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100話 獣神決闘 終結 前編

すいません、遅れましたorz

 ラライーナ倒れ伏し、しばらくしてから獣人の審判がやってきてラライーナの状態を確認し、続いて小走りに走り去って行く。

 方角からいってレイラとシィナが戦っていたところだろう。

 向こうの方も決着がついているからその確認に行ったようだ。

 すぐに戻ってきた審判は重苦しい表情をしていながらも、手を挙げながら宣言する。



「獣神決闘最終試合……ラライーナとシィナの戦闘不能により……この試合、ラズブリッタ側の……勝利と……する」



 その宣言と共に辺りにどよめきが起こる。

 ラズブリッタ側は兵士や治療等で同伴していた魔法使い達が歓喜の声を上げ、中には互いに抱きあって涙を流す者までいた。

 レーシャも膝をつき、口に手を当て信じられないかというように目を大きく見開き涙を流している。

 一方獣人族の方は、御子がやられた事が余程意外だったのだろう。

 真っ青な顔で俺と倒れているラライーナを見ている。


 しかし今の俺にそれに応えてやる体力は残っていない。そんな切りもないしな。



「はぁはぁ……なんとか俺達の勝利ってところか……」


 

 若干の頭痛に頭を悩ませながら息も絶え絶えに俺はそう口にする。


 正直結構ぎりぎり感が否めない。だが、レベル上げが実質二週間くらいしかなかった事を考えると、結果としては上々だろう。


 地べたに胡坐をかき、天を見上げ、疲れを吐き出すかのように大きく息を吐き出した。

 体はこの上なく疲れているが、気持ちとしては満足感で満たされている。



「どうやら勝利したみたいだね」

「レイラか」



 レイラの声がしたのでそちらの方に顔を向けると、彼女がふらふらとした足取りでこちらへとやってきて俺の隣へと腰を下ろした。


 戦闘中に火柱が起こり心配になったので、ラライーナを倒したら向かおうと思っていたのだが、ラライーナが思いのほか強敵だったので体力を使い果たしてしまった。

 なのでレイラの方からやってきてくれたのは助かった。これで心配事はなくなったな。


 後はレーシャが獣神決闘での勝者の願いを伝えるだけだから俺のすることはもうないはずだ。

 一応何があっても良いように少し休んで体力を温存しておこう。

 まぁ三回戦を余裕で勝利したアルや、獣神決闘に参加していなかったシャティナさんがいるので大丈夫だと思うが念には念の入れて休んでおいた方が良いだろう。

 ――――だがその前にやる事がある。

 俺はゆっくりと立ち上がり、レイラと一緒にいつの間にかラライーナの前に集まっている二人の獣人族のところまで歩いていく。


「おい」

「なによ。あんた、もう勝負はついたんだからこれ以上御子様に何かするようならアタシが容赦しないわよん!」

「特に何かするつもりはねぇよ。ただ結構派手にやっちゃったから心配になって様子を見に来たんだ」

「人族が獣人族の心配? そんな言葉を信じられると思ってるのっ!」


 どうやらラライーナ――――というか御子というものは獣人族にとって相当大切な存在のようだ。

 ラライーナの様子を見に来た俺に敵意と警戒心をむき出しにしたオカマがヒステリックに俺へと噛み付いてくる。


 本心で言ってるんだが、長年の確執もあるし仕方ないのもわかるがどうしたものか。


 横目でちらっとラライーナに視線を向けると、いくつかの包帯が巻かれているが、他にも何箇所かまだ治療されていない部分があった。

 どうやら試合が終わってすぐに、この二人が治療をしたようだが結構ひどいな……全力でやっちゃったからなぁ……勝負だったから仕方ないとはいえ、これには罪悪感を覚える。


 神獣化している時にできた傷はそのまま元の肉体に反映されるようだ。

 いくつもの切り傷で血が滴ってたり、包帯が巻かれた箇所からは結構広い範囲で血が滲んでいる。



「あんた、アタシ達の御子様をジロジロ見てんじゃないわよ!」



 おっと、少し長く見すぎていたようだ。

 気付くとオカマがさっきよりも険しい顔つきでこちらを見ている。

 俺としては勝負はついたからもう争う理由はないんだがな。



「これ以上ここにいるようだったらあんたを――――」

「ちょっと待てやレレガーダ」



 今にも食って掛かってきそうなレレガーダ。

 そんなオカマの言葉を遮るようにしてさっきアルと戦っていたガムロデが、彼女の言葉を遮り手で制す。

 アルとの試合後のやりとりで俺に対しての敵意が薄れているようだ。

 そのガムロデの行動にレレガーダが標的を変える。



「なんで止めるのよガムロデ! こいつらが御子様をこんな風にしたのよ!」

「だけどこれは獣神決闘、神聖な勝負の結果や。御子様もそれはわかってて参加したんやと思うぞ」

「……それはそうだけど、でも……!」

「でももへちまもあるかい! それにここでこいつに戦いを挑んだら長年の伝統でもある獣神決闘に泥を塗る事になるんや。それでレレガーダはええんか?」

「ぐっ……」



 ガムロデの言葉にレレガーダが奥歯をかみ締め押し黙る。


 最終試合でかなりの力を戦いにならなくて良かった……こいつが誰だかわからないが、ガムロデと対等に接している事からおそらく獣人将だろう。

 今の状態で戦いになっていたらおそらく負けるな。


 俺が内心ほっとしていると、レレガーダが黙ったのを確認してからガムロデが顔を向けてくる。



「それであんさんは何しに来たんや? まさか負けた御子様を笑いに来た訳やないんやろ? もしそうだったら我輩も黙ってる訳にはいかないんやが」



 少しだけ威圧するような視線を向けるガムロデに俺はこいつの言葉を否定する。



「わざわざ疲れた体を引きずってまでそんな事するほど性格歪んじゃいねぇよ。余計なお世話かもしれないが、これを渡しに来たんだ、ほれ」



 そういって腰に提げていた袋を手に取ると無造作にガムロデに向かって放る。

 ガムロデがしっかりと袋をキャッチして、その中身を確認すると、目を見開く。



「……良いんか?」

「別にそんな貴重な物でもないしな。目が覚めたら飲ませてやってくれ」


 

 窺うようなその視線に、俺は何でもない事のように気軽に言う。 

 袋の中にはヒール丸薬が数粒ほど入っている。


 この世界の高級回復薬と同じ効果――――いや、もしかしたらそれ以上の効果かもしれないヒール丸薬だが、俺にとってはいつでも創り出す事が出来る。

 それなら目の前で傷ついてる奴に飲んでもらった方が精神衛生上よろしいのだ。


 傷つけたのは俺なんだがな。



「こいつの効果を知ってる我輩からすればかなり貴重なんやが……」

「う~ん……まぁ……貴重なのかもしれないが、こういうのって必要な時に必要な人間に使わないと意味ないだろ」



 ヒール丸薬に関しては軽くはぐらかしておく事にした。

 これで持っている人間としては認知されるだろうが、たぶんさすがに製作者とは思われないだろう。



「それに」

「それに?」

「これは試合であって殺し合いじゃない。それも終わったんだから少しくらい相手を気遣っても罰はあたらないだろ」

「そうか……あんがとな」



 短くガムロデが感謝の言葉を伝えてくる。

 その事を少しだけうれしく思いながらもガムロデの感謝の言葉に頷きを一つ返す。


 これは試合であって死合いではない。

 俺達と戦ったせいで、ラライーナ達に死なれてはさすがに寝覚めが悪いだろうしな。

 

 だが、さすがの俺も善意だけでヒール丸薬を渡した訳じゃない。

 一応理由はある。

 多少の恩を売っておきたいとも思うが、それは獣人族が人族を憎んでる事を考えれば望み薄だろう。

 ヒール丸薬で回復した人間が個人的に感謝してくれれば良いと思っている。

 それよりも御子二人に死なれる事の方が厄介だ。

 御子がどういう存在なのかはよくわからないが、獣人族にとって彼女達が特別な存在なのは獣人族と少ない時間接した俺にもわかった。

 いくら獣神決闘で戦っての事であっても彼女達を俺達が殺してしまっては獣人族の怒りは際限なく燃え上がるだろう。

 今後の事を考えれば、彼女達には生きていてもらわなければ困る。

 出来れば彼女達には早く元気になってもらえるとありがたい。

  


「さっきから訳のわからないやりとりしてるけど、ガムロデ、その袋の中身はなんなのよ」



 俺が打算的な事を考えていると、俺達の話においてきぼりをくらっていたレレガーダが訝しげに袋の中身を聞いてきた。

 ここは薬の持ち主だった俺が話して余計な反感を買うよりもガムロデに説明を任せた方が良いだろうと思い、見守る事にした。

 立ち去っても良いとは思うんだが、それもまた反感を買いそうだしなぁ。



「これは即効性の薬や。それ以外は我輩もよぉわからんのや」

「そんなよくわからない薬を御子様に飲ます気っ!? ふざけんじゃないわよ!」



 あー……これはガムロデに任せたのが間違いだったか。

 確かに説明としてはその通りなんだけど、正直その説明じゃ不信感を抱くだろう。

 現にレレガーダが怖い顔でこちらを睨んでいる。


 ……面倒くさいが、これ以上面倒な事が起こる前に俺が説明した方が良さそうだ。 



「これはヒール丸薬といって、死んでない限り、どんな傷や状態異常も回復してくれる」



 一応麻痺や毒なんかにも効くのかダンジョンで確認したから大丈夫だ。

 呪いのような状態異常についてはよくわからないが、この場では言わない方が良いだろう。



「死んでいなければどんな傷や状態異常も治す薬? そんなものあるわけないじゃ――――」

「効果については我輩が保証すんで、それにお前もその薬飲んで今元気にしてるやないか」


 

 怒鳴り散らそうとしたオカマの言葉を再び遮り、ガムロデが口を挟む。

 するとオカマがガムロデの言葉を聞き、呆けた表情をする。


 一体どうしたんだ?

 というか、さっきガムロデが薬が必要だった相手ってこいつだったのか。



「さっきの薬ってこいつからもらったのかしら?」

「そうや。お前も飲んだんだからあの薬の効果が凄いのはよくわかるやろ」

「……不本意だけどね」



 さっきしようしたようで、ヒール丸薬の効果を知っているオカマが不機嫌そうになりながらも口を噤む。


 とりあえずはこれで大丈夫だろう。

 あとはラライーナ達が起きたら飲ませてくれるはずなので、もうここにいる意味はない。



「それじゃあそろそろ退散させてもらうわ」

「なんや……その……二度も薬をもらって悪いな」

「気にすんな。それじゃあな」



 そう言って俺達はラライーナの下を後にする。

 これで一先ず大丈夫だろう。



「さて、俺達の役目は終わったし、医療テントにでも行って少し休むか」

「そうだね。私も割と疲弊しているから少し休みたい」



 さっき座って休んだとはいえ出来ればちゃんと休みたい。

 後はレーシャに任せておけば大丈夫だろうからゆっくりしよう。


 少し重たい体を引きずりつつ俺は医療テントへと向かった。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は17日の予定となっております。


5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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