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第1話:神力に目覚めた。どうやら僕は神の血筋らしい

 手紙は本物だった。

 夜のうちに何度も光に透かしてみたけど、隠し文字もからくりもない。ただ堂々と、王都ラプラス神力学校の紋章が押してある。「特例編入」。そんな言葉、僕の人生に出番があると思ってなかった。


 翌朝、母さんはやたらと早起きで、やたらと元気で、やたらと心配だった。服の裾を引っ張ってシワを伸ばし、髪を三回も整え、最後に深呼吸を五回させられた。僕の方が過呼吸になるかと思った。


「ウルス、いい?王都は人が多いの。押されたら押し返しなさい。間違っても殴り返したらダメよ」

「……うん」

「それから、変な人についていかないこと。変な人の定義は目が合った時に心がざわっとする人」

「わかった」


 母さんの他に、近所のおばさん三人が門まで送ってくれた。道中、村の人たちは口々に「誇りだよ」「すぐ帰ってきてもいいからね」と言ってくれる。矛盾してるけど、どっちも本気なのが分かるから、僕は何度も頭を下げた。


 馬車は二台連なって王都へ。壁の内側の道はよく整えられている。片側に畑、反対側に水路。遠くで鍛冶の音が規則正しく響く。北の職人街だ。金槌のテンポがいつもより心持ち速くて、背中がむずむずした。僕のせいじゃないよね、昨日の“事件”がもう噂になってる?誰がそんな拡散力を……。


 王都の門は想像より普通だった。もっと金ピカかと思ったのに、石積みで地味にでかい。門番は立派な鎧を着ているけど、靴に泥がついてて急に親近感がわく。門をくぐった瞬間、音が増えた。荷車の軋み、売り子の声、鍋のはぜる音、誰かの笑い声。母さんの言っていた「人が多い」は本当だった。押された。押し返した。殴り返さなかった。


 神力学校は王都の中心から少し外れたところにあった。見上げて「おお」と声が出そうになって、出なかった。木造。屋根は素朴な瓦。学校の前の掲示板には、墨で「エビの殻持ち込み禁止」と書いてある。


 門の前で立ち止まっていると、背後から風が走った。


「うわ、まだいた!像かと思った!」

「い、今、動きます!僕は像じゃないです!」


 反射的に謝る自分が悲しい。声の主は僕より背が少し高い女の子。白銀の長い髪を高い位置で結んでいて、歩くたびに光が跳ねる。マントが揺れて、なんか主人公っぽい。


「わたし、パール・アジメーク。あなた、特例の子?」

「ぼ、僕はウルス・アークトです……えっと、たぶんその……特例?」

「やっぱり〜!昨日の『石塀粉砕くしゃみ』の!」


 え?もう噂になってるの?王都までの伝播速度、誰か研究して。


「で、神力の色は?まだ測ってない?」

「……あ、青、だそうです……たぶん……」

「ちょ、緑飛ばして青って何者!?生まれ変わり!?神獣の親戚!?神の子!?」

「ち、違いますぅうぅぅ!!」


 パールって子は大笑いしてるけど、僕は全力で否定した。

 神の子ってなんだよ、神に子供っているの!? 


 それより、お願いだからこれ以上周囲に注目されないでほしい!

 僕はこのまま静かに、目立たずに、誰とも関わらず卒業したいんだ!


ーーーーーー


 校舎は思ったより普通だった。

 村の小学校よりちょっと広いくらい。

 床は木で、ギシギシいうし、廊下には謎の「エビの殻禁止」って貼り紙がしてある。


「ふつう、だね……」

「うん。でもそのエビの貼り紙、去年ひとり爆発したんだって!」

「エビで爆発って何!?この学校危ないの!?」


 そして教室。

 僕が入ると、全員がこっちを見る。


 先生がにこやかに紹介する。


「新入生です。特例編入で、神力は“青”。ウルスくんです」


 ざわ……ざわざわ……。


 やっぱり前に立つと、嫌でも注目されちゃうよね。


 席に着いた瞬間、前の席の男子が振り返って言った。


「おまえが青か……俺なんて緑にもなれねぇのに……」

「え、そ、そんな、たまたまで……!くしゃみですし……」

「くしゃみで!?じゃあ次は咳で紫いくの!?」

「違う違う違う違う違う違う!!」


 なんかもう、勝手に超人扱いされてる……


 その後、授業は普通に始まった。

 自己紹介、校則説明、神力についての基礎理論。


 「神力はオーラのようなものです。身体に纏えば力が増します。感じ取れば敵の位置も分かります。物も動かせます」


 ……うん、それ全部、僕は苦手です。


 僕が得意なのは、”纏う”だけ。感知とか操作とか、繊細なやつは全部ダメ。神官には「脳筋タイプだな」と言われた。


 脳筋て……神の子扱いからの脳筋……上下差がひどい。


 そんな感じで、なんとか一日が終わるかと思ったそのとき――


 ゴゴ……ゴゴゴ……ッ


 床の下から、小さな地響きのような音がした。


 木の机がかすかに震えて、天井の梁が一瞬だけ軋む。


「今の、地震……?」

「神力暴発じゃね?ウルスくん?」

「ちがっ!!僕じゃない!!くしゃみしてない!!」


 こうして、

 僕の**“神の子疑惑”ライフ**が、始まった。


 なお、次の日には「ウルス、咳で雷を呼ぶ説」が流れ始めた。


 本当やめてください。

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