第5話:紫の怪物
その日、放課後の実技場には、
人が1人倒れる音と、ドカンという神力爆発の音が響いていた。
「っぐ……なんで僕がこんなことに……」
神力に目覚めて3日目にして、校内最強とされる男――レグ・ルースリアに、タイマンを挑まれていた。
「おら!避けろ避けろ!もっと神力纏ってみろ!」
「無理だよぉぉおおおおお!!!」
木製の訓練場は、レグの一撃であちこちに亀裂が走っていた。
石製の模擬柱は折れ、床には僕の足跡(という名の着地失敗の痕跡)が刻まれている。
観戦していた数人の生徒たちとパールは、呆れ半分、感心半分で見守っていた。
「ねえウルス、よく死なないね」
「褒めてないで助けてぇ!!」
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遡ること1時間前――
レグ・ルースリアは、僕の返事も待たず、
「面白そうだから」という理由で、僕を訓練場へ引きずっていった。
「いや、僕ほんとに大したことないんだよ!?その……くしゃみでちょっと壁が壊れただけで!!」
「くしゃみで壁壊すの、すげぇじゃん。普通できねぇよ。やっぱ面白いな、お前」
「そうじゃなくて……!」
「だいじょぶだいじょぶ!ちゃんと手加減すっから!骨が残るくらいにはな!」
「怖いからその“手加減”の基準教えて!?!?」
そして今に至る。
レグの動きは、尋常じゃなかった。
神力を身体に纏ったときの風圧が、僕の目の前で“爆風”になっていた。
紫色のオーラが全身から溢れ、彼の拳が振るわれるたび、空気が振動する。
“纏い型”の完成系。
それが、レグ・ルースリアの神力だった。
「よっしゃ、次は本気でいくぞ。ちょっとだけな!」
「ちょっとじゃなくて、すごく弱くお願いしたい!!」
僕は必死に神力を身体に纏う。
青いオーラが足元に走り、ほんの少しだけ、視界が広がった気がした。
「ふぅ……やるしか……ない……!」
レグが地面を蹴った。
瞬間、彼の姿がブレて消え、僕の目の前に現れたときには、拳が真横に迫っていた。
(……避けろ!!)
反射的にしゃがみ込み、腕で顔を庇う。
そのまま横に転がるようにしてかわした――が、拳が通った空間は空気が引き裂かれたような轟音を残した。
レグの拳が訓練場の石柱を打ち砕いた音が、耳を貫く。
「おおーっ!今の避けるのか!?」
「避けるよ!?死にたくないもん!!」
それからも、何度も何度も攻撃は繰り出された。
僕は避けて、転んで、逃げて、また避けて、ひたすら神力でしがみつく。
最後、背中を取られた瞬間。
とっさに足元の砂を巻き上げてレグの顔に向かって飛ばした。
「おっ!?お前それ……操作型の真似事か!?」
「ちがう!たまたま足が滑って砂蹴っただけぇぇぇぇ!!」
レグは砂を払って大笑いした。
「くっそ……面白ぇな、お前!!」
そして拳を止めた。
ようやく、僕の生存が確定した瞬間だった。
***
タイマン後、僕は息も絶え絶えで倒れ込んでいた。
膝に擦り傷。額にたんこぶ。魚の匂いが染みついた制服。
だけど、不思議と。
少しだけ、自分の神力が、体になじんできた気がした。
「ウルス、大丈夫?」
パールが駆け寄ってきて、水筒を差し出してくれる。
「……なんでレグみたいなのがトップなんだろう……」
「強いから。それ以外に、理由いる?」
たしかにその通りだった。
恐ろしいけど、あの人は本物だった。
そしてレグは、僕の肩をぽん、と叩いた。
「ウルス。お前、明日もやろうな!」
「え……?」
「明日も、明後日も、その次も!お前、俺のタイマン相手に決定な!」
僕は呆然とした顔のまま、誰かの助けを求めて視線をさまよわせたが。
パールはニヤニヤしてるだけだった。
「……地獄だ……」
――こうして、僕の“日課タイマン”生活が始まった。
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