第6話:おてんばが引き合わせる4人目
パール・アジメークは、おてんばだった。
白銀の長髪を風に揺らし、今日も誰よりも堂々と、ラプラス神力学校の廊下を闊歩している。
「ねぇ、ちょっと! どいてどいて〜! そこの! そこのメガネ! ぶつかるわよっ!」
「パール様が今日も元気だ……」
「おれ、次は『様』つけようと思う……」
クラスの誰よりも背筋が伸びていて、誰よりも声が大きくて、誰よりも強くて自由な女の子。
でも本人は、それを“自分らしさ”だとしか思っていない。
ただ、今日は少しだけ気になることがあった。
――あの赤毛の男の子。
神力青で、転入してきたばっかりの引っ込み思案。泣き虫。リアクションがいちいち面白い。
「……ウルス、今日も元気なさそうだったなぁ」
神力の訓練中、思いっきり壁にぶつかって鼻を真っ赤にしてた。
あのあとパールが「大丈夫?」と声をかけると、「はいぃ……もう骨がダメかもですぅ……」って半泣きで返された。
(体に神力を纏うのは得意なのに、周囲の感知が全然できてないんだよね)
なんか、すごく不器用な子だと思う。
けど、不思議と嫌じゃない。むしろ、ちょっと放っておけない。
それに――最近パールには、ちょっとした“目標”がある。
「この学校の変人たちを、ウルスにどんどんぶつけて、最強の神力使いに育てよう作戦〜!」
自分で言って、自分で笑った。
でもそれくらい、ウルスには何か“可能性”を感じている。
よくわかんないけど、何かを持ってるって、直感で思うのだ。
そして次に“ぶつけよう”と思っていたのが――
「あの子だよねぇ……デーネ」
図書館の隅で、一冊の本を抱えながら座っている女の子。
銀縁メガネに、落ち着いた表情。話しかけると「うるさいわよ」とすぐ返ってくる。
パールは、あの子のことも嫌いじゃない。
でも、心のどこかでいつも距離を感じている。
(たぶんね、あの子も“こじらせ”てるタイプだと思うの)
学校で習う歴史を信じてないし、先生に質問して怒られてもめげないし、
放課後にまで図書館に残ってるような変わり者。
だけど――
(デーネって、意外と、優しい目をしてるんだよね)
知ってる。
パールにはわかる。
あの子はただ、誰にもわかってもらえなくて、ちょっと強がってるだけ。
ウルスとは、全然タイプが違うのに――どこか、似てる。
「2人、会わせたら……どうなるかな」
ふと、そんな言葉が口からこぼれる。
神力のように、身体から自然と湧き出てくる感情。
“会わせたい”。
理由なんて、きっと後からついてくる。
* * *
「ねぇ、デーネ。明日、紹介したい子がいるんだけど」
放課後、図書館で本を読んでいるデーネに声をかけた。
相変わらず、神代文字の解読書みたいなマニアックな本を読んでいる。
「……また戦闘バカの話なら帰って」
「違う違う、そういうのじゃないの。転入生のウルスって子、知ってる?」
「赤毛で、いつもオドオドしてる男の子ね。知ってるけど」
「面白いよ? 顔とか、反応とか」
「……理由が浅いわ」
ばっさり。気持ちいいほどの直球。
「でも、彼……神力の使い方、すっごく不器用なのに、芯のところが強い気がするのよね。レグも目をつけてるし」
「……レグは“青”ってだけで全員に突撃する戦闘中毒よ」
「それはそう」
でも、パールは言った。
たぶん、ウルスは“変われる”。
変わるためには、あんたみたいなちょっと厄介な子と関わるのが一番いい。
「だから、お願い。明日ちょっとだけ一緒に喋ってみてよ。絶対、面白いから」
「……面白くなかったら?」
「そのときは……あたしがなんでも言うこと聞く!」
「じゃあ……明日の補習、代わりに出て」
「えっ」
「今の、録音してるわよ」
「えっ!?」
メガネがキラリと光る。
ああ、こいつ……意外と黒いわ。
でも、まあいい。
これで、ウルスとデーネが出会うことになる。
それがこの先どうなるかなんて、パールにもわからない。
だけど――
(きっと、この出会いは、あの子を強くする)
そう信じていた。
自分がかつて、いろんな人に出会って変わってきたように。
だから、明日。
ウルスとデーネを、同じ机に並ばせてみる。
その瞬間、星の運命が少しだけ、動き出すことになる――なんてことは、まだ誰も知らない。
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