第4話:神はまだ、2人が世界を変えるとは知らない
その日、ラプラス神力学校には、朝から珍しく風が吹いていた。
木造の廊下をすり抜け、教室の窓を叩き、砂混じりの風が子供たちの髪をくすぐる。
砂漠に囲まれたクロカ王国では、こうした風は珍しいことではない。
けれど、この日吹いた風は、何かが始まる前兆――そう、物語の歯車が、少しだけ音を立てて回り始めたのだ。
そして、そこにいた。
この世界で最も愚かで、最もまっすぐで、最も愛すべき脳筋。
その名は――レグ・ルースリア。
「よっしゃああああああああ!!!」
叫び声とともに教室の扉が開き、彼は爆音のように登場した。
いや、誰も呼んでいない。何も起きていない。授業もまだ始まっていない。
それでもレグは、毎日全力で登場する。
なぜなら、彼は“強さ”にしか興味がないからだ。
彼の中にあるのは、ただ1つ。
「世界一の神力使いになる」
それだけの、純粋すぎる野望。
だが――この時の彼は、まだ知らない。
この日、自分の世界を変える存在に出会ってしまうことを。
----
事の発端は、休み時間の何気ない一言だった。
「なあ、レグ。転入生のこと聞いたか?」
「転入生? この学校にか?」
「そう。町の外れ、漁村出身だって。ウルス・アークトって名前」
その名前を聞いた瞬間、レグの耳がピクリと動いた。
ああ、これは神力反応だ。もはや犬である。
「神力、持ってるのか?」
「持ってるさ。しかも“青”。まだ入学3日目なのに」
青――それは中級者の証。
初期の“緑”を抜けた者だけがまとう、より強い神力の色。
3日でそこに到達?
……おもしれぇ。
そう、レグの目がそう言っていた。
「運命……かもな」
「は?」
「いや、なんでもねぇ。ちょっと探してくるわ」
そのままレグは、机を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
目的は一つ――“ウルス・アークト”なる転入生を見つけ出し、タイマンを張ること。
理由などいらない。
彼の中には“勝ちたい”という本能だけが、いつも脈打っているのだから。
----
さて、運命の2人はどこで出会ったのか。
それは、放課後の廊下。誰もいない静かな時間帯のことだった。
ウルスはパールという少女と共に歩いていた。
内気な彼は、辺りを気にしながらそそくさと歩いていたが、パールはというと、廊下を我が物顔で闊歩していた。
そんな対照的な2人のもとに――突如、爆風のごとく現れるバカが1人。
「お前がウルス・アークトだな!」
「ひっ!?」
赤毛の少年は、目を見開き、背を反らし、すでに神力をまとっていた。
相変わらず挨拶が戦闘スタイルだ。
ウルスは一歩後ずさり、パールは興味深そうに彼を見上げている。
「オレがレグ・ルースリアだ!」
その瞬間、神は見ていた。
2つの力が出会い、まだ何も知らぬ少年たちの未来が、静かに揺れ動いたのを。
1人は、戦いに飢えた天性の戦士。
1人は、ただ巻き込まれた引っ込み思案の転入生。
だが、やがて2人は、この星の運命を左右することになる。
神は笑ってしまった。
その不器用な出会いに。
それでも、どこか美しい対比に。
やがて時が経てば、この出会いがどれほど重要だったのかを、
誰もが知ることになるだろう――
だが今は、まだいい。
今はただ、少年たちの不器用で、無茶苦茶で、まっすぐな青春が、
風と共に廊下を駆け抜けていく音を――そっと聞いていよう。
──星の神となる前の、少年たちの物語は、今、ここから始まったばかりだ。