第27話:揺れる心
次の日。
教室に足を踏み入れた瞬間、嫌なざわつきを感じた。
「……あれが昨日の」
「立入禁止の部屋にいたんだって」
ひそひそ声が耳に入る。
昨日、記録庫で鉢合わせたあの男子たちが、やっぱり余計なことを言いふらしたらしい。
パールは机にドンと鞄を置き、あからさまに不機嫌そうな顔をしていた。
「ほんっとあいつら、口軽すぎ。誰かにモテたいだけでしょ」
僕は返す言葉を探しながら、結局「……うん」としか言えなかった。
デーネは冷静にノートを開きながら呟く。
「騒がれるのは仕方ないわね。むしろ、この程度で済んでよかったと思うべきかも」
でも、その言葉は慰めにはならなかった。
僕の胸にはずっと、昨日の「拳を光らせてしまった」自分の姿が引っかかっていたから。
⸻
昼休み。
廊下に出た僕らの前に、例の男子たちが立ちふさがった。
「よぉ、禁書庫探検隊」
「昨日のこと、先生に言われたくなかったら、俺らにもちょっと見せてくれよな」
にやついた笑いが、余計に癇に障る。
パールが一歩踏み出した。
「バカ言わないで。あんたたちに教える義理なんかない」
「おー怖い怖い。さすが“おてんば娘”」
「なぁ、レグはどう思う?」
横にいたレグが、唐突に答えた。
「え? 俺は別に、秘密の部屋より腕立てが大事だからな!」
空気が一瞬だけ間の抜けたものになる。
それで助かった……のかもしれない。
男子たちは肩をすくめて去っていったけど、その目には「面白い玩具を見つけた」という光があった。
嫌な予感がした。
⸻
放課後。
僕は訓練場の隅で一人、神力を纏う練習をしていた。
昨日、あの時咄嗟に出た光は、偶然なのか、それとも……。
額から汗が流れる。
まだ制御は難しい。でも、前より確実に手応えを感じる。
——僕は強くならなくちゃ。
ゲーリュ団に入るためだけじゃない。
昨日みたいに、大切な誰かを守るためにも。
そんな思いを抱きながら、夜が更けるまで拳を握り続けた。
***
一方その頃、寮の部屋でパールは机に肘をついていた。
窓の外に映る夜空を見上げながら、誰にも聞こえない声でつぶやく。
「……私、やっぱり中途半端だな」
神力を纏うのも下手。
明るく振る舞っていても、内心は不安だらけ。
そんな自分を見透かされたくなくて、いつも笑顔でごまかしている。
でも——。
ウルスがあの時、自分を守ろうとしてくれたのを思い出す。
胸が熱くなるのに、同時に妙な焦りも芽生える。
「……負けてらんないんだから」
強がりを呟いて、彼女は眠りについた。
⸻
数日後。
噂はまだ消えない。むしろ広がっている。
「禁書庫の真相を知ってる連中」として、僕らは好奇の目で見られるようになった。
けれど僕は、その視線の中に奇妙なものを感じていた。
——ただの好奇心じゃない。
もっと別の、得体の知れない視線が混ざっている。
それが誰のものかは、まだ分からなかった。




