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自分の立場も分からない種馬に価値ってありますか?

作者: よもぎ
掲載日:2026/03/08

と、お父様に聞いてみたところ、床に落ちたパン程の価値もないとあっさり頷いてくれた。

なので、わたしは婚約者であるヒラム第二王子殿下との婚約を解消したいと追加で伝えた。



「そんなに殿下は頭が悪いのかい」

「はい、お父様。

 どこぞのパーティで見繕った愛人を引き連れて我が公爵家に婿入りするつもりなのですもの。

 種馬が種付けする相手を日替わりで選ぶだなんて許されないと思いませんこと?

 逆にわたしが種馬をずらりと並べて選ぶ側のはずなのですが」

「ふむ、なるほど。

 その辺に撒き散らして粗相をする種馬など、王家のブランドがあったとしてもお断りだね。

 いいだろう、おばあさまのお力も借りて婚約はなかったことにする。

 それでいいね?ジェーン」



都合三日。

お父様はおばあさま――元王女――を連れて王宮に上がり、わたしの証言を元に、たった一晩で調べ上げた現状の証拠書類片手に陛下と交渉した。

そもそも側室腹で支持者が少なく、また第一王子が大変優秀なために立太子は不可能だろうとされているので。

だからこそ、命を繋ぐにはわたしの婿となり、公爵家に守られるしかなかったのに。

ヒラム殿下は増長してしまった。


陛下の怒りは凄まじかった。

殿下を誑かした令嬢共々ヒラム殿下を断頭台に送り付けたのだ。

婚約をなくすとして、生かしておけば更に増長して玉座を狙う可能性さえあるとお考えになってのこと。

公爵家に婿入りするとして、せめて芸事で当主となる妻――わたし――を癒せるようにと、芸術方面の教育以外は王侯貴族共有の礼儀作法しか学んでいないのに、だ。


あるいはわたしや公爵家を見下しているような発言があったのかもしれない。

それをおばあさまに咎められたのかもしれない。

おばあさまはとても厳粛。

そしてとてもプライドが高い。

己の所属先でもある公爵家を愚弄されて黙って済ませる方ではない。


まあ断頭台の露と消えてしまったヒラム殿下のことは可哀想とかは思わないわ。

自分にとてつもなく価値があると考えて、種馬風情の癖に調子に乗って愛人候補をたっぷり蓄えたのだし。




「お前の婿はやはり数で押すことにしたよ。

 ジェーン、好きなだけ選びなさい」

「はい、お父様。では釣書をいただきますね」



この国では一夫多妻、一妻多夫が当主に限り認められる。

迎えた伴侶の中で序列がありこそすれ、書類上は平等に迎え入れることになる。

もしもお父様がヒラム殿下のことを気に入っていて、多少バカな種馬だと認識してしまったとして。

婚約を続行するとして。

その時は、やはり今のように婿を複数取る方向で話を進めたのだろうなと思う。

王家の王とて正妃と側室がいるのだし、制度上認められている複数婚を拒絶は出来ないだろうし。




わたしはヒラム殿下が嫌いだった。

引き合わされた時にブスと言われたのも気に障ったし、その癖わたしが成長して女の体つきになってきてからは視線が下品で気持ち悪くて。

というか基本的に下品だった。

座り方、お茶の飲み方、挙げていけばキリがないけれども、とにかく王族、どころか貴族として有り得ないような下品さだった。

クリームたっぷりのケーキを手掴みで食べて、その上指をベロベロ舐めてふき取ったつもりになっているのを見た時など怖気が走った。

普段の食事から手掴みなのでは?と疑いさえした。


だから、令嬢たちには感謝している。


あの品のない殿下に、落ち度をつけてくれた。

品がない程度ならお父様はもしかすると「幽閉して種付けの時だけ会えばいいんじゃないかな?」と言ったかもしれない。

けれど。

種を薄めてばらまくような真似をすると分かったから。

本来わたしにだけ注ぐべき種を無駄使いするような男だと分かったから。


だから殿下は死んだのだ。


適当に釣書を流し読みしながら、有力な人はメモをしながら、つらつらと考える。

今は既に役目を終えて、領地で結婚でもしているだろうとある男爵令嬢。

彼女には感謝の念しかない。

わたしのお小遣いを少し与えただけで、ヒラム殿下を誘惑して「これは口説いてもいい男」「口説かれても許される男」と、フリーの令嬢に思わせる役目を背負ってくれた。

無論彼女には領地で待つ婚約者がいた。

けれど、ほんの僅か。

ほんのわずかな期間、少しばかり殿下のおそばにいて、令嬢たちの呼び水になるだけなのなら。

婚約者に事情を伝えると同時に全てを秘すようにも伝えて、彼女は一か月程役目についてくれた。


たったそれだけ。


それで殿下はフリーで見た目のよい令嬢たちに囲まれ、更に増長し、処刑されるに至った。

正直ざまぁみろという思いしかない。

あんなハズレと結婚させられそうになっていたというだけで自分が哀れでならない。

種馬という安楽な役目しか望まれていない癖に選り好みし、それでいて好色で、知性など欠片もない畜生のような男と婚姻など、ごめんこうむる。


だから、陥れた。

父にさえ分からぬように。




一連の行動とその真意が悟られれば不敬罪での縛り首くらいは軽く頂ける。

けれど、あの気の弱い男爵令嬢が、上位も上位のわたしの真意を汲んだ上で王家に渡りをつけるなど有り得るかしら?

その気になれば家を潰せる存在を敵に回そうと思えるかしら?

そもそも。

彼女、私の言い分を信じているのじゃないかしらね。

試し行動だと。

他の女に揺らがぬ男だと思いたいだなんて。

思ってもいないことを儚げに微笑みながら話して聞かせて、たったのひと月だけ試してくれたらいいからと。

数度の夜会で試してくれるだけでいいからと。

そう語ったわたしを疑うかしら?


王都では新聞紙が出回るけれど、地方にはなかなか流れていかない。

遠い地の出来事は、行商人の口伝が主だ。

そして殿下が処刑された事は、公にされていない。

一部の高位貴族以外は。

公には病死とされている。


余計あのご令嬢は動けないわよね。

そこにどんな計略があったかも知らないはずよ。

自分が殿下に群がる令嬢たちの呼び水となったことは分かっているかもしれないけれど、それだけ。

田舎に帰れば殿下の動向など分からないのだしね。




さて、見合いに来てもらおうと思えるだけの令息の見積もりも済んだことだし。

気分を一新したいから、ハーブティーでも頼もうかしら。

私はこの世から消えた殿下のことを忘れることにして呼び鈴を手に取った。

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