表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/159

第60話:軍団長たち

 再会の抱擁から、まだ胸の奥が温かい。

 2年という時間は長かったはずなのに、目の前に立つパールとデーネは、昨日別れたかのように自然で……それでいて、やっぱり少し違って見えた。


 パールは相変わらず白銀の髪が陽の光を反射して、やけに眩しい。

 腰に二本の短刀を下げ、その柄に指を掛ける仕草は完全に“戦える人間”のそれだ。

 デーネは以前より背が伸びていて、眼鏡の奥の視線に落ち着きがある。青い神力の淡い光が時折ふっと揺れて、まるで考えを映すみたいだ。


「……それで、ここがあんたらの職場ってわけ?」


 パールが僕の後ろに広がる建物群を見上げる。

 分厚い石造りの壁、交差する通路、その先で動き回る武装した団員たち。

 外壁近くの冷たい風が、金属と革の匂いを運んでくる。


「職場っていうか……まあ、そうだな」


 言いかけて、レグと目が合う。

 あいつは相変わらず笑顔だが、拳を軽く鳴らしていて、たぶんテンションが上がっている。


「ここがゲーリュ団だ。お前ら、初めてだろ? 案内してやるよ!」


 レグが豪快に笑い、僕の返事を待たずに歩き出す。2年前から変わらない、考えるより先に体が動く癖だ。


 僕たちは彼の背を追い、中央の広場を抜ける。

 道の両脇では若い団員たちが訓練していて、神力の光が幾筋も走る。金属が打ち合わされる音と、号令の声が響き渡っていた。


 パールが小声でデーネに囁く。


「ねえ……思ってたより物騒じゃない?」

「まあ、戦うための組織だから……当然といえば当然ね」


 その口調は冷静だけど、デーネの視線は周囲の武器や防具に釘付けだ。初めての場所で情報を拾いまくってる顔だ。


 やがて、広場の奥にある石造りの大きな門をくぐると、3人の人物が待っていた。


 1人目は、背中に大剣を背負った長身の男。

 髪は乱れ気味で、肩口からは酒の匂いがほんのり漂う。それなのに、視線を向けられた瞬間、背筋が勝手に伸びた。


「おう、レグ。珍しい顔連れてきたな」


 低く落ち着いた声。これが東軍団長、ギウス・ベールだ。


 2人目は、長い緑髪を後ろでまとめ、眼鏡越しにこちらを観察するような男。

 手には弓を持っていないが、背筋の通り方はまるで弦を張ったままのように緊張感がある。 


「……君たちが噂の新人か」


 北軍団長、ルナーア・ケル。噂によれば、頭の回転はゲーリュ団随一。


 3人目は、金髪を風に揺らす整った顔立ちの男。

 笑顔は優しいが、その奥に何か計算高い光を感じる。


「初めまして、レディたち。僕は西軍団長のアル・バーナだ」


 その声色はやたらと柔らかいが、パールの眉がぴくりと動いた。こういうタイプはあまり得意じゃないらしい。


「この人たちが軍団長か……」


 パールが小声で呟く。デーネは俺の隣で、無意識に眼鏡を押し上げていた。


「おいウルス、紹介してやれよ」 


 レグが僕の肩を叩く。


「……ああ。パール、デーネ。この人たちが僕とレグの上司……軍団長だ。ここでは3つの大隊をそれぞれ率いてる」


 パールは短刀に触れたまま、少しだけ会釈した。


「なるほどね。……思ったより人間っぽいじゃん」


 その言葉にギウスが声をあげて笑い、アル・バーナが「もちろんだとも」と優雅に返す。ルナーアは何も言わず、じっとパールを観察していた。


 その空気に、僕は妙な感覚を覚えた。

 ――2年前にはなかった、立場の差。僕とレグは、この2年間でこの場所に根を下ろした。でもパールとデーネは、まだ外から来たばかりだ。

 それは距離でも、温度でもなく……まるで別の空気を吸ってきた人間同士が、同じ場所で息を合わせようとしている瞬間みたいだった。


「ま、すぐ慣れるさ」


 そう言ったのはギウスだった。大剣の柄に手を置きながら、にやりと笑う。


「明日から外壁調査だ。お前らも同行するんだろ? なら、歓迎するぜ」


 外壁調査――その言葉に、パールの目が光った。デーネは少しだけ息を呑んで、視線を俺に向けてきた。

 俺はうなずく。


「そうだ。2年ぶりの再会を祝うには、ちょうどいい仕事だろ?」


 ……本当に、そうなるといいんだけどな。


読んでいただきありがとうございました。

面白かった、続きが気になると思ったら評価、ブックマークよろしくお願いします。

筆者がものすごく喜ぶと同時に、作品を作るモチベーションにも繋がります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ