第57話:残された側
――名前が、呼ばれない。
胸の奥が冷たくなるのを、はっきりと感じた。
「以上。今回の合格者は2名のみとする」
その瞬間、パールの耳の奥で何かがはじけたような気がした。
え……ちょっと待ってよ。たった2人? しかもその2人が、ウルスとレグ? いや、2人が合格するのは分かってたけど……あたしとデーネは?
「……え?」
思わず声が漏れた。
隣を見ると、デーネは眉ひとつ動かさず前を見ている。でも、それが余計に堪える。
あたし、こんなに悔しいのに。
(あぁ……こういう時、泣かないんだ、この子は)
パールは息を吸い込み、震える口元をどうにか持ち上げた。ウルスが不安そうにこっちを見ている。あの顔を見たら、泣くなんてできなかった。
「大丈夫だって。あたしらはまた別の形で強くなるから。……置いてくなよ」
声が少し震えたのは、気づかれてないと信じたい。
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デーネは冷たい空気の中、自分の鼓動がやけに早いことに気づいていた。
分かっていた。自分の実力が今のゲーリュ団の基準に届いていないことは。
でも――やっぱり、悔しい。
(まだ終わったわけじゃない)
心の中で何度も繰り返す。
ウルスが、何か言いかけてやめた。その表情は、申し訳なさと喜びが入り混じっているようで、胸が痛んだ。
「私たち、まだ終わったわけじゃないわ。2年後、あなたたちを追い抜くぐらいのつもりでいるから」
言葉にすると、少しだけ楽になった。
本当はすぐにでも追いつきたい。でも、それは叶わない。だからこそ、この負けは、きっと糧になる。
夕陽が、赤く地面を染めていた。
あたしたちは、その光を背にして歩き出す。振り返らなかった。振り返ったら、きっと涙が零れてしまうから。