表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

おまけのおまけ

後日談なSSです。

「で、結局いつになったらやらせるんだ、お前は」

「あんたね、こういうとこで、そういうこと、言う?!」


 せっまい茶室の中で、ピコハンを肩に担いだ麗しの婚約者様は、相変わらず性格破綻中のよう。つーか、破綻してるのはモラルか?旅に出ても出てるわけ、それは!

 じたばたと悪あがきを止めた夜。当然の如く人を押し倒そうとした獣を急所を蹴り上げるという反則技で撃退したあたしは、辛うじて貞操を守ることに成功したんだけど、往生際の悪い竜司は2人になる度にブチブチと不満を零してくる。


「ここでなきゃ、どこで言うんだ。家中どこにいても人目があるんだぞ」

「結構なことじゃない。プラトニックバンザイ」


 ったく、このふくさつーのはどうしてこう、扱いづらいかしらね。絹だかなんだか知らないけど、へろへろつるつると掴み所のない…。


「あのな、健全な成人男子が惚れた女と一つ屋根の下にいて、我慢の連続とかいい加減体に悪いだろうが」

「未成年を恋愛対象に据えるからそういう目に遭うのよ」


 ああもう!またお茶零したじゃんか!おかしいよね、おかしいでしょ!なんで抹茶掬うのがでっかい耳かきなのよ。スプーンもってこい!


「しょうがないだろう。一目惚れに年齢除外項目はないんだよ。寧ろガキだったお前が悪い」

「ああ、そう。ごめんなさいね~若さ溢れちゃってて。しょうがないからあと十年待って」


 柄杓もさ、こんな奇天烈な持ち方しないでがっと、こう、潔く握っちゃえば良いと思うのよ。そうしたら指がつりそうとか、熱湯零すとかないでしょ?ねえ。


「聞き流してんじゃない」


 やっと、茶碗に入るべきものが全部入ったところだったんだって。後はシャカシャカと茶筅でね、一番失敗がなく、こうストレス解消にもなる行程をね、こなせば終わるところだったのよ。

 それを、それを!


「どうしてすぐに押し倒すかな!人間には理性があるんだから、少しは我慢…」

「黙れ」


 無理矢理塞がれた唇は、その後あたしが酸欠を訴えても一向に解放してもらえないという、既にそれ拷問だからレベルで好き放題してくれちゃうわけで。


「りゅ、うじの、ばかっ」


 やっと離れた唇の隙間で苦情を叫ぶと、口端を上げた男は壮絶な色気を撒き散らしながらちろりと人の首筋に舌を這わせた。


「バカだろうよ、発情してる男なんて、大概」


 自覚があるなら自制しろと、タイミング良く突っ込めないのがもの悲しい。

 なにしろこっちは、様々な未体験ゾーンに日々突入を強制される憐れな初心者なんだもん。訳もわからず波に飲まれてる最中じゃ、文句の一つも言えないんだって。頭の芯が痺れたように、反応が鈍いのさ。

 もちろん竜司はそれを知っていて、わざと利用しながら少しずつあたしを食べにかかってるんだけどね。今日は、ちょっとヤバイかも。このままじゃ、ホントに色々マジで危機!ピーンチ!

 袂に侵入してきた手のひらに、無駄な抵抗をしながら切にヒーローの登場を祈ってたら、ば。


「竜司さん、真奈ちゃん、いる?」


 小さな障子越しに、柔らかに問いかけてきたのはおばさんだ。

 お弟子さん達ならいざ知らず、主の妻が相手じゃさすがの竜司も分が悪い。取り込み中だと入室を禁じる訳にも、無視するわけにもいかない。居留守を使おうにも茶室に鍵はかかんないしね、諦めて返事をするしかないわけ。


「…居ります。お待ち下さい」


 小さな舌打ちを耳元に残して、のそりと体を起こした竜司は、手早くあたしの身なりを整えるとにじり口までおばさんを迎えに出た。


「稽古中だったんですが…」

「そんなの、後になさいな。お式の打ち合わせは時間厳守なのよ」

「…予定にありましたか?」

「言い忘れてしまったの。ごめんなさいね」


 不機嫌を隠しもしない息子を笑顔でいなして、おばさんは奥にいたあたしをちょいちょいと手招く。


「竜司さんが忙しいのなら、真奈ちゃんだけおいでなさいな。今日はね、当日お出しするお料理の試食をするの。それをお昼にしたら丁度いいじゃない?」

「いきます!」


 そんなおいしい提案、乗るに決まってるじゃんね!竜司から逃げられるし、お腹は膨れるし、良いことずくめ!

 おばさんの気が変わらない内にと、慌てて外へ出ようとしたあたしの体は、だけど意に反して急ブレーキをかけることになっちゃって。なんだなんだと後ろを振り返ると、諦め顔の竜司が帯に指を引っかけてあたしを引き留めていた。


「僕も一緒に行くから、そう慌てないで」

「…っうん!」

「ま、よかったわね?」


 いろいろ急ぎすぎたあたしたちは、ろくにデートもしないで結婚をする。だからこういう機会って、すっごく嬉しいんだよね。

 ハッピーハッピーで草履を履き、踊る勢いで玉砂利を踏んでたあたしは、だから背後で交わされた会話の内容は、結婚式が終わるまで知らなかったんだ。


「後三月、正式に籍を入れるまでは手を出してはダメですからね」

「…わざわざ邪魔をしにいらしたんですか」

「そうよ。真奈ちゃんはまだ、余所様からお預かりしている大事なお嬢さんなの。正式にお嫁に来るまで、不埒な真似は許しませんから」

「これまでは黙っていたじゃありませんか」

「そりゃあ、結婚してくれると言ってもらえるまでは、いろいろ手を打たなくてはいけませんからね、強引なのも必要だと思ったんです」

「じゃあ、今はどうなんですか」

「折角無垢なお嬢さんなんだから、そのまま無垢なお嫁さんがいいわ」

「…僕を殺す気ですか」

「あら、あなたそんなに可愛げのある生き物だったかしら?禁欲くらいじゃ死なないでしょう?」

「………」


 竜司って、お母さん似なんだって。

 見た目ちっともにてないし、性格も全然違うと思うんだけど、おじさんも真司お義兄さんも口を揃えてそう言うんだよね。

 変なの。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ