お仕事です
乙女ゲ転生っぽい世界観ですが、違います。
また、タイトルと中身に落差を感じられるかもしれません。センスがなくて申し訳ない…。
貴族子女を中心とする学園でも、食堂は混雑する。
王城で働いていたことがある料理人がいるからか味が良いこともあるし、平民の生徒もいるから集中することもある。それに、この場は比較的自由に使うことが許されていた。ある一角を貸し切ってわざわざ自宅から料理人を呼んでフルコースを堪能したり、複数人で茶会のようなものを開催したり。上流階級も、そのような競い合いなら興が乗るらしい。
スペースを広く使っているという意味なら、私もそのひとりだ。ただしテーブルの上に広がっているのは料理ではない。膨大な量の書籍だった。主に魔道書の類なので、おどろどろしい雰囲気を醸し出している。とはいえ全てに目を通すつもりはない。人避けだ。
そこに、使用人のお仕着せがまるで似合わない男が現れた。当人も窮屈そうだ。胸元を寛げながら、言葉少なに報告したそれは、吉報ではなかった。
「…勘弁してほしいわね。全面対決なんて、誰も得をしないっていうのに」
唇を噛む。誰も得をしないから秘密裏に進めていたというのに、あちら様にはそんな気遣いは通用しないらしい。既に4人…いや、5人か。対象の大半が陥落済みのこの状況、向こうにしてみれば快進撃なのかもしれない。そろそろ畳み掛ける時機であると考えたのだろう。愚かであるが、巻き込まれる周囲のことを考えると、呑気に笑ってはいられない。
「これで5年は遅れるわね」
呟けば、後ろに下がった男の肩が揺れる気配がした。竦めたのだろう。彼はその可能性を受け止めていたから。諦めるのが早すぎると諌めた私に、そんな価値はないと断じた。それを決めるのは貴方ではないと言い聞かせての今なのだから、無理もない。
溜息が漏れそうになったところで、食堂の入口付近が急に騒がしくなった。顔を上げなくとも分かる気はするが、そうしなくては始まらない。私は手元の食事を皿に置いた。顔を上げると想像通りの光景。冷たい美貌を誇る黒髪の男がまず目に入る。人混みが嫌いな彼は食堂を好まず、いつも自室で食事を摂っていた。それが常識なだけに、昼食時間にここに足を踏み入れた彼に、好奇な視線が刺さる。
それをまるで無視して、彼が目指すのは食堂の右端。私を認めて、男は視線を険しくした。
その後ろに同じ黒髪の大男。横に金髪碧眼の貴公子。髪を青く染めた男はニヤニヤと笑っていた。それから茶髪の男。これは自分の隣をチラチラと気にしていた。そこで気づく。ああ、いたのかと。4人に守られるようにしてその中心に、淡い栗色の髪の乙女がいるらしい。
そして--緩やかに波打つ砂色の髪をひとつにまとめた、どこか儚げで弱々しい雰囲気を持つ男が、その集団に一歩遅れて続いていた。嗚呼。
「王手」
ぼそりと、からかうような声が後ろから。うるさい。
だが救いは、そこに銀髪の男がいなかったことだ。せめてもの、しかし最大の救いでもある。こちらの手札はあとひとり。死守せねばならない。
終わらせる--決意を込めて私は拳を握ると、背後に控える男に指示を出した。
「ジュリア・ナスティーク。何故私がここにいるのか分かるか」
冷たい無表情が告げる険のある声を、こちらは無感動に聞き流した。
氷の風紀委員長と呼ばれ学園内で恐れられる彼の出自は、伯爵家である。同じ家格の私が応えなくとも、無礼と断じることはできない--もちろん、非礼ではあるが。
座ったまま応えない私にどう思ったのか、彼は一呼吸の後、言葉を続けた。黒髪に黒装束。隣にいる大男に比べればまだマシだが、それでも本人自体、上背がある。そんな威圧的な風貌の男が女性を食堂の隅に追い込んで告げた言葉は、彼には珍しく感情がこもっていた。
曰く、平民出身の生徒を、その出自を理由に嫌がらせを繰り返し、精神的に追い詰めた。挙句柄の悪い連中を雇い、暴力を振るわせようとした。主張はこうだ。「平民風情が貴族である私と肩を並べ学ぶなど烏滸がましいにも程がある。疾く去ね。さすれば命だけは助けてやろう」。
その主張こそが浅ましい。恥を知れと彼は言った。常に冷静で、ルールを破った生徒には、どんな立場の者であろうと斟酌せず、罰を与える。氷の風紀委員長と呼ばれる所以だ。
彼にとっては今回もそうなのだろう。聞いただけなら確かに酷い話だ。けれどそこに隠しきれない感情を乗せてしまっていることに、本人は気付いていない。
「ジュリア・ナスティーク。貴様を見損なった。地位のみに拘泥し己の醜さを顧みないその所業、今日こそ引導を渡してくれる」
初めから、損なわれるほどの何かがあったようには思えないが私は驚いていた。彼の言葉はそのまま、私の言葉だったからだ。ここまで堕ちるとは思っていなかった、ギース・ルミアルド。
引っ掛かった相手が悪かったと言えばそれまでだが、踏み止まれなかったのは本人の落ち度である。気付くきっかけは何度も与えた。引き返せる瞬間は何度もあった。都合良く見ぬ振りをしたのはそちらだ。
残念である。ただ公正であることが、貴方の価値であったのに。
「証拠は?」
「何?」
「証拠はおありですか?」
尋ねる。それは糾弾される身としては当然の言い分なはずなのに、ルミアルド以下、男たちはいきり立った。特に大柄の、ガイナ・トゥルード、侯爵家の次男坊が。
「ふてぶてしい。言い逃れができるとでも思ってるのか、お前」
「どうでしょう。私はそちらのカードを存じ上げません。お出しできませんか? ルミアルド様」
単細胞はいなして、ルミアルドに視線を戻す。ルミアルドの視線の強さも、トゥルードと似たようなものだった。だが動じない私に威圧は通じないと悟ったのか、言葉を続ける。
「…目撃情報がある」
「それはどなたの?」
「名を出さぬことを約束してある」
「私が報復するとでも? ですがルミアルド様、匿名の情報にどれほどの価値があるとお思いで?」
指摘されて初めて、ルミアルドは目を見開いた。思いつきもしなかったということか。自分が私の立場であれば納得などしないだろうに、反対の立場なら通じると思ってしまった。通じると思ってしまった根拠は何か。そこに辿り着いたであろうことは想像に難くない。私は呆れた思いを隠さずに溜息を吐いた。判断力の低下を招いた男を、憐れむように。
「そうなると、私は疑ってかからなければなりません。その目撃者は何を見たのか、本当に見たのか、もしくは--本当にいるのか?」
ゆっくりと言ってやると、ルミアルドの顔が歪んだ。体の横で握られた拳が震える。
「…私が嘘を吐いたと言うのか」
「そうは言っていません。ですが疑わしい。人目のある場で事を起こすのは、諸刃の剣です。それでも起こしたからには、強い動機がおありなのでしょう。切札をお持ちのようなのに、ここに来て隠す意味が分かり兼ねます」
詰めが甘いのだ。動き出したのに説得力が皆無ではお話にならない。これがシュミレーションなら出直して来いと慈悲深くなれた。だがこれは彼らが始めた真剣勝負だ。受ける身に慈悲が必要だろうか。
黙り込んでしまったルミアルドの横で、貴公子然とした男が美しい碧の瞳を眇めた。穏やかそうに見せかけてプライドの高いこの男は、人に見下されることを何より嫌う。
「我々を侮るのかい」
「その言葉はそっくりお返ししましょう、カーライト次期侯爵様。証拠のない断罪で私を貶めることができると本気でお思いですか?」
そんな甘い考えが通るわけがない。地位だけで誰もが跪くと、見下しているのは一体どちらだ。分かりきったことしか言えない口なら閉じていろ。侮る?--馬鹿が。侮らないわけがない。
「身に覚えのない罪に対して、証拠もないまま頷くお人好しはおりませんよ、カーライト様」
ばっさりと斬り捨ててやると、カーライトの白い肌から更に血の気が引いた。怒り心頭といったところか。だがそれに対して反論はない。できるわけがない。だって、言われた通りなのだから。あるいは、あからさまな侮蔑を受けたことも初めてなのかもしれない。ショックで口が利けないのであれば、立ち直りも遅いだろう。
そこに割り込んだのは、苦し紛れのような怒鳴り声だった。
「うるせぇ、メルが言ってるんだ、間違いがあるか!!」
などという子供じみた発言は、もちろんトゥルードのものだ。愚か者なりに自分たちの不利を悟って打開しようとしたのだろうが、下手でしかなかった。周りの男たちの顔が強張っている。
それはそうだろう。これで彼女が舞台に引き摺り出された。
「メル--メルヤ・クルコット?」
この機を逃すはずもない。私は彼女の名を挙げた。今回の被害者とされる少女。そして今、男たちの中心で埋もれるように守られている少女。びくり、と肩が揺れる。
「まさか、自称被害者が目撃者ですか?」
笑ったのはわざとだ。だが本心でもある。ああ、私は今、おそらくとても嫌な笑いを浮かべていることだろう。それこそ、彼らの期待する悪人に相応な。
「トゥルード様、クルコット嬢が言うから間違いないと仰いましたね。その根拠はなんですか?」
「メルが嘘を吐くはずがない」
「説得力がありません」
「なんだと貴様!!」
「だって、私はクルコット嬢の人と為りを存じ上げませんもの。彼女が嘘を吐かないと急に言われても、納得し兼ねます。それが証拠だなんて以ての外。それに、であれば私が嘘を吐かないとことを、貴方は納得してくださる?」
「するわけないだろう。誰が貴様なんぞ」
「私も同じ思いですわ、トゥルード様」
主に後半。にこやかに告げると、トゥルードは一瞬黙った。何を言われたのか分からなかったらしい。流石に他の男たちは気付いたようで、このままこの男に任せてはおけないと思ったのだろう。そこに、それまでクルコット嬢の様子ばかりを気にしていた茶髪の男が前に出てこようとしたが、出番など作ってはやらない。私は素早く言葉を継いだ。
「クルコット嬢、貴女がいるなら話が早い。私が貴女に嫌がらせをしたということですが、もちろん貴女は私が何をしたかご存知ですね? 何と言っても、その身で受けたのだから。貴女からお教えいただけますか。私が貴女に、何をしたのか」
男たちに埋もれて頭しか見えないクルコット嬢に告げる。彼女はそれに、全身をびくりと震わせた。あからさまな怯え。何に?男たちにとっては明白だ。私が彼女を傷つけないよう、更に守りの体制になった。
「メル、心配しなくていい」
そんな気休めが聞こえる。
「あら、大勢の騎士たちに守られてここまで来たからには、貴女も私を断罪しようというお気持ちがあったのでは? 折角の発言の機会を逃すのですか?」
「黙れ、ナスティーク!」
「聞く必要はない、メル」
などと過保護な親のような発言を繰り返す男たちの姿は、端から見ると滑稽だ。その中心にいるのが同年代の少女なのだから尚更。なら何故連れて来たのだ。どうせ彼女の敵をやり込める勇姿を見てもらいたいだとか、そんな程度だから、反撃される可能性も描けない。
もちろんクルコット嬢は外見も含め、可憐な少女だ。庇護欲をそそられるのも分からぬではない。ただ、男たちの欲望が幼稚過ぎた。彼女の意思も聞かず、ただヒーローになりたいだけ。彼女の中身に気付こうとしないから、こうなる。
「みんな、ありがとう」
鈴の鳴るような、可愛らしい声が発せられた。途端男たちは黙る。そして、彼女は私の前に姿を見せた。庇う男たちをそっと退けて。その瞳には、ただ守られるだけのか弱さはなかった。クルコット嬢が私と視線を合わせる。そして--
「待ってくれ」
発言しようとしたクルコット嬢を遮る絶妙なタイミング。息の切れた、だがよく通る声は知ったもの。私はぎくりと身を震わせて、食堂の入口を見た。そこに、新たな人物が立っていた。
銀色の髪は、走って来たのか乱れている。いつも明るい表情を映す水色の瞳は苦しげに歪んでいる。彼は息を整えると、背筋を伸ばしてこちらに歩いて来た。
その表情は、ここ最近のやに下がったものではない。だが見慣れた穏やかな笑みでもなく、切なげに伏せられている。
どっちだ。
何故--どんなつもりで、来た。
いっそ来なければ良かったのに。私の心情を無視してこの騒動の中心まで来た彼は、私をひたと見つめて発言した。
「ジュリア…待ってくれ。私が言う」
「ルイト殿下」
そのときの表情はいつも通りの、見慣れた優しい慈悲深い第二王子のものだった。その表情のまま、殿下はクルコット嬢向き直った。
「…メル。ラーダンに会ったよ」
その一言が決定打だった。
クルコット嬢は顔を強張らせ、男たちは不可思議に首を傾げた。仲間であるはずの殿下の言葉の意味が分からなかったらしい。だが私には分かった。
どうやら…最後の砦は守られたらしい。
始まりは小さなことだった。その年の新入生に、とんでもなく歌が上手い少女がいたのだという。
そもそも学園の起こりは将来国を担う若人の育成で、有体に言って、貴族子女が人脈を持つための場だった。だが時が経ち「将来国を担う若人」の定義が広がった。あらゆる意味で国を担うとしたときに、その対象は平民にまで広がったのだ。
もちろんそれに反発する貴族もいたこと、そもそも学ぶ内容が異なることから、彼らは校舎を分かたれた。貴族至上であればそれに従ったし、気にしない者は交流を図った。そしてこの新入生は、気にしない者だったそうだ。
平民側が気にしなくても、貴族側は気にする。そんな主張は彼女には通じなかった。貴族だろうが平民だろうが、彼女の歌声を聴けば虜になる。それだけの魅力を、その少女は持っていた。
かくして、学園内には身分を問わず、彼女のファンができ、瞬く間に有名人となり学園の中心となった。そしてそれを囲む輪の中に、残念ながら我が国の第二王子の姿があった。
私は貴族でありながら魔術科に通う変わり種で、その頃は実習で校外にいることが多かった。だからそれを知ったのは1ヶ月ぶりに登校したときだった。本人から、熱烈なファンぶりを知らされたのだ。
伯爵家の娘ながら殿下の乳姉弟という立場だったため、日頃から親しくしていたのだ。子供の頃から、彼は会えなかった間にあったことを私に報告する人だった。そしてその日の内に、聴かないのは人生の損失だと急き立てられて彼女の歌を聴くことになった。
そうして初めて会ったのが、今ここにいるメルヤ・クルコットだ。
確かに美しい歌声だった。話すときは可愛らしさが目立つのに、歌声は伸びやかで力強い。惹き込まれるのも頷ける力量だが、私が注目したのはそこに込められた力だった。
--魔術。
呪歌と言ってもいい。ささやかだが確かな強制力がそこには流れていた。好きになれ、好きになれ。歌はそのように伝わってきた。なるほどこれかと思いながらも首を傾げた。正対した際、彼女からは魔力を感じなかったのだ。全校に対してこんな効果の長い呪歌を歌えるようには思えなかった。ならば外部の手が加えられている。出発点はそこだった。
その後も彼女のファンは増え続け、その中に、シンパと言えるほど熱心に彼女を支える集団が出来始めた。それはまるで教祖のように、クルコット嬢至上主義の集団だった。
筆頭は、ラーダン・アズフェルド。三代前の王族が降嫁した公爵家の嫡男で、才気溢れる男だった。第二王子の親友と言いながら、どう考えても求心力は彼にあった。優しくおっとりした性格の殿下とは、何故か馬が合ったようだけど。
そんな彼がクルコット嬢に傾倒していった。彼女に便宜を図るため、実家の力を使うこともあったそうだ。彼は学園内で王のように振る舞い、クルコット嬢を王妃のように扱った。
そのラーダンが、壊れた。
食堂で急に意識を失くし倒れ、目覚めたときには壊れていたそうだ。自分が何者か分からない。寧ろそんな概念さえ。ひたすら怯え喚いて泣き叫ぶ。子供のように震えて蹲る。青い、青いと繰り返すばかりだったそうだ。
医師は、何か心理的なショックを与えられたのだろうと診断した。理由はもちろん分からない。そして壊れてしまった心は戻らない。ラーダンは退学し、現在は自宅療養をしている。1年経った今は、心が子供に戻って、それなりに平和に暮らしているということだった。
一方で、ラーダンという最大の庇護を失ったクルコット嬢は、始めそのラーダンの悲劇を嘆いて泣き伏していた。だが徐々に回復し、また歌うようになったことで、新たに熱心なファンを獲得していた。その中で台頭してきたのがギース・ルミアルドであり、アーロン・カーライト、ガイナ・トゥルードといったここにいる面々、そしてルイト殿下だった。
彼ら--殿下たちだけでなくクルコット嬢のシンパとされる人間には共通点がいくつかある。
家格が高い、もしくは本人が一芸に秀でている、つまり将来を有望視されているということ、そして魔力が皆無ということ。呪歌に抗う術を持たないということだ。
現に、将来有望と言われる人間でも魔術科の生徒にシンパはひとりもいない。有望視されている生徒は彼女のカラクリに気付いているため、自衛している。表立って追及しないのは、もちろんシンパの報復を恐れてのことだった。
それはそれで仕方がない。誰でも自分の身が大事だし、クルコット嬢の呪歌は、「私を好きになれ」というだけだったからだ。それで稀代の歌姫が出来上がるならいいではないかと、皆が思っていた。
同じように思っていた私は、とはいえ王族であるルイト殿下が恋に狂っても困る、ということで、クルコット嬢の歌を聴いたその日に、護符を渡していた。それで済んだ気になっていたところに、ラーダンの事件だ。そしてラーダンを心配していたはずの殿下が、忘れたようにクルコット嬢に傾倒していく。その姿に危機感を覚えた私は、もうひとりの乳兄妹を頼った。非常に有能なその人は、事態を既に把握していた。そして私に命を下したのだ。この一連の騒動への、終止符を。
その終止符は、穏やかなものではなかった。有能ついでに冷酷なその人は、これを機に見極めると宣った。餌だけ撒いてあとは待て、などという鬼畜な命令に、私は従うしかなかった。だっておそらく、彼にとって騒動はついでで、見極めることこそ本題なのだ。
故に私は、呪歌に侵された彼らがせめて支配力が弱まったときにヒントを出し、それらを毎度のよう潰されながら、実力行使したくなるのを歯を食い縛って耐えた。いつか気付く、次こそは。ヒントはどんどんあからさまになった。
ルミアルド。あの日柄の悪い連中と打ち合わせをするクルコット嬢を目撃したのは偶然ではない。
それなのに彼は目を瞑った。公正であるはずの彼が。まして、クルコット嬢の発言に惑わされて行動を起こすとは、愚かとしか言いようがない。
呪歌ではない。その慢心と判断力の低下が、彼らを切り捨てる決断を後押しした。
そもそも呪歌は、魔術科の人間が危険視しなかったように、その程度のものだったのだ。それはきっかけであり全てではない。
ラーダンも含め、彼らは自らクルコット嬢に嵌って行った。
では、ルイト殿下は。彼も同じように、私のヒントを悉く潰していったはずだ。渡せたのは護符だけ。それ故にクルコット嬢への傾倒は理性の残る範囲だったと思うが、だからなんだという程度には好きだったはずだ。その証拠に、今もクルコット嬢を見つめる視線には熱がこもる。
「ラーダン様は、お元気でしたか?」
クルコット嬢は、泣きそうに顔を歪めて、それでも笑おうとしたようだった。演技ならお見事だ。
「元気…だったのかな。でも、子供の頃のあいつを知っているから、まだ大人しいなと思ってしまった」
悲しそうに殿下も笑う。ああ…ラーダンは子供の頃から傍若無人だった。大人しいルイト殿下を振り回して、我こそ王なり、という態度だった。カリスマ性があるのは認めるが、それ以上のカリスマを知っている身としては、なんだか虚しい気持ちになったものだ。冷めた目で見る私を、彼は嫌がった。お前こっち見んな、何その横暴、などと口論をしたのも片手の数では足りない。それでも、彼の人を惹き付ける力は、得難いものだったと思う。
一頻り感傷に浸って、それから殿下は優しい眦を引き締めて顔を上げた。見たのはクルコット嬢ではない。その後ろでいつもニヤニヤと笑みを浮かべる、青髪の男だ。
「ラーダンは、青が怖いと言っていた。青が来る、青に殺される、って。そう言っていたよ、テウヴォ」
異国の名を持つ男は、殿下の言葉にへらりと笑った。
「何、殿下。それって俺の髪の色のこと言ってるの?」
「どうだろう。君の魔術から出る光の色のことかもしれない」
その言葉に、目を見開いたのはテウヴォだけでなく、私もだった。それは殿下に見せたヒントのひとつだ。あのときスルーされたはずのものが、今になって意味を持ったのだろうか。
「魔術?俺そんなもの使えないよ」
「いや、使える。…んだよね? ジュリア」
断言して、それから自信なげにこちらを伺うのが殿下らしい。私は溜息を吐いて頷いた。
「はい、テウヴォは魔力を持っています。魔術も使える。というか、みなさんも見たことがあるでしょう」
私の断言に、周囲がざわめいた。テウヴォはクルコット嬢と同じ芸術科に所属している。入学以前からの知り合いだそうで、クルコット嬢が歌うとき、伴奏するのは必ずこのテウヴォだった。それが当然であると周囲に思わせた手腕は見事だが、クルコット嬢に魔力はなく、だが彼女の歌には魔力が備わっている。その違和感を突き詰めれば、答えは簡単だった。
だが、自覚のない被害者たちは首を傾げるばかり。何を言っているのかと、話がズレ始めたこともあり、シンパたちの視線がきつい。
「クルコット嬢の歌にいつも魔術を乗せているでしょう? テウヴォ。その度に誰もが思ったはずよ。『ああ、この歌声は素晴らしい』って」
その指摘に、まずクルコット嬢の血の気が引いた。それから周囲は驚いた表情に。そしてあれが魔術?と首を傾げる。あの気持ちは魔術故だったのかと、懐疑的な表情でクルコット嬢を見た。
一方、シンパたちは激昂した。
「貴様、なんて言いがかりだ!メルの歌を否定するか!」
「言うに事欠いて、魔術とは…どこまでメルを傷つければ気が済む」
「魔力のない人間には分からないでしょうけどね。彼女のファンを名乗る人間に、魔術科がいないのをご存知ですか?」
丁寧に教えて差し上げると、彼らは言葉に詰まった。そもそも感知できないもので優位に立つのは気が引けるが、事実だ。
「誤解のないよう申し上げますが、クルコット嬢の歌は素晴らしいと思いますよ。ただ、それを助長する力が働いている。クルコット嬢に魔力はないようなので、外部からの力だと思われます」
その指摘にも、テウヴォの余裕の表情は変わらない。クルコット嬢の顔が強張るのとは対照的だ。それにしてもクルコット嬢、そこまで分かりやすくて良いのだろうか。
「で、その隣にいつもいるテウヴォ。貴方には魔力があるのに、ないように振舞っている。不自然でしょう?」
「それで、俺がラーダンを壊したと?」
「違う? 彼を診た医師は魔力がなかった。だから心が壊れたことしか分からなかったのね。でも、魔術の心得のある人間から診たら、あれは内側から壊されたものだと分かる」
だから私は、それを報告したのだ。
「テウヴォ…まさか」
私たちの対峙に、クルコット嬢の震える声が割り込んだ。見ると、彼女は先程の比ではないくらい真っ青になっている。それをシンパ共が支えようとしていたが、彼女は気丈にも足を前に動かした。
「テウヴォ、違うわよね? ラーダン様は…」
「……あいつも、敵だ」
私には口を割る気配もなかったというのに、クルコット嬢に詰め寄られただけで、テウヴォは吐いた。視線を逸らして苦しそうに、だが自分の正当性を主張して。クルコット嬢が細い悲鳴を上げた。
「な、なんで…! ラーダン様は違う、ラーダン様は」
「あいつもこの国の貴族だ!!」
テウヴォが叫んだ。
「君こそ何を言っている。忘れたのか、俺たちの目的を。この国の貴族を、いやこの国に復讐するために俺たちはここにいる。俺たちの家族を奪ったこの国に復讐するためにここにいる…!!」
悲痛な叫びは、いつも見るテウヴォとはまるで違った。本心だからこそなのか、握り締めた拳が震えていた。彼の目的は復讐で、きっと、この国の人間を見る度に、復讐の気持ちを抑えるために笑わずにいられなかった。
私はそれは、クルコット嬢も同じだと思っていた。だが、彼女は真っ向からテウヴォを非難した。
「だからってラーダン様を傷つけるなんて!なんで、なんでよ!ラーダン様は」
「君の心を奪った!」
ひくりと、クルコット嬢の喉が引き攣る音がした。
「それどころか、君は復讐さえ忘れそうだった。全部あの男のせいだ。ラーダンに好かれたい、ラーダンと一緒にいたい、そればっかりだった! 俺がいるのに! ずっと、ずっと前から俺がいるのに!」
「知らないわそんなの! 貴方はいつも復讐のことしか言わない。私たちは復讐のために手を取ったの。好きだからじゃない! 私が好きなのはラーダン様よ。ラーダン様だけだわ! ずっと、忘れてしまっても、会えなくても、ラーダン様が…」
ぼろぼろと涙を零し、クルコット嬢はその場にしゃがみ込んでしまった。顔を手で覆い泣き続ける。それをいつもの勢いで慰めにかかるシンパはいなかった。まぁ、そうだろう。
恐らくほとんどの人間がこの展開に付いて行けていない。我が国が誇る歌姫になろう少女が国に復讐を誓っていて。数多の男を侍らせていたのに、実のところは壊れてしまった恋人に恋い焦がれ続けていたなど。
私もこういう展開になるとは思っていなかった。知っていたのは前半までだ。
だからクルコット嬢は常に復讐に邁進していたのだと思っていたのだが、違う未来があったかもしれないということか。それはそれで、なんとも言えない気持ちになる。
あの人は、知っていたのだろうか。現実逃避気味にそんなことを思う。だが余計に鬱になった。…知っていそうだ。知った上でこれに終止符を打って来いとか、なんという鬼畜。こんな状況になってしまったら、割り込む私が悪者のようではないか。
泣きじゃくるクルコット嬢と決定打を投げ付けられ絶望に俯くテウヴォ、そして話について行けきれないその他大勢を前に、私は咳払いをした。
「話を戻しますが」
これだけを言うのにかなりの労力が必要だった。周囲に言い聞かせるように言葉を続ける。
「テウヴォ。それからメルヤ・クルコット。貴方がたは我が国への復讐のため、次世代担うであろう人材を取り込み、内側から崩すつもりだったと。そういうことですね」
「な…」
ルミアルドが思わずといった態で声を挙げた。まだ付いてきていないのか。遅い。
「この1年でいくつか証拠は挙がっています。探る私を邪魔者として排除しようとしたことも含みます。先程の自白で意思も確認できました。ふたりとも、国家反逆罪に問われるでしょう。未遂とはいえ、余罪も多そうですし」
トゥルードが目を白黒させて私を見る。カーライトは何事かを察したらしく、皮肉な目で私を見た。他人事みたいな顔をして。だが彼らは後回しだ。
「そしてテウヴォ。貴方は公爵家嫡男、ラーダン・アズフェルドの精神を壊した罪がある。殺人とはいかずとも、将来確実に功を残したであろう人間の未来を奪ったのです。その罪は重い」
私の言葉に、テウヴォは微かに唇を歪めただけだった。どうでもいいとその表情が語っていた。反省の色はないし、恐らく今後も考えを改めることはなさそうだ。だが、彼にとっては先程のクルコット嬢の発言が何より重いはずだから、まぁいいだろう。
「…衛兵」
呼ぶと、廊下に控えていたであろう使用人ーーに扮した騎士が現れた。彼は私がこの任務に就いたときからの相棒で、この騒動が始まる前に衛兵を呼びに行っていた。
学園に詰める衛兵の数は多い。だがここに現れたのは3人だった。3人がテウヴォを抱え上げ、騎士がクルコット嬢を立ち上がらせる。ふたりはきっと違う心情だったろうが、抵抗はまるで見せなかった。
そうして食堂は、元通り--とは、もちろんならない。
「どういうことだ、ナスティーク」
未だ己の立場が理解できていないのか、高圧的な口調を崩さないまま(とはいえこれが彼の平常運転)口を開いたのはルミアルドだった。
「どういうこと、とは?」
「とぼけるな。お前は知っていたのだな。メル…クルコットやテウヴォの企みを」
眉が跳ね上がるのが自分でも分かった。この男。
これまでの一連で分かってはいた。分かってはいたが、こんなところで保身を取るのか。他の男を思う女に用はないと言いたげだ。それが自分を守るためでも、反吐が出る。
「だったら何か」
「何故それを公表しなかった」
「したらどうしました? 貴方がたの楽しい夢は覚めて、率先してクルコット嬢を役人に突き出してやったのに?」
「な」
「それとも、何も知らず踊らされ、証拠もないのに大勢の前で私に詰め寄るなどという愚を犯さず済んだのに?」
「き、さま」
「どちらにせよお門違いです。己の無能を私のせいにしないでください」
「ジュリア、それは」
「言い過ぎではありませんよ、殿下。私はこれまで、いくつものヒントを貴方がたの前に落として来ました。無視したのは貴方がたです。気付かなかった。それを無能と言うのです」
八つ当たりをしている自覚はある。だが先程までの一連を見て、それでも己の立場を理解しない男たちに辟易していた。復讐の手駒にされ、国に害をなしていたかもしれない可能性をどう捉えているのか。
「伯爵風情の娘が、随分いきがるな。何がお前に自信を与えた? 是非教えてほしいな」
口の端を歪めたカーライトが、馬鹿にしたような口調で嘲笑する。
本当に、どうしようもない。こんなのを救い上げようとした過去の自分を罵りたい。反省の色でも見せれば可愛げのあるものを。
弱味を見せられないことに馴染んだ貴族の性質を哀れとは思わない。ただ情けないと思った。
「今回のことは、私はユリウス殿下に一任されております」
その名前に、場が一気に緊張感を増した。
この国の第一王子。ルイト殿下の同母の兄。私の知る限り最大の鬼畜であるが、同じく最大のカリスマでもある。一般には後者として有名だ。既に陛下の右腕となり采配を振るう姿は、次期王として盤石な体制を築いている。弟であるルイト殿下すら心酔しているのだから、対抗馬などいない。
「兄上が」
無意識に呟いたルイト殿下に頷く。
「全てが終わって、ルイト殿下が合格であれば、伝えるように言われています」
「合格?」
「はい。今回のことは、ラーダン様の一件で、ユリウス殿下の知るところになりました。殿下は私に、その決着をつけるように命じられました。それと…ルイト殿下の側近を見極めよ、と」
「は?」
一瞬空白が支配する。それはそうだろう。正直なところ、ルイト殿下に側近はいない。強いて言うならラーダンで、その彼はもういないし、あれは側近とかいう次元ではなかった。
「ラーダン様が去り、ルイト殿下には側近と言える人物がいません。この場合、同年代の、という意味です。本来であればこの学園に在籍する間に見つけるべきです。が、殿下はその自覚もなくクルコット嬢を追いかけ始めた」
本当に、それを知ったときの私の居た堪れなさと言ったらなかった。確かに殿下は王位に執着もなく、兄を支えられたらと公言する平和な性格だ。だが兄を支えたいと思うならすべきことがある。ラーダンを失ったのならば余計に。呪歌があろうと、そんなものに捕まっている場合ではなかったのだ。
殿下を睨めつけると、自覚はあるのか頬を染めて俯いた。そんな可愛らしい反応をしている場合でもない。
「そこで、というか元々目を付けていた側近候補たちと渡りを付けようと思ったところ、それが悉くクルコット嬢を追いかけている」
もちろんここにいる男たちだ。彼らはこれでも将来を有望視された者ばかりなのだ。こんなことがなければ中枢に上ることもできたのかもしれない。
「ユリウス殿下もこのカラクリをご存知でした。そして、殿下の側近となるならば自力でこの状態を脱すべきだと。それを見極める材料とすると仰せでした」
その場に沈黙が落ちる。当然だろう。結果は既に出ている。
「また、ユリウス殿下はルイト殿下のことも同時に見極めるおつもりでした。このまま自分の補佐として育てていくのか、それとも政から遠ざけるべきなのか」
「…兄上、らしい」
ルイト殿下が溜息のような声を出した。これだって兄上の愛情なんですよとは言えなかった。ルイト殿下は、ユリウス殿下の厳しさを誰よりも知っている。
「結果、辛うじて、ルイト殿下だけが真実に近付いた。ですが殿下もギリギリの及第点です。ユリウス殿下の求めには遠く及ばない」
「うん…はい」
「ですから合格の暁には、側近を授けると仰せでした」
また空白。ぱちくりと目を瞬かせ、ルイト殿下は首を傾げた。
「…え、どういうこと?」
「ダーシェ」
戸惑うルイト殿下を無視して、私は騎士の名を呼んだ。クルコット嬢の連行が終わった彼は戻って来ていた。はーっと大袈裟な溜息を吐く。
「だから切り捨てろって言ったのに」
「往生際が悪い。殿下は合格したのよ」
「お前の慈悲でな」
ダーシェはやれやれと首を振り、ルイト殿下の前に立った。頭は下げない。…無礼にも程があるが、ダーシェの心情を考えると、そしてふたりの今後を考えると、今はこれで良いのだろう。距離感が明確だ。
「ルイト殿下。彼はクライスト・ダーシェ。ユリウス殿下の近衛隊で、副長を務めておりました。今後は彼が、貴方の側近です」
「え、ええええ!? ちょ、ちょと待ってジュリア、どういうこと? 兄上の近衛がなんで」
「ユリウス殿下の命令だから」
身も蓋もないことを、ダーシェは言う。実際その通りなのだけど。
「ルイト殿下。彼はユリウス殿下に忠誠を捧げています。殿下の信頼も厚い。ですから、ユリウス殿下の命令であれば、ダーシェは貴方を命に代えても守るでしょう」
ルイト殿下が顔を顰めた。私の説明はダーシェの言葉を丁寧にしただけだ。 ただ繰り返す。貴方のために命を懸ける人間は、今はいない。
「殿下。ユリウス殿下からの課題です。ダーシェに、主を換えると、言わせてみせろと」
ルイト殿下は石でも飲み込んだような顔をした。ダーシェは苦虫を噛み潰したような顔。どちらの気持ちも分かるので、私はこれ以上は続けなかった。本当に、あの人は鬼畜だ。
お互い何とも言えない顔で向き合って、それからルイト殿下は私に縋るような目を向けた。
「じゅ、ジュリア、近衛隊の副長が抜けて、兄上は大丈夫なのか?」
心配するところはそれか。ルイト殿下らしいが、それよりも自分の心配をした方が良い。ダーシェも同じことを思ったのだろう。またひとつ、大きな溜息を吐いた。
「俺が抜けただけで崩れるような育て方はしてませんのでご心配なく。そもそも、そんな心配があったら殿下を殺してでも戻ります」
ダーシェは近衛隊に入るだけあって家柄ももちろん貴族なのだが、そうして笑うと、全くそのように見えない。基本文系の殿下は、それだけで一歩下がった。
「それに、そんな未来も遠くないかもしれない。何しろ我々がこれから行くのは、キュレーニン戦争地帯ですからなぁ」
「は!?」
「ユリウス殿下から、絆を深めるためにはそういったところの方が手っ取り早いだろうという伝言を」
「兄上…いや、学園は!?」
「休学で良いそうです。ここではもう、側近候補もいませんしね。新しい環境の方が何かと良いだろうから、そこで成長せよとの仰せです」
「よく色々理由が出てくるな…。まぁでも、兄上が決めたなら」
幼い頃から理不尽に晒されたせいなのか、ルイト殿下はユリウス殿下の無茶振りには従順だ。もう少し覇気があっても良いのではないかと思うのだが、それは今後の逆境に期待しよう。
「まぁ、精々俺を懐柔できるよう、頑張ってくださいや」
それを見越して、この獰猛な騎士を付けたのだと、そう思おう。
ふたりを見送って、さて報告書でも書くかと振り向くと、まだ5人の男は事態を把握しきれないまま所在なげに佇んでいた。そこにいれば誰かが役割を与えてくれるとでも思っているのだろうか。自分たちが端役だと気づいていないのか。
だから無能だと言われるのだ。さっさと実家に泣きつくなりすればいいものを。
だがそんな助言をする気にもならないので、何か言いたげな男たちを無視して、私は自室へ戻るのだった。
乙女ゲ転生でよくある断罪シーンってツッコミ満載に書かれるじゃないですか。それを真面目に潰したいなと思って書き始めたものになります。
誰も転生していないので、乙女ゲなのかなんなのかよく分からない世界観になりましたが。
(以下登場人物)
■ジュリア・ナスティーク
ユリウス、ルイト両殿下の乳兄弟。伯爵家の三女で、強い魔力を持つため魔術師を目指している。
王城で執政を行うユリウスの耳目となり、多くの情報を齎している。ユリウスの鬼畜っぷりを存分に知りながらも離れられない。それをあの人絶対分かっててやってる、と思っているがやっぱり離れられない。
金髪に金色の目。
■メルヤ・クルコット
歌姫と名高い芸術科の少女。淡い栗色の髪に赤みがかったグレーの瞳。庇護欲をそそる美少女。10年前戦争で滅ぼされた隣国の戦争孤児。同じ境遇のテウヴォと最下層の暮らしをしており、戦勝国を恨んでいる。歌声を見込まれて裕福な商家の養女になったことがきっかけで、復讐をの道が開いた。そのための足掛かりとして入学した学園でラーダンに出会い、恋をする。復讐を忘れかけていた頃にラーダンを失い、自棄になってテウヴォの言いなりになっていた。
当初普通に偽善的な勘違い娘の予定で名前も適当だったが、書く内にうっかり好きになって名前も路線も変えてしまった自分内出世キャラ。ヒロインポジションってすごいんですね。
本編後国家反逆罪に問われるものの、数年の服役後に秘密裏に解放される。その後は片田舎で子供のような男性の面倒を見ていたという目撃談があったりなかったり。
ジュリアを目の敵にしていたのはルイトへの影響力等復讐の障害だったからだが、何よりラーダンが彼女を苦手としていたから。
■テウヴォ「髪を青く染めた男」
戦争孤児。強い魔力を持っていたことから国への復讐を思いつく。幼馴染であるメルヤに恋をしている。だが照れ臭く何も言えないでいる内に、メルヤが他の男性に心奪われたことを知りヤンデレ化。その相手ラーダンの精神を崩壊させる。
メルヤの歌に魔術を乗せるのも、男をたぶらかして骨抜きにしようというのも彼の考えた作戦。そういう汚い手を使うことで、メルヤの自由を奪う意図もあった。
■ラーダン・アズファルド
才気溢れる公爵家嫡男。同年代では圧倒的なカリスマを誇る。第一王子のユリウスに憧れるが、同時にコンプレックスを持っていた。それを自分の中だけに隠していたのに、メルヤに指摘され陥落。平民である彼女と結ばれるため結構な無茶をする。
メルヤとの仲を嫉妬され、テウヴォに精神を破壊されてからは、5歳くらいの子供に戻ってしまう。数年自宅療養をしていたが、あるとき領地に戻り、それから彼の姿を見た者はいない。
尚、ユリウスに憧れるようにジュリアとの強固な主従関係も憧れであり、その存在のいないことが彼我の差となってコンプレックスを強めていた。それが回り回ってジュリアに苦手意識を持つようになる。
■ギース・ルミアルド「冷たい美貌を誇る黒髪の男」
伯爵家嫡男。母は娼婦であり、金と引き換えに後継を必要としていた伯爵家に売られた。伯爵家では白眼視されながらも跡継ぎとしてのプレッシャーだけ与えられ、孤独な少年時代を過ごす。その経験から貴族と家族へのコンプレックスが強い。弱い者への保護欲が旺盛で、特に貴族に虐げられる平民を見ると黙っていられない。その毅然とした態度から氷の風紀委員長と渾名される。
孤独な心をメルヤの歌声に癒され、陥落。歯の浮くようなセリフを本気で連発する。正直恥ずかしい。初恋に浮かれている。
■ガイナ・トゥルード「黒髪の大男」
騎士団長の息子。脳筋。
大柄で力自慢、加減知らず。メルヤの小ささや可憐さに一目惚れ。
■アーロン・カーライト「金髪碧眼の貴公子」
侯爵家嫡男。能力が高い故に世の中を斜めに見ている。貴族至上な発言をするが、実際にはそんなものでへこへこする奴らを蛇蝎の如く嫌っている。また自分の外見に騒ぐ女性も嫌い。
外見や地位に頓着せず接してきたメルヤに、じわじわと陥落。じわじわとなので思いもまた強固。その他の中では一番メルヤを現実に近い形で見ていたかもしれない。
■トール・メイスン「茶髪の男」
伯爵家次男。成績優秀な優等生。生真面目で四面四角な性格が災いして友達が少ない。メルヤの歌っている姿に一目惚れ。その後屈託無く話しかけられて女神と崇めるようになる。女性というより崇拝対象なため、ギースとは一線を画す。
人慣れしていないためか、会話は一歩遅れて何も話せないことが多い。よって今回一言もなし。
■レラウール「砂色の髪、どこか儚げで弱々しい雰囲気を持つ男」
平民の現役画家。貴族に多くのパトロンがおり、その伝手で学園に通っている。
絵を描くとき以外は気弱。絵のことになった途端激情家になる。その落差に二重人格の噂もある。メルヤが歌う姿を見て絵のモデルにと望んで近づく。
作中は空気。
■ルイト
第二王子。気が優しく穏やかな性格。早々にメルヤの歌の虜となるが、親友であるラーダンを見ていて身を引いた。だがラーダン失ってからも歌うメルヤに、気持ちを抑えられなくなる。
乳兄弟であるジュリアに諌められるも思いは変わらず、きっとこれが愛というものなんだと脳内に花を咲かす。が、頭が上がらないジュリアに度々苦言を呈される内に、メルヤとテウヴォの綻びが見えてくるようになる。
■クライスト・ダーシェ
第一王子の近衛隊副長。側近中の側近。だというのにユリウスから無体な命令を受けて拗ねている。みんな脱落してしまえと本気で思っていた。本編後はルイトとともにキュレーニン戦争地帯へ向かい無双する。
元々面倒見の良い性格なので、どこか頼りないルイトとの相性は良い。
■ユリウス
第一王子。有能で鬼畜なカリスマ。可愛い子ほど旅をさせろを地で行く。
ジュリアが自分から離れられないのは、そのように育てたのだから当然と思っている。因みに5歳上なので実質の乳兄弟はジュリアの姉。