなぁ……


 もう一週間経ってるしこのまま頼み事がなかったことにならないかな。


 そんな事を考えていたのが悪かったのか、牢屋の扉が開かれる。



「イチヤ、お客さんだ」


「お久しぶりです、イチヤ様」



 そう言って恭しくお辞儀して入ってくるレーシャ。

 王女なのに。



「お、レーシャか。久しぶり」



 牢へと入ってきたレーシャに笑顔でそう返す。


 レーシャとは一週間ぶりだ。


 獣神決闘も終わり俺達が勝った為、勝者の願いとして獣人連合との同盟を望んだ。

 国同士の件なので、王女である彼女もここにくる余裕がないほど忙しいらしいとアルから聞いている。

 

 俺にとっては一週間はそれなりに時間はあるのだが、国の問題が一週間程度で解決するはずもない。

 という事はレーシャがここに来た理由は一つだろう。



 「レーシャがここに来たって事は、この前王様が言っていた頼み事の件か?」


 「……えぇ。陛下がみなさんを呼びに行かせようとしていたので私が代わりにやってまいりました」



 俺が思っていた事を口にすると、どこか不機嫌そうにそう返してきた。

 

 入ってきた時は一瞬嬉しそうにしていたが、俺が話を振ったら途端に不機嫌になった。

 どうしてだろう?



「何か機嫌悪そうなんだけど、ここに来るまでに何かあったのか?」



 さすがに原因がわからなければどうしようもない。

 何かあれば力になってやりたいと思い聞いてみた。



「いえ、大丈夫です。……今私が怒ってるのは心情的な問題なので」



 とりあえず不機嫌そうなのは変わらないが、俺に言われた事により軟化した。


 うーん……力になってやりたいが、本人がこう言ってるしこれ以上聞くのは止めておこう。

 本人が言いたくないようだし、これ以上聞きだす事もない。

 本当に困った事になれば相談してくれるだろう。



「それよりもここに来た件なのですが、イチヤさんの言ったように陛下が呼んでいるので一緒に来ていただけますか? 他の皆様ももう向かっていると思いますので」


「他の皆?」



 一体誰の事を言っているんだろう? もしかしてクラスメイト連中か? 

 アルはここにいるし、レイラもいる。


 思い浮かぶ、呼ばれそうな連中って事はそれしか思い浮かばない。

 もしそうだったら行くの面倒くさいなぁ……


 委員長くらいだったら構わない。

 だが、好き好んでその他のクラスメイト達と顔を合わせたいとは思わない。


 この間あいつらに発破をかけたのだって成り行きみたいなものだったしな。



「たぶんですが……イチヤさんが思っている方達ではないので安心してください」



 どうやら顔に出ていたのか俺の顔を見てレーシャが苦笑する。



「クラスメイトじゃないんだな?」


「はい。勇者様方ではありません」


「一体誰が呼ばれてるんだ? あと王様の頼み事って何かわかるか?」


「知っていますが、それは直接陛下に聞いてください」



 何を頼まれるのか前もって知りたかったのだが、その質問をするとまたレーシャが不機嫌に。


 王様の頼み事にレーシャが不機嫌になる要素があるのだろうか?





 機嫌が悪くなる原因と頼み事との関連性が結びつかないままレーシャの後に続き玉座の間へと進む俺とアルとレイラ。

 何度目かの玉座の間に、すぐに通される俺達。


 中に入ると王とジェルドやリーディのような騎士達、俺の世話をしてくれている獣人メイド達、最後に王様には劣るが豪華な服を着た見知らぬ貴族の老人が待っていた。


 何でリアネ達がいるんだ? それにあの老人は誰だろうか?


 頭に疑問符が浮かぶ。


 俺への頼み事なのに一体何が始まるのやら。



「イチヤ殿、レイラ殿、久しぶりだな。アル殿には最近来てもらっておるから久しぶりではないが、まぁともかくよく来てくれた。とりあえず楽にしてくれ」



 王様が始めにそう言われ、アルとレイラがいわれた通りにする。

 俺? 俺は元から楽にしているよ。



「それで王様、頼み事を聞く前に聞いておきたい事があるんですけど良いですか?」


「なんだろうか?」


「何で俺への頼み事なのにアルやレイラも呼んだんでしょうか?」



 そう。一週間前に言ってたのは俺への頼み事だ。

 頼み事の内容と違いそれほど重要視していなかったので、レーシャに聞くより王様に聞いた方が良いと思った。



「二人を呼んだのはイチヤ殿への頼み事の内容に関わるから呼ばせてもらった」


「そうですか。じゃあリアネ達を呼んだのも?」


「うむ。それも関係しておるし……後は確認だな」



 確認? リアネ達に確認する事ってなんだろうか?



「後は――――」


「まだあるのか?」


「すいません。これで最後です」



 若干王様が驚きの表情を浮かべる。


 確かに少し足早に聞きすぎたか?

 でも気になるんだから仕方ないだろ。



「その人は誰ですか?」


 王様から視線を謎の老人に向け質問する。

 さっきから黙ったままこちらに穏やかな目を向ける老人。


 この人は一体何者なのだろうか?



「自己紹介が遅れて申し訳ない。陛下のお話が終わってからと思っておったのですが……私は新しく大臣になったメルドと申す者です。以後お見知りおきを」



 そう言って一歩前に出て俺へとお辞儀してくる老人……メルドさんは自己紹介を終え、また元の位置に戻っていった。


 新しく大臣になった人か。

 あれ? じゃあ前の大臣はどこに言ったんだ?

 さすがに国の大臣がいきなり首っていうのも変な話だよな。



「前の大臣は今騎士団の厳しい監視の下、牢に繋いでおる」


「牢っ!?」



 俺が不思議そうにしていた事を察した王様が口を開く。

 そしてその言葉に俺は驚いた。


 一体何があったら国の大臣が牢屋なんかに入れられるんだ?



「あの……聞いて良いのかわかりませんが、何で大臣が牢屋に入れられたんでしょう? 仮にも一国の大臣ですよね?」


「あぁ……実は――――」



 そう質問すると、王様は苦々しい表情をしながらも説明してくれた。


 どうやら前にアルが国の情報が他国に漏れているかもしれないので身辺調査をして情報規制を徹底するように王様に進言した事が事の発端だった。

 アルのアドバイス通りに自分が尤も信頼を置く臣下ジェルドに調査をさせ、そいつが白だと判明したら今度はその者に調査をさせ調査させる者をある程度まで増やしたそうだ。

 あまり増やしすぎると黒だと思われる者も警戒するのでほどほどにだ。


 ある程度の人数が揃ったところで本格的に調査を開始。

 調査は騎士や文官、国民や奴隷にまで調査が及んだ。それもかなり徹底的に。

 そして調査をした結果、かなりの人数が摘発された。

 その中には貴族などの身分の高い者も何人かいたそうだ。

 もちろん大臣も。


 前の大臣はラズブリッタの情報を帝国に売っていたらしい。


 王様もこれには驚いた事だろうな。

 まさか国の中枢を担う大臣が他国に情報を漏らしていたなど国のトップからしたら笑い話にもならない。



「――――それで文官長をしていた私に大臣として白羽の矢が立ったと言う事です。もちろん私の後釜にもそれ相応の者を就かせましたのでご安心を」



 王様の言葉を引き継ぎメルドさんがそう告げる。


 いや、安心しろと言われてもね。

 俺この国は好きだけど、国の運営に関わる訳じゃないからなんて返事すればいいかわからないよ。


 まぁとにかくそういう経緯で大臣は投獄されたらしい。

 俺への頼み事が一週間先になったのは色々と引継ぎ作業など国に関わる仕事で忙殺されたからだそうだ。


 前の大臣の処罰は反逆罪として死刑みたいだ。

 ……と言われても顔を見た事があるだけで直接関わった事がない俺からしたら何の感慨も起きない。



「とりあえずあやつの事はもう良いだろう。それよりも今重要なのはイチヤ殿への頼み事の方だ」

「……確かに。そちらの方が」



 気持ちを落ち着けるように一つ王様が息を吐き出し、真剣な表情で俺へと向き直る。

 大臣も訳知り顔で頷いていた。


 いよいよか……一体何を頼まれるんだ?


 内心戦々恐々としながらも気持ち居住まいを正した。

5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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