第75話:軍団長たちは暇じゃない(たぶん)
任務と任務の間。
珍しく団全体に「休暇」の2文字が降ってきた。
……といっても、僕ら新人が自由に過ごせる時間は少ない。
何せ――。
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「おーい、ウルス! ちょっと来い!」
声の主は東軍団長、ギウス・ベール。
手には大剣じゃなく、なぜか酒瓶とグラス。
「仕事じゃないよな……?」
「仕事だ。飲み比べだ」
「それ仕事じゃない」
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ギウス団長はいつも通り豪快に笑って、僕の肩をバンバン叩く。
……痛い。神力使ってんじゃないのかってくらい痛い。
そこへ、廊下の向こうから優雅に歩いてくるのは西軍団長アル・バーナ。
金髪に軽く手をかけ、涼しい顔で言う。
「おやギウス、若いのを潰すのはまだ早いのでは?」
「潰す気はねぇよ。ただ、男としての度胸を――」
「ほう。では私も同席しましょう。女性陣も呼んで」
「いや、呼ばなくていいから」
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案の定、パールとデーネまで引っ張り出される。
ギウス団長は上機嫌、アル団長は隙あらば自分の話に持っていく。
「最近の新入りはどうだ?」ギウスが聞く。
「見た目は悪くない」アルが答える。
「見た目じゃなくて能力の話をしてるんだが?」
「見た目は重要ですよ、特に女性読者層には」
「誰目線だよ!」僕は即ツッコミ。
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そこへ、静かにルナーア・ケル団長が現れる。
緑の長髪を後ろで束ね、眼鏡の奥の瞳が細く光った。
「君たち、廊下で騒ぐと資料室に響く」
「すみません」全員反射的に謝る。
ルナーア団長は弓を背負っているのに、その存在感は刃物以上だ。
デーネは小声で「母と同じ声のトーンです……」と呟いた。
ああ、あの図書館の女帝か……妙に納得した。
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結局、団長たちの「暇つぶし」に僕らは付き合わされることになった。
訓練場で腕試し。
食堂で大食い対決。
倉庫整理(なぜか魔物素材の山の中からレグが出てきた)。
そして最後はアル団長の「写真撮影会」。
「もっと肩を寄せて」
「寄せすぎ! レグが潰れる!」
「俺の肩幅を舐めるな」レグが意味不明なドヤ顔をする。
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夕暮れ時、やっと解放された僕らは中庭に集まった。
「……これが休暇?」パールがため息をつく。
「団長たちが暇じゃなかったら、もっと平和だったかもな」
「でも、なんだかんだで楽しかったでしょ?」デーネが言う。
「楽しいの基準、ズレてない?」
笑い声が広がる中、僕はふと思った。
こういう日常が、案外一番記憶に残るのかもしれない――と。
昨日のことは、まだ団長たちには話していない。
何かやっちゃいけないことをやってしまった気がするからだ。
昨日のあれは僕たち4人だけの秘密。今まで通り普通に過ごす。
そういうことにしておいた。
あの場所は僕たちにはまだ早すぎたのかもしれない。
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