赤と青
先日転校してきたばかりの本物川セキは目が見えない。らしい。
らしいというのは、たまにまるで見えてるかのような行動をしてみせるからだ。
俺は実は見えてるのではと疑ったりもしていた。
そんな彼女が今日は何故かこの美術部部室前までやってきていた、つまり美術室だ。
「この匂い絵の具…あれーここは美術室だったか〜」のんきな声でひとりごとをつぶやいていた。
「なぁ」
「ひゃ!っとーその声は同じクラスの霧島セイ君かな?あ、美術部だったんだ!」
「うん、そうだよ。で、本物川はなにしてんの?」
「ん?探検!早く学校に慣れておきたいからね〜」
そう言うと無造作に置かれた机や椅子等を軽やかに避けながら近づいてきた。
「凄いな…」
「なにが?」
「いや、その見えないって聞いてるけど、全然ぶつからずに来たから…」
「見えるよ〜」
「えっ」思わず口をあんぐり開けてしまった。
「いや、見えないんだけどね、なんとなくそこに何があるのかってわかるんだぁ」
「目が見えないと聴覚がずば抜けて優れたりするってやつあるでしょ?あんな感じだと思うんだけど…わかる?」
「いや、わからんな。」
「特にね美術の絵とかよくわかるんだよ〜」
「それは聴覚かんけいないのでは…」
「あははそうだね、でもなんていうのかな、その描いた人の情熱とか魂かな?がなんとなく情景をわたしに見せてくれるの。」
「ためしにやってみる?」
ーーー最初は何を言っているんだと思ったが、本当に本物川はすごかった。
「コレはね〜ん〜忍耐力を感じるね、デッサンだ硬いやつ、石像のだね?」
「」俺は無言で他の絵を本物川の前に置く。
「学校の絵だ!木漏れ日が綺麗な校門付近からの構図だね?」
「」もう10枚は当てられた。
「本当に見えてないのか?」
「疑り深いねっまぁよく言われるんだなぁ」
「この特技結構自慢なんだ〜」
「…」
「ねえ、この絵の中に霧島くんの絵は無かったよね見せてほしいな〜」
「なんで分かるんだ!?」
「そりゃぁもう・・・むふふ」
「ん〜まぁいいや、こっち、俺のは準備室に放置してあるよ。」
俺は準備室のドアを開けて本物川を我が城に迎え入れた。
すると
「ん!?おおお!!これ!!これ!!!この絵は!!」
「どうした?…ってあーーー!その絵は駄目だ!!」
「これ誰かはわからいけど、女の子の肖像画でしょ!しかも霧島くんが好きな人とみた!」
「っ〜〜〜〜!!!」
「返せ返せ!!」
俺は無理やり本物川から絵を取り返す。
「ねぇねぇ誰なの〜?ねぇ〜?」
「言えるわけ無いだろぉ!!」
そう、言えるわけもない。全くこんなに赤面したのは久しぶりだ。
なぜならそのキャンバスに描かれている女の子はいままさに目の前にいるのだから…