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僕と彼女のセカイ  作者: 巫 夏希
第一章 七不思議の章
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1-1 地下室と遺跡

 夏休みも普通の日も関係なく、僕は今日も理科室に来ている。別に家庭に問題があるわけではない。強いて言うなら、家庭がないと言った方が正しいだろう。けれど、僕はそれを隠すこともないし、隠そうとも思わない。別にクラスに馴染もうと思ってもいないから、障害にすらなっていないからね。


「……なんであんた夏休みに来ているわけ?」

「そのセリフ、丸々君に返すよ」


 夏休みくらい誰もいないと思ったのに、理科室に向かうと待ち構えていたかのように志津里が居た。おかしいな、僕は八時からここに来ているはずなんだけどな。

 と、それに関して訊ねると。


「ここに寝ているからね。ほら、寝袋もあるでしょ?」


 そう言って寝袋を指差した志津里を見て、僕もさすがに溜息をついた。まさか、学校で寝泊りしている生徒がいるだなんて、思いもしなかった。

 というか、寝泊りしていて警備員に捕まらないのだろうか。


「そんなちまちましたこと考えていたら、出来ないって」

「普通ならしようとも思わないけどね」

「私は普通じゃないからね」

「そうなのかね」


 確かにここに来ている時点で、そうじゃないのかもしれないね。

 そろそろ、本を読もうかな。

 そう思って、僕はカバンから本を取り出して――


「あれ?」

「どうしたの?」

「困ったな。……栞を挟んだ本がないや」

「別に本くらい。いっぱい本持って来ているんでしょ?」

「僕は順序よく読みたいんだよ」

「……変わり者」

「お前に言われたくないね」


 こうなると困った。戻って本を持ってくるのもいいだろう。だけど、それもさすがに鬱陶しい。


「……それじゃ、遊ばない?」

「遊ぶ?」

「大人の遊び」

「ふざけるのも大概にしろ」

「ふざけてないぜ。そんなわけないだろ」


 とてもそうには思えないんだが?


「……解った。それで、遊びとはなんだ」

「七不思議」

「は?」

「学校七不思議。あなただって解るでしょう?」


 それくらいわかるさ。

 どの学校にも七不思議があると思う。井戸の中に落ちて死んだ女子生徒が夜幽霊となって驚かすとか、開かずの教室とか、走る人体模型とか、世界の中でも最もくだらない、ツマラナイ部類に入るものだ。

 例外もなく、この学校にも七不思議ってものがある。しかも普通なものだ。志津里みたいにたまに七不思議の謎を解き明かそうっていう連中も居るんだが、今日まで七不思議が七不思議のままで語られているところを見ると、結局は解明されていないということだろう。


「七不思議の謎を解明しようと思うんだけど……どう?」

「いや、どうと言われても。結局解明しようとも思わないよ。ツマラナイものは解明してもツマラナイんだし」


 志津里にそんなことを言っても仕様がないのだけれど、七不思議ってものはツマラナイ人間が作り出したツマラナイものであることにはかわりがない。普通の人間には興味がない、と言えば言い過ぎだが要はそういうことだ。


「七不思議がツマラナイと思うのは、あなたの主観からの考えでしょ。私の主観から見れば七不思議ってものは非常に興味深い、面白いものなのよ」

「そういうものかねえ」


 僕もそんな問題とは思わないんだけど。

 面白いもの、面白くないものとは人によって異なるとは言うけれどね。


「人はそう言うかもしれないわよ? あなたがそう思っている以上に世界は輝いているのだ、と」

「どこかの評論家がいいそうなセリフだね。覚えておくとするよ」

「それじゃ、一緒にいこうぜ同志」

「誰が同志だよ……」


 僕はそんなもの関係ないので、スマフォを起動させて電子書籍でも読むことにする。最近は便利だ。紙媒体の方が僕は好きだけれど、この際仕方がない。購入した電子書籍版を読むこととしよう。


「電子書籍版があるなら最初からないだなんて言うんじゃないわよ全く」

「君には関係の無いことだろう。ほら、七不思議? ってやつ探索するんだろ。さっさと行ってこいよ」


 しっしっ、と僕は手を仰いだ。

 それでも、志津里は諦めることもなく。


「あんたが行くというまで私はここにいるわ」

「……それは大分困りものだね」


 さて、どうやって志津里を追い出そうか。

 彼女を追い出す方法は今のところ僕には思いつかない。

 僕は従うしかないのだろうか? 考えても、どうやら何も思いつかない。オーケイ、これ以上長々と話しても仕方ないだろうよ。


「解った。ぼくも行くよ。それでいいだろ」

「最初からそうと言ってくれればいいのよ」


 というか誘導尋問だよな、殆ど。『一緒に行こう』と言わせるまで、それを言わせない内はずっと粘る。志津里は訪問販売のセンスがあると思う。そちらに就職することをお薦めするよ。


「ところで、どうするつもりだい? 七不思議って、全部解明するんだろ?」

「そうだよ。そうじゃなきゃ面白くもない。つまりは、何をするかというと、簡単なことだよ。七不思議の発祥する場所を巡って原因を追求する。とても合理的な手段だとは思わないかな?」

「はたしてそれがどうなんだかな。解るが、まずはどうすると言うんだ?」


 そこで僕は考える。

 七不思議とはいえ、むかし不思議というものは六つしかない。それは僕が少し前に図書室の奥にある蔵書室で三十年前の文芸サークルの『学校六不思議調査書』を盗み見たことで判明している。即ち、この三十年の間に『不思議が一つ増えた』ということになる。そして、その七つ目の不思議を知ると、それを知った人間は死んでしまうというものだ。


「……七不思議といっても、六つしかないし、更に今は取り潰されているものだってあるから、とても七不思議とは言えない。にもかかわらず原因を追求するのはオカルト好きな人間が多いってことなのかね」


 独りごちると、志津里がため息をついた。


「学園生活には多少のスリルってもんが必要でしょう? 数少ないスリルの一つが七不思議ってものだよ。それくらい解りはしないのかね?」


 解りはしない。解ろうとも思えないし、解りたくもなかった。


「さて、ここまで話しているとうんざりがられるよね。そろそろ話を進めようぜ」

「……七不思議の一つはなんだ?」

「『地下室と遺跡』」


 志津里は呟いた。僕の記憶が正しければ、それはもう公開しきったことじゃないだろうか。

 この学校に縄文時代の貝塚が発見されたのは、確か今から二年前のことだ。僕がこの学校に入るすこし前のことで、覚えていた。地域新聞の一面に載っていたと思うから、この学校の人間でなくても覚えていると思う。

 調査によって、それは一万五千年前――縄文時代前期の遺跡であることが判明した。人骨も発見され、暫くは解析のために研究チームが派遣されていた。現在も遺跡に相当する部分は学校の管轄ではなく、一般公開がなされている。


「……遺跡といっても、一つだけ残っている遺跡があってね。それは発掘されたのだけど、とある理由から公開が禁止となった」

「なぜだ?」

「オーパーツというのかな、そういうのがあったんだよ」

「オーパーツ、だと?」

「知っていると思ったんだけど? 知らなかったとは、君もまだまだだね」

「知っている。馬鹿にするな」


 オーパーツとは、それが発見された時代にそぐわない物品のことだ。「out of place artifacts」の略で、つまり『場違いな工芸品』という意味だ。時代錯誤した工芸品、遺物のことである。


「そうそう」


 僕がオーパーツの説明をしたら、志津里は笑って頷いた。バカにしているのか。


「……そろそろ、何のオーパーツがあったのか、話してくれないかな?」

「短気だね。それじゃ、話すよ。……そこにあったのは、スマートフォンだよ」


 その言葉を聞いて、しばらく僕は何を言えなかった。

 言えなかった理由は、簡単である。

 オーパーツすぎて、ため息も出なかったのだ。


「どうした。驚きすぎて声がでないか?」


 声がでないとかそういう意味ではない。

 オーパーツすぎて、ため息も出ないだけだ。


「ああ、そうか。スマートフォンのタイプか? 三十二ギガバイトだったと思うが」

「そういう問題でもない!」


 もう話が進まないので、強引に舵を取ることにしよう。そうでなければやっていられない。


「だから、七不思議、原因を追求するのだろう? だったらさっさと行こう。僕は時間をかけるのが面倒臭いんだ」

「まあ、そう言うと思っていたよ。少しは待とうという意識はないのかな。昼時に行っても警備に捕まっておじゃん、最悪退学処分だ。それを受けていいのかな? ただでさえ変わり者の君が、高校中退になんてなってみろよ。それだけで社会の評価は下がるぜ。今の社会は学歴社会だからな」

「それくらい、知っている。……まさか、そのために夏休みという、一般の学生が居ない時間に?」


 その言葉に、志津里は頷いた。うむ、考えたほうだな。確かに、志津里の言うとおりであると思う。

 だけど、どうやって遺跡に侵入する? 警備は沢山あるはずだ。恐らく国立の博物館位はあるだろうな。


「あなたの言うとおり、遺跡に相当する地下室には、警備が固い。警備員が六人居て、センサーもある。カメラもある。さて、どうする?」

「どうする……って何かいいアイデアでもないのか?」

「ない」


 断言されても困る。


「……まぁ、とりあえず現場を巡ってみようぜ。それからでも良かろう。あわよくばそこで一気に謎を調べるんだ。きっと何かあるはずだ」

「何かあるとも思えないけどなぁ……」


 僕はそう言っても、志津里の動きが止まることはなかった。

 考えても仕方はない。僕は志津里の後を追うこととした。

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