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101話 獣神決闘 終結 中編

 少しの間医療テントで休んでいたら騎士の一人が俺とレイラを呼びに来た。

 御子達が倒されて少し慌しかった獣人達の方が落ち着き、獣神決闘の願いの話をする為呼びにきたそうだ。

 話し合いについてはレーシャが全て行うから俺は必要ないかと思ったのだが、決闘で戦った人間は全員参加するようにとの事。


 限界突破(リミット・ブレイク)を使ったので、まだ少し体がだるい。

 ヒール丸薬でも限界突破のデメリットは回復してくれないからなぁ……


 それでも少し休んだから試合終了直後よりは大分マシにはなっている。

 これなら何かあった時に全力とはいえなくとの少しは戦えそうだ。


 レイラの方も歩く分には問題なさそうなので、呼びに来た騎士と一緒に二人で医療テントを出た。

 アルとシャティナさんには俺達が休んでいる間にレーシャに何かあっては事なので護衛についてもらっている。

 おそらく二人は獣人族との話し合いの場にすでにいる事だろう。



 騎士に引き連れられ獣人族との話し合いの場――――決闘していた場所から少しだけ離れた拓けた平原にやってくる。

 この場には既に獣人族で参加したであろう全員と、獣人族の爺さん、レーシャ、アルとシャティナさん、ジェルドにリーディが揃っていた。

 獣人族の後方には数多の獣人族、俺達の後方には少数の騎士や魔術士が俺達の話し合いを邪魔しないぎりぎりの距離で話し合いを見守るように立っている。


 まぁ話し合いといってもこちらから同盟を結んで欲しいと願い出るだけなんだけどな。


 俺達が来た事を確認すると、獣人族の爺さん――――おそらく獣人族の中で一番えらいのだろう人物が話し始める。



「これで獣人連合とラズブリッタ王国の獣神決闘を終了とする……」



 獣神決闘終了を宣言した爺さんは額の皺を深くして何かを諦めたような表情をしている。

 よく見てみると後方にいる獣人族や似たような表情をしていた。

 決闘に参加していた御子以外の連中までもがどこか重苦しい表情だ。


 この世の終わりのような表情をしているな。

 確かに長年ひどい目にあわせてきた人族と同盟を結ぶのは獣人族としても嫌なものだろう。

 でもそれなら絶望的な顔じゃなくもっと憤ると思うんだがどうしてだ?


 疑問に思いながらも状況を見守っていると、爺さんが肩を振るわせながら話を続ける。



「して――――ラズブリッタの姫よ、そなたらの勝ちだが、負けたワシらに何を望む……? どうせ貴様らがワシらに望む事なぞ奴隷にして過酷な労働や厳しい戦いを強いる事じゃろう……わかっておるわ」



 爺さんがどこか沈痛な面持ちでそう言っているが、この爺さん何を言っているんだ? 獣人族達の望みが何かは知らないが、こちらはそんな事を望んじゃないない。

 というか、獣神決闘で勝利した時の願いって決闘前に伝えてると思ったんだが違ったのか。

 てっきりもう伝わってるものだと思っていた。

 こちらの願いを知らないなら獣人族達のこのお通夜のような表情にも納得だ。


 人族に仲間を連れ去られ長年奴隷として使われてきた仲間達の事があれば獣人族の伝統であり、遵守しなければいけない決闘で負けたのであれば奴隷にされるかもしれない不安を感じるのも無理はない。


 もちろんレーシャというかラズブリッタ王国はそんな事を望んじゃいない。

 現にレーシャが爺さんからの言葉に目を白黒させている。



「ちょっと待って下さい! 私達はそんな事のぞ――――」

「納得出来るかっ!」



 話していたレーシャの言葉を遮るものが現れた。

 御子でも獣人将でもなく、声を荒げ前に進み出てきたのは虎人族の獣人だ。


 慎重は180くらいの若そうな青年で、俺には獣人族の見た目で年齢を把握する事は出来ないが、その顔立ちから見て俺よりも少し年上っぽい感じがする。たぶん。


 そんな青年が人垣を掻き分け、斧を手に持ち怒りの形相でこちらへと進み出てくる。

 相手が武器を持っている事を考えレーシャに危害が及ばないようまだ距離は離れているが、俺やアル、ジェルドやリーディがレーシャを守るようにして立つ。


 ようやく終わるかと思った獣心決闘だが、まだ一悶着ありそうで正直げんなりする……


 終了間際に起こった青年の乱入に臨戦体勢で構える俺達。

 一応何があっても対処出来るようにはしているが、こちらから手を出す気はない。

 みんなも同じように考えて相手の動向を窺っていると青年が口を開く。



「こんな決闘無効だろ!」

「は?」


 青年がこの場にいる全員に聞こえるように、獣人族に語りかけるようにして叫ぶ。

 そんな青年の言葉に思わず俺の喉から低い声が漏れる。


 こいつ今この試合が無効だっていったのか? こんなに苦労して戦ったのに? 俺達や獣人族の連中が精一杯自分の全てを出して戦ったのにそれをなかったことにしようとしてんのか?



「おい……ふざけんなよ」



 自分でもわかるくらいに怒りを込めた声を発すると、俺のドスの効いた声青年が肩をビクッとさせる。

 だがそれも一瞬ですぐにこちらを睨みつけてきた。



「ふざけんなだと、こっちこそふざけんなだ! なんで決闘に負けたからってお前等の奴隷にならなければならないんだ! 普通に戦争していればこちらが勝っていたのにそれを決闘で決めるなんておかしいだろ! そもそもなんで我々獣人族の神聖な獣神決闘を人族なんかとやらねばならないんだ!」



 人族に対しての罵詈雑言に加えおかしいおかしいと喚き散らす青年の姿を見ると餓鬼に見えて仕方ない。


 いや、完全に餓鬼だな。

 その姿は勝負をしたは良いが、負けた途端、騒ぎ出す子供と一緒だ。


 こういう奴を見ていると、苛立って仕方ないんだが、さすがにこれからの獣人族とラズブリッタの未来を考えるとここで下手に手を出すわけにはいかない。


 そう思い力いっぱい握り拳を作り、癇癪を起こしているこの幼稚な青年に苛立ちを覚えつつもだんまりを決め込む。


 ここは俺が何かして問題を起こしていい場ではないし、他の人間に任せた方が良さそうだな。


 俺はこの青年から視線を外すと周りに目を向けるが、みんなどうしようかという風に困ったような表情を浮かべるばかりだ。


 誰も抗議の声上げないのをどう解釈したのかわからないが、話しながらも俺達の様子を見ていた青年が得意げな表情になると、俺達に背を向け獣人族達に向き直る。



「なぁ! みんなも我等の長年の伝統である獣人決闘を人族なんかと行って負けたなんて許せないだろ? 屈辱だろ? それにこいつらがもしかしたら不正をしたのかもしれない。いや、絶対したはずだ! 出なければガムロデ様や御子様たちが負けるなんてありえない!」



 そんな青年の言葉に周りがざわめきだす。

 

「確かに」「獣人将様達が負けるはずない」「あいつら不正してたのか」と口々にそんな言葉を漏らし、青年の怒りや疑念が伝播していく。


 まずい流れだな。


 ここにいる獣人族の数は俺達の何倍何十倍だ。

 もしこいつらが一斉に襲い掛かってきたら確実に死者が出る。


 犠牲を最小限にしようと思っての獣神決闘だというのにこれでは意味がなくなってしまう……


 先程とは違いこれはすぐに解決しないとまずいと思った俺は頭を働かせる。


 だが、焦りが思考を鈍らせ良い解決策が思い浮かばない!


 こんな時どうすれば良い? どうすれば……


 その間にも獣人族から感じる負の感情が波紋となって広がっていく。


 青年が自分の発言を聞いて今にもこちらに襲い掛からんばかりの獣人族達の様子を見てわずかに厭らしい笑みを浮かべ更に先導しようとするように口を大きく開けた。


 ――――その時。



「ぶべらっ!」



 いつの間に背後に現れたのかわからない速度で青年の背後に現れた人物が、青年の頭部を殴り地面へと叩きつける。

 その行動にこの場にいる全員が呆然とした表情でその人物へと視線を釘付けにされる。

 そして殴った人物――――御子の一人であるラライーナの表情は、誰が見てもわかるくらいに怒りを貼り付けていた。



「静まれ愚か者共!」



 顔面を地面にめり込ませた青年の頭を足蹴にし、ラライーナが怒声が響き渡る。


 試合でしか彼女とは接していなかったのだが、さっきまでのどこか人を食ったような態度をとっていた彼女からは考えられない姿だ。

 おそらくこっちが本来の姿なのだろう。


 そんな彼女が言葉を続ける。

  


「まったく、最近の若者は……場も弁えず騒ぎ出しおって……嘆かわしい!」



 騒ぎ出している獣人族を視線を送りながら怒り心頭といった感じで、地団太を踏むかの如く足蹴にしている青年の頭を何度も踏みつけている。


 その度に青年の体がビクンッ!ビクン!と跳ねているが、あれ大丈夫なんだろうか?

 さっきまでの態度は腹が立つが、あの様子を見ていると死なないか若干心配になるぞ。


 周りも足蹴にされている青年の安否が気になるのか、視線を向けているが、踏みつけている張本人であるラライーナは全く気にした様子がない。


 そして最後に強く青年の頭を踏みつけると、睨みつけるように獣人族を見ながら告げる。



「血気盛んな若者なら多少の事は大目に見よう。しかし、長年受け継がれてきた獣神決闘という獣人族の伝統ともいうべき決闘を軽んじようなど許される行為ではない! それが例え相手が人族とだとしてもだ! この決闘での結果は覆る事はない! お主等に少しでも獣人族としての誇りがあるのならこの結果を受け止めろ! もしも意義があるならワタシのところへ来い!」



 ラライーナの言葉に先程までざわめいていた獣人達全員が黙り込む。

 場が静寂に包まれる。

 誰一人口を開かないのを確認した彼女が今度はこちらへと振り返ると、レーシャに目を向ける。



「ラズブリッタよ、すまなかったな。若者共が場を弁えず騒ぎすぎてしまった」

「いえ、私達は気にしておりませんので。それよりも……」



 そう言いながらレーシャがラライーナの足元へと視線を向ける。

 そんなレーシャの視線に気付いたラライーナは一度強く踏みつけると。



「気にするな」

「……はい」

「こんな瑣末な事よりもそなたらには言うべき事があるだろう。そなたらの願い……望みとはなんだ?」



 こちらを射抜くかのような鋭い視線。

 常人では射竦められるんじゃないかと思うほどの視線だが、最後は自分の仕事だというようにレーシャが胸を張りながら堂々とラライーナの視線を受け止める。


 その姿は普段の可愛らしい彼女とは違いどこか頼もしさを感じた。


 次に 大きく深呼吸を一度行ったレーシャはラライーナから目を放し、今度は獣人族一人一人に目を向けるかのように見回す。


「ここに集まっている獣人族の皆様聞いてください!」


 ラライーナのおかげでこの場が静まっている事を確認し、よく通る声でレーシャが声を上げる。


「私達、ラズブリッタ王国は獣人族の奴隷化など望んでいません! 私達がこの獣神決闘の勝者として望む願いとはあなた方獣人連合とラズブリッタの同盟締結です!」


 レーシャのその宣言は高らかにこの場に響き渡った。

読んでいただきありがとうございます。


5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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