第48話:実技試験開演
試験当日の朝。
僕は緊張で胃がひっくり返りそうになりながら、グラウンドの入口に立っていた。
今日は普段の授業とは違い、校舎の外まで生徒たちのざわめきが響いている。
試験官の教師たちが並び、厳しい視線で受験者を見下ろしていた。
「うっわ……みんなピリピリしてるわね」
パールが肩をすくめる。
白銀の長い髪をひとまとめにして、いつもより動きやすそうな格好だ。
その目は、わずかに興奮の色を帯びている。
「俺はピリピリどころか、もう吐きそうだ……」
「ウルス、始まる前に吐くなよ」
レグが笑いながら背中を叩いてきた。
紫色の神力が、すでに彼の体を包んでいる。
「お前は準備早すぎだろ……」
***
試験のルールはシンプルだ。
――時間内に相手を戦闘不能にするか、相手より多くポイントを稼ぐこと。
戦場は円形のアリーナ。
観覧席には他の生徒たちが詰めかけ、歓声とヤジが飛び交う。
「第1試合、ウルス・アークト 対 ジーク・バルマン!」
呼び出しの声に背中を押され、僕はアリーナへと足を踏み入れた。
相手は背の高い上級生で、腕には青色のオーラが揺れている。
(……怖がってる場合じゃない)
深呼吸し、青色の神力を纏う。
瞬間、視界の色が少し濃くなったように感じた。
心臓の鼓動が、全身を駆け巡る。
***
「始め!」
合図と同時に、相手は一気に距離を詰めてきた。
速い――!
防御に集中しなきゃ。
拳を受け止め、滑るように横へ回り込む。
「へぇ、受けきったか」
ジークが口元を吊り上げ、再び突っ込んでくる。
僕は必死に足を動かし、守りを崩さないようにする。
――だけど、守るだけじゃ勝てない。
(攻めるんだ、攻めろ……!)
パールの声が脳裏をよぎった。
一瞬、踏み込み、相手の腕を弾く。
体が勝手に動き、足をひねり、肘で突く――
「ぐっ!」
わずかだが、ジークの体勢が崩れた。
……初めて、僕の攻撃が通った。
***
そこからは必死だった。
攻めと守りを切り替えながら、何とか時間まで耐え切る。
結果は――僅差で僕の勝ち。
「やったじゃない!」
観覧席からパールが手を振っている。
「おぉぉ、やるじゃねえかウルス!」
レグも大声で叫んでいる。
デーネは……無表情で拍手していたけど、目だけは笑っていた。
***
試合が終わり控え席に戻ると、パールがにやりと笑った。
「ほらね、やればできるじゃない」
「……まだ緊張で足が震えてる」
「次はもっと派手に倒しなさいよ」
「無茶言うな……」
その後も試験は続き、仲間たちも順番にアリーナへ向かっていった。
レグは予想通り圧勝。
パールも素早い動きで相手を翻弄し、あっという間にポイントを稼いだ。
デーネは回復と防御を駆使して粘り勝ち。
――気づけば、僕たち4人全員が勝ち残っていた。
夕焼けに染まるグラウンドで、僕たちは円を組み、手を合わせる。
「次も、全員で勝ち抜こう」
誰が言い出したわけでもなく、その言葉が自然と口から出ていた。
試験はまだ続く。
でも、この仲間となら、きっと乗り越えられる――そう思えた。
***
試験1日目の夕暮れ。
薄暗くなった空の下でも、アリーナの中心は熱気でむせ返っていた。
観覧席の生徒たちは、もう何試合も見ているはずなのに、声援とヤジの勢いは衰えていない。
「第2回戦、第1試合――ウルス・アークト 対 ガロ・ベルク!」
名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。
ガロは僕よりも2回りは大きい体格で、腕や首には分厚い筋肉が浮き出ている。
肩越しに見える神力の色は、青と紫が混ざったような淡い色――僕より一段上の練度だ。
(……怖い、でも逃げられない)
深く息を吸い込み、青色のオーラを体に纏う。
足先からじんわりと熱が広がり、全身が軽くなる感覚。
それでも、向かい合う巨体の圧迫感は消えない。
***
「始め!」
試験官の合図と同時に、ガロが一歩踏み込んだ。
地面が揺れるほどの衝撃。
視界が彼の拳でいっぱいになった瞬間、僕は反射的に横へ飛んだ。
「……っと!」
避けたつもりが、拳がかすめただけで耳がジンとする。
重い。あれをまともに受けたら一撃で終わる。
ガロは間合いを詰めながら、容赦なく連打を叩き込んでくる。
拳、肘、膝――すべてが力任せじゃない、しっかり狙ってくる。
(近づかれたら負ける。距離を取らないと!)
僕は足の神力を強め、円を描くように走る。
靴底が砂を巻き上げ、呼吸が荒くなる。
だけど、逃げているだけじゃ……。
***
観覧席からパールの声が飛んできた。
「ウルス! 足止めろ、そっから!」
足を止める? こんな巨体相手に?
……でも、彼女はいつも無茶を言って、なぜか的を射ている。
意を決して、足を踏み込み――逆方向へ急旋回。
ガロの腕が振り抜かれる瞬間、僕はその懐に飛び込んだ。
腰をひねり、肩で押し返す。
「ぐっ……!」
巨体がわずかに揺れた。
その一瞬を逃さず、僕は全力で距離を取った。
***
残り時間はわずか。
息は荒く、汗で視界がにじむ。
ガロも呼吸が重くなってきていた。
――今なら、互角にやれるかもしれない。
僕は青いオーラをさらに濃くし、低い姿勢から突っ込んだ。
ガロが防御に回った瞬間、足をすくい、肩で押し倒す。
砂煙の中で、試験官の笛が響いた。
「勝者――ウルス・アークト!」
***
観覧席がどっと沸き、パールが両手を振って叫んでいる。
レグは腕を組み、「おぉ、やるじゃねえか」とにやりと笑った。
デーネは控えめに拍手しながらも、何か考え込んでいるようだった。
控え席に戻ると、レグが僕の頭をわしわしと掻き回した。
「次は俺と当たるかもな。そん時は容赦しねえぞ」
「……いや、容赦してくれよ」
僕が苦笑すると、パールが肩を叩いてきた。
「この調子で決勝まで行くわよ」
「え、決勝……って、まだ先じゃないの?」
「ええ、でも言ったほうがやる気出るでしょ?」
その軽口に、僕は少しだけ肩の力を抜いた。
試験はまだ終わらない。
でも、この仲間たちとなら――どこまででも行けそうな気がした。
読んでいただきありがとうございました。
面白かった、続きが気になると思ったら評価、ブックマークよろしくお願いします。
筆者がものすごく喜ぶと同時に、作品を作るモチベーションにも繋がります。
次回もよろしくお願いします!




