表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/159

第40話:鋭い観察眼

 俺は今日も赤毛の少年を見張っている。

 ウルス・アークト。騎士団長の息子にして、将来有望な神力使い。


 ……と、団長から聞かされた。


 正直なところ、俺にはただの内気そうな少年にしか見えない。

 だが「凡人ほど油断ならん」と団長は言っていた。ならば俺の目で確かめるしかない!



 まずは朝の走り込み。

 彼は誰よりも早く校庭に出てきて、黙々と周回していた。


(ふむ……孤独を好むタイプか? 仲間を信用していない……いや、あえて距離を置いて精神を研ぎ澄ませているのか?)


 俺は腕を組みながら勝手に納得する。


 だが次の瞬間。

 ウルスは走りながら「ぜぇ、ぜぇ……」と顔をしかめ、つまづいて転んだ。


「いっ……てぇ……」


(おお……! 転んでもすぐに立ち上がるとは! まさに不屈の精神! この根性こそ父親譲りに違いない!)



 次は昼休み。

 仲間と食堂にいるはずが、今日はひとりで本を読んでいた。


(……なるほど。本で知識を蓄えるタイプか。力だけでなく頭脳でも戦う気か。将来、参謀クラスになり得るな)


 俺は木陰からうんうん頷いた。


 その時、ウルスが本を閉じて大きなため息をついた。


「……うぅ、やっぱり難しい字はわかんねぇ……」


(な、なんと! 読めないフリをして油断を誘っているのか!? 恐ろしい小僧だ……!)



 夕方。

 校庭の端でひとり、木刀を振るウルス。


(おぉ、やるな……基礎を大事にしている。反復練習こそ最強の道。これは俺も見習わねばならん)


 カッコよく木刀を振る姿に、俺は思わず見惚れていた。


 だが……。


「……うおぉぉぉぉぉ!!」


 気合いを入れた瞬間、木刀が手からすっぽ抜け、豪快に飛んでいった。


「うわっ!? あぶねっ!」

 たまたま通りかかった生徒が悲鳴を上げてしゃがみ込む。


「ご、ごめんー!!」と必死に謝るウルス。


(……すまん少年。俺は誤解していた。君はただの危険人物かもしれん……いや待て、これは“戦場で武器を失っても戦える精神力を鍛えている”のでは!?)



 夜。

 寮の前で星を見上げるウルス。


「……父さん……」


 ぽつりと、そう呟いた。


(! き、来たぞ! 心の奥に隠した闇を吐露する瞬間だ! きっと父親から秘密の使命を受けているに違いない!)


 俺は胸を高鳴らせて耳をそばだてた。


「父さん……俺、また宿題出すの忘れてた……ごめん……」


(…………)


 沈黙。

 俺は額に手を当てた。


(……ち、違う! これは父親への報告を“宿題”と暗号化しているんだ! そうに違いない!)



 こうして俺の観察は今日も続く。

 気づけば彼の一挙一動が頭から離れなくなっていた。


(やはりただ者ではない……ウルス・アークト。俺はお前を見ているぞ……!)


 夕飯を食べ損ねて腹を鳴らしながら、俺は星空を仰いだ。



---ウルス視点---




 最近、どうにも落ち着かない。


 歩いてても、授業を受けてても、誰かに見られてる気がするんだ。

 視線が刺さるっていうか、背中がむずむずするっていうか。


(まさか……僕、目をつけられてる?)


 いやがらせか?

 いやいや、違う。もっとこう……命の危機的な……。



 今朝もいつものように走ってたら、背中に熱い気配を感じた。


(くっ……! やっぱり誰かつけてる……!)


 僕は咄嗟にダッシュ。

 後ろを振り向いたけど、誰もいない。


「……はぁ、はぁ……気のせい……?」


 そう言いながら転んだ。

 膝をすりむいて、「いってぇ……」と声を上げた瞬間、確かに木陰がざわっと揺れた気がした。


(ほら見ろ!! やっぱりいたんだ!!)



 食堂で友達といるときもそうだ。


「ウルス、スープこぼれてるよ」

「え、あ……」


 慌てて服に垂らしてしまう。

 だって、さっきから視線が……!


 遠くの窓際に黒い影。

 振り返った瞬間には、もういなくなってる。


(やっぱり、監視されてる……! 何のために……? 僕にそんな価値ある?)


 パールやレグに相談しようかと思ったけど、変に心配かけるのもイヤで、黙ってしまった。



 夕方。

 木刀を振っていたら、視界の端で誰かがぴくっと動いた気がする。


「だ、誰だ!?」


 大声を出したけど、返事はない。

 代わりに風が吹いて木々が揺れただけ。


「……」


 木刀を振る手が震える。

 緊張のせいか、木刀をすっぽ抜かしてしまった。

 あわや誰かに当たりそうになって――いや、あれ、当たりそうなところに誰かいなかったか?


(やっぱりいるんだよ……僕を見てるやつが……!)



 夜、寮の外で星を見上げた。

 父さんのことを思い出して、つい呟いてしまう。


「父さん……」


 本当に、何かあった時に頼れるのは父さんくらいなんだ。


 でもその時。

 また背中にぞわっとした感覚が走る。


「……だ、誰……?」


 振り返るけど、そこにはやっぱり誰もいない。


(もう嫌だ……!! でも確かに感じるんだ……誰かに監視されてる……!)


 心臓がばくばくする。

 夜風の冷たさも感じないくらい、背中にじわっと汗がにじんでいた。



 僕は確信した。


(これはただのクラスメイトの視線とかじゃない。もっと……もっと大きな何かだ。僕はきっと、知らないうちに“巻き込まれてる”んだ……!)


 根拠はない。

 でも、そうとしか思えなかった。


 ——そして、僕の知らないところで、木陰の男が「ふむ……なるほど」なんて頷いていたことなど、知る由もなかった。


読んでいただきありがとうございました。

面白かった、続きが気になると思ったら評価、ブックマークよろしくお願いします。

筆者がものすごく喜ぶと同時に、作品を作るモチベーションにも繋がります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ