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「基本…キライなんだけどさ、虫唾が走るほどかと問われればそうでもないわけで…多少免疫になっちゃったって言うか、過激から過激に走る性格はどうかと思うわけだけど、黙ってれば格好いいならほら、芸能人が好きって感覚とさして変わらないレベルで好きって、いや好きじゃないんだけども…」


 ああ、しどろもどろ。

 わからない理由を無理矢理つけようとするから、ちっとも筋が通らないんだって。

 そうしてパニくるあたしを…からかったりしないんだな、今日の竜司は。どこまでも、調子くーるーうーっ。


「そう難しく考えることはないだろうが、好きか嫌いか、どっちかでいいんだぞ?」

「だからさ、それが判然としないから困ってるわけじゃない」


 微妙に優しいと言える口調がねぇ、ケンカ売るタイミングを逸しさせるんだ、これが。

 チラ見した表情も毒が無くて、猫かぶりバージョンとも意地悪バージョンとも違うから、つい無い頭を捻って必死に考えてしまった。


「う~ん…こう、グレーゾーンだから」

「グレー?限りなく黒に近い、か?」

「や、そんなひどくないけど…まぁ、いい加減に白も混じってるよ」

「ほう、白がねえ…じゃあ、好意もあるわけだ」

「好意…と言い切れるかは怪しいけど…」

「無ければ白はないじゃないか」

「そうなの?」

「そうだろ。お前、死ぬほど嫌いな相手に白が混じるか?」

「混じんないけど…」

「なら、多少なりと好意がある相手には?」

「混じるけど…」

「じゃあ、俺のことは好きだな」

「う、うう…」


 はっきり否定できなくなってるあたしは、絶対おかしいと思う。思うけど…


「可愛くないなぁと思ってた犬猫だって、3日も一緒にいたら情が移るじゃない」


 我知らず、呟いてしまった。

 そりゃね、人でなしの変態ですよ。全力で倒したいとか、1度でいいから殴らせろとか、願いましたとも。

 しかし、大人しくして常に真面目でいると誓うなら、イケメンから迫られることをイヤだという女はいないと思うわけです。

 行動を慎み口を噤んだ竜司というのは、妙に格好いいから困る。

 眼福~とか言いながらちょこちょこ眺めちゃったりして……違ってるわよ、あたし!


「犬猫ねぇ…いいけどな、好きに変わりないから」

「変わるって、好きだけど好きじゃないって!」

「あ?だから、好きなんだろ?」

「違うからっ好きじゃないけど好きってのがポイントなのよ!」

「だんだん言動がいかれてきてるぞ、お前」

「…そうだね…」


 我ながらもう、何言ってんだかわかんなくなってきたわ。

 それというのも全部あたしを追いつめるこの男が悪い!今までの関係のまま気持ちを質したりしなきゃ、混乱は招かなかったんだってーの!

 一瞬で沸き上がった怒りに流されかけた気持ちを引き戻した時は、手遅れだったさ、ああ、だったのよ。

 それまで大人しく境界線を守っていた男が、油断をさせてバックリだ!!


「何っ?!」


 いきなり腕を取られて大人しくしていられる訳がない。ぎゃーぎゃー叫んでムダに暴れて、だけど急に解放されたのにまたびっくり。


「あーあ、やっちゃったなぁ?」


 ニヤッと、したな?!いつもの変態スマイルだ、帰ってきたいかれポンチだ!


「何したっての?!あんた何したわけ?!」

「ん?首輪つけただけ」


 楽しげに奴が示したのは、首輪ならぬ指輪。

 子供にだってわかる豪華な赤い石が乗っかった、不気味な輪っか。


「まさか?!」

「おう、まさかの婚約指輪だ。ぴったりの大きさだろ?」


 ぴったりってより、びっちりって感じさ!なんか、いっぱいいっぱいで抜けないよ、これ!


「騙したな!!」

「騙されたな」


 笑うな、楽しむな、遊ぶな!!





「まあ、どんなお嬢様かと思ったら随分…ねぇ?」

「本当に。なにか岬様の弱みでも握ってるのかしら」

「妊娠でもなさってる?だとしたらどなたが父親なのか、怪しいわね」


 陰口ってのは、本人に聞こえないようひっそりやるからいいんじゃない。

 堂々と本人の前でぶちかましちゃ、意味ないだろうがよ、ケバ女集団っ!

 本日快晴…かどうかは全然関係ない、なんとかホテル内で、絶賛開催中のなんとかさん誕生パーティーは突き刺さる視線と悪口雑言の山・山・山。


 それというのもロリコン変態竜司が会う人会う人に『婚約者です』って嫌がるあたしを紹介するからに他ならず、奴がふんぞり返ったおじさんと話すとか言っていなくなると始まるのが陰険ババァ共の聞こえよがしなうわさ話、カッコ嘲笑付きカッコ閉じる。

 場所がガッコーとかだったら、速攻殴りかかってるのにっ!

 大声でふざけんなぁっ!!って怒鳴ってるのにっ!

 来慣れない場所にいたりするもんだから、緊張も手伝ってどうすることもできないじゃん。竜司の立場とかはこの際どうでもいいんだけどさ、もし失敗しておじさんやおばさんに恥かかせちゃったらとか考えると余計に足が竦む~っ!


「真奈さん、こちらにいらしたの?」


 固く力を込めた拳をぷるぷる振るわせていると、聞こえてきたのは天使の声、救いのお姉様が後光を背負って登場よ!


「お、お、お姉様ぁ~」


 あうあうと不明瞭に悔しさを説明するのをもちろんわかってくれる彼女は、にこにこうんうん頷いてくれる。


「ええ、ええ、辛かったわね、もう大丈夫よ」


 やんわり抱きしめて優しく頭を撫でて貰うと、こりゃもう百人力。他力本願とでも虎の威を借る狐とでも好きに言うがいい。どうせあたしはせこいんだもん。長いものにはぐるんぐるん巻かれて生きるのがモットーよ。

 他人様に庇護されてすっかり気の大きくなったあたしは、いままで直視できずにいたお気取りお嬢様集団をえへへんと見下してやったんだけど、待て、待ちなさいよ、なにその反応。まるでやばいもの見ちゃった、危険な場面に遭遇しちゃった的な、腫れ物に触んないよう目を逸らしちゃう態度はっ!


「こ、これは倉橋様」

「奇遇ですわね、ほほほっ」

「ごきげんよう…」


 既に逃げに入ってるし。お姉様は、そんな恐い人?


「パーティーで会って奇遇はないでしょう?皆様は、変わらず良くお口が回られるようで、なによりですこと」


 にっこり微笑む様は…ほら、天使じゃない。どっこも恐いと来ないわよ?むしろあんた等の方が数万倍恐いって。


「いえ、ほほほ、そんな…ねえ?」

「ええ、本当に。その、そちら様は倉橋様の新しい妹様で?」

「か、可愛らしいおじょうさまですのね」


 引きつって逃げ腰で、さっきまでさんざんにけなしていたあたしをいきなり褒めるとは、尋常じゃぁない。それに妹ってなにさ。確かにご本人の希望でお姉様とは呼んでるけど、血縁関係も養子縁組する予定もないよ?

 で、不審に思って見上げると麻純さんは甘~く微笑んで一言。


「ふふ、よろしいでしょ?先だって竜司さんのところで新しく見つけた子なの」


 いえ、あの、はい?


「く、倉橋様また、ご病気…ではなかった、あのご趣味の…」


 病気?確かにそう言ったね、病?なんの??


「その方は、その…腐っても人様のご婚約者様なわけで、手を出されるのは…」


 はぁ?手を出す?女同士で、バカ言わないでよ!


「一応倫理というものが…ございますでしょ?伺ったところ未成年のようですから、お相手には…」


 あああ、相手ぇ~?!ちょ、ちょっと冗談やめてよっ!

 竜司に迫られる時の何倍も冷たい汗をかいていたのは言うまでもないよね、わかるよね?

 だってさ、3人娘の言葉に反応するようお姉様はあたしを引き寄せたわけで、ちゅっとかほっぺにチュウまでされちゃったわけでっ!


「竜司さんの毒牙にかけるより、私にかわいがられた方が真奈さんも幸せだと思いませんこと?」


 思いませんことよ!誰が思うかそんなこと!

 いないのか、まともな人は!救世主でも天使でもないじゃん、この人堕天使じゃん!

 震え上がった耳に届いた呟きがもの悲しかったとか、なんとか。


「倉橋様のご愛読書『お兄様へ…』ですものね」

「だから、大人しく俺のものになっときゃ良かったのになぁ…」


 なにその本っ!

 あんたもお姉様もどっちもいや~~~~っ!!!




「…あのさ、変でしょこれ」


 生まれる前に描かれたらしいマンガを読んでの感想は、これだ。


「名作らしいぞ。俺は知らんが」


 そりゃ、竜司がこんなの知ってたら恐いって。


「いろいろうるさい時代だったろうに、ちゃれんじゃーなマンガ家さんだったんだねぇ」


 とりあえずお借りした『お兄様へ…』をお返しして、謎を解いたあたしは、あたしは…


「そんなことは、どうでもいいってば!お姉ちゃんは間に合ってるし、婚約者なんて後10年はいらない~っ!!」


 ほぼ八つ当たりに近い行動だと思いつつも、傍らの文机で書き物をしていた竜司にむかって座ってい 座布団を投げちゃうのは、たまったストレス故。元凶たる奴に反論なんてできるわけないんだ。

 だから、睨むな!


「お前な…ここ、誰の部屋だと思ってるんだ」


 凄む竜司に促され、くるりと視線を回した広い和室はたんすと嫌味なくらい本の詰まった棚、それに奴が向かう文机しかない持ち主同様面白みのない場所で。


「あんたの」


 もちろん、そう決まってる。


「テレビくらいあってもいいじゃん。あ、ゲームも欲しいな~オーディオも、絶対」


 こんなにつまんないんじゃ、暇の潰しようもないからね。

 部屋の隅を指さして、ついでにその隣りもキープして、わざわざレイアウトまで考えてやったてのに、にやって笑った竜司は言うのだ。


「明日にでも籍入れて、月末には式を挙げる約束をするならなんでも買ってやる」

「なんも、いりません」


 絶対即答。これ以上の返事なんてあるもんかっ!

 元はと言えば、お屋敷のこぉんな端っこまで遠征して来るハメになったのは、全部こいつのせいなのだ。

 麻純さんのおののいちゃう性癖について質問したらば、問答無用で拉致カンしてくれちゃって、与えられたのは座布団とくだんの本。

 なんでも以前麻純さんに押しつけられた…もとい、頂いたもんだそうだ。曰く『人生観の変わる名作だから、お読みなさい』と。

 確かに、変わるわ。こぉんな事が現実に起こったら、めっちゃ変わる。

 だけどさ、あくまで空想の世界なんだし危うい発想は是非是非、迷惑のかかんない場所に安置して欲しいなぁと、思うわけですよ。あたしとしては。表情から読み取るに、竜司としてもね。


「しっかし、あんたと関わるようになってろくな目に合ってない気がするのは、気のせい?」


 嫌味たっぷりに見やった先で、なにやら書き物を再開していた竜司は顔も上げずに言い切った。


「いや、その通りだろ。よかったなぁ、楽しい毎日で」

「楽しいか!」


 脅されて騙されて嵌められて、こんなもの喜ぶ人間がこの世の中のどこにいる!遊園地のアトラクションにもなんないって。

 ああ、むかつく、ああ、腹立つっ!

 そうして浅はかなあたしは無防備な背中をげしげしと、愉快にリズミカルに蹴り上げるのだけど。


「やめろ、字が揺れる」

「やめるもんか、復讐だ」

「…警告は、したぞ?」


 しまったと、引くべきタイミングを見誤った後悔なんて竜司がさせてくれるわけ、ないんだ。

 素早い動きで足首を取られ、あっという間に天井だわ、あれ。とか言っちゃった視界に割り込む黒い影。


「よし選べ。キス、セックス、はいどっち?」


 それ、選択の余地あるわけ?すっごい理不尽な2択じゃない?!

 冷酷って表現がぴったりの笑みに、それでも負けずに答えたね。


「どっちもヤダっ!」

「選べないなら、両方体験させてやるぞ」

「わ~っ!!キス、キスキスキス~!!!」

「ほう、4回か。欲張りだな」


 何を考えてるんだ、このロクでもない大人は!

 しかも予告通り4回キスするまで解放してくれないなんて、おまけとかって勝手に1回増やすしっ!

 めちゃめちゃ、損した気分だ。ホント。




「竜司くん、竜司くん」

「なんだ」

「帯が苦しいんだけどね」

「我慢しろ」

「………竜司くん、竜司くん」

「なんだっ」

「指輪が痛いんだけどね」

「諦めろ」

「………いやだ」

「どうにもならん」


 どーうーにーかーしーろーよー。

 叫ぶに叫べない、ここは茶室。もうすぐお客さんも来る、おじさんおばさんも来る。待っちゃいないが、みんな来る。

 今日の亭主は(ダンナのことじゃない、お茶点てる人のこと)変態竜司で、お手子はあたし。やりたくないが燦然ときらめくにっくき指輪に強制されてこの位置に固定ですよ!

 …婚約者のお披露目だと、おばさんははしゃいでた。反比例してあたしのテンションは下がってた。

 誤解だと理解して貰う前に着物を選ばされ、勘弁してくれと泣きつく前に竜司にお茶の特訓に引っ張り出されたんじゃ、抵抗する間もありませんよ。今朝なんか6時起きでリハーサルさせられて着物着せられて美容院に送られて…病院に逃げ込みたかったっ!


「今からでも消防署に行けば、何とかなると思うのさ」


 キラリンと、障子を通る薄日にかざしたプラチナは、ギラリンと、竜司の眼光に射すくめられ。


「宝石店でも切ってもらえるそうだがな、あそこに一歩踏み入れたら帰りには結婚指輪をしていると請け合えるぞ」


 なんてまあ、自分勝手に恐ろしいことをのたまうんだ、この男。

 ダイヤは嫌いだがシンプルイズベストの普段使いのリングには、呪いを感じるぞ。いやさ、あれは呪術だ!黒魔術に違いない!幼気な女性を男の意のままに操る、アンラッキーアイテムだ!


「そんなもの、絶対いらない。一生いらない、見たくもない」


 ぶるっと震えて見せたあたしをせせら笑う声は、ホント憎たらしいの。


「可哀相になぁ、行き遅れ女になるのか。行けず後家か」

「誰が!あんたのトコには嫁がないと言ってるの!だいたいね、最近の女子は行けずじゃなく、行かずなの。そこに介在する明確な意思を無視すると女性擁護団体のおばさんから袋叩きにあうんだから」

「そりゃ失礼した。世間一般の常識あるお嬢さん方を批判したつもりはなかったんだがな。俺のターゲットはあくまでお前。一生かけても真奈だけが攻撃対象なんだ。嬉しかろ?」

「そんな訳あるか!!」


 絡んでうざい袖やら裾やらを翻し、堪忍袋の緒がぶっちぶちに千切れたあたしが竜司に殴りかかろうとした瞬間、カラリとにじり口が開く。


「失礼します」


 少々年配の男性が静かに発したその声に、反射的に居住まいを正したあたしは敗者だ。情けないことに外面を気にしてしまう、愚か者だ。


「…逃げ遅れたな」


 その囁きに含まれるのは、大いなる揶揄と微かなる優越。

 搦め手ってさ、こう言うのをさしてんだよね?あたし、蟻地獄に落ちた蟻さんだよね、現状…。


 S.O.S 姉さん、大ピンチです。


姉さん、ピンチです。

の、元ネタがわかった皆さん。同年代です。(くす)

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