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99話 獣神決闘 最終試合決着

すいません!10時に投稿しようとしたら遅れました!><

限界突破(リミット・ブレイク)!」



 能力名を唱えた途端、体から力が湧き上がるのを感じる。


 限界突破――――一時的に自分のステータスを3倍にする能力、短時間しか発揮する事が出来ない上に使った後は体に力が入らなくなるが、神獣化したラライーナを倒すにはこの能力に頼らざるを得ない。


 俺は手にしたアズウィールを構えると、ラライーナと対峙した。





 イチヤとラライーナが対峙する中、レイラとシィナの戦いはすでに始まっていた。

 レイピアと短剣のぶつかる音が辺りに鳴り響き、拮抗する二つの力。



「あれは……イチヤが限界突破を使ったのか……」



 レイラがイチヤを一瞥してそう呟き、すぐにシィナへと視線を戻す。

 決して目を逸らして良い相手ではないが、それでもイチヤの安否は気になってしまい、視線を向けてしまったのだが、その隙をつかれシィナの短剣の一撃が肩を撫でる。



「くっ……」

「気になるのはわかる。けど、今はこちらを優先した方が良い。でないと……本当に殺す」



 追撃も出来たはずのシィナが一歩下がると底冷えするような声でレイラへと警告を発する。

 その言葉に息を呑むと、自分の行動を反省するレイラ。

 レイラにとってシィナとは格上の相手であり、他に気を取られていて勝てる相手ではない。

 一見拮抗しているかのように見えるこの攻防も、彼女にとってはシィナの攻撃を捌くので精一杯なのだ。

 イチヤよりは目で追う事が出来ているが、それでも神獣化したシィナの速度は常人には目で追う事もできないだろう。

 


「あなたはよく捌けてる」

「……ふっ! はっ!」

「でもそれだけ。私には届かない」



無慈悲に告げられるその言葉と共に、まるでシィナの短剣が増えたかのような錯覚を覚え、幾重もの剣戟がレイラを襲う。



「ぐぅっ……」



 速度を増して一瞬の間に放たれるシィナの剣戟は10度以上、その半分も受け切る事が出来なかったレイラの四肢が深く切り刻まれ彼女の膝が震えるようにして地につけられる。

 痛みに顔を歪ませるレイラが前もってイチヤから受け取っていたヒール丸薬を口に含みその傷を癒す。

 飲んだ瞬間その傷を瞬時に塞ぎ、痛みも一瞬の内に消え去ったが、残っているヒール丸薬は残り8粒……このまま戦っていればすぐに使い切ってしまうだろう。

 焦りの感情と共にレイラの額からは珠のような汗が一筋頬を伝い流れ落ちた。



「その薬は厄介」



 この薬は敵であるシィナでも厄介な代物だと感じる。

 種族問わずに即死でなければ一瞬の内に回復させるヒール丸薬。


 イチヤはあまり深く考えてはいないが、彼は無制限にこの薬を創生する事が出来、もしもこれが一国に大量に出回ってしまえばおそらく所有している国はどんな弱小国であろうと強国へと姿を変えるだろう。

 その重要性は既に帝国にも知られ、今もなお獣人連合で絶対的な地位を確立させている御子であるシィナにも知れた。

 ヒール丸薬の重要性はレイラも――――いや、一番最初にその効果を体験したレイラが一番よくわかっている。

 だからこそイチヤが獣神決闘に参加する事を知った日に自分も参加し絶対に負けない事を決意した。

 イチヤが戦いの場に赴けば確実にヒール丸薬は知れ渡る。

 帝国ではヒール丸薬の存在は知られても作った人物についての情報は得られていないが、獣人連合にはイチヤが丸薬を渡していた姿を見られている。

 そしてもしこの効果が獣人連合に知れ渡り、この決闘で負ければ、イチヤは一生ヒール丸薬を精製する道具として獣人連合に使いつぶされるだろう。


 レイラにとってイチヤが不幸になる未来は許せない事だ。

 初めてあったその日に苦しんでいたレイラをイチヤが救ったあの日から、レイラはイチヤへの想いを胸に秘める。

 もちろんイチヤがリアネを思っている事もわかっていて、レーシャの気持ちも把握しているレイラはその想いを告げようなどとは微塵も思っていない。


 それでもイチヤには出来るだけの事をしたい。

 先に召喚された者としての知識や、間違っている事を正す事くらいはしよう。

 イチヤが幸せになれる未来を作る手助けをしたい。


 邪魔する者は誰であろうと許さない。


 静かな怒りを胸に宿し心を燃やすレイラにシィナの剣戟が再び迫る。

 光のような剣戟の全てを受け止める事が出来ない事は先程の攻撃で理解しているレイラが取った手段は、致命傷になりそうな攻撃だけは受け止めるというもの。

 軽症は止むを得ないと割り切ったレイラだが、それでもシィナの神速とも呼べる短剣の応酬に肩から肘から膝からピュッという血飛沫がいくつも舞い散りレイラの体を真紅に染め上げる。

 隙を見て再びヒール丸薬を口に含み傷を塞ぐが、ヒール丸薬は血液までは回復してはくれない。

 これまで何度もレイピアを地につけどうにか踏ん張ってきたがいよいよ頭がくらくらしてきたようだ。

 体がふらつくのを意思の力で持ちこたえるレイラもそろそろ限界に近い。

 ヒール丸薬も残り7粒しかなく、時間稼ぎだけなら出来なくはないが、イチヤに大口を叩いてしまったレイラに倒せなかったという選択肢は頭のどこにも存在しなかった。


 そう――――どんな方法を用いてもよければレイラに倒す算段はあるのだ。


 限界に近いレイラはその選択肢を取る。



「さて。あなたもそろそろ限界のはず。今、楽にしてあげる」

「……私はまだやれるんだがね」

「強がりを。でもそこそこ楽しめた。英雄候補を試しに来ただけだけど、さっきの大剣使いといいあなたといい結構収穫」



 無表情の中にもどこか嬉々とした感情をにじませるシィナにレイピアをひきずりながらもどうにか構え満身創痍の状態でレイラが一挙手一投足を見逃さないようにして眼光鋭く目を掛ける。


 血で四肢は汚れ、明らかに立っているのがやっとの状態のレイラを見て、終わらせてあげようという思いのまま短剣を握る手に力を込めるシィナ。

 普通ならばレイラの様子を見れば簡単に倒せると高を括るだろうが、シィナは相手が瀕死とはいえ油断する事なくレイラを見据える。

 長く生きてきたシィナは手負いの獣ほど何をしてくるかわからないという事を理解している為、格下の相手であるレイラにも注意を払う事も忘れない。


 瞬速で接近し、一度フェイントを咥えて攻撃を誘うシィナだが、レイラはその誘いにまんまと乗ってしまいレイピアをシィナに向けつき込むが、予想していたシィナによって軽々と躱されてしまう。

 もう攻撃するのも辛そうな様子に若干の違和感の持ちつつも止めを刺すため短剣を両膝目がけつき込む。


 これだけではすぐ薬で回復し、戦う意思がある限りこの女は何度も向ってくるだろう。


 そう考えたシィナは突き立てた短剣をそのままにレイラの後方に回り込むと、意識を刈り取るために後頭部に強い衝撃を放とうと拳を振るう。


 その瞬間――――。



拘束バインド



レイラの魔法名と同時に地面から幾重にも鎖が飛び出しシィナを拘束する。

 突如現れた鎖で拘束され一瞬目を見開くシィナだったが、すぐに冷静さを取り戻りと鎖を引きちぎろうと全身に力を入れた。


 ところが、いくら力を入れてもその鎖がギチギチという音をさせるだけで一向に引きちぎられる様子がみられない。


 おかしい……魔消石を身につけ神獣化して筋力も上がっているのにまったく千切れない……そう思いながらもう一度試してみるが、やはり千切れる素振りが一切見られない事に疑問を抱くシィナ。


 拘束は初級魔法で、本来でならばシィナの力をもってすれば余裕で引きちぎれるはずなのだ。

 彼女も最初は長年生きてきた経験で、ある程度の魔法の知識ももっているからこそ、慌てる事なく対処しようとした。

 だが思惑に反して鎖が千切れない事に焦りを覚え始める。


 なぜ? なぜ!? 頭の中で何度もその言葉が浮かび、周りを見渡し原因を探る。

 するとシィナが目を大きく見開き自身の足元で釘付けとなった。


 彼女の目が止まった場所――――そこには小さく刻まれた魔法陣が描かれていた。

 レイラが先程よろよろとしながらレイピアをひきずっていたのはこれを準備する為だったのだ。


 魔法陣――――魔法は通常、詠唱して魔法名を唱えれば発動するものだが、魔法陣を使えば魔法の効力を高めより強固にする事が出来る。


 魔消石を持っているシィナが拘束の魔法を引きちぎれないのもこれが原因なのだが、それでも神獣化したシィナであれば時間を掛ければ拘束の魔法を砕く事も出来るであろう。

 現にシィナが強引に引きちぎろうとしている拘束の鎖が一本引きちぎれ、他の鎖にもひびが入っている。


 だが、少しの間だけでも素早いシィナを捕らえるだけで、レイラにも勝機が出来る。

 拘束の魔法を使用し、シィナの動きを封じたのを確認したレイラが膝に刺さった短剣を引き抜き、ヒール丸薬を飲み込む。


 ――――残り6粒。


 傷が癒えたのを確認する暇も惜しいという感じでレイピアを地に突き立て、短剣を引き抜いた時についた血で左右の手に魔法陣を描く。

 時間が経てば拘束が解かれるのは想定済み。

 レイラが焦る気持ちを押さえ込みながらも手に魔力を集中して詠唱を開始。

 手に炎が宿るのを確認してシィナに肉薄して至近距離で魔法を放つ。



業火(インフェルノ)!」

「ア゛ア゛ァァア!」

「ぐぅぅぅっ……!」



 手をシィナへと向け触れるか触れないかの距離での業火の魔法によってシィナがこの試合中初めて痛みで声を上げた。

 魔硝石があるとはいえ魔法陣に強化された魔法は魔消石の効力を上回ったのだ。

 しかしその代償は大きく、自分の手に描いた魔法陣の力により、業火の魔法によってレイラの手は焼け爛れる。

 痛みに涙がにじみ出るがそれを我慢し、再びヒール丸薬を飲み込むと、焼け爛れた部分が再生した。


 ――――残り5粒。


 シィナが痛みで鎖を引きちぎらんばかりに体を揺さぶり、ひびが大きくなると今にも全ての拘束が解けそうになる。

 ギチギチと鎖を揺らしているシィナに向かい、レイラが魔法を唱える。



業火(インフェルノ)!」

「ぐあぁああああ!」

「うっぐっ……」



 再びの業火の魔法に先程よりもシィナの悲鳴の声が大きくなり、胸に提げていたであろうペンダント型の魔消石にひびが入った。

 そしてレイラも焼け爛れた手を回復させるためにヒール丸薬を飲みこの後に同じ事(インフェルノ)を二度繰り返す。


 ――――残り2粒。


 4度行われた業火に焼かれ、2度目の業火で魔消石にひびが入り、3度目の業火でひびが大きくなり、最後の業火でついに魔消石が粉々に砕け散った。


 どうにか魔消石を砕いたレイラだったが、シィナも業火の魔法で負った痛みに鎖を軋ませ暴れたせいかついに鎖が砕かれ光の粒子となって拘束を解いた。

 レイラが通常よりも魔力を注いだ鎖だったのだが、砕かれてしまった。

 しかしよくもった方だとも思う。

 普通の人間がかけた拘束であったならここまでは持たなかっただろう。


 「はぁはぁ……」と荒い息を吐く満身創痍のシィナにすぐさま残りのヒール丸薬2粒を口に含んだレイラがこのまま逃すまいとシィナの腰にしがみつく。



「くっ……はぁはぁ……放せ」



 必死に振りほどこうとするシィナにすぐさまレイラが魔力を集中させ魔法を放つ。



業火(インフェルノ)!」

「があああああああああああああああ!」

「ぐぅああああああああああああああ!」



 魔消石がなくなったシィナに業火を軽減する術はなく、激しい絶叫が響き渡り、同じく先程までは手のひらを焼かれるだけだった魔法に全身を炎に包まれるレイラ。

 炎は勢いを増し二人へと襲い掛かりしだいにその効力が失われていく頃には二人の体からぷすぷすという音と共に体から煙が宙へと舞っていく。

 全身を焼かれ激しい痛みが二人を襲う中、レイラだけが舌を上手く使いヒール丸薬を一粒飲み込んだ。


 ――――残り1粒。


 焼かれた体が再生していく感覚を感じつつも最後の力を振り絞り――――残った魔力を全て使いきるかのように両手に魔力を集めて短い詠唱の後に最後の業火を放った。


 その魔法は天へと届くかのような火柱になり、二人を消し炭にするかのような勢いで燃え盛る。

 いつまでも燃え続けるかと錯覚しそうになる火柱だったが、その勢いが徐々に弱まり、ついには煙だけを残して二人が姿を現す。


 一方は焼け焦げた状態で気絶し地面に倒れ伏した状態シィナ。

 わずかに呼吸を繰り返している様子からみるにどうやら生きてはいるようだ。


 そしてもう一方のレイラは――――。


 全身焼け焦げた状態で膝をつきながらも意識を保った状態で全身ひどい火傷を負っていた。

 そのレイラがわずかに残った力を振り絞りヒール丸薬を嚥下すると、その火傷がみるみるうちに治っていき服以外は何事もなかったかの状態に戻る。

 それでも大量の魔力を使い血も大量に流してしまい、気力を振り絞って戦っていたということもあり、気絶しているシィナを確認した途端に膝から力が抜けて倒れる。

 本来であればもっと前に倒れていてもおかしくはなかった。

 それでもイチヤにいった言葉を守るためにこうしてシィナを倒したのだ。



「悪いねイチヤ……後は任せたよ」



 その言葉を最後にレイラは意識を手放した。



 レイラとシィナの決着がつく少し前――――。



 限界突破を使った俺はすぐさまラライーナへと接近し、アズウィールを神獣化したラライーナの巨体へと叩き込もうとするが、その巨体から繰り出される爪によって弾かれてしまう。


 でかいだけじゃなく、小回りも利くから些か厄介だな……


 侮ってはいけない相手なのはわかっているのだが、さっさとラライーナを片付けてレイラのところへいきたいのが本音だ。

 レイラなら足止めくらいならやってのけそうだが、時間が経つにつれて不利になるかもしれない。

 限界突破の効果が切れてしまったら確実にやられると思うし、ここは魔力を温存するとか考えない方がいいだろうな。


 俺は少し後退するとすぐさま創生魔法によって剣を創生する。

 数は火剣で使った20や30といった数ではなく、倍くらいの数を創った。



『これは……さっきとは比べ物にならないくらいの剣の数だにゃ~』

「その姿でふざけた話し方するのはやめろ。違和感が半端ない」



 ラライーナは艶のある白い毛をなびかせ神々しいほどの姿をしているにも関わらず、少女のそれと変わらない声と妙に軽い口調のせいで全てを台無しにしている。


 声は仕方ないにしても口調はどうにかならないのだろうか?


 そんな不満を内心で抱えつつも創った剣を一斉に放ち、自分もアズウィールを片手にラライーナへと切りかかる。


 次々に襲い掛かる俺が打ち放った剣だが、ラライーナの前面に張られた魔法で出来たような障壁によって全て阻まれ地に落ちる。

 それには動じず俺はアズウィールを袈裟切りに振るった。

 魔法が使えないはずの獣人族が張った魔法の障壁が何なのかを探るための一撃。

 その一撃はいとも容易く俺の攻撃を弾き返し、俺を吹き飛ばした。



『効かないにゃ~』

「――――」



 おどけた様なその口調が余計に腹立たしく感じたが、冷静さを失っては相手の思う壺だ。


 一つ深呼吸をし、もう一度構える。

 さすがに二度も同じような事をするつもりはないので身構えながらもあの障壁をどう対処するかと考えを巡らせる。

 しかし向こうもそこまで甘くはないらしい。



『そっちが来ないなら今度はこっちからいくよ~……ガアアアアア!』

「くっ……土壁(アース・ウォール)!」



 その声と同時にラライーナが大口を開け、方向と同時に先程放った風の砲撃を飛ばしてきた。

 自分の前方に魔力で強化した土の壁を作りどうにか砲撃を防ぎ、わずかな時間で火剣を創りラライーナに向って放つがまたも障壁に阻まれ攻撃は通らなかった。


 まさか絶対防御とかじゃないだろうな……


 俺の勘だが絶対防御ではないように感じる。

 もしそんな能力があるならラライーナと獣人連合の猛者達がいれば他国を容易く滅ぼせるはずだ。

 それなのに獣人連合が他国を滅ぼしたという話を聞いた事はないので、つまり何か秘密があるのだろう。

 まぁ今は時間もない……考えてる時間も惜しい。

 障壁が頑強なのは理解した……だったらそれ以上の攻撃をぶつければおそらく攻撃は通る。


 創生魔法を使い百以上の剣を創り上げる。

 所狭しと全方位に配置された剣はまるで俺を守る盾のように密集し、指示を待つかのようにゆらゆらと浮遊している。

 全ての剣に魔力を帯びさせ、自分の思う通りに動くようにした。

 風魔法を使い一方的に飛ばすのとは違い、限界突破を使わなければ出来ない芸当、未使用の時にはせいぜい一本動かせるかどうかだ。

 魔力を操作するという高度なものなので覚えるのにも苦労した。


 俺が手をかざしラライーナに向けると剣の切っ先がラライーナへと向く。

 

 ――――その時、少し離れた位置から天を衝くような火柱が巻き起こる。


 あの方向はレイラのいる方向だ。魔力の波動を感じるという事はレイラがやったのだろうが、レイラは大丈夫か……?

 彼女の事は心配だが、今目の前にいるラライーナを放置して向こうに行く事が出来ないのも理解している。

 レイラが心配ならさっさとラライーナを倒すしかない……か。


 気持ちを切り替えラライーナに視線を戻すと、ラライーナの様子がおかしい。



『シィちゃん達は決着がついたんだ……ふむ……ふむふむ。えっ!? シィちゃんが負けた。そう……あっ、生きてはいるんだね。良かったよ~』



 何やら何もない空間に話しかけているラライーナ。

 その表情は虎の状態でありながら多種多様で、心配そうな感じや、安堵の気持ちが伝わってくる。

 そんな一人語りをするようなラライーナの一言で俺はすぐさま動き出す。



「えっ! 二人とも重傷?! それ大丈夫なの!?」



 二人とはたぶんレイラとシィナの事だ。

 もちろん中空に話しかけてるおかしな奴の言葉を鵜呑みにするのは変だと思う。

 だけどもし……もしもレイラが瀕死だった場合早く助けたい。



 俺はすぐさま創生した全ての改めて魔力を通すと、全ての剣へと命じる。


 ――――収束せよ。


 俺が空へと手をかざしそう念じると、100本以上の剣達が俺の頭上に集まり巨大な剣を形作る。


 まるで磁石のように集まっていく剣達。

 最後の一本がくっつくと、そこに10メートル以上の超巨大な大剣出来上がった。


 巨大な大剣が出来上がり、すぐさまその剣に自分の意思を伝える。


 ――――穿て。


 脳内でその言葉を唱えた直後、凄まじい勢いで巨大剣は俺の敵であるラライーナをターゲットと見なし、勢いよく飛んでいく。



『そう……じゃあこっちも終わらせないと。え……危ない? 何が? って……えええぇぇえっ!?』



 何かに意識を取られていたからだろう。

 俺の放った巨大剣に気付いた時にはラライーナの目前へと迫っていた。

 驚きの声を上げるラライーナ。

 

 これならいける!


 そう思ったのだが、ラライーナを守る絶対の壁に阻まれ、傷を負わせる事が出来ない。

 ぶつかり合う剣と障壁、ぶつかった先から金属同士が摩擦を起こしたように火花が発生する。

 俺が収束させた巨大剣の切っ先から、衝撃の影響で少しずつ離れていき、地へと落下して行く。

 まだかなりの数の剣を収束させているので形は成しているのだが、このままいけばさっきと同じように防がれてしまうだろう。



「くそっ、あの障壁をどうにかする方法はないのかよっ! これでもやぶられないなんて、いくらなんでもチートが過ぎ……る……あれ?」



 思わず悪態を吐きながら忌々しげにラライーナと障壁を凝視していたら気付いた。

 

 ――――ほんのわずかではあるが障壁に傷が入っている事に。


 ――――虎でありながら表情豊かなラライーナが眉間に皺を寄せているという事実に。


 これが演技だというなら彼女は相当な策士だろう。

 でも今までの彼女の言動や振る舞いを見るにあれが演技だとは思えない。

 現に障壁はかすかにではあるが、ひびが入っている。


 この事から導き出される答えは一つしかない。


 あの障壁は絶対的な守りには成りえない!


「それだけわかれば十分だ。だったら俺のやるべき事も一つだけだ……その障壁ぶっ壊させてもらう!」


 俺は巨大剣を維持したまま、更に並行して創生魔法で次々と剣を創っていく。

 巨大剣の切っ先から一つ、また一つと剣が零れ落ちていく様子を見ながらそれと同じくらいの数を創生し、巨大剣に収束していくよう命じる。

 無茶な能力の使い方をしているせいか、頭にハンマーで殴られたかのような鈍痛がやってくるが、その痛みを無視して俺は作業を行う。


 ラライーナの言葉を信じるならレイラとシィナの勝負はついている。

 だったらここで多少の無茶をしてでも勝たなくちゃいけない!


 徐々に障壁の傷が大きくなり、焦りの様子をみせ始めるようになったラライーナを見て、俄然やる気が出る。


「いけぇえええっ!」


 俺の気合に呼応するかのように巨大剣がついに障壁を突き破り、ラライーナへとその刃を届けた。


 ズガンッという音と共に地面が揺れ、激しい砂埃が宙を舞う。


 荒い呼吸を繰り返しながらもラライーナがいた場所から目を放さない。

 正直かなりの頭痛で今にも膝をつきたい気持ちでいっぱいだが、それはまだ早いと自分を叱咤する。


 派手に舞い散った砂埃はしばらく舞い上がって視界を塞いでいたが、それもようやく落ち着くと、さっきまでラライーナの注視する。


 そこにいたのは――――神獣化が解け、少女の姿となって気絶し倒れ伏したラライーナだった。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新なんですが、ここ三日ほど忙しくなりそうなので、三日更新の予定を一日だけ延長させて頂きます。次回の更新は確実に更新させられるよう14日になりますので、どうかご了承のほど、よろしくお願いします。


5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。



少しでも面白いと思っていただけましたらブクマ、評価、よろしくお願いします。

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