表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/171

第59話:2年ぶりの再会

 ――あれから、もう2年か。


 砂を含んだ風が頬をかすめ、僕は目を細めた。

 壁の外の空は、王都の空よりもずっと広く、そして重い。

 2年間、ゲーリュ団の一員として生き抜いてきた日々が、今この瞬間に押し寄せてくる。


「おーい! 遅ぇぞ、ウルス!」


 振り返れば、レグが笑っていた。

 あの頃の筋肉はさらに厚くなり、顔つきも鋭くなった。……ただし、性格は全く変わっていない。

 彼の声は昔と同じ、無遠慮で、まっすぐだ。


「行くぞ。パールとデーネが待ってる」


 その名前を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

 あの日、推薦を受けた僕らと、残された2人。あのときの表情を、まだはっきり覚えている。


 港町の広場に足を踏み入れると、そこに――いた。


 パールは腰まで届く白銀の髪を風になびかせ、昔よりもずっと凛とした立ち姿で僕を見ていた。

 子供のころの無鉄砲さはそのままに、瞳の奥には強い光が宿っている。


「……でっかくなったじゃん、ウルス」


 そう言って笑う顔は、昔と同じなのに、胸がざわつく。


 デーネはというと、以前よりも落ち着いた雰囲気をまとっていた。眼鏡越しの視線は相変わらず鋭いけど、どこか柔らかくもなっている。

 その手には数冊の古びた本。……ああ、やっぱり変わらない。


「2年も経てば、さすがに違う顔になるわね」


 そう言って、彼女は小さく笑った。

 だけど、僕の体を上から下までじろじろ見て、ふっと真剣な表情に戻る。


「……強くなったのね」


 レグはそんな空気をぶち壊すように、いきなり大声を上げた。


「おいパール! お前まだ俺に勝てねぇのか? よーし、2年ぶりに腕試しだ!」


 広場にいた人たちが一斉にこちらを見る。

 僕は慌ててレグの背中を叩き、声を抑えるように言った。


「お前、再会一発目でそれかよ……」


 けれど、パールは負けじとにやりと笑った。


「上等じゃん、レグ。2年前の借り、返すから」


 そのやり取りを見ながら、僕はふと気づいた。

 ――この2年、僕たちは違う道を歩んできた。でも、こうして向かい合えば、何も変わってないように思える。

 いや、変わったのはきっと、互いの背中に積み重ねた時間の重みだ。


 再会の熱気の中、どこか遠くで鐘が鳴る。

 まるで、新しい物語の始まりを告げるように。




***パール視点***



 2年って、こんなに長かったっけ。


 港の広場で風に吹かれながら、私は腕を組んで待っていた。

 潮の匂いは変わらないのに、胸の中はあの日と全然違う。

 今日は――あいつらが帰ってくる日だ。


「まだ来ないの?」


 隣でデーネがぼそっと言う。

 彼女は相変わらず冷静な顔をしてるけど、眼鏡の奥の視線が少しだけ落ち着かないのを、私は知ってる。


 やがて、人混みの向こうに見えた。

 あの赤毛。すぐにわかった。

 だけど――あれ? あんなに背が高かったっけ。

 伸びた髪を後ろで束ねて、黒いローブが風をはらんで揺れている。

 腰には刀まで差して……いや、似合いすぎでしょ。

 あのちびっこウルスが、今じゃ完全に“大人の男”って感じじゃない。


「……でっかくなったじゃん、ウルス」


 自然と口から出た言葉は、それだけ。

 でも、心の中ではもっといろいろあった。

 会えて嬉しいのに、なんか遠くなった気もして――それがちょっと悔しい。


 その後ろに、さらに目立つ怪物みたいなシルエット。

 レグだ。……いや、レグなんだけど、岩の塊に槍がくっついて歩いてきてるみたいなんだけど。

「おーい、パール! 2年ぶりに腕試しだ!」

 うるさいなぁ、もう。周りの人が振り向いてるじゃん。


「上等じゃん、レグ。2年前の借り、返すから」


 私はにやっと笑って言い返した。

 そしたら、なんだかあの日に戻った気がして、少しだけ胸が軽くなった。


 デーネは相変わらず本を抱えていて、真面目そうな顔でウルスを見てる。

 あの子はそういうとこ、全然変わらない。

 でも、2年の間にきっと、私と同じようにいろんなことがあったんだろう。


 風が白銀の髪を大きく揺らす。

 海の光がまぶしい。

 ――また、ここからだ。

 離れてた時間なんて、どうだっていい。私たちはきっと、何度だって並んで走れる。


***デーネ視点***


 港のざわめきが、今日はやけにうるさい。

 でも、きっと私の心臓の音のほうが、もっとやかましい。


 あの時――2年前、私はゲーリュ団の推薦試験に落ちた。

 悔しいなんて軽い言葉じゃ足りない。

 それからの2年間、私はただ本を読んでいたわけじゃない。

 知識を詰め込み、神代文字の解読も、回復神力の精度も上げた。

 いつか再び会う日のために。


 そして、今日。


 人混みの向こうに、2つの大きな影が見えた。

 ――ウルスと、レグ。

 あれは……本当にあの2人?


 ウルスは背が伸び、赤毛は長く束ねられている。

 肩幅も広く、腰の刀が妙に馴染んでいる。

 歩くだけで、周囲の空気が張り詰めるようだ。

 神力の色は……紫。2年で、ここまで行くなんて。


 その横にいるレグは、まるで巨岩。

 昔から大きかったけど、今はもう「人」というより「壁」に近い。

 全身からあふれる神力が、潮風に溶けるように広がっている。


 私は無意識に本を抱き締めていた。

 指先が少し震えている。

 ……私たちは、同じスタート地点にいたはずなのに。


 パールが軽く手を振って、笑顔でウルスに声をかける。

 その笑い方は、2年前と全く変わっていない。

 私は一歩遅れて、口を開いた。

「……久しぶり」

 それだけで精一杯だった。


 2年分のページを一気にめくるように、思い出が頭をよぎる。

 悔しさも、憧れも、全部混ざって胸が苦しい。

 でも――このままじゃ終われない。

 きっと、私も追いつく。絶対に。


読んでいただきありがとうございました。

面白かった、続きが気になると思ったら評価、ブックマークよろしくお願いします。

筆者がものすごく喜ぶと同時に、作品を作るモチベーションにも繋がります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ