第54話 今度は水族館へ・下
「そろそろ昼飯にしようか」
「はいっ」
いい時間になったので、昼食をとるために水族館の中にある中庭に二人で出る。
中庭は公園のように芝生やベンチが並んでいた。
陽介たちは木陰になっている場所のベンチを見つけて腰を下ろした。
そして、陽介は保冷バッグから自作の弁当と水筒を取り出す。
さらにその下から咲月が作った弁当を取り出し、彼女に手渡した。
「ずっとお弁当を持ってもらって、ありがとうございますっ♪」
「これくらい、なんでもないぞ」
数日前から陽介と咲月は、弁当のおかずを交換する約束をしていたのだ。
弁当箱を開けて見せ合う二人。
「わぁっ、星崎さんのお弁当はやっぱり彩りが綺麗ですね」
「はは、ありがとう。常陸院さんのお弁当も綺麗だし、美味しそうだな」
陽介が作ってきたお弁当は、咲月に合わせてヘルシーなおかずのラインナップ。
対して咲月が作ってきたお弁当も、陽介の好みに合わせたおかず達だ。
水筒からお茶を注ぎ、二人は昼食を始めた。
「んっ、この卵焼き、シソが入っていますねっ。さっぱりしていて美味しいです♪」
「前に香草も大体大丈夫、って言ってたからさ」
そう言いつつ、
(まずはミニハンバーグからかな)
陽介も咲月のお弁当に箸をのばす。
「ふふっ♪ やっぱり星崎さんはハンバーグからですねっ。予想通りです♪」
「んぐっ……そんな予想をされてたのかぁ」
楽しそうな咲月の笑顔に、少し恥ずかしくなる陽介。
誤魔化すように、今度は唐揚げを口に入れた。
「むぐむぐっ……うんっ! ハンバーグも美味しかったけど、この唐揚げも絶品だなぁ」
「お口にあって良かったですっ♪」
陽介がおかずを食べている様子を、嬉しそうに眺めてから、咲月も陽介作のおかずを再び食べ始めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(常陸院さんも喜んでくれたみたいだし、俺も大満足な昼飯だったな)
昼食を終え、陽介と咲月は中庭から館内に戻った。
「イルカショーまで余裕を持って移動出来そうだな」
「そうですねっ♪」
弾んだ声の咲月。
そんな彼女を微笑ましく思いながら、陽介は隣をまったりと歩き、イルカショーの観客席に座る。
「最前列じゃなくて良いのか?」
「はいっ。前の方の席は迫力はありますけど、水飛沫で濡れちゃいますから」
「あ~……」
チラッと陽介は隣に座る咲月を見る。
いつも通り、お嬢様を感じさせる上品な服装だ。
「確かに濡れたら大変だな」
「それにちょっと高い場所からの方が全体が見られるのでっ」
そんな事を話していると、イルカショーが始まった。
「わぁっ、凄いジャンプ力ですねっ!」
飼育員の指示に従って、イルカが水中からジャンプする。
水飛沫が客席の前列に飛んでくる中、楽しそうに声を上げる観客たち。
その中に混じって、咲月も嬉しそうな声を上げていた。
(おぉっ……上品さを失わずにはしゃいでる。器用だなぁ)
陽介はイルカショーを楽しみつつ、咲月の楽しそうな反応も楽しんでいた。
「いや~水族館、楽しかったな。改めて誘ってくれてありがと」
「いえいえっ♪ 私も凄く楽しかったですっ♪」
館内のカフェで陽介と咲月は飲み物を飲みながら、
「本当に色々な水の生き物が見れたよな」
「はいっ。イルカやクラゲはもちろんですけど、深海魚も興味深かったです」
「あ~、深海魚なんて滅多に見れないもんな。あ、個人的には『日本の淡水魚』のコーナーも良かった。なんていうか、いぶし銀な感じがしたんだよなぁ」
「それ、わかります。なんと言いますか、派手さはないんですけど……あっ、バラ庭園ではなくて、枯山水みたいな」
「おっ、その例えはわかりやすいかもなっ」
「ふふっ♪ 感想が共有出来て良かったですっ」
二人は今日見た生き物たちについて互いの感想を話していく。
「なんか、この感じ懐かしいな~。図書室とかで小説について話してた時もこんな感じの雰囲気だったよな」
「それは、わかる気がします。でも……今日の方がもっと楽しくお話出来ていると思っていますよ♪」
ふんわりと柔らかな笑みを浮かべる咲月。
その魅力的な表情を向けられ、陽介は照れ隠しにコーヒーを飲む。
少し甘酸っぱい雰囲気になりつつも、二人は他の生き物たちの話を続けた。
「ん~名残惜しいけど、そろそろ帰るか」
「はい……」
「まぁ、また色々と出掛けようぜ」
「はいっ! 是非、一緒にお出掛けしましょうねっ♪」
一瞬、眉を八の字にした咲月だったが、陽介の続く言葉に、パッと花が咲いたような笑顔になった。
(危なかったっ……。せっかく楽しい一日だったんだから、常陸院さんには最後まで笑顔でいて欲しいからな……)
カフェを出て、水族館の出口に向かう二人。
出口が見えてきたその時――
「あ、常陸院さん。お土産コーナーがあるぞ? 覗いてみる?」
「そうですねっ、見てみましょう!」
店内に入り、お菓子やキーホルダー、文房具などを見て回っていく。
そしてぬいぐるみのコーナーを見ていると、咲月が一つのぬいぐるみをジッと見ていることに気づいた。
「気になるぬいぐるみ、あったのか?」
「い、いえっ……そんな事はありませんよ?」
アワアワと慌てた咲月が、恥ずかしそうに別にコーナーを見に行ってしまった。
(あ~ぬいぐるみを欲しがったことが恥ずかしかったのか。……ちょっと直球で訊きすぎたな)
陽介としては咲月がぬいぐるみを欲しがることを微笑ましく思ったとしても、恥ずかしいことだとは思わない。
もちろん、普段は忘れがちだが、彼女は名家のご令嬢。
色々とあるのだろう。
だが、ぬいぐるみなら、自室に飾っておけるはずだ。
(それなら……)
陽介は咲月がジッと見ていたぬいぐるみを手に取り、そっとレジに向かったのだった。
会計を済ませた陽介は咲月の元に戻る。
「あら? 星崎さんはお土産を買われたんですね」
水族館のショッパーを見た咲月が意外そうな表情を浮かべた。
「うぃ。バイト先の人たちにお菓子とか、自分用のボールペンとか」
これは嘘ではない。
ちゃんとお土産袋も買っている。
「そうですか……私も両親に何かお土産を買って帰ろうと思います!」
「それじゃあ、見て回ろうか」
お土産コーナーをもう一周した結果、咲月は両親と自分用に陽介が買ったモノと同じボールペンを購入したのだった。
水族館を出て、瀬戸の待つ駐車場に向かう二人。
駐車場の入り口に着いた時、陽介が咲月を呼び止めた。
「あの、常陸院さん。これ、今日の記念に」
「……ふぇ?」
陽介がショッパーからイルカのぬいぐるみを取り出し、咲月に差し出す。
目を丸くさせた咲月が陽介とぬいぐるみの間で視線を数回彷徨わせた。
(あれ? もしかしてありがた迷惑だったかな……?)
陽介が内心で焦り始めた頃。
「頂いても、良いんですか……?」
「あぁ、もちろん」
頷いて咲月にイルカのぬいぐるみを渡す。
ぬいぐるみを受け取った咲月は、ギュッと抱きしめた。
「ありがとうございますっ♪ 凄く、嬉しいですっ!」
「……うぃ。喜んでもらえて良かったよ」
「はいっ♪」
想像以上に破壊力のある綺麗な笑顔。
夕日に照らされた長い銀髪と合わせて、咲月の姿はとても神秘的に見えた。
(……うん。買って良かったな、本当に)
ぬいぐるみを大切そうに抱きしめる咲月を連れて、陽介はゆったりと瀬戸が待つ車に向かったのだった。




