第51話:決勝直前。二つの光
その日、ラプラス神力学校の訓練場は、歴代でも類を見ない熱気に包まれていた。
木造の観客席はぎしぎしと軋み、立ち見の生徒たちが壁沿いまでびっしりと並んでいる。
天井近くの窓から差し込む陽光が砂地に落ち、戦いの舞台を黄金色に染めていた。
神は高みから、それを見下ろしていた。
光の粒子が空気中に舞い、熱と歓声が混じり合って渦を巻く様は、この小さな壁の中の世界における“祭り”そのものだった。
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中央で待機するのは、2つの光。
1つは、まだ若く細身で、赤毛の癖っ毛を無造作にまとめた少年――ウルス・アークト。
その神力は青く澄み、揺らめく波のように体を包む。
彼は手のひらを握ったり開いたりしながら、自分の心臓の鼓動を数えていた。
もう1つは、対照的に屈強な体を持つ男――レグ・ルースリア。
その神力は紫色に輝き、獣のような気配を漂わせている。
彼はにやりと笑い、腰を落としては軽く拳を突き出し、まるでこの場の空気すら自分のためにあるかのように振る舞っていた。
この2つの光は、まだ完成されていない。
しかし、互いがぶつかることで、必ずや次の色へと変わるだろう――神はそれを知っていた。
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観客席の前列では、パールが両手を握りしめて座っていた。
白銀の長い髪が光を反射し、揺れるたびに周囲の視線を集める。
その隣で、眼鏡の奥からじっと見つめるデーネは、手帳に何やらメモを取っている。
観客たちの間では、様々な声が飛び交っていた。
「どっちが勝つと思う?」
「普通に考えればレグ様だろうよ」
「でもあの赤毛のやつ、前の試合すごかったじゃん」
「いやいや、レグ様は別格だって」
それらの言葉は、2人の耳に直接届くことはない。
しかし、空気は確実に重く、そして熱くなっていく。
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控え席では、教師たちが並び、記録用の板に試合の順序や審判の役割を書き込んでいた。
中でも、白髪の老教師がぼそりと呟く。
「……この2人、どちらも規格外じゃな」
「だが、まだ子供だ。ここで何かを決定づけるには早すぎる」
その会話もまた、試合前の静かな伏線の一部に過ぎなかった。
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砂地に立つ2人の間に、ほんの数メートルの距離がある。
しかし、それは単なる距離ではなく、過去の訓練や努力、そしてお互いに対する理解と警戒心でできた“見えない壁”だった。
レグはその壁を1歩で壊すつもりでいる。
ウルスはその壁を崩さずに乗り越える方法を探している。
やり方は違えど、目的は同じ――“勝つ”ことだ。
神は静かに微笑んだ。
この瞬間、まだ戦いは始まっていない。
だが、勝敗を決める物語は、すでに動き出している。
***
試験官が砂地の中央に歩み寄り、片手を高く上げた。
「――決勝戦、開始まであと30秒!」
観客席から、一斉に息を呑む音が聞こえる。
その音が、金色の午後の光の中で、2つの光の輪郭をよりくっきりと浮かび上がらせた。
ウルスの青が揺れる。
レグの紫が燃える。
やがて、それらが交わる瞬間が訪れる――。
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