電話加入権争奪戦 ~ラスト・コネクション~
平成後期以降生まれ世代は知らない謎の権利「電話加入権」
それは一体、どんな凄い権利なのか!?
「……おい、聞いたか。この廃校のどこかに、
『電話加入権』が眠っているらしいぜ」
薄暗い廊下で、茶髪の大学生・リクが息を呑んだ。
隣にいる親友のカイも、真剣な面差しで頷く。
「ああ。ネットで調べたが、あれは
『選ばれし者のみが所有できる、回線の王としての証』らしいな。
昭和の時代、人々は数万もの大金を払い、
奪い合うようにしてその権利を手にしたという……」
二人のスマホは、すでに通信制限で死んでいた。
ここは電波の届かない山奥の廃校。彼らは重大な勘違いをしていた。
「電話加入権」さえ手に入れば、圏外だろうがギガ死していようが、
無限の超高速通信が可能になると信じ込んでいたのだ。
「これさえあれば……これさえあれば、
俺のSNSのフォロワーは爆増し、伝説の配信者になれるんだ!」
そこに、廊下の突き当たりから高笑いが響いた。
「ハハハ! 甘いわね、あんたたち!」
現れたのは、派手なファッションに身を包んだ女子大生、サユリだった。
彼女の手には、なぜか古い黒電話の受話器が握られている。
「サユリ! お前も『権利』を狙っているのか!」
「当然よ。この現代、誰もがスマホに魂を売ったわ。
でも、私は知っている。
最後に勝つのは、究極の安定回線……『固定』の力を持つ者よ!
加入権さえあれば、この受話器から異次元の電波を飛ばして、
世界中のWi-Fiをジャックできるんでしょ!?」
「バカな、そんな特殊能力が……!」とリクが驚愕する。
「あるに決まってるだろ! だって『加入権』だぞ!?
特権階級の証に決まってるじゃないか!」
カイが叫び、三人は同時に走り出した。
ターゲットは職員室の奥にあるという、金色のファイル。
廊下で激しいデッドヒートが繰り広げられる。
「俺が! 俺が加入権を手に入れて、
24時間無制限で猫の動画を見るんだぁぁぁ!」
「どきなさい! 私が加入権で推しのアーカイブを4Kで回し続けるのよ!」
三人は職員室に雪崩れ込み、埃を被った棚をひっくり返した。
そしてついに、リクがそれを見つけた。
色褪せた、しかし重みのある封筒。
そこには確かに「電話加入権譲渡申請書」という
古めかしい文字が躍っている。
「……獲ったぞ……。これが、伝説の……電話加入権!」
三人は固唾を呑んで、その封筒を見つめた。 これで自分たちは救われる。
光り輝く通信の覇者になれるのだ。
リクが震える手で封筒を開け、
中に入っていた解説書(昭和の遺品)を読み上げた。
「なになに……『電話を設置する際には、別途、屋内配線工事費および
電話機代が必要になります』……えっ」
「『月々の基本料金が発生します』……は?」
カイが震える声で検索(※圏外のため脳内メモ)の内容を補完する。
「……おい、待てよ。
これ、もしかして……壁から出てるコードに繋がないと使えないのか?」 「……え、持ち運べないの? 無敵の電波は?」
「……ていうか、今の時代、加入権なくても
普通に契約できるんじゃない……?」
静寂が職員室を包み込んだ。 窓の外では、ただ風が吹き抜けている。
「……じゃあ、俺たちが命懸けで奪い合った、この『権利』って……何?」
サユリが力なく、持っていた黒電話の受話器を落とした。
昭和の父たちが汗水垂らして手に入れた「財産価値」は、
令和の若者たちの前で、ただの「よく分からない古い紙」へと姿を変えた。
「……とりあえず、下山してスタバのWi-Fi行こうぜ」
「……そうだな」
三人は、二度と戻らないギガと、
無駄に消費した若さという名のエネルギーを惜しみながら、
静かに廃校を後にした。
しかし、彼らが見落としていた職員室のとある棚の中では
『[特別] 電話加入権』の文字が躍るゴールドカードが怪しく光っていた。
おわり。




