白夜の願い
知ってるか?
此処とは逆の東の国に総ての願いをかなえる魔女の住む森がある事を
それは嘗て俺があいつに言ったこと
月明かりの元 男が歩く
鬱蒼とした森の中を
彼は歩く、魔女の元へ
雪が降る中ただただ歩く
歩く、ただ只管に俺は歩く
この暗く凍える森の中を
ただ一点、魔女の庵を目指し
悲願を叶えて貰う為に俺は歩く
途切れる事のないこの森の中歩き続ける
これは試練、覚悟を見せる為の道筋
魔女の気配にのみ集中して只管歩く
もう一度あいつに会うために
瞬間、辿り着いたのは拓けた場所
その中央には一人の老人
不自然なその場所
まるで木々が彼をさけるようだった
腰に手を宛て唸るその姿
如何やら痛めたもよう
何も考えず、反射的に
俺はその老人に声をかけた
「すまないねえ」と背に乗せた老人が言った
「いいえ」と答えながら混乱している俺
いつもならほおって行くのに
ああ、これもあいつの影響か
遠い日の出でる国で出会ったあいつ
雪の名前を持っていたあいつ
壊れそうな外見を裏切る活発な性格
その存在総てを愛した愛しい人
あいつを思い出しそうになって目が潤む
老人に気づかれぬよう拭う
如何したのかと聞く老人に
なんでもないと笑顔を向ける
道中歩く以外する事が無く
背負った老人に何故此処にいるかを問いかける
老人は悲しげに答える
大切な孫にプレゼントを渡しに来たのだと
老人は語る、哀しげに語る
曰く、仕事に夢中になりすぎて孫を蔑にしたと
曰く他の子供たちを優先し孫を疎かにしたと
その結果今は会う事も拒絶されると
老人の話を聞き俺は答える
反省をしているならなんとしてでも誤るほうが良いと
なぜならまだお互い生きているからと
どちらかが死んだ後では後悔が残るからと
笑顔を浮かべ礼を言う老人
何か礼をしたいと言う
必要ないと俺は言うが
頑固な彼は引かない
月明かりの下取り出された『ソレ』
驚き目を見張る
にこりと笑う老人
どこか満足げだ
『ソレ』は一見ただのビードロのよう
だけどもそれは精霊の映し玉
はるか昔思い人を想い流れた涙が結晶化したもの
思い出が色褪せぬ様に記録するもの
玉から視線をはずし老人を見ようとした
だか視線の先には誰もいない
出来事其のものが夢かと思ったが
映し玉がそれを否定する
懐にそれを収め来た道を戻る
今度こそ魔女の元に行くために
今度の道のりはあっけなく
すぐに庵の元へと着く事が出来た
湖畔の側にあるその庵
森から出れぬ魔女の家
その扉の前に佇むは
深緑の目と髪を持つ悪友
ヤツは言う:お前の願いを知っていると
以前とは違うその姿で
そして俺へと問いかける:
白銀の王よ、貴様は対価に何を差し出す?
その身は光に弱く、すぐに朽ち
その存在はまるで陽炎
何一つ確かな物が無い貴様は
一体何を捧げる事が出来る?
暫しの沈黙の後俺は答える:
確かにこの身はまるで煙のように実体を持たない
だがしかし、俺の唯一の最愛に会えるのならば
お前のの望む対価を与えよう
そうか、とヤツは呟いた
まるで押し殺したような声で
そして淡々と俺に対価を告げた
その対価とは『 』
湖のほとり、月光の下
俺は映し玉を浅瀬に沈める
思い描くは最愛の姿
総ての想いを『ソレ』に籠める
月明かりの元 俺は歩く
鬱蒼とした森の中を
俺は歩く、魔女の元から
雪が降る中ただただ歩く
あいつに逢いたいだけなのに
あまりにも残酷な対価
それは俺の持つ数少ない物の中で
唯一純粋で尊いもの
対価は『あいつとの思い出』
渡せる訳がない
それを失くしたら意味がない
だから拒んだ、悲願の成就を
歩く、ただ只管に俺は歩く
この冥い凍える森の中を
懐に仕舞った映し玉を握り締めながら
あいつとの思い出を胸にあてもなくただ歩く
知ってるか?
此処とは逆の東の国に総ての願いをかなえる魔女の住む森がある事を
何時かそいつのもとに共に行こう
そいつの前で永久の誓いをたてるために
それは嘗て俺があいつに言ったこと
もう、叶わない約束事_
元は短編だったのですが...
無理でした
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