第47話:合格の鐘、落胆の鐘
朝の教室は、普段よりもやけにざわついていた。
筆記試験の結果発表――これを待つ生徒たちの空気は、緊張と期待と不安がごちゃ混ぜになっている。
「なあウルス、今日の朝ごはん食べられたか?」
レグが机に肘をつきながら話しかけてくる。
「……半分は喉を通らなかった」
「俺もだ。いや、俺は3分の1か……」
それを聞いたパールがすかさず笑う。
「残りの3分の2は何食べたのよ?」
「肉まんだ。3個」
「……それで緊張してるの?」
僕は思わず笑ってしまったが、胸の奥の重さは消えない。
――この結果で、ゲーリュ団に近づけるかどうかが決まる。
そう思うと、背中がじんわり汗ばんだ。
***
教室の前方、黒板の横に貼り出された1枚の紙。
担任の声が響く。
「試験結果、ここに掲示する。自分の番号を確認するように」
一斉に生徒が立ち上がり、紙の前へ殺到する。
僕は人混みに押し流されながら、自分の番号を探した。
――あった。
思わず息をつく。そこには、ぎりぎり合格圏内の数字があった。
「……やった……」
小さく呟くと、隣でパールが笑って僕の肩を叩いた。
「ほら見なさい。やればできるじゃない」
「……ギリギリだけどね」
レグの番号を探すと――
「あっ」
思わず声が漏れる。
紙の一番下、合格ラインすれすれ……いや、ギリギリ下。
「お、おいレグ……」
「ん? ああ、俺は次が本番だからな!」
本人はまるで気にしていない様子で胸を張った。
隣でデーネがため息をつく。
「……次の本番って、再試験のことを言ってるのかしら」
***
結果が出て、教室のざわめきは少しずつ落ち着いていく。
だが、僕の胸の奥には別のざわめきが残っていた。
――これで、1歩は踏み出せた。
だけど、この先にはもっと厳しい道が待っている。
外の世界へ出るために、ゲーリュ団へ入るために。
窓の外、遠くに見える高い壁を見上げながら、僕は小さく息をついた。
鐘の音が鳴っていた。
合格の鐘か、落胆の鐘か――それは人によって違う音色に聞こえているだろう。
***
筆記試験が終わったばかりだというのに、休む暇なんてまったくなかった。
次は――実技試験。
しかも内容は「模擬戦闘」。つまり、神力を使った戦いで合格点を取らないといけない。
「よし、じゃあ今日は放課後にグラウンド集合な!」
昼休み、パールが教室の真ん中で宣言した。
「実技試験対策よ。筆記みたいにカンニングできないんだから、体で覚えるしかないわ!」
「いや、俺はカンニングしてないぞ!」とレグ。
すかさずデーネが横から冷ややかにツッコミを入れる。
「結果だけ見れば、しててもおかしくない点数だったけどね」
「……」
***
放課後のグラウンドは、すでに練習している上級生たちで賑わっていた。
砂埃が舞い、掛け声と神力の光が交錯する。
僕は青色のオーラを体に纏い、軽く深呼吸をした。
――得意なのは「纏う」こと。だけど、それだけじゃ試験は乗り切れない。
「じゃ、まずはウォーミングアップから!」
パールが軽やかに前へ出て、両手に神力を集める。
白銀の長い髪が風に揺れ、きらめいた。
その姿は……なんというか、やたら本格的だ。
「ウルス、まずは私と1対1ね」
「え、いきなり……?」
「試験だっていきなりよ!」
――5分後。
僕は砂まみれで地面に転がっていた。
「やっぱり攻めが弱いのよね、あんたは」
「う、うるさい……」
***
「はい次! 俺が相手してやる!」
レグが胸を張って前に出てきた。紫色の神力が全身を包み、迫力が段違いだ。
「ちょ、待っ――」
「行くぞォ!」
その瞬間、地面が爆ぜた。
まるで突風のような圧力が僕を襲い、反射的に身を守るだけで精一杯だった。
たった数十秒で勝敗は決した。
「お前、守りは悪くねえ。でもそれだけじゃ試験じゃ点取れねえぞ!」
「……知ってるよ……」
横でデーネが、まるで教師のように頷いていた。
「つまり、攻めのパターンを増やす必要があるってことね」
***
そこからは作戦会議だ。
4人で地面に円を描き、枝で作戦を書き込みながら、あーだこーだ言い合った。
「よし、ウルスは奇襲だ! 相手の背後を取る!」
「それ、試験でそんな簡単にできる?」
「じゃあデーネの回復で時間を稼いで――」
「私、サポートだけで試験乗り切る気?」
「うるさい! 俺の作戦は完璧なんだ!」
最終的に、作戦らしい作戦はまとまらなかった。
でも、不思議と胸の中の不安は少し軽くなっていた。
きっと、こうして笑い合える仲間と一緒だからだ。
***
夕暮れ、グラウンドを出るとき、パールがふと呟いた。
「次の試験、全員で合格しましょうね」
その言葉に、僕たちは自然と頷いた。
――砂埃と汗の匂いの中で交わした約束は、たぶん一生忘れないだろう。
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